人と地域のWEBマガジン ISHIKAWA DRAWER

Naoko MatsudaDirector

松田尚子野々市市情報文化振興財団 企画担当ディレクター

子どもたちがこの街で将来を描けるように。気づきと刺激の種まき人。

Person

#05

2017.04.27

はにかみ気味の松田さんの向こうにラウンジやキッズコーナーがあります。

そんなん聞くと、うれしくて楽しいよ。

野々市には金沢工業大学や石川県立大学があるので、プロジェクトや研究室との連携が積極的に行えるのが強みです。県立大の学生さんには、カメリア・パルの会が実施する稲作体験教室の時に田んぼの生きもの調査担当として関わってもらっています。この教室は効果がいろいろありまして、若い保護者さんにとっては野々市の自然を知るきっかけになり、子どもにとっては自然とお家でお手伝いをするようになったとか、食べ物を残さなくなったとか、生き物を見つけるのが上手になったという声も聞きました。学生さんも、活動を通して地域に触れることができたと言ってくれています。カメリアまつりで明かりのオブジェを作ってくれている金沢工大Toiroプロジェクトの学生は、もともと空間情報技術に親しむ子ども向けの講座に協力してくれている学生さんで、「大学で新しいプロジェクトを立ち上げようとしているけど、調整が上手くいっていなくて」と相談に来たこともありました。そんなスタートでしたが、今ではToiroプロジェクトの引き合いがすごくて。ほかの団体と連携して空き店舗を改修してコミュニティカフェを開いたりとか、野々市を飛び出して柳田で活動したりとか。
 

※柳田:石川県鳳珠郡能登町柳田。元は柳田村。ウィキペディアによると、いわゆる「平成の大合併」により石川県最後の村でしたが、2005年に珠洲郡内浦町と合併して能登町となったそうです。

電算研(金沢工大の電子計算機研究会)には全国コンテストへの応募を目標とした子ども向けのプログラミング体験講座をシリーズでお願いしました。初めて学生に会った時は、あまりやる気も感じられず、大丈夫かな?と心配になるような学生もいました。でも、実際に子どもたちに会って「これどうやったらいいの?」と聞かれると、どんどん学生の目の色が変わっていって。参加者の反応から得るものって大きいですよね。自分で分かっていても人に伝えるのって難しいこともありますし。逆に、自分が面白いと思っていることを共感してもらえた時の喜びが自信につながるっていうのもあると思います。この講座、当初は4回で完成させて応募という予定だったのに、学生たちが自分から「4回じゃ足りないからもっと増やしていいですか」って言ってくれて。結果的に、教えた子どもが全国で最優秀賞を受賞することができたんです。それが彼らの自信にもつながって、就職活動で高い評価を受けて採用されましたと報告しに来てくれたり、一番最初の観望会で解説をしてくれた学生さん同士が結婚しましたというハガキが来たり。そんなん見てると「じーん」みたいな。お母さんうれしいよみたいな。みんなが育って、プロジェクトとしても段々育っていくのを見てるのもまた楽しくて。

星空観望会やカメリアまつりの会場でもある市役所・カメリア横のあらみや公園。天気のいい日はピクニックする市民で賑わいます。

どんどん試して、どんどん出てきて。

ひとつの企画を進めるには、関わる人の意識を合わせることが一番大変です。みんなが分かっていると思って進めていても、小さなところで見解が違っていたり。ひとつひとつは小さなことであっても、たくさんの人が関わると大きなことになるので。特にイベントでは、スタッフもボランティアや学生などさまざまな方が関わるので、せめて主催する側の意識は共通でいたい。何よりも、きめ細やかなコミュニケーションが大事ですね。大きなイベントの前には、いつもそのイベントの夢を見るんです。で、失敗する(笑)。そこで目が覚めて「夢でよかったー」と。多分、気にかかっていることが出てくるんでしょうね。おかげで、本番では失敗しないように気をつけることができています。
 
事業に関わる学生には、小さいお子さんを対象となるものもあるので、どういう言い回しや展開にしたら楽しんで理解してもらえるか、対象者のことを考えて中身を組んでね、っていう話は必ずしています。目の前の事業はもちろん、社会に出た時にお客さまに満足のいくサービスを提供できるかということにも関わると思いますし。今のうちにチャンスがあれば、どんどん試しながらつかんでいってもらいたい感覚ですね。
 
自分の学生時代を振り返ると、入学当初は授業をちゃんと聞いていなかったり、今だったら頭をはたいてやろうかと思うんですけど、今関わっているプロジェクトの学生たちは意識が高くて。彼らから「地域貢献」なんて言葉を聞くと、何て偉いの!と思います。自分が金沢工大卒なので、後輩が可愛いのもあって。彼ら彼女らには研究のための研究はしてほしくないし、どんどん地域に出てきて挑戦してほしいと思います。地域の中で学生さんのパワーというのは、学生さんが思っている以上に必要とされているので。失敗しても学べるものがあるし、その活動の中で築いた人との繋がりは一生の宝物になると思います。今しかできないことを大事にしてほしいですね。

市制1周年を記念してつくられた通称「のっティの水」。おいしゅうございました。

野々市のまちを、夢を描くキャンバスに。

子どもたちがカメリアの事業に参加して、自分の将来を考えるような刺激になるというか。そういった種をちょっとずつポケットに入れていくみたいなことをしていきたいです。野々市市役所・カメリアの建物をデザインした香山先生の著書に、建築家ルイス・カーンの言葉が紹介されています。「都市とは、その通りを歩いているひとりの少年が、彼がいつの日かなりたいと思うものを感じとれる場所でなくてはならない」。この言葉を、私はいつも自分の心に留めています。子どもたちが地域の大人の背中を見て育つように、かっこいい大人がたくさんいて、それに続く世代もいて。刺激を与え続ける大人も学生も支援したいし、子どもたちが未来に夢を描けるような取り組みを続けていきたいと思います。
 

※香山先生:香山壽夫(こうやま・ひさお)さん。カメリアを設計した建築家で、香山壽夫建築研究所所長。東大卒。ペンシルベニア大学でルイス・カーンに師事。
※ルイス・カーン(1901~1974) エストニア系アメリカ人の建築家。「20世紀最後の巨匠」とも呼ばれているそうです。

プロフィール

野々市市情報文化振興財団 企画担当ディレクター 松田尚子
 
1979年、金沢市出身。金沢工業大学研究科博士前期課程修了後に上京、大手空間情報コンサルタントに就職。4年後に石川へUターンし、2007年に公益財団法人野々市市情報文化振興財団に入社。同財団の企画担当ディレクターとして、野々市市情報交流館カメリア(野々市市役所併設)で開催されるイベントの企画・運営にあたる。市民の「何かをしたい」「つくりたい」気持ちに応えてくれる、野々市の頼れるお姉さん。

読了おめでとうございます :-D 

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