2012年12月5日に東京・千代田区紀尾井町のホテルニューオータニにて日本イノベーター大賞2012の表彰式がおこなわれました。
そこで優秀賞として表彰された4人の内のお二人が、奇しくも、地域発でグローバルを目指したものでした。
今回はそのうちのおひとり、川越のバス会社の社長さんのケースを取り上げました。地域の会社がグローバルに注目されるような企業になるヒントを感じていただければ幸いです。
司会者の説明によれば日本イノベーター大賞は日経BP社主催、第一三共株式会社協賛で行われ、日本の最先端で活躍する独創的な人材にてスポットを当て 日本に活力を与えることを目的としています。
そのために日本発の独創的なアイデア、しかも実行力があって、日本の産業を変える可能性があり、すでにある程度の成果を出している人を表彰するものです。その評価ポイントは(1)日本オリジナルの新しい価値を発信しているか。(2)その価値が日本国内だけでなく海外からも高く評価されているか。(3) その結果、日本に何らかの活力を直接、間接的にもたらしているか。としています。(同社ホームページより)
表彰式は、主催者挨拶に始まり、表彰は選考員による寸評を加えながら行われ、その後日経BP社の発行人や編集者によるインタビュー形式で表彰の対象となった理由の説明の順に行われました。
表1に表彰者のプロファイルとその選考理由、図1は表彰式の後、撮影会で取った表彰された方々の写真です。
表1 表彰者とその選考理由
表彰者 | 選考理由 | |
大賞 | 東レ複合材料研究所代表 同研究所所長 北野 彰彦氏 |
航空旅客機への大量採用に代表されるような炭素繊維の普及での東レの貢献は大きい。北野氏が所長を務める複合材料研究所は素材開発などの面で大きな役割を果たしている |
優秀賞 | イーグルバス社長 谷島 賢氏 |
斬新な経営手法で、2006年の参入から数年で自社の路線バス利用者を増加に転じさせ、海外展開も視野に入れる。自社のノウハウを基に全国の路線バスの経営支援などにも乗り出す |
北九州市環境局環境未来都市担当理事 松岡 俊和氏 |
環境負荷が低く、エネルギーの効率的な消費を実現するスマートシティは日本が国として目指すべき姿の1つ。国内屈指の先進地域である北九州市で活動の推進役を担ってきた | |
特別賞 | NTTドコモ取締役常務執行役員研究開発センター所長 尾上 誠蔵氏 |
日本発の技術として、一気に世界で普及が進み始めた高速通信技術であるLTE(ロング・ターム・エボリューション)の国際標準規格化に大きな役割を果たした |
日経BP社のホームページより
図 1 表彰された 尾上氏、松岡氏、北野氏、谷島氏
これら4氏とも、有名な方です。インターネットで検索すれば、それぞれどんなことをされてきたかは十分知ることができます。表1の選考理由で興味のあるテーマを見つけられた方はそれらをご覧ください。
予想される、技術的インパクトや直接的な経済的インパクトは大賞を受賞された北野氏の素材開発(炭素繊維)が最も大きいかもしれませんが、今回は、ベンチャービジネスに関係のありそうな、地域への貢献の視点と中小・中堅企業ということで、イーグルバスについて報告させて頂きます。イーグルバス株式会社の取り組みは、サービスイノベーションの分野で有名で「ハイ・サービス日本300選」にも選ばれています。注1)参照
表彰状授与の時、イーグルバス社長 谷島賢氏の選考についての寸評は一橋大学イノベーション研究センターの教授 米倉誠一郎氏が行われました。 米倉氏が寸評の中で指摘されたのは次の3つでした。
その説明のされ方は、他の方が背広を着ていらっしゃる中でジャケットというラフなスタイルで、舞台いっぱいを使って行なわれました。以前ITベンチャーを多数輩出したアメリカ西海岸のいくつかの企業で見受けた、シーンズ姿の社内風景を思い出させる、見ならうことが多い寸評でした。余談ですが、せっかくのイノベーター大賞の表彰式です。表彰式で壇上に上がる人はすべて背広禁止といった演出をやったら、イノベーションの雰囲気が更に盛り上がるのでは無いかと感じさせるくらい際立った演出でした。図1の写真を見てください、ネクタイと身長以外はどなたもほとんど同じように見えませんか。グローバルな活動をなさっている方が見たら、こんな雰囲気でイノベーションと吹き出しそうな光景でした。
4人の表彰が行われた後、各受賞者に対するインタビューが行われました、この後は主に日経ビジネスの編集長である山川 龍雄氏によるイーグルバス社長 谷島賢氏へのインタビューでお聞きしたお話とホームページから得た情報をまとめてあります。
イーグルバスは1980年に送迎バスの会社として創業され、2003年に乗り合いバス事業に参入しました。2006年に大手バス会社が赤字で撤退した後を引き受け、運行を始めましたが、会社は赤字に転落してしまいました。そこで、路線バスの事業の改善を開始となりました。マーケティングリサーチを行い、顧客の状況を調べようとしたがバスの運行状況はよくわからない。そこで赤外線センサーをバスに設置し顧客の乗降を「測り」、それを「見える化」するソフトウエアを導入した。そしてそれを元に各種データを整理分析し、そこから改善方法を「考える」ようにしたそうです。製造業で普通に行われているPDCAの思想を取り入れて、サービス業の立て直しに役立てたとおっしゃっていました。
社長はその時の改善案の作成について「手段を選ばない」などと過激な言葉を使われていました。たとえば、航空機の運用で効果をあげているハブ空港の考え方を取り入れ、バス路線の設計に適用した。路線バスの位置を知るために「GPS」を採用したなどの対策を取られたのです。そして、公共性を実現するために、バス停を移動したりダイヤを変更したりもしたともお話をされました。そうして得られてノウハウは、あまり対価をいただかずに他社に提供しているそうです。こうして他社に使ってもらう事により、新たなシステムの問題が見つかり、システム機能の追加や改善に役立ててきたとのことです。(後知恵の確保)このあたりは製造業の試作品とパイロットユーザーによる評価のシステムと同じです。この後、大々的に売り出そうとの意図が垣間見えます。こうすれば、成熟産業にもイノベーションが可能になるとおっしゃるのもよくわかります。
これらの改善の経緯やそのために導入したシステムの動きは、イーグルバス株式会社のホームページに掲載されていますので、乗り合いバスの合理化にご興味のある方はぜひそちらを参照してください。
米倉氏の寸評、山川氏のインタビューをお聞きしていると、どうもこのシステムはすでに海外にもビジネスが広がり始めているように感じきました。そのビジネスの細かい内容は、お聞き出来ませんでしたが、今回特別賞を受賞されたNTTドコモさんの世界標準獲得のお話や、大賞を受賞された東レさんのパイロットユーザー選択のお話を参考に、私なりにまとめ図2のようなシナリオを作りました。
図 2 バス会社のグローバルサービスシステム展開
今までとこれから方向はイーグルバス社のホームページから引用
図2で左側は「今まで」のバス会社のやり方です。バス会社が独自にすべての責任を負うことでやってきたが赤字続きで撤退に追い込まれた様子を描かれています。真中がこれから目指す方法、そして右側は世界を意識したグローバルなシステムモデルという考え方です。注目していただきたいのは、国内で成功モデルを構築しそれをグローバルに展開するという考え方では無いというところです。初めから日本もグローバルの一地域と考えて、グローバルにも適用できるような、改善案が考えられているところです。たとえば、ハブ構想などは海外でグローバルな航空網設計で効果をあげている考え方です。PDCAによる改善も今やISOに取り上げられている世界標準です。サービス中心の考え方も、アップルの製品販売やグローバルなホテルチェーンで採用されている考え方です。赤外線センサーをバスに設置したのは、日本の技術かも知れませんが、これも日本もグローバル国家の一つと考えもっとも適切なものを選んだに過ぎないはずです。海外でもっと便利な機器が開発されるかもしれませんし、海外でより低コストの機器が生産されるかもしれません、その時は現在の機器と入れ替えてもこのサービスモデルの構造変わりません。サービスモデルの構成要素の1部が入れ変わるだけです(ハードには国籍は関係ありません)。ソフトについても、ユーザーインターフェースとビジネスモデルの設計部分を容易に変更できる構造に設計しておけば、計算アルゴリズムやシステム構造は共通にできるはずですし、処理装置もクラウドの思想で、その時々の安全性やネットワーク性能、政治的・法律的制限に合うところに設置すればいいわけです。更に、サービスシステムの構築やサービスの提供の仕組みをグローバルスタンダードに合わせておけば、「これからめざす方向」を、素晴らしいと受け入れる人や国を見つけることができれば、その人や国と共にビジネスを展開出来るわけです。まさに前回「性能と効能」で提案した効能(目指す方向)が受け入れられれば(間違っていなければ)、サービスは提供出来るという考え方を実践しているように見受けられました。これからベンチャーを目指す方は、金や資本といった資源が限られているわけですから、まずはビジネスモデルからグローバル化されたらいかがでしょうか。ここまで書いて、床についたら、夢の中に学生時代の碁の名人と言われた友人が表れて一言「着眼大局、着手小局」と言いました。確かに昔そんな話を彼から聞いたのを思いだしました。昔の友達は今になってもいいこと言いますね。(大切にしなくては)そして、これこそ「地方発グローバル」企業の真髄と知らされた次第です。ITCの力で「大局を知り、それらとの関係を持つことは以前に比べ格段とやさしくなりました。これからは「ITCで本業力の活性化」で述べたようにこのような前提のもとで、どこで「自分強みを発揮するか」もよく考えなくてはいけないことは確かです。ものづくり産業が、その強みをものだけに求められなくなってきたように、サービス産業もその強みをサービスだけに求められないようになっているのは、イーグルバスの事例でもよく分かりました。とすると次は「本業とは何」となるのでしょうか、またひとつ課題が増えてしまいました。
注1)ハイ・サービス日本300選 : ハイ・サービス日本300選とは日本生産性本部がイノベーションや生産性向上に役立つ先進的な取り組み(ベストプラクティス)を行っている企業・団体を表彰・公表することで企業・団体の一層の取り組みを喚起し、優良事例を広く普及・共有することで、サービス産業全体のイノベーションや生産性向上を促進することを目的としたものです。主として中小サービス業から選ばれています。ちなみに石川県からは過去次の企業や大学が選ばれています。
会社・組織名 | 業種 |
(株)加賀屋 | ホテル・旅館業 |
社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 | 医療機関 |
会宝産業株式会社 | 中古自動車部品 |
有限会社かよう亭 | ホテル・旅館 |
金沢工業大学 | 大学 |
2012/12/07
文責 瀬領浩一