人と地域のWEBマガジン ISHIKAWA DRAWER

Keigo KamideCreative director of Kutani pottery

上出惠悟上出長右衛門窯クリエイティブディレクター

多様性×可能性。広大無辺の九谷焼。

Person

#02

2016.05.18

すげぇ、工芸。

1年後に復学したら、すぐ卒業制作。教授には実家の工芸というものと、ずっとやっていた絵画をもう少し近づけたような作品を絵画で作りたいって言ったんですけど、そのプランを見てくれなくって。「お前は九谷焼しかないだろう」と。卒業に必要な単位は取得していたので、こっち(実家)に戻り、職人と卒業制作は何作ろうみたいなことを話しました。それでバナナが…具体的にいうとバナナの房が誕生して、色々なものをセットにして発表したんですけど。今まで僕がやっていたのは美術っていうか。油絵なんかは割と工芸的なんですけど、工芸とは何だろうとか、色々考えてた時期で。で、ちょうど美術と工芸の間みたいなボーダーの作品を作りたいと思っていて。

 

友達はあまり絵を描いてないグループの人が多かったんですけど、彼らはやっぱり表現したいものが先にまずあって、そこからメディアを選んでいくような作り方をしていたので、工芸と逆だなと思って。工芸はモノ、素材がありきで。そこで何を表現しようっていうところなので、発想が逆なんだっていうのを最初に思って。工芸って、素材や技術で勝負をしている。その考えにのっとって自分なりにやりたいなって思って。それで、磁器と絵をテーマにして何を作れるかなと考えていると、磁器の素材感がフルーツに見えて。うわ薬が塗ってあるとツルツルなんですけど、塗っていない高台とかのマットな質感が瑞々しく感じられて、それがバナナに見えるなと思って。そこに行き着くにはいろいろあるんですけど、最終的には素材から入りました。できたときには工芸なのか美術なのか分からなくって、ただのオーナメントじゃないのとか、ペーパーウェイトみたいな。教授に見せると「これは面白い」と。ホワイトキューブに置かれれば芸術になるし、雑貨屋さんに置かれればたちまちクラフトになる、それがいいねって。でも僕が狙ってたのって本当にそこだったので。

※高台:こうだい。茶碗や鉢、椀などの底にある輪状の基台。

 

バナナをかたどった卒業制作は各所で高い評価を受けた。画像は2012年発表の「甘蕉 木瓜紋紺青」 Photo by Hiroyuki Matsumoto

あゝ九谷。何にも乗れない、乗り切れてない…

それまで好きなことをやってきたし、今後も好きなことを続けていこうと思っていたんですけど、だんだん自分の興味が日本の工芸や企業だったり、文化をどう作っていくかというところに向いてきた。それって実家に戻ればできるじゃんって思って。実際はなかなか大変なんですけど、でも自分がやりたかった広告のようなことも実家でやれるじゃんっていう風に思った。一年こっちに戻っていたので、いかに景気が悪く、九谷の産地がすごく体力がなくなってきているっていうのが分かって。人が減っているというか、需要が減っていて、売れないみたいな感じになってきていて。夫婦でやっているようなところは続けようと思えば続けられるけど、人を雇っているところは閉店や廃業をされたり、すごく規模が縮小されて、大量生産の施設もあったんですけど、それもストップされて。働き口がないのに若い人が来るわけもないし、やっぱり需要が減ってきている。当時は新しい取り組みとかを見受けられなかったし、全然ダメだなって。

 

当時流行ってたのは「クウネル」みたいなナチュラルな生活。そういうものにも九谷は全然乗り切れてないっていうか、乗れる要素がないんですけど、逆に「へうげもの」みたいなところにも乗れていない。で、民芸も流行ったけどそもそも九谷は民芸じゃないしみたいな。どこにも、何にも乗り切れてない九谷!っていうか。ちょっとどうにかした方がいいんじゃないか、それは早くやらないとって。芸大に通う人は大体大学院を受けるんですけど、僕は制作しようと思えばここに場所があるし、そもそも自分は作家になるつもりはなく、落とし前をつけて卒業するだけだったので。で、時間がないというのも分かって、こっちに帰る決心をしたんですけど、親からは「帰ってくるな」と言われて。

※クウネル:マガジンハウス社が発行するライフスタイル誌。今年リニューアルされましたね。
※へうげもの:茶人としても知られる古田織部が主人公の歴史漫画。読み方は「ひょうげもの」。

いい器ができますように。焼き窯の前にしつらえた、火の神様へのお供え。

知っていると欲しいの距離。

僕らの父親やもう少し下の世代って、帰ってこいと言われる世代。都会で就職したけど親が言うから、やりたくないけど帰って来ましたみたいな人がすごく多くって。でも僕らの世代って、とても自分の子供にこの仕事をさせられない親っていうのがたくさんいて、もう自分の代で終わらせるから帰ってくるなという親の方が多分多くって。でも、子供として潰すのはやっぱりもったいないっていうか、それで親の反対を押し切って帰ってくる人が何となく多い感じがして。帰ってくるなって言われたら帰れないけど、卒業制作の作品を欲しいという人がいたり、意外と話題になって。
ワコールアートセンターがスパイラルペーパーというのを出してたんですけど、その表紙に使わせてほしいとか、展覧会に出展してほしいと言われて。まさか自分が作家になるなんて毛頭思ってなかったんで驚いたんですけど、だったら作らなきゃみたいな感じで。うちの親は自分が作家になることについては反対していなくて、「欲しい」という人がいるから作りに帰ると。

 

最初の頃は、これだけ器があるから新しいものを作らなくても、これを知ってもらえばいいっていうか、知られていないだけだと思ってて。当時長右衛門窯の名前を知ってる人なんてほとんどいなくて、焼き物に興味がある人は知ってたかもしれないけど、街を歩いている若い子が知ってるわけもなく。なので、これは知られていないだけだと思って、知るきっかけを作れば売れると思って。新しい商品というよりも、新しく感じてもらうための見せ方であったり、空間であったり。そういったことを最初は考えてやってたんですけど。でもそれで売れるっていうわけでもなかったですね。

※ワコールアートセンターが…:「スパイラル」は、ワコールが東京・表参道で展開する複合文化施設。スパイラルペーパーは、スパイラルの広報紙。

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上出長右衛門窯〒923-1123 石川県能美市吉光町ホ650761-57-3344