2013年10月29日 JR金沢駅の一階のレストラン「CAFFE ARCO」にて北陸マッチング交流会の第1回目の会合が行われました。今回、北陸地域活性化推進協議会理事長 金平勳氏からお声がかかり、このシリーズでご紹介したエコノミックガーデニングのお話をさせていただきましたので、その時の雰囲気や感じたことをご報告させて いただきます。
上図はCo-Caféの案内原稿から、主催者・共済者期待される参加者の部分を抜き出したものです。右上の写真はCo- Caféが実施されたフカフェ・アルコです。普段は 金沢駅に到着した人、出発する人がちょっとお食事や休憩をされる場所です。このため交通の便も良く、金沢近辺のあらゆるところに出かけることが出来ます。ここなら 忙しい人でも、お仕事の帰りにちょっとよれば参加できるとても利便性の高い場所です。
交流サロンの目的は
・業態を超えた地域ネットワークの構築
・自由な発想、アイデアの集積
・新技術、新産業の創出
・学生の就職支援
・産学連携、産産連携、学学連携の場
期待される効果は
・共同研究の増加
・地域の活性化
・学生(ポスドク含む)との交流
・企業の高度人材獲得
・進路選択の多様性(就職候補先)
となっています。
私がお話した内容は、このシリーズの「情報を活用して地域の活性化」で紹介させていただいたエコノミックガーデニングです。 交流サロンは今回が第1回目で、発足会でもあり、図1の参加者のうちサービス提供サイドの人が多そうだと考え、そのかた向けに次の図を使ってお話をさせていただき ました。
図2 の真ん中の図は私の近所川崎市にある市民農園です。市の募集に参加し運よく農園を引き当てた市民が、それぞれこの土地の一角を借りて2年間の農園を楽しむ ことが出来る施設です。はるかも向こうにマンションが見えるようにここは住宅地の一角です。ここに農地を用意し、水道を引き、基本的な農機具を用意しています。 さらに住宅地の中とは言え、広いと土地であるので、太陽の光も十分です。ここまでは農園の提供者である川崎市が提供します。参加される市民から見ると自分の好みに 応じてトマトや・なす・トウモロコシ・サツマイモといった植物を育て収穫を楽しむ環境は整っています。何を育てるか、どうやって育てるか、いつ土地を耕すかは市民 が自分で考え常識の範囲で自由に行えばいいわけです。参加する市民は自分の農園の周りを見ればいつどのような農作業をやればいいのかを知るのは容易です。市民が 行っている農作業自体が知らず知らずのうちに互いに何をやるかを教えあっているのです。エコノミックガーデニングはこのように"農園の運営方法 を地域の経済活動(起業やイノベーション)にあてはめて考えて"います。エコノミックガーデニングにおける太陽は地域企業が育つのを援助する情報サービス です。このように考えれば事業支援に行き詰った時には農園支援ならどうするかを考えそれをビジネスに翻訳することにより何をらなくてはいけないかのヒントを得られ そうです。
このお話をしながら、ふっと気がついたことはエコノミックガーデニングの手段が、Co-Caféの目的となっており、そしてその効果がエコノミックガーデニングの 目的に近い記述となっていることでした。とすれば、Co-Caféはエコノミックガーデニングでいう環境整備に相当しそうです。
私の後に、お酒や美味しいおつまみが用意されているこの会で、長々と話をしていてはヒンシュクをかいます。早々にお話を切り上げて参加されている方々のお話を お聞ききしました。
その時、思い当たったことは今回お話をお聞きした皆さん(大学の産学連携センターのみなさん、中小機構の皆さん、経済連合会の方々、コンサルタント、 地域の企業のみなさん等)はほとんどいわゆるサービス活動をされている方々でした。直接モノづくりをしている方は多くありませんでした。
これは地域興しのプロジェクトだけでなく、今後の企業活動を考える上でもサービス活動が重要となってきたことを示唆しているのではないかと思い、私がこれまで 経験した典型的な社会情勢や事業活動のパターンを思い出し図3のようにまとめました。
図3 の最初の段階は第二次世界大戦で日本が敗戦した直後の日本の都会の状況を表しています。ともかく空襲で破壊された国土を再建するために、生活基盤の構築が 最重要課題でした。当時の日本人の農業従業者の割合は総人口の約60%で農業中心・食中心の社会でした。敗戦後しばらくして都会に行くと、焼け跡にバラックの家が 有り、そこで多くの人が過ごしている光景を見たものです。田舎に住んでいた私はその時初めて都会は大変だったのだと思い知らされました。住む家が出来ると、そこに 並べるいろいろなモノが欲しくなりました。たとえば情報機器を例にとると各家庭にラジオが(日用品として)置かれるようになり、商売をしている家には電話が ひかれるようになり多くの人がお互いに話し合えるようになりました。そのうち音だけでは不足とばかりに画像も映るテレビ(機能の追加)が出てくるとなんとか 買いたいと一生懸命働いたものです。1980年代入ると一方的に情報を受け取るだけではつまらないと、自分で情報を作れるパソコンを買う家庭も出てきました。1990年代 にインターネットが出てくると作った情報を素早くやり取りできるシステム機器を買う家も出てきました。この頃から買手の関心は徐々にモノから離れ、何が出来るか とか何の役に立つか(効能)といったことに移ってきました。最近の情報機器には楽しさを求められ、ゲーム性やおもてなし性といった満足感(可能性:成功した時の 満足感)を得られるモノが売れているようです。
以前のモノも不要になったわけではありませんが、技術が普及し低価格化が進むと徐々に日本の産業としては成り立たなくなってきました。最近はラジオや時計は 100円ショップで買うこともできるようになっています。非関税障壁のような既得権益を守る仕組みが無くなれば、食料品や薬品も含め必要にして最低限のモノは非常に 低コストで供給できるようになりそうです。 そうなれば生活保護者の実質生活水準はぐんと上がる事になります。
サービス提供が重要である時代が来ると言っても、過去にモノづくりで成功した日本の企業が、急にサービス第一の考え方に変える難しいのは難しそうです。 かってウオークマンで大成功した企業がiPpodを道具にiTuneベースの音楽サービスを始めたアップルに敗れたこと、アマゾンのビジネスは書籍販売だと考えて著作権 だなんだと日本における著作物から利益を上げようと出版印刷業界が結束しているうちに、日用品の供給サービス会社となっていたことなど、モノから離れてサービスに 焦点をあてた会社にモノづくりの会社が取り込まれ始めている例をあげればきりがありません。
とはいえ、これまで優れたモノづくりを強みとして、それをベースとしたサービス提供を行ってきた身としては、突然すべてをサービスの立場から見るのも難しい のかもしれません。 解決のヒントの一つがエコノミックガーデニングです。エコノミックガーデニングでは、先に述べたように"農園での常識を 地域興しに使う "わけです。それなら"モノづくりの常識をサービスづくりに生かす "という事にすれば、過去の経験の蓄積が 使えるのですからモノづくりの会社もスムーズに新しい時代に対応できそうです。
モノ作りは、図4の左にあるように、人工の有形物で技術中心に開発し、用途も限定されている。このため機能や性能は定義しやすく標準化も容易です。一方 サービスの場合は図4の右にあるように、対話型で人間中心の行動に発生し、経験が重要な評価パラメータとなり、多様化が価値となることが多い。またモノ造りでは 実際のモノが出来る前に模型や試作品を作り、使い勝手の検討や売れそうかを判断してきました。ところがサービスはモノとは違いそれ自体を有形物として模型を作る のは難しく、ついつい見える化がおろそかになってきました。
それならサービスにおいてもモノと同じように、提供しようとしているサービスが楽しんでもらえるか、売れるかどうかを検討できるようにすればいいわけです。 それが出来れば社内のみならずパートナーさらにはユーザーの意見も聞きやすくなります。そのためには、サービスを第三者に伝えられるように「見える化」する サービス設計者も必要となります。サービス設計者にはモノの設計者とは違った技量と知識や経験が必要となります(合理性と感性を持った設計者 ) 。感性豊かな人が設計しないとATMサービスのように業務効率化の手段を設計したりや自動販売機のようにモノ売りの手段を作ってしまい、サービスビジネス として適切な価値を提供する設計は難しくなるので注意が必要です。そのためには女性の設計者の増やし流れを変えるのも一つの方法です。
サービス設計の手法としてステックドーン等は「サービスデザイン思考」(注1)を提案しています。その中でサービス機能を形式化し、見える化するための サービス設計ツールとして表1にあげたものあげています。
一つの設計プロジェクトで、これらをすべて使うのでなく、ここにあげたツールを参考に必要なツールを選び、必要に応じて修正して利用することを勧めています。 たとえば私は上表の右下の「ビジネスモデル・キャンバス」の代わりに起業のアイデアをまとめるで紹介した「ビジネスモデル・マンダラ 」を利用しています。とはいえこれら25個のツールの中から5つ選んで使うだけでもその組み合わせはおよそ100万通りとなり、すべてのケースを事前に用意するのも大変 ですし、ベストな手法を見つけるのも容易ではありません。またベストと思って事前に用意したところですべてのケースに役立つとも思えません。その上それをケースに 応じて修正するとなったら、標準化などできそうもありません。しかしながら、適切なツールを選択する能力とそれを臨機応変に変更できる能力こそが創造的人間の基本 能力であるとすれば、「サービスデザイン思考」の考え方はもっともです。
実務的には自分の使ったことのあるツール、もしくはそれに類するツール(たとえば身近にそのツールの使い方を知っている人がいらっしゃれば必要に応じて助けを 求めることが出来ます)を選ぶことになります。この考え方は、ものづくりの世界で行われている「適切な材料や部品を選び、適切な加工を加え上手に組み立てて良い 製品を作ろうと日々努力する」改善活動と同じです。
また「サービスデザイン思考」ではほかにもサービス設計者のタイプ(仕事の種類)やサービス設計の進め方についても提案しています。進め方としては「研究→ 設計→再構成→実施」と「AT ONE」(注2)の2つをあげていいますが、まずとりあえずはこれまで自分がやってきた使いやすい方法をベースにスタートするのが よさそうです。不都合が発生したら、その時にすでにで学んだことがあるすすめ方からそのプロジェクトに最適であると思うやり方に変更すればよいわけです (「リーン・スタートアップ」で紹介させていただいた考え方です)。ただそのためには普段から時間的余裕を作り、新しい考え方やツール を学ぶことを怠ってはいけません。
ここまでCo-Cafeに参加して、お話した事とその時感じた事をまとめてきました。「エコノミックガーデニング」や「サービスデザイン思考」を利用すれば、日本の 産業の将来は「機能追求→性能追求→効能追求→可能性追求」へと急激その狙いが変化してもなんとか対応できそうです。それにしても、いつの世においても合理性(理性・技術)と感性(人間性) をベースに持ち次のような人々
長い将来を持つ 若者
広いつながりを持つ 仲介者(コーディネーター)
深い知恵を持つ 教育者(知識でなく創造性)
新しいことを描ける 設計者(デザイナー、プレゼンター)
自分から始める 起業家(イノベーター、アントレプレナー、プロデューサー)
が重要なのは変わらないようです。そしてこのような人を育てるのは(教育機関だけではありません)の役割の一つです。そしてそれをCo-Caféが支援もしくは実現 できれば最高と感じた次第です。これこそ「可能性を追求する楽しみ 」です。
(注1)参考資料 THIS IS SERVICE DESIGN THINKING 組織横断的アプローチによるビジネスモデルの設計編著マーク・ステックドーン/ヤコブ・シュナイダー 株式会社 ビー・エス・エヌ新社
(注2)「AT ONE」とは次の言葉の略で次の内容をベースにテーマを整理する方法です。
A Actor:関係者がパートナー関係を築く
T Touchpoint:顧客接点
O Offer:サービスの提供
N Need:顧客が何を求め、何を望んでいるかを知る
E Experiences:サービスの利用じからその後までの経験すること
2013/10/06
文責 瀬領浩一