Mari Kitagawasenior consultant
北川真理株式会社計画情報研究所 主任研究員
#06
2017.05.31
日本海と会話する北川さん。後ろ姿からでもニコニコしていることが伝わってきますね。
子供が生まれた時に感じたのが、圧倒的な生を目の前にすると、死がものすごく近くなるというか、人生が有限だなって。もっと自分を生きなきゃダメだって思いました。いい加減なことをしていると、この子のためにもよくないのもあるけど、自分自身によくない。「何であんなにダラダラしていたんだろう。一体自分は何をしているんだろう」って思うようになって、技術士※の資格も育休から復帰してから取りました。あの頃は仕事に復帰したばかりで、まだ夜も授乳していました。授乳している子どもって、夜中に2、3回起きるんですね。8時半くらいに寝かせると、11時半くらいにまた起きる。その間の3時間が私の勉強時間でした。漠然とはしていますが、出産を機に生きることに対してもっと真剣になった感じですね。そして、本当にやりたかったことをしようと。また、年を取ってくると心身ともに健康が一番になってきますよね。心身ともに健康を維持するというのは、お金をもらって仕事をする上では当たり前にしておくべきことかなって思うんで、そこはすごく気にするようになりました。
※技術士:wikipediaによると、科学技術分野での最高位の国家資格。「機械」「船舶・海洋」などさまざまな部門に分かれています。北川さんがお持ちなのは「建設部門」の技術士資格。
やっぱり私は研究が好きなんです。仕事で関わりたかったのですが、機会がなかなかなくて。これは腕もなまるし、待っているんじゃなく自分でやるしかない!と思って。イタリアから帰国した当時、近江町市場の建て替えと重なっていたので東京の同期たちに声をかけて調査をし、測りまくって図面に書いたことがありました。そういうことをもう一度、きちんとやってみようと。そこで、2年くらい前から一人で能登の景観調査を始めました。きっかけは能登の海側の集落の景観規制をかける石川県からのお仕事です。ルールをつくるにあたっての現況把握のために、能登半島の集落を3泊くらいかけて全部回りました。お腹が大きかったので「ほう、ほう、ほうっ」ってなりながら(笑)。でも、楽しくて楽しくて。こんなにすてきなところがあるんだ!って、久々に「測りたい~」ってうずうずしてきて。とはいえ、出産後はバタバタしすぎていたし、育休復帰後の1年目は慣れるのに必死で。2年目くらいから、やりたいことや気になることはしないとダメだろうって一人でこそこそ始めました。建築組合のおじちゃんが「一人じゃ大変だろう」と情報をくれたり、観光ボランティアの資料で大学の先生の名前を見つけたので、問い合わせて直接レクチャーしてもらったこともあります。
「内灘に来ると元気をもらえる」と北川さん。最強のパワースポット。
ただ、育児もあるし、一人で調査を行うことに限界を感じたということもあり、会社と交渉して昨夏から勤務体系を変えてもらいました。時短で16:00終了の週5日出勤から17:00終了の週4日出勤にし、浮いた一日を研究に充てたりしています。とはいえ、簡単に週1日休めるような仕事ではないですし、雑務もあるので毎週その通りにできるとは限りませんが、そうしていこうと自分に課したという感じです。今は一人で粛々と、いずれ道筋が整理できたら、いろんな人と動きたいなと考えています。自分が主体じゃないと、忘れてしまうものっていっぱいあって、相手に合わせてやりやすい方法を取っていくと「私」というものが知らないうちになくなっていくことに気づきました。主体的に動くことで、その手法を仕事にも還元できたり、いい循環をつくれると感じています。
この子がいるから頑張れるとか、そんな美しい話はないです。でも、子どもには「人生って楽しいんだな」っていうことに気づいてほしい。「なんか面白くなさそう」じゃなくて、「お母さん見てると生きるって楽しそうだなぁ」みたいな。そこは気にかけてます。女の子で、今4歳。ちゃべちゃべちゃべちゃべ※言いますよ。「今日はお母さん寝てないから眠いんだ~」とか「会社で寝たら」なんて言ってくるから「会社で寝たら怒られちゃうよ」と返すと「机の下で寝たらいいんじゃない」って。私を真似してるんだなって思うこともあります。街中に駐車場ができると「駐車場ばかりでイヤ」とか(笑)。コンベックスを持って家にある本棚や机を測ったり。娘の前ではそんなに測ってないんですけど、遺伝するんだなって。大きくなって、一緒に調査に行けたらすごい楽しいだろうなって思います。祭りや建物、きれいな庭…。能登のすてきな感覚を体験してもらいたいですね。
※ちゃべちゃべ:ぺちゃくちゃ的な、おしゃべりなさまを表す石川の方言。
心身ともに健康でいるってことにもつながるんですけど、大事だなと思うのは、自分をきちんと知ること。自分の気持ちにいつも目を向けること。今チョコが食べたいのか、おかきが食べたいのかみたいな、スタートは小さなことでいいんですけど、じゃないと、いつの間にか自分が分からなくなっちゃう。若いうちはいいんですが、どんどん年をとっていくとズレがすごく大きくなって、見失うと本当に辛いので。
学生の女の子と喋っていると、決めつけていることが多いんじゃないかなと感じることがあります。「早く就職しなきゃいけない」「早く子どもを産まなきゃいけない」とか。そんなことはないのに、知らない間にそういう呪いをいっぱい自分にかけている。それに気づくためには、まず自分がどういう考え方をしているのか、何でこう考えているのかを知らなければいけない。
それができる方法って何だろうって思うと、旅に出ることかなって。カンボジアに行ってみるとか、タイに行ってみるとか。一人になるって、違うものに触れるって、きっと自分がないと辛い。だからこそ、自分ができあがっていくんだと思います。30歳とか40歳になってから海外一人旅をしても、ある程度想定できちゃうから、そこまでのインパクトはないと思うんですよね。でも、想定できない年ごろの時にゴーンとぶつかると、すごく衝撃を感じて価値観が揺さぶられる。この、揺さぶられるという意識はきっと自分を把握することでもあるし、これからずっと謙虚に好奇心を持ち続けることにもつながるんじゃないかなって。旅をすれば、何となく開けてくるというか、今すぐじゃなくても、5年10年、20年後に効いてくるんじゃないかなって思います。旅はいつしてもいいものだし、旅をした分、得られるものがあると思います。でも、せっかくなら、“初めて”がまだたくさんある若いうちにチャレンジしてほしいですね。
株式会社計画情報研究所 主任研究員 北川真理
1978年、内灘町生まれ。金沢の高校を卒業後、京都府立大、法政大学大学院に進学。都市計画と都市史を学び、大学院在学中にはイタリア・パルマへ留学した。帰国後は株式会社計画情報研究所に就職し、主任研究員としてさまざまな事業に携わっている。プライベートで能登の海側の集落に関する調査も行っている。