Kaichiro KazumaRepresentative director of sake brewery
数馬嘉一郎数馬酒造 五代目蔵元
#01
2016.03.31
能登に戻って一番最初に思ったのは、人間らしい暮らしができるなってこと。自分の仕事から離れて何かできる時間がちゃんとある。こっちなら仕事が7時には終わり、食べ物は新鮮でおいしい。時間があるので勉強もできる。僕、ドラッカー※が好きで。読み直したりいろいろしてます。
思わずあいさつしたくなる、勢いある筆運び。数馬さんが社長就任時にしたためたもの。
都会と能登だと、豊かさの基準が違うなと思います。成功と幸せの違いもありますし。自分の基準では、成功だと都会、幸せになる確率はこっちの方が高いなと感じました。豊かさも、お金なのか、家族と過ごすことなのか、食事のおいしさなのか、仲間との時間なのかとか。若い人には、自分の生きたいように生き、それが実現できる場所にいてほしいと思う。それが都会であるならもちろんそれでいいですけど、僕にとっては能登であり、石川だった。夜遅くに帰って、6、7畳の部屋で寝て、起きたらまた仕事っていう東京の生活も楽しかったんですけどね。能登に戻ってきて、地元の漁師さんや農家さんが新鮮なものを持ち寄って食事会をしたり、家族と過ごしていく生活の方が僕は好きなので。
※ドラッカー…ピーター・ドラッカーさん。オーストリア出身の経営学者。経営学の巨人。ウィキペディアによると「マネジメント」の発明者。1909~2005。
石川は、特定の場所というよりは、いろんなところにスポットがあるのがいい。たとえば春ならイチゴ狩りに行ったり。冬はカキがおいしいですよね。おいしいカキをその場で焼いて食べられるお店もありますし。旬を感じられるものを追って回るのが好きです。ちょっとダイレクトに自然をという時には能登、少し雰囲気を変えて食べたい時には金沢とか、気分や季節によっていろんなところに行ける。石川全体がスポットだと思います。まだ魅力を満喫できていないですね。
お客さまがいらした時には、塩田村※にお連れすることもありますが、塩は夏場につくるので、もしかするとうちと雇用を共有できるかも…という見方になってしまうんですけど。雇用も能登の歴史を守るためのもの。自分のところに必要だから来てもらうのではなく、人が足りないところと連携して能登の文化を守る。ひとつずつ能登にとって理由のある動きをしていきたい、そういう視点に立っています。能登は歴史や文化があり、ものづくりが多い地域なので、安心してものづくりをし続けるとか、安心して継げる地域にしたいというのはありますね。自分で米をつくって、酒にして、アテが塩でなんていいですよね。地域に根付いている文化を守る、スーパー助っ人みたいな。いろんな方と連携して、雇用とか、N-projectのような取り組みをしていきたいですね。
※塩田村…珠洲市にある奥能登塩田村。日本で唯一残る「揚げ浜式製塩法」で塩をつくってます。
数馬嘉一郎 数馬酒造 五代目蔵元
1986年、能登町出身。高校まで石川で過ごす。東京の大学を卒業後、都内のベンチャー企業に就職。入社2年後にUターンし、24歳の若さで家業の酒蔵「数馬酒造」の代表取締役に。経営者としてはゼロからのスタートだったが、持ち前のバイタリティーで道を開く。能登、農業、日本酒の魅力を学生が発信する「N-project」の発案者として活動のサポートも行っている。
writer:Ikumi Sato photo:Rikako Kasama