昨年のMOT地域ビジネス論では、 訪問企業の情報整理で紹介した企業に対して産学連携の提案を行うケーススタディを行い、その結果を 共同研究の提案準備モデル として報告させていただきました。 本年は、昨年とは逆に、提案者の研究テーマの性格や強みを生かす、シーズオリエント な産学連携の提案を考えていただきました。 今回採用した検討方法は以下の通りです。
1回目の講義では世の中の動きと地域ビジネスの概要についての説明、これまで自分の行ってきたことや研究成果、 自分への備えさらには自分や研究室の置かれた立場を明確にし、 どんな産学連携を行うかを宿題として作成していただきました。 2回目の講義では、第1回の講義でつくった産学連携テーマの実施企画(How)の作り方を説明した後、 プロジェクト概要の作成を宿題としました。 世の中の動きの説明は、以前のこのシリーズの アイデアのモジュール化の 図1 魚眼マンダラのフレームワークと同様な資料 を使って行いました。 さらに 自分への備え を参考にして自分に対する情報整理を行うようお願いしました。
産学連携テーマの決定には、図2のようなフォーム(マンダラフォーム)を使用しました。 フォームの記入方法は以下の通りです。
最初に、自分が過去に経験したことや学んだ出来た事で重要と思っていることを、「 学んできたこと」のフレームに記入します。 ここは事実を記入するだけですからそれほ ど難しい事はありません。この時、同時に「自分への備え」の用紙に記入し、 自分の強みや自分の将来像をまとめておけば、「得意技」 や価値観を記入する時に使えます。次いで「研究」 のフレームには、自分が現在行っている、研究テーマとその強みを記入していただきます。「 価値観」については自分が普段重要と思って努力していることを記入します。 更に、自分の研究や得意技をベースにやってみたいビジネスの名前、時には就職してやってみたい仕事やそのジャンルを「 XXビジネス」に記入しその内容を枠の中に記入します。この時、「自分への備え」 で考えた、人生目標も参考にして記入します。その後、XXビジネスを実現するための「 産学連携」のテーマと内容(自分が行いたいこと)を 記入します。最後に、XXビジネス に関わる経済動向や研究に絡む外部情報を「世の中」 に、自分の立ち位置を「立ち位置」に整理して記入します。
この段階で、自分のやりたい「産学連携」とマンダラ図のこれまで記入してきた項目との整合性が取れているかどうか、 そして実現可能かどうかを検証します。ここですべてがうまくいく事を確認できれば、この図は終わりですが, 多くの場合、不足するノウハウ、資金、設備、しきたり、法律など、XXビジネスを実現するための産学連携を阻害す る要因がいくつか見つかります。これら自分がどれだけ努力しても、解決する事が出来ないモノについては、 誰かにそれをやってもらうのがよさそうです。 このような項目を「他人の力」に記入して おきます。以下はこのようにして、MOT参加者作成したマンダラ図から、抜き出した「XXビジネス」の例です。
こうして、自分がやってみたいビジネスを考えることができました。しかしまだこの段階では、 これらのビジネスが実現可能であるかどうかは、分かりません。次のステップでは、この産学連携を、どのように進めていけ ばいいかを、おおざっぱに検討します。
2回目は、図3に示す手順で産学連携をどのように進めるかを考えていただきました。図3は図2と同じく9コマですが、 マンダラ図とは違ってステップ図です。大きな矢印が左下から、右上へと進んでいるところが図2と違います。 この図はステップ数が3の例です。マンダラ図はWhatを表すのに使っていますが、 ステップ図はHowを表すのに使っています。まず「訓練」の項目 には産学連携を進めるにあたり自分がやらなくてはいけないことを整理し、その中で現在自分に不足している項目を記入します。 次いで「支援」の項目は、図2の提案する産学連携の「他人の力」に記入した不足す るノウハウ、資金、設備、しきたり、法律どのようにして手に入れるかを記入します。第1ステップの「準備」 の項目では、これら不足する訓練や、必要な支援項目について、どのように手配を行うかを記入します。 「準備」の次は第2ステップ「整理・計画}です。ここでは、実際にどのように産学連携を行うかを整理し、計画を立てます。 当初は、すべての 事が分かっているわけではありませんから、いろいろ調べなくてはいけないことが出てくるかと思います。 これらは「探索」項目に記入しておき、「整理・計画」を進める段階で実行方法を決定していくようにしま す。多くの場合、探索で発見され るすべてを調査したり、実行するだけの余裕はないと思いますので、重要度を考慮して必要十分になるように「選択」 することになります。本シリーズ 「ビジネスチャンスはどこに」のシーズとニーズのマトリックス分析のような方法を使って、 優先順位を設定するのもよいアイデアかもしれません。
こうして産学連携の整理が終わったらいよいよ産学連携の「企画」つくりです。 ここでは、図2産学連携の「XXビジネス」が実現するため に必要な活動を記述します。重要な事はプロジェクトの「構想」が産学連携として行 うために適した構造や体制になっているかどうかと目標設定が適切に行われておりなおかつ「評価」 可能な形になっているかです。このためには、何らかの定量的計測が出来るような評価項目を決定しておくことが必要です。
いったん、ここまで記入出来たら図3の各ボックスの中に書かれている事に、重要な項目が抜けていないか、 同時には達成することが出来ないような矛盾した項目が無いか、達成してもそれほど効果が期待できないものが含まれていないか、 産学連携を実行した後、産学連携の目標とする「XXビジネスを立ちあげる」事につながるものになっているかどうかを見直す事です。 今回、参加者の皆さんが提案された、「企画書」の実行項目の例は以下のようなものでした。
この後は出来上がった産学連携を想定して企画に持ち込み、プレゼンテーションを行い、合意が得られれば産学連携の実行ですが、 詳細なプロジェクト計画作りは、2回のMOT講義の範囲を超え、本報告の範囲を越えてしまいます。 別の機会考えることにします。お急ぎの方は、専門書を参考に進めてください。 しかし、実行にまで至らなくても、自分のやってみたい将来計画を考え、それを達成する方法の一つとしての、 産学連携を考えるだけでも楽しいではないでしょうか。社会や産業界のニーズに合わないい限り、 産学連携は実現しない事は確かですが、シーズを持っていなければ、話を聞いてもらうチャンスすらありません。シーズは能力の一つで何かを始めるための十分条件ではありませんが、必要条件です。 このようにして、まずは皆さんの強みを生かす産学連携の夢を描くことから始めて見ませんか?日本の不況はそう簡単に改善する様子は見えません。 更に産業の国際化進展とともに、自分から積極的に働きかけない限り、面白いチャンスを見つけるのが難しい時代になってきたような気がします。大学に関 係している人 はだれでも、産学連携の夢くらい見てもいいのではないでしょうか?
最後に、MOTにご参加いただいたみなさん、いろいろ苦労されたかと思います。 普段、図2のようなマンダラ図や図3のようなステップ図を書きなれていらっしゃらない方には、面倒なことだったかも知れません。 また、配布した資料は出来上がったボックス間の論理関係を表す矢印が入っていたのですが、説明は記入 の順序を示す矢印であった事。ご自身の計画をお書きくださいと最初にお断りしていたため、 記入ガイドに主語が書いてないものもあったことなど、いろいろ不都合があり、ご不便をおかけしました。 申し訳ありませんでした。ただ本報告では、そのあたりを見直し、記述を短縮化していることを御了承ください。
2011/12/22
文責 瀬領浩一