前回オーナー、人、モノ、金、情報といった経営資源をどれだけ手配でき、それらをどのように使いこなすことができるかが事業計画だといったような話を書きました。
今回は、個事業主としてやる場合と法人としてやる場合の違いについてまとめました。
やりたいことが、漠然と決まったばかりの人にはどちらがいいかはまだ決められませんでしょうが、ここでは取り合えず、 いま自分が理解していることをもとに個人がいいか法人がいいかを考えます。今後起業活動を進めていくうちに、いい方法が見つかったらそちらに変えればいいという前提です。
事業を始めるには個人事業主として開業するのか、法人を設立するかをを選ぶ必要があります。法人とは会社のことで個人事業主は会社の分類には入りません。
一般に法人は個人事業主より信用されると言われています。ということで、会社設立代行会社の誘いに乗って法人化をおこなったために、個 人事業主時代よりも経費がかさみ、利益が減ったり時には赤字経営になることもあります。その結果赤字になったから廃業するなんてことになると、さらに費用がかかるだけだけではなく、お客様やパートナー様に迷惑をかけることになります。こうなると信用も失うとになり、廃業の被害はかなりなものとなります。廃業の原因がコロナウイルスの蔓延、地震のような自然災害や巨大企業との競合のような同情を得られるような場合はともかく、説明もできないような事情の場合は、周りの人の信頼も失ってしまうことにもなりもう一度起業することが難しくなるかもしれないので、注意が必要です。
というようなことは別として、とりあえずは個人事業と法人事業で何が違うのかをまとめたのが「図表1.個人と法人でどのように違うか」です。
出典:「平成30年 夢を実現する創業」(中小企業庁) p17
図表1にあるように、個人の方が開業手続きも簡単で、費用があまりかからず、事業内容に制約がなく、事業化の途中で事業の目的を変えることにも柔軟に対応できるために、イノベーションをともなう起業に必要な条件のいくつかを満足しています。事業手法や目的を変えることが難しい会社を作ってしまうと、新しいことに挑戦するのは難しくなりますので会社組織を作るときには柔軟さが失われないような仕組みを組み込んでおくことが必要となります。
これに対して規模が大きく多くの人が参加して行わなくてはいけない事業は、信用も必要ですし、多くの人が安心して働けるような仕組みを整えて行うためには、少々手間がかかっても法人企業を選択することになります。法人の経営者は有限責任であるので、若干のリスクがあっても大規模な投資を伴うイノベーションに取り掛かれるメリットがあります。
「142.アイデアとコンセプトの整理」で取り上げた大学発ベンチャーの場合で言えば研究成果ベンチャーや共同開発ベンチャー・技術移 転ベンチャーといった大学の教 授や研究者が行う大規模な起業の場合は法人型がよさそうですが、学生にひらめいた新しいアイデアや事例がまだ少ないアイデアに挑戦するときは、個人型を頭において検討を始めてみるのがよさそうです。ただし、事業が失敗したときには、負債の返済に無限責任を負うこととなり、事業主の負担が大きくなる場合もあります。このため、また銀行などからの融資額もすくなくなりがちです。個人事業では、素早く効果の出る事業分野から始め、素早く資本を貯めながら事業を拡大することが必要です。そのためには常に現状を見て、うまくいっていることは拡大し、うまくいきそうもないことは素早くやめるといった行動、すなわちOODAやアジャイル開発が重要です。
自己の商業・商法を持ち自己が開発した商品サービスを提供する企業(フランチャイザーと呼ぶ)にそれらに対価を払い事業契約を行う企業 をフランチャイジーと呼びますが、このような企業の事業や法人を見つけることもあります。
適用される業態としてはコンビニエンスストア等の小売業の他、ラーメンや弁当、ファストフードなどの外食産業、不動産販売、自動車の整備、近年では小型のフィットネスクラブ、学習塾、CDレンタルといったサービス業に至るまで多岐にわたっていますがこの場合は契約の内容ややりかたは、フランチャイザーが決めることがなり、フランチャイジーとなる事業者には、あまり自由がありませんのでここでは検討の対象とはしません。
一方それらとはべつに、独立してカフェコワーキングスペースなどで営業するフリーランスは個人事業主です。
出典:「平成30年 夢を実現する創業」(中小企業庁)p18
図表2にあるように一般に個人事業者の場合は、届出処理は簡単であり、税務署に個人事業開業等届出書を提出すれば個人事業主の住民税の手続きも含めほとんどの手続きは済みます。ただ地方税である個人事業税に関する手続きのために、都道府県税事務所(市町村)に申請をする必要があります。
ただ図表2の下に記されているように、給与支払いの従業員がいたり棚卸資産等の必要要件があればそれに応じた追加の届出書が必要となりますので、ご注意ください。
出典:「平成30年 夢を実現する創業」(中小企業庁) p32
「開業 フリー」 で検索すると、インターネットで個人事業の起業届けができる無料のサービスが見つかり、便利です。 ただし個人事業主は、事業で発生した負債に対する無限責任を負うことになりますので、おかしいと感じた時には入力を中止し、今一度検討してから安全と思えるようになってから続けてください。
次いで、個人事業主では手の回らない、大学の研究成果を実用化するような大規模な事業を開始する場合には法人化を図る場合が多いかと思います。
図表4 創業に必要な届出書類 法人 は法人化する時の届出書類をまとめたものです。
出典:「平成30年 夢を実現する創業」(中小企業庁)p19
『会社(法人)設立に必要な基礎知識』freeというHPがあり、そこでは
会社設立のステップを
STEP1:定款の作成
STEP2:定款を認証する
STEP3:資本金を振り込む
STEP4:登記する
に分けて説明してから法人設立に必要な次の11種類の書類について記述しています。
01.登記申請書
02.登録免許
03.定款
04.発起人の決定書
05.取締役の就任承諾書
06.代表取締役の就任承諾書
07.監査役の就任承諾書
08.取締役の印鑑証明書
09.資本金の払込を証明する書類
10.印鑑届出書
11.登記すべきことを保存したCD-RかFD
これらの情報はすべて無料で提供されていますので、必要に応じてHPからダウンロードして参考にしてください。
もしくはJ-net21の「 」の「設立手続きに必要な書類」、https://j-net21.smrj.go.jp/startup/download/t5drrv0000001m8f-att/data_16.zip(アクセス 2021/06/08)に必要な書類のサンプルが登録されています。内容は少し違いますがそちらからも見られます。いずれにしても詳細は担当税務署に確認してから書類を作成した方がよさそうです。
さらに法人にかかる税金は「図表5 法人にかかる税」のようになっています。
出典:「平成30年 夢を実現する創業」(中小企業庁) p33
法人の課税は、規模の小さい個人事業主に対する国税の所得税、地方税の住民個人税、個人事業税に比べて高くなりますが、利益が増えてくると個人税の税率が法人税より高くなるために、ある程度以上の利益になる個人より、法人の方が安くなります。ただし税率はその時の政治や経済の状況によって変わるために、この限度額は変ります。個人所得が600万円とか900万円を超えたら、法人を考えた方がいいという意見もあります。
ということで、大略どちらがメリットがあるかは、以下のようになります。
<法人のメリット>
・経費計上範囲が広い
・社会的信用が高まる
・一定の所得以上では、法人事業の方が税金がお得
<個人事業主のメリット>
・手続きが楽
・初期費用を抑えることができる
・一定の所得までは、個人事業主の方が税金がお得
企業組合
ここまでは、個人事業主か法人のどちらか1方を採用することすを考えましたが、ほかにも個人と法人組み合わせた組合型事業運営があります。
出典:「平成30年 夢を実現する創業」(中小企業庁) p41
図表6で取り上げた企業組合は、個人事業者や勤労者、主婦、学生等の個人の方々(4人以上)が組合員となって、自ら働く場を創造するための組織です。都道府県知事(財務大臣または国土交通大臣の所管業務を行う場合は地方支部分局長)の認可により法人格を取得することができます。
そのメリットは
・資本金はいらない。
・税務上の優遇措置が得られる
・組合員は出資金以上の債務弁済の責任を負わない。
都道府県知事の認可を受けるので社会的信頼性が得られることです。
有限責任組合
図表7 有限責任事業組合
出典:「平成30年 夢を実現する創業」(中小企業庁) p42
ほかに図表7のようなも有限責任事業組合もあります。
以上のように、法人化(法人成り)にはデメリット「開設には費用負担があり、手続きが煩雑」もありますが、一般的には継続的に事業を行ううえでは「税負の軽減」よりは「社会的信用」の方が重要です。事業の成長を望むなら、タイミングに合わせて法人化を選ぶべきです。
合同会社
合同会社は出資者全員が有限責任の社員の会社です。社員は全員株主として出資しており、利益配分は出資金に関係なく決めます。このため出資金が少なくても、 会社への貢献度の高い社員にはそれなりの利益配分を出すことができるということです。登録免除や決算公告の義務もありません。このため株式会社に比べると、手数がかからず、株式会社に比べるとコスト面や自由度の面で優位なため、初めて会社経営をやる人にとっては便利な方式です。これら5つの方式を1つの表にまとめたのが図表8.起業組織比較です。
ここまでにあげたいくつかの起業方法を一つにまとめたのが、図表8 起業組織比較表です。
以上、個人事業主、法人、合同会社、企業組合、有限責任事業組合と5つのタイプの起業方法をまとめてきました。基本的な考え方は個人のやりたいことをはじめる個人事業と起業業に必要な資金を集める法人事業(株式会社)ですがその2つだけでは起業しにくい人のために、合同とか組合といった考え方を取り込み起業をできるようにしていると考えればよさそうです。
法人のように大量な資金を必要とする事業をやるときには、資金提供者にその内容を伝えるために定款を伝え、実績を公開する必要がありますし、それらの情報が信用できるものであることを確認するために、登記や認証が必要なことは当然ですし、そのために費用がかかることも覚悟しなけらばいけません。
特に将来法人として事業拡大を考えている人は、目標や資金提供の合意を得られそうな人とともに合同会社を作り、法人化への準備をするのも一つの案です。この時には「アイデアとコンセプトの整理」で説明した起業家思考図のうち、「自己紹介図」で自分の考え方を説明し、「狙い図」で何をやるのかを伝えるだけでなく「起業モデル図」を使ってコスト構造や収益の流れを説明することになります。こうして起業家思考図を共有することにより一緒にやってもらえるようにして相談することが容易になります。これらの起業家思考図は手続きを行うことに変更が必要になった場合には、新しい状況に合わせて修正をしておいてください。このように修正を加えておけば、常に最新の状況を参照することができるようになり、その他の変更があった場合にも使える最新版として参照できるようになります。
参照資料
開業フリー、「個人事業の開業届が簡単・正確開業届などの開業書類を誰でも簡単に作れる無料サービスです。」
https: //www.freee.co.jp/kaigyou/(アクセス 2021/06/12)
中小企業庁、2018、『平成30年 夢を実現する創業』
https: //www.chusho.meti.go.jp/keiei/sogyo/pamphlet/2016/download/h30Sogyo.pdf(アクセス 2021/06/08)
free 、2021、『会社設立の基礎知識』2021/02/19、free
https://www.freee.co.jp/kb/kb- launch/shorui-11/(アクセス 2021/06/12)
2021/06/22
文責 瀬領 浩一