「コーディネータのための文書管理」で検討したような文書管理システムを構築し、社員のコンピュータリテラシー教育を行っても、それだけで業務の効率が上がるわけではありません。効果を上げるキーは文書の元となる情報の収集と整理が容易に出来ることです。一次情報の収集がコーディネータの仕事を阻害せず、最小限の手間で出来、その後の報告書作成がスムーズに出来るようになっていなければなりません。そのための簡単な方法は、すでに多くの人が使っている手帳をもっと有効に使うことでは無いでしょうか。これまでも手帳の使い方については 黒川氏の「整理術」 樋口氏の「アイデアマラソン」 野口氏の「超整理法」、奥野氏の「情報を一冊に纏めなさい」、さらにはコーヴィ・ジャパンの「進化する手帳の選びかた」等々 多くの出版物がありますので、使い方や書き方をお知りになりたいかたは、これらの本を参考にしていただければ幸いです。今回は一次情報の媒体として紙、音声、デジタルメモリーを取り上げ、それをいかに集めていくかを、自分自身の経験をもとにまとめてみました(この通り行っているわけでもありません)。紙情報についての私の経験は学生時代のB5ノート、会社時代のA4ノート、その後のB5・A5ノートを経て、現在はA6メモ帳になっています。最初の会社時代は仕事以外にメモを取ることなど考えたこともありませんでした。そのころは起きている時はほぼ会社の仕事をしており(典型的な会社人間)、仕事中はいつもアタッシュケースを横においていました。また、他に持ち歩く情報機器もありませんでしたので、A4ノートの大きさも苦にはならなかったようです。最近も、仕事かプライベートか分からない生活を送っており、仕事に必要な発想はいつ出てくるかわからないのは同じです。メモの記録媒体(手帳)はいつでも取り出せるよう、身の回りにおいているのも同じです。ただ、アタッシュケースのような大きな鞄を持って歩くのが億劫なため、手帳はだんだん小さくなってきています。ただ、利用している機器はイメージ、音声、デジタルメモリーそれぞれにたいしてカメラ、テープレコーダ、ノートパソコンを使っていたのが、メモ目的の機器はいつの間にか携帯電話1台に統合され利便性があがっているのは確かです。所詮一次情報は一時情報です、メディアが変われば又その時考えれば良いと割りきりが出てきたようです。こうして集められた一次情報は、出来るだけ早く整理された記録や報告書に転記します(ボリュームの多いメモの多くのははこちらのタイプ)、残りはそのまま手帳のまま保管しています。(ほとんどの個人用情報はこちら)。後から何かに使おうと思って使い道が決まらないものは、索引情報(日付、タグ、内容を表すタイトル)を作成しています(メモ手帳の記事のタイトル)。「コーディネータのための文書管理」で検討した情報エンティティとして、ファイルや文書データとして保管するものはまだそんなに多くはありません。(先日、たまたま奥野氏の「情報は一冊に纏めなさい」という本を見ていましたら、よく似た方法論でした。みんな考えることは同じようです)。
コーディネータの仕事を進めて行くと最低限必要になるのはまずはシーズを持つ研究者との打ち合わせであり、ついでそのノウハウや知財の利用者と期待されるニーズを持つ顧客企業や研究機関との打ち合わせかと思います。
顧客企業を引き付けるためにはその研究シーズが独創的で新規性があることが必要ですが、産学連携がスムーズに進み成功するためには、研究者自身の人柄や人間的魅力、さらにはプロジェクトに対する協力の姿勢のほうが重要といわれているようです(目利き人材養成のトリアージ(Triage)の中ではインベンタースプロファイルと呼ばれています:技術移転係わる目利き人材育成研修プログラムの斉藤先生の講義より)。そのために、研究者との打ち合わせにあたっては、研究シーズそのものと共に、研究者の人間性に関する感想もついでにメモに残すようにしています。時には、研究者との雑談で話し合われた趣味や住所といった日常生活そのものについてのメモも何か役に立つかも知れませんし、許されるなら、研究設備や研究材料の写真を撮っておくのも、よさそうです。そのほか、研究シーズを理解するためには、研究者からお話を聞くだけではなく、完全には理解できないにしても、研究者の論文を読んで、その勘所を理解するよう努力することも必要です。100-200文字位にまとめてメモ帳に記述するこにチャレンジするのも面白いかも知れません。
産学連携というビジネスでは、企業さんとのお話し合いは、ソリューション営業そのものです。訪問し、お話をする企業さんは「顧客」か見込み客」となります。いろいろな「つて」を探して連絡を取り、ある程度は調べてからアプローチするのが普通です。最初は会社四季報や企業のホームページを参考に企業情報のエンティティを作ることになるでしょうが、その後新聞・雑誌で見つけた、その企業に関連するものについては、その都度メモを取り当初の資料に追加補足します。また、顧客企業を訪問するまでに、そ思いつくままに訪問の目的や期待する成果をメモっておきます。その上で、交渉のシーンを思い浮べながら、必要情報を準備していくことです。コーディネータの仕事は単なる仲介ではありません、顧客企業と共に、新しいビジネスを創作していくことです。中島氏の額装の考え方に相通ずるとこがあります。いつ、面白いアイデアが思い浮ぶかは予測できません。何かヒントを思いついたらその場でメモ帳に書き込んでおかないとたちまち忘れてしまいます。顧客との話し合い(時には交渉)がはじまったら、日時、会議の場所、会議の議題、参加者とその役職(人数が多い時は分かる分だけ)をメモにとり、議事の進行は時間・発言者・発言内容を記述しておきましょう。打ち合わせの最後にはその会議で決められたこと(交渉の合意事項:特に成果物と納期)の確認を取り、後ほどあれはそんな意味ではなかったといわれないようにしましょう。このときにも、会議中のメモが役に立ちます。
こうして、普段から活動内容について、メモを残し必要な資料や配布された資料を集めておけば、日報や週報を書く材料には困ることはありません。
面白いアイデアが浮んだ、一休みできるところまで行ったら忘れないようにまとめておこうと思っていたのに、いざメモをとる準備が出来たときには、何だっけと忘れてしまうこともしばしばです。そんな時に限ってその忘れてしまったアイデアがとてもすばらしかったように思われるものです(逃した魚は大きい)。ただ、しばらく気に掛けていて、ふっと思い出すと何だそんなことだったのかと、がっかりするのが普通です。何で長い間悩んでいたのかと思わず自分の間抜けさに腹が立ってきます。不思議とこのような怪しげな思いつきは、気楽な旅や散歩さらには寝る前のような、心にゆとりが生まれた時とか、電車の中やスーパでの買い物や本屋で本の背表紙を見ている時のように大きなノートもとりだせない窮屈な時に起きるように感じます(統計を取った結果でなく、なんとなくそんな気がするということです)。やはりアイデアが浮んだら、それが重要かを考えるのではなく思いついた時、そのアイデアをメモるしかありません。 こんな時にはそっと携帯を取りだし、小声でボイスメモ を取るのも方便かもしれません。そうは行ってもラッシュの電車の中では、携帯すら取り出すことが出来ません。そんな時はあきらめて気持ちをすっきりさせましょう。必要なものは又思い出すと楽観的に考えしかありません。どっち道、忘れるようなアイデアはほとんどはあまり役に立たないと割り切り、そんなことでストレスをためないことです。
コーディネータは仕事に必要となるコーディネート技術については、十分慣れて使いこなせる必要はありますが、必ずしも取り扱う案件のプロではありません(少なくとも取り扱う具体的な案件については大学研究者や企業研究者よりは素人であるのが普通です)。そうは言ってもコーディネータは作業を進めるにあたって、担当技術について研究者や顧客企業とのコミュニケーションを進める程度の専門用語を話せなくてはなりません。勢い、関連技術の入門書、解説書、研究者の論文等を読まざるを得ません。入門書といえども、専門用語が使われ、難しい論理が書かれており、その場で理解するのは至難の技です。このような時にはメモ帳に、読んだ日付と論文タイトルを書き込んでから本やWebの記事を読んで行きましょう。読み続けるにつれ、気が付いた技術用語とその解説、感想等をメモに補足・書き込んで行きます。読む資料が大量であったり、入門書や解説書である場合には、時間もそれなりに取り、落ち着いて読む場所も確保して読み始めるのがよさそうです。時間と場所が確保できる時には、メモは手帳ではなく、直接パソコンに書き込む方法も考えて見たらいかがでしょうか。たとえば書籍の場合いはスキャナーで目次を読み取り、OCRでコード化します。それをアウトラインプロセッサーやマインドマップのソフト(ちなみに私はこちらを使っています。上記の図はフリーウエアのFreeMindというソフトを使って作成したものです)を使って直接デジタル化します。その上で、書籍を読みながら重要と思ったことやコメントを目次に書き足していきます。普通は本全体を精読する必要も無いでしょうから、そんなに時間はとられません。とりあえず必要なところだけ読んでコメントを入れ目次を補足してしておけば言い訳です。その後でさらに精読が必要になったら、その追加部分をマインドマップに書き足します。最終的に必要になる時間をにらみ、出来るだけ着手日を遅らせ、すばやく作業を済ますのが、知的作業をやる人の心がけと思っています(TOCのクリティカルパスの考え方)。単純労働作業とは違い、成果は掛けた時間には比例しないのですから。
メモから、報告書・記録等として、デジタル化した文字情報は、何らかのパソコンソフトで検索できますが、用途も決まらない一次情報はメモそのものだけを保存しておいてもいざという時には、どこにあるか思い出せないし、そもそもそんなことをメモったことすら覚えていないのが普通です。たいていは、以前何か同じようなことをやったような気がすると、手帳の中を一生懸命探すことになります。こうして忙しいコーディネータの時間が使われてしまいます。
そんな状況を避けるに、デジタル化しなかったメモについては、そのメモの索引だけををデジタル化し、検索可能な「内容」が記入されたテキストファイルに書き込みます。記入の終わり、内容のデジタル化が終わったメモ手帳は利用開始日から利用終了日を表紙書き込み棚なり箱に入れて、保管しておきます。この時、あまり凝って説明をふくめた長い内容を作ろうとすると、デジタル化のためのキー入力に手間がかかり長く続きません(キー入力を専門にする人手ない限り、役に立って使い方が簡単でなければ、いくら強制してもそのうち誰も使わなくなるのが普通です)。こうして索引を作っておけば、最近の検索ソフト(Googleディスクトップや探三郎)を使ってデジタル情報と一緒に検索が可能になります。メモ手帳は分類されることなく時系列に書き込まれているわけですから、該当記事の索引が見つかればその中の「日付」の部分をキーにして、メモを取り出すのは容易です。画像情報についても同様な索引情報を作って置けば検索が可能になります。デジタルカメラがつける写真のファイル名は特定の規則にしたがって付けられているので、代表的な1枚の索引があれば、その前後の番号や撮影日付を使えばいいわけです(フォルダー名に日付とタグとタイトルをつけても良いでしょう)。こうして特定のキーワードに関する情報が集められたら、それを様式にあわせて埋めて行きます。ただ残念ながら、「群盲象を撫でる」で取り上げたように単なる転記で様式を埋めて行けばいいというほど簡単なものではありません。「様式」の裏に潜むスポンサーの意図を読み取って、創作のつもりで記入する必要があります。このためには「様式」を分解して「タグ」をつくり、「タグ」の相互関係を検討しておかなくてはなりません。こうした「タグ」を明確してから、それの「タグ」と「内容」をペアにしてそこに「日付」をつけたのが今回お勧めしている索引情報です。こうした意識でメモを作成していけば、役に立つメモとりが実現できると考えています。
勘定系情報との関係づけは、こうしてつくられた2次情報と勘定系情報の関連付けであるので、ここでは省略させていただきます。たとえば、領収書と仕事の関連付けをつけるために手帳のメモをつくるまでが今回のおはなしです。領収書のコピーの張られた電子化された出品伝票と現金管理システムのリンクの仕組みは内部統制の証憑を探すシステムとして別途構築する必要があります。
2008/06/29
文責 瀬領浩一