165.学生起業の破産

165.学生起業の破産

-個人事業破算処理の仕組み-

はじめに

 前回の「学生起業の廃業-廃業しても感謝されるために-」では学生起業が行き詰まり、これ以上事業を続けるのが難しい時の対策として、廃業を行う方法についてまとめました。しかしながら、廃業時の借入金、買掛金の支払い等の負債の返済が難しくて、自分の資産を使っても、 負債のすべてを解消ができない時には、「廃業」ではなく「廃業」処置をふくめた倒産を行わざるを得なくなります と書きました。今回はこの「破産」処理とはどのように行うかをまとめます。

 裁判所のHPでは、破産手続きについて次のように書いています。

 「破産手続は,裁判所が破産手続の開始を決定し,破産管財人を選任して,その破産管財人が債務者の財産を金銭に換えて債権者に配当する手続です。通常は,破産手続開始の決定時点の債務者の全ての財産を金銭に換えた上で必要経費を控除して債務者に配当(配分)します。なお,債務者の財産が極めて少ない 場合には,破産管財人を選任しないまま破産手続を終了することもあります。

 破産手続開始の決定時の債務は,破産手続の開始が決定されても,返済を免れるのではなく,返済を免れるためには別に免責許可の申立てを行い,免責の許可を受ける必要があります。なお,破産をすることになった事情に浪費や詐欺行為などがある場合には免責の許可が受けられないこともあります。」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_02_02/index.html(アクセス 2023/08/28)

1.自己破産とは

 自己破産とは債務者である個人が返済不能に陥ったとき、債務者本人が裁判所に破産の申立てし、裁判所が審査し債務者に対して破産を宣告すること。個人破産、消費者破産とも言われているのですが、「これではよくわからない」と倒産について調べているときに、最高裁判所のホームページで、「自己破産の申立てをされる方のために」という名の1枚の折りたたみパンフレットを見つけました。「図表1 自己破産の申立てをされる方のためには」その表紙で、自己破産で困っている人向けのお手紙ですよ ということを伝えるパンフレットで、自己破算ついて簡単にその目的とやり方をまとめています。  


vbl16501.jpg図表1 自己破産の申立てをされる方のために

出典:自己破産の申立てをされるために 
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/202202.leaf- hasan.pdf(アクセス 2023/08/21)

 「図表2 破産手続きの流れ」にあるような破産手続きの流れ図が描かれていました。

vbl16502.jpg図表 2  破産手続きの流れ

図をクリックすると拡大して見られます
出典:自己破産の申立てをされるために 
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/202202.leaf- hasan.pdf(アクセス 2023/08/21)p2

 破産処理を行う必要がある債務者は家族や親戚、借入金等の保証人と話し合い了解を得た後に「図表2 破産手続きの流れ」の最上部にある破産申し立てを行います。
 申込先は債務者の住んでいる地域を担当する地方裁判所です。この地方裁判所を探すには各地の裁判所一覧(https: //www.courts.go.jp/courthouse/map/map_list/index.html(アクセス 2023/08/21)) をご利用ください。

 申し込みを受けた、裁判所は「破産管理人」を割り当て、破産手続きが開始されます。申立書の内容をチェックし債務者が借金等を支払う資力がないと判断すると、「同時廃止決定すなわち破産開始決定と同時に手続き廃止決定をして、破産手続は即時に終了します。
 必要な最低限以上のお金や財産がある場合には管財型で債権に対する支払い(配分)が行われます となっています。ただ同時廃止型でも無料ではなく、申立て手 数料や広告費用は必要となります。

 この後、説明しますが「債務者」は準備に必要な参考資料を集めるのに相当手間がかかり、今後の生活にもかかわりが出てきます。

 その破産者の財産をお金に換えて債権者に公平に分配する「破産手続」と法律上の支払い義務を免除して破産者の経済的立ち直りを助ける 「免責手続」を行います。

 こうして今回の検討対象である「学生個人起業」の破産の場合は、管財型の自己破産が行われるのが多いようです。「図表2 破産手続きの流れ」の次のページには「破産手続Q&A」があり、そこには次の4つの設問に対する簡単な説明が書かれています。

・どのような書類等を用意して,どこの裁判所に行けばよいのですか?
・破産手続開始決定によって生じる義務や制限はありますか?
・破産時にはすべての財産を手放さなければならないのですか?
・債権者から給料などの差押えを受けることはありますか?
 ☆不明な点は,最寄りの地方裁判所にお問い合わせください。

 この4つの設問とその回答はA5一枚程度の用紙に印刷した情報ですから、詳しい情報ではなく、さらりとした記述です。しかしこれまでに廃業計画で学んできたことの再確認もしくは破産活動の概要確認するためにと思ってさらりとお読みになることをおすすめいたします。 

 図表2に書かれていることをお金の流れの面から纏めると「図表3 倒産時のお金の流れ」のようになります。

vbl16503.jpg

図表3 倒産時のお金の流れ

 そもそも破産手続きを必要としているのは、倒産時に所持している資産の総額より、倒産時の負債額が多くて支払いきれない時に、管財人に調整を頼んでいる状況にあるわけです。倒産事件手続費用はその手続きを行うために払う費用です。免責認可費用とは、破産した後、事業主が最低限の生活を行えるよう、必要な資金を確保するための費用です。管財人が行うのは、債権者にできるだけ平等に配布(按分)するために、破産者の申請内容が正しいかどうかを調べ、支払額へのクレームや争 いをなくすることです。

 このための申立書の内容の正当性を調べ、破産時に親しい仲の人に前もって全額を支払っていたというような場合に、不平等があればそれを正すとか、浪費や詐欺行為などが原因で発生した資産減少があれば、倒産差の免責認可額を認めないといったペナルティ(免責不許可決定) を科することになり、不正の行為を行わないようにしているわけです。例えば親しい人に前もって全額支払っていたことが分かれば、それは一旦全額管財人に払い戻すことになります。

2.自己破算の申し立て

 倒産手続きの最初のステップで裁判所に提出するのは「図表4 破産手続開始・免責許可申立て書(管財用)」です。

vbl16504.jpg図表4 破産手続開始・免責許可申立書(管財用)

出典:https: //www.courts.go.jp/tottori/vc-files/tottori/file/hasan-mousitatesyo.pdf
(アクセス 2023/08/27)

 これは鳥取地方裁判所の事例です。ここにあるように申立人の住所・氏名・生年月日・連絡先の電話番号等が記入されており、随時コンタクトを取るための情報が書かれており、後で述べる複雑な業務に対応するために弁護士が代理人として申請する場合は、その名前や連絡先も書き込めるように設計されています。申立て等で使う書式は目的により異なり全国共通の書式については「申立て等で使う書式例」https: //www.courts.go.jp/saiban/index.html#syosiki(アクセス 2023/08/27)に掲載されており、新潟地方裁判所で使う書式は「破産手続申立ての際に必要な費用など」https: //www.courts.go.jp/niigata/saiban/tetuzuki/syosiki/index.html(アクセス  2023/08/27)等地方裁判所のHPに詳細が掲載されています。必要に応じてご参照ください。

 さらに添付書類には 「図表5 添付書類等」に上げられたものが使われています。

vbl16505 .jpg

図表5 添付書類等

出典:「破産手続開始・免責許可申立書(管財用)」
https://www.courts.go.jp/tottori/vc-files/tottori/file/hasan-mousitatesyo.pdf(アククセス 2023/08/27)

 「図表5 添付書類等」を見ると共通の提出書類は 1 陳述書に加え、2 債権者一覧表、3 財産目録、4 マイナンバーカードの記載がない住民票の写し、5 直近3か月の所得明細書または給与明細書、6 過去1年分の預貯金通帳の写しで、その用紙のフォーマットと記入の留意点も書かれています。

 たとえば陳述書には、作成日や申立て人の情報は当然としても

1.申立人の経歴等:最終学歴、その後の職業の経歴、現在の職業の勤務開始日、勤務先、地位・仕事の内容、再起3か月分の給与明細書 、給与・ 収入、それ以外の申立て人の収入、最近1年以内に離婚または離縁した経験があれば、その際の慰謝料、養育費の取り決めの内容がわかる書面です。
同様に以下にあげた2~7までの6つの情報についてもフォーマッット・説明が書かれています。
2.活状況:家庭収支表
3.資産状況
4.負債状況等
5.債権者との状況:債権者との間での裁判、差し抑え等 
6.これまでの生活状況
7.関連事件等:過去の破産免責、給与所得者等の再生手続き
 こうしたフォームが公開されているので手間はかかりますが破産者でも記入は可能です。

 ほかにも申立てごとに必要となる14個の書面(備考欄に該当する場合に提出する)についても必要があれば□に☑を入れ添付します。

 事業者用追加陳述書は、個人事業者や会社代表者で会社の破産申し立てが未了の場合に作成するものです。

第1 事業内容

1.事業概要
2.事業継続の有無
3.従業員等
(1) 事業をやめた
(2) 従業員に対する未払い給料は
(3) 独立行政法人労働者健康安全気候に対する立替請求制度
4.帳簿印鑑類の保存
5.手形・小切手用紙の保管状況
6.自動車等の保管状況
7.商業帳票の記帳状況及び粉飾決済の有無
8.税務申告の方法

第2 営業施設について
営業用施設
賃借・無償私用物件の明け渡し状況
自己所有物件の状況

第3 営業用資産について
1.リース物件
2.原材料・半製品・製品(在庫品)、機械工具、銃器備品類の動産類について
3.売掛金・貸付金の債権について
4.その他のおもな営業用資産・施設について
5.業務停止の前後に資産を著しく安く処分したり、贈与したことはありませんか
6.営業停止の前後に一部の債権者だけに債務を払った(代理弁済、債券譲渡等を含む)ことはありませんか
7.事業停止の前後に一部の債権者だけに担保の設定等の行為をしたことはありませんか

第4 予備欄
 記入欄に記載しきえなかった場合や特に述べたいことがあったら記載する部分です。書ききれない時には別紙を作成して添付してください。

 なお、破産手続き申立書の記載例が描かれています。ぜひご参考にしてください。

 さらに、「破産手続申立ての際に必要な費用など」鳥取地方裁判所 民事部 破産係 の例も下記URLからご覧いただけます。
 https://www.courts.go.jp/tottori/vc-files/tottori/2020tottori/A11hasanhiyo.pdf

 さらに 破産手続申立ての際に必要な費用など として
1.現金(漢方掲載料)    現金10,584~13,834円
    (管財事件の予納金) 50万円から
2.収入印紙(申立手数料)  1,500円
3.郵便切手
4.あて名書きをした封筒(債権者全員の分及び申立て人の部) 
5.その他の費用 
が書かれています。 

 これ等のすべてに対応するわけではありませんが、実に複雑な仕組みです。正しい判断をしきちっと対応するには、弁護士に依頼することを進めています。

 提出する裁判所は倒産する個人事業が存在する場所を管理する地方裁判所です。どこの裁判所に申請すべきか不明の方は下記をご参考にして打ち合わせをし てください

各地の裁判所一覧
  https://www.courts.go.jp/courthouse/map/index.html
全国の市番所の所在地及び電話番号一覧
  https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2022/databook2022/db2022_ex11 -31.pdf

3.破算手続き費用

 更に、最後の破算申しての際に必要な費用については、必要費用の 単価について述べられていますが、ほかにも「図表6 破産事件手続き費用一覧 東京」には、その結果どれくらいの費用になるのかを想定する情報が書かれています。

vbl16506.jpg図表6 破産事件手続き費用一覧 東京

出典:東京地産民事大20部
https://www.courts.go.jp/tokyo/vc- files/tokyo/2023/min20/remeral/03hasann_mousitatehiyou_R5.4.1.pdf(アクセス  2023/09/03)を参考に個人事業に合わせて作成

 このように手続き費用については、税務署によって異なった情報が提供されることがありますので注意してください。

 破産事業の手続きの申立についての詳細は、それを受けつける事業所によっても若干違うことがありますので、手続きを取るときは自分の事業所の設置場所を管轄する税務所(所轄の税務署)に確認して行ってください。

4.事業者に残される金額  免責許可費用

 破産する個人事業主にとって、破産処理のありがたいことは、本来自分の資産を超える負債があり、自分の資産をすべて使っても払いきれないのに、債務者(破産した事業家)に、いくらかの資産を残してくれる(免責許可費用)ことです。免責許可費用がどれくらいかは、破産後の生活を考えると免責許可費用としてどれくらい残るのかは、最大の関心ごとの一つです。

① 債務者に、33万円以上の現金がある場合
② 債務者に、20万円以上の換価対象資産がある場合(預貯金、保険の解約返戻金、未払報酬・賃金など)
③ 債務者が所有する不動産の被担保債権額が不動産処分価格の1.5倍未満の場合
④ 債務者の資産調査が必要な場合
⑤ 債務者が法人の場合
⑥ 債務者が法人の代表者又は個人事業者の場合
⑦ 債務者の免責調査を経ることが相当な場合

出典 東京地方裁判所/東京簡裁以外の簡易裁判所
https: //www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section20/situmonn_tousannbu/index.html

 東京地方裁判所の例:よくある質問3.「管財事件」と「同時廃止事件」のどちらになるかは、どのように決まりますか。

 債権者等の利害関係人はもとより、広く社会一般から破産手続に対する信頼を得るためには、破産者の資産、負債及び免責等について破産管 財人が調査を行い、その結果を債権者に報告する「管財事件」として進め、破産手続の公平性・透明性を高めることが望ましいといえます。
 当部では、申立人の事前の調査を踏まえ、次のような場合は、原則として「管財事件」として取り扱っています。

 自由財産の拡張とは、破産法で具体的に定められていなくても、裁判所の決定によって自由財産として認められたものです。 裁判所は、破産者の生活の状況や財産、収入の見込みがあるかどうかなど、さまざまな事情を考慮して判断します。

 たとえば、東京地方裁判所は以下の基準をもっています。
 残高(複数ある場合は合計額)が20万円以下の預貯金
 見込額(数口ある場合は合計額)が20万円以下の生命保険解約返戻金
 処分見込額が20万円以下の自動車
 居住用家屋の敷金債権
 電話加入権
 支給見込額の8分の1相当額が20万円以下の退職金債権
 支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える退職金債権の8分の7相当額
 家財道具
これ以外のものを自由財産として認めてもらうためには、それなしでは最低限の生活すら営めなくなってしまうような、特別な事情が必要になると考えられることが必要です。

出典:20230711_個人事業主が自己破産するとどうなる?事業継続の可能性や破産手続きの流れを解説__人・響き
https: //hibiki-law.or.jp/debt/hasan/10635/(アクセス 2023/08/31)  

 このように、倒産とはその時の負債総額が、資産総額より大きくなっているとき、おこなわれます。このために税務署がおこなう手続きが「破産手続決定」でありそのための費用(倒産事件手続き費用)で、倒産者が倒産後も最低限の生活を行うために必要な資金が免責許可費用です。この結果倒産時の資産総額から優先的配分費用を引いた金額が債権者に配布されます。         この時「図表3 倒産時のお金の流れ」からわかるように、債権者への配分費用は、元の債権費用より少なくなります。さらに倒産時の資産総額が優先的配分費用より小さい時は、配分する原資がないわけですから、債権者への配分は行われることなく破産手続きは終了とな り、倒産者の債権者への支払いは免除されることになります。

5.倒産のデメリット

 個人事業の破産時に、自己破産の対応を行なうことにより、自分資産が不足しているときでも、債務を解消するだけでなく、最小限の資金 を確保することができることがわかりました。大変な手間が必要ですが、債務を解消できることはありがたいことだとわかりました。

 しかし自己破算にはメリットだけではなく、次にあげるようないくつかのデメリットもありますので、普段から破産をしないように努力しましょう。

・クレジットカードやローン残高を5年以上利用できなくなります。
・一定以上の財産があれば売却等の現金化を行い債権者に配当する必要があります。
・基本的には99万円を超える現金や20万円以上の資産価値のあるものは原則として現金化し、債権者への配当に使われます。
・商品を立替払い契約(クレジット)分割払いで購入して、払い終わっていないものはクレジット会社に引き上げられ、返済に充てられます。
・破産手続き中に制限される職業や資格があります。
・破産の事実が官報で公告されます。
・破産手続き中は破産管理人に郵便物が転送されます。

 このため思わぬうわさが世間にばらまかれたり、まさかの時の助けが受けにくくなります。
 普段から破算しないように注意して、個人事業の経営を行いましょう。

おわりに

 ここまで述べてきたたことを纏めると・・・。

 自己破産では、目ぼしい財産は手放すことになりますが、自己破産しても、債務者が生活していかなければなりませんから、必要最小限の財産は、残すことが認められています。(免責)

 自己破産は、債務者の財産をお金に換えて、免責分を差し引き、残っているお金を債権者に配分する手続きです。
 個人事業主には事業に関連した売掛金のような日々変化する財産と、設備のようにあまり変化しない財産、保証金のように最初に支払い、破産時にには返却してもらえる財産も有ります。

 ここで、自己破産しても財産を残せるかどうかは、生活にどの程度必要か、金額、債務が増えた経緯、家族構成等様々な事情を総合して、破産管財人の判断を中心に決めるのが通常です。

 自己破産しても残すことができる財産は、「自由財産」と呼ばれ、裁判所ごとに運用方法が決められています(全国均一ではありません)。
 さらにこれらの運用ルールが変更されることもあるため、具体的な詳細はは地元の弁護士さんに相談したほうが方が良さそうです。

 債権者には平等に配分することになっています。このため、身近な人や親しい人に配慮して優先的に負債を返却した場合や、破産の原因が浪費や詐欺行為であると判断されると、破算の配分が公平に行う原則に反することになりますのでとして破産管財人に自由財産が認められない時もあります。  

 破産時には個人の全財産が対象となるため、個人的財産についても、契約条件や取引状況を記録・保管し必要に応じて取り出せるようにしておく必要があります。これは、個人生活の資材を買う時でも修理や機能変更時の時のために必要なことですが(家計簿の世界)、個人事業での売買のような金銭のやり取りに比べるとついついいい加減になりがちです。

 以上、破産に関する手続きを見てきました。もともと学生個人事業主の多くは過去に資産を増やす活動をしていないため、個人資産は少ないのが普通かと思います。破産とは大変なことであり、学生起業家に、大きな負担をかけると同時に、起業主の将来にも悪影響をもたらすことが解ります。従って破産手続きをいかに効率的にやるかも重要ですが、最も大切なことは破産する可能性の少ない起業を行うことです。また家族や知り合いの 借入金の保証人になるときには、保証金額が自己資産より少ないことを確認しておかないと、保証先が倒産すると、自分も倒産することになりかねません(連鎖倒産)。
 このようなことを避けるためには学生が起業する業種を選ぶときには、次のようなことにも注意してください。

・買掛金が少なくなるように在庫を抱えない
・初期の借入金を少なくするために初期投資が少ない業務を選ぶ
・できるだけ早く投資を回収するためには成長する業種を選とかお金のかからない仕事を選ぶ
 たとえば、IT業界で起業したいのであれば、Webサイト制作、アプリ開発、プログラミング、アフィリエイトサイト運営といった事業であり、サービス業であ ればイベント企画、翻訳、HP作成などの業務代行業務、家庭教師といった業務です。すなわちアルバイトの延長となるような仕事のやり方を選ぶことです。

 そもそも多くの学生は、まだ業務経験が少なく業界知識やビジネスの知識が少ないわけですからできるだけリスクが少なく、また卒業後も実績として残るような業種を選ぶのがよいということです。

 とはいえ、2023年8月21日の朝日新聞の「生成AIでもできる 報酬を安くして」に書かれているようにフリーライターの報酬を従来の1文字2円から1円にしてもらえないかという顧客からの要求を出されて、断れば依頼が来なくなるのでは思いつい受けてしまったという話もあります。この結果フリーターの収入 が1/2になれば、当然倒産の可能性が上がるわけです。

 また8月25日の朝日新聞の「福島第一処理水放出に」あるように、8月24日に、福島第一原発の処理水の海への放出を始めたことにより、中国政府が発表した「日本産の水産物輸入を同日から全面的に停止する」となり、突然顧客を失う業種がでることになる今日この頃です。

 またコロナウイルの対応として、政府が対応を行ってきた中小企業の支援策の政府の融資により3年間の借入金の金利をゼロにするゼロゼロ融資により、救われた 企業もあるが3年たってコロナ第5期になり、コロナの危険が減ってはきたが、自分の事業の売り上げは戻っていない。これから融資の返済を考えると事業は続けられない人も増えるのではといった危機対策が危機の原因になる人もいらっしゃるようです。

 これらは企業との仕事とやり方の勉強会でも出てきたことですが、現在日本の企業がグローバル経済の危機を乗り切るためには、終身雇用や昇進制度を見直し、社会変化に備える人材育成が必要になるとお話にも相通じています。

 ビジネスの楽しさ、お金を稼ぐ楽しさを知るためにも、ぜひ学生のうちに一度は起業を経験してみるのは良いことですが、学生起業家の多くは自己資金をお持ちでないかと思いますから、容易に自己破算する可能性があります。このため起業の時に破産に至りにくい事業かどうかを確認し、それなりの進め方を検討しておきましょう。

参考文献
学生起業でおすすめの業種は?IT業界? 2021年3月25日
https://corporate-labo.com/gakusei-kigyou-gyoushu/(アクセス 2023/08/23)
各地の裁判所一覧
https://www.courts.go.jp/courthouse/map/map_list/index.html(アクセス 2023/08/21)
再生手続き開始の申立をされる方のために(個人債務者用)最高裁判所 
https://www.courts.go.jp/vc- files/courts/file2/202202.leaf-saisei.pdf(アクセス 2023/08/21)
自己破産の申立てをされるために_最高裁判所 
https://www.courts.go.jp/vc- files/courts/file2/202202.leaf-hasan.pdf(アクセス 2023/08/21)
全国の裁判所の所在地及び電話番号一覧
https://www.courts.go.jp/vc- files/courts/2022/databook2022/db2022_ex11-31.pdf
瀬領 浩一「学生起業の廃業-廃業しても感謝されるために-
https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/164.html(アクセス 2023/09/06)
「破産手続申立ての際に必要な費用など」
https: //www.courts.go.jp/niigata/saiban/tetuzuki/syosiki/index.html(アクセス 2023/08/21)
破産手続開始・免責許可申立書(管財用)
https://www.courts.go.jp/tottori/vc- files/tottori/file/hasan-mousitatesyo.pdf(アクセス 2023/08/27)
東京地産民事大20部
https://www.courts.go.jp/tokyo/vc- files/tokyo/2023/min20/remeral/03hasann_mousitatehiyou_R5.4.1.pdf(アクセス  2023/09/03)
倒産手続き_裁判所
https: //www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_02_02/index.html(アクセス 2023/08/28)
鳥取地方裁判所 民事部 破産係の例
https://www.courts.go.jp/tottori/vc-files/tottori/2020tottori/A11hasanhiyo.pdf(アクセス 2023/0827)
「申立て等で使う書式例」
https://www.courts.go.jp/saiban/index.html#syosiki(アクセス 2023/08/21)

2023/09/10
文責 瀬領 浩一