金沢大学では、毎年起業支援部門に入居されている皆さんの1年の研究成果を学内外の皆様にフィードバックしています。起業支援部門主催の、「起業支援部門研究成果報告会」がそれであり、目的は、大学発ベンチャーの可能性を探ることです。
本年は、12月20日にポスター発表と口頭発表の二つの形式で行われました。
ポスター発表は、2007年12月20日の14時から17時の間、自然科学本館G2階アカデミックホールにて行われました。
展示内容は下表のように、起業支援部門にて研究を行っている、全プロジェクトです。
左の写真のように、多くの学生さんや先生方が見にこられ、熱心に説明者の話に聞き入っていました。
研究課題 | プロジェクトリーダー |
地域医療支援医療・薬学情報システム開発 | 清水 栄 |
ITビジネスについての研究・起業 | 清水 栄(寺岡 達也(学生)) |
情報端末用適応信号処理方式及びソフトウェアの研究開発 | 中山 謙二 |
マイクロ・ナノ構造制御技術を用いた光・電子材料薄膜及びデバイスの作製 | 森本 章治 |
抗腫瘍剤、ヒト乳頭種ウィルス性疾患予防剤又は治療材の開発研究 | 鈴木 信孝 |
起震機システムを用いた新しい免震ジョイントの開発 | 北浦 勝/宮島 昌克 |
生物の構造・組織を応用した機能的連続体の創生に関する研究 | 尾田 十八 |
熟練作業のロボット化に関する研究 | 神谷 好承 |
高齢者の在宅生理機能評価システムの開発と自立支援への応用研究 | 山越 憲一 |
機械システムにおける信頼性モニタリングシステムの研究 | 広瀬 幸雄 |
Nd:YAGレーザによる歯科治療の高度化・高機能化に関する研究 | 上田 隆司 |
高機能な水質浄化剤及び水質処理システムの開発 | 太田 富久 |
冬虫夏草属菌の薬用資源利用における機能性評価 | 太田 富久 |
食品類の安全性評価法に関する研究 | 太田 富久 |
DNAマイクロアレイおよびマイクロRNAアレイを用いた薬物動態遺伝子の発現に関する研究 | 横井 毅 |
柿ポリフェノールオリゴマーの効率的製造法及び機能性評価 | 太田 富久 |
非遺伝毒性化学発がん物質検出系の開発 | 山下 克美 |
安全・安価な生体材料を用いた重金属元素の回収材の開発 | 福森 義宏 |
口頭発表は、同日15:30~16:30の間、金沢大学自然科棟G1大会議室にて行われました。
発表に先立ち、太田起業支援部門長からの次のような挨拶がありました。
1.VBLの研究内容はレベルの高いものが多い。
2.しかし、VBLは産業創出を念頭において、研究を行うべき施設なので、そのあたりも意識して、発表して欲しい。
3.また、研究成果そのものが直接ベンチャー企業の立ち上げに繋がらない場合でも、どこかの企業で使われるシーズになることを期待しています。
発表課題は、以下の5つでした。
発表課題 | 発表者 | プロジェクトリーダー |
高齢者の在宅整理機能評価システムの開発と自立支援への応用研究 -リハビリテーション分野における実用例- |
本井 幸介 | 山越憲一 |
3D Grid Model and Its Application | Serikitkankul Pakorn | 神谷好承 |
生体反応の可視化による化学発がん物質検出系の開発研究 | 内田 早苗 | 山下克美 |
ハトムギの安全性に関する評価 | 林 浩孝 | 鈴木信孝 |
安全・安価な微生物材料を用いた重金属汚染の除去回収材の開発 -その実用化に向けて- |
田岡 東 | 福森義宏 |
上の写真は、林 浩孝さんの発表の模様です。
林さんの説明によると、ハトムギはイネ科ジュズダマ属の1年生作物で、原産地は東南アジアの、中国、インド、ミャンマーの国境地帯。
日本には江戸時代中期に中国から伝わって来た。
ハトムギには、免疫賦活作用、抗腫瘍、抗アレルギー、抗炎症、排卵促進作用、抗疣(イボ)作用などがあるといわれている。
しかし、その安全性試験等の基礎研究は実施されていない。そこで、この研究では一般成分分析を行った後、実験動物を用いて、急性毒性試験ならびに亜急性毒性試験を行ったとして、その発表がなされました。
プレゼンテーション画面に映っているのは、その研究における、関連機関との連携の構造を説明されたときの図です。ライセンス保持者、食品企業、製粉会社と 手を組みながら、安全性の基礎研究や臨床試験を行った結果の報告でした。内容は、面白く、何とか実用化できれればすばらしいと感じさせるものでした。
この報告に対して、コーディネーターの方から、「薬品を狙って研究を行っているのか、それとも機能性食品を狙って研究が行っているのか」という、質問が有 りました。質問の趣旨は、そのどちらを狙うかによって、実施すべきテスト・研究内容、取り組む相手がまったく異なる。したがって、中途半端な対応では、経費に見合った成果が出ないのではないかとのことでした。大学発ベンチャーといえども、これからは企業の論理に基づいて、研究を行うことになり、利益を生まない限り、必ず廃業に追い込まれることを伝えようとしてなされたものです。同様な趣旨の質問は、他の発表者にも繰り返し出されました。企業論理を前面に出 した質問に、これまで学会発表を中心に行ってきた研究者はかなり違和感をもたれたと思います。しかし、少なくともVBLが「起業家意識の教育を狙う」施設であるなら、入居者には当然課せられる義務であり、入居の前提条件のようなものです。
この報告と同様な業務エリアのベンチャーは、以前当ホームページに掲載した「学生発ベンチャー -イノベーションジャパン2007より-」の記事でご紹介した三重大学発のベンチャー株式会社機能食品研究所も行っています。本報告と同様なタイプの研究を行っているが、大きな違いは、機能食品研究所は、特定の機能食品にこだわるのではなく、ファシリテーターに徹していることです。大学の施設や大学の研究者に期待される、安全性の試験や臨床試験を取りまとめ、社会の要求に応えることを目的に活動しています。その 方法は特定の技術シーズにこだわる第2次産業型では無く、大学の機能を補完し、社会の要求に答えるビジネスモデルを実現した、第3次産業型大学発ベンチャーと感じたものでした。
今回のほかの発表でも、同様な考え方を取れば、起業リスクを回避できるのではと考えられるケースが有りました。大学の教員やプロフェッショナルが「ベンチャーを育て有効利用したい」との意識で、毎日の業務をこなしていることを前提に、実現できるベンチャーのモデルです。
もう一つの道は、以前「グローバル時代のベンチャ- 日本イノベータ-大賞の表彰式よりー」というタイトルで当ホームページご報告した、テルモハート社(本社:米国ミシガン州、社長:野尻 知里)が採用したようなグローバルマーケットを対象にする方法です。ベンチャーの本拠をどこに持つか、どのようなスキルを持った人材が必要であるかといった問題があるにしろ、成功の可能性がありそうな方法です。
2008/01/07 文責 瀬領浩一