金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

16.グローバル時代のベンチャー

-日本イノベータ-大賞の表彰式より-

 去る2007年11月27日、ホテルオークラ東京にて日本イノベーター大賞の表彰式が行われた。
 この賞は厳しい経済環境が続いている日本産業界に少しでも元気を取り戻してもらおうと、日経BP社が2002年に創設した賞です。
 独創性な研究で日本科学技術の発展に貢献した人、画期的な技術やビジネスモデルで日本の将来産業の芽を育てる可能性がある人、企業の組織活性化に尽力した人などの中から選考するものです。第一回目は「千と千尋」の鈴木プロデューサーが大賞を受賞されました。
 本年(2007年)は、小宮山 宏氏を選考委員長に丹羽宇一郎氏、坂村健氏、宮内義彦氏、鳥羽博道氏、松永真理氏、米倉誠一郎氏らが選考委員となって選考を進められました。  
 受賞者は以下のとおりでした。

イノベーター大賞は野尻知里氏

表彰の理由:体内に埋める補助人工心臓「デュラハート」を開発、今年2月欧州での発売したこと。 心臓外科医として東京女子医科大学付属日本心臓血圧研究所に勤めていたが、医者はどれだけ技術を磨いても所詮、職人技。手術用具の持つ能力を超えることが 出来ないと、その限界に悩んでいたそうです。ちょうどそのころテルモ社と縁があり、入社し、磁気浮上型遠心ポンプの技術を導入した人工心臓を開発した。

商品のマーケットとしては、当初から全世界を視野に入れて、参入しやすい欧州から始めることにしたとの事。欧州でCマーク(商品がEUの基準を満たすものに付けられるマーク)を取ればEUのみならず、BRICS諸国でも販売が出来るとのことでした。ついで、マー ケットの一番大きい米国での販売を目指し、その実績をもとに日本にも参入したいと、述べてれれていました。

さらに、なぜ、海外で起業 することにしたのですかとの質問には、ベンチャーのための経営資源(人、もの、金)を集めやすいところを選んだだけです。と次にような理由を挙げられました。
優秀な人材を集めやすい(企業が破綻すると、再就職が難しいので、日本ではベンチャー企業がプロフェッショナル人材を集めるのに苦労する)。
人工心臓の部品の購入先は、NTNのベアリングを除くとすべて米国の会社であるため、技術開発を行うためには、米国で起業せざるを得ない (リスクを避けるためか、そのほかの日本の企業には、開発に参加してもらえなかった)。
固定資産を持たないベンチャー企業でも、資金集めが可能であること(日本での金融機関の融資には土地担保もしくは社長の個人保証が中心のため、ベンチャー企業には資金集めが難しいとの事) と、「グローバルな視点から、マーケットは欧州から、経営資源は米国から、シーズは日本から」ということになりましたとその経緯を述べていました。 これが本当のグローバルビジネスと妙なところを感心した次第です。

優秀賞:原昌宏氏

 二次元コード「QRコード」を開発し、自社の作業効率を高めさらに、特許の無償公開によって、一般消費者の生活にも大きな変化に寄与した(QRコードは(株)デンソーウエーブの登録商標です)。
 QR コードはもともと、(株)デンソーが取引先のトヨタ自動車に部品を納品する際の納品書(通称カンバン)に盛り込む情報量が増え、従来のバーコードでは対応 が難しくなったために、1992年に開発に着手したものだそうです。あの四角いマークの中にはA4一枚くらいの情報を入れることが出来るとの事でした。
 コードを公開した理由について、次のように述べられていました。コードを独占することにより、普及に時間がかかるようなことになれば、その間に他の技術が普及してしまう可能性がある。その結果日本の携帯電話のように、技術的のは優れていても、世界の孤児となってしまえば、トヨタ自動車関連企業でしかえない 「ローカル技術」に成り下がる可能性がある。   
 そうなると、その技術は最終的には淘汰されてしまう可能性がある。それなら、特許を公開し、デバイスで儲けたほうがいいとの「(株)デンソーウエーブ」が判断したと、説明されていました。
 コーデイネータの方も、この技術のこれからの課題は、世界中で使われるような、真の世界標準にもって行くにはどうすればいいかだと話されていました。「代替案作成の可能性がある特許で独占を狙いグローバル時代に乗り遅れ、マーケットで負けては何にもならない」 とのサンプルのような話でした。

アイデア賞: 千賀邦之氏

 書いた文字を消去できるボールペン「フリクションボールペン」に使われているインクを開発。
 ボールペンの使い方は、簡単です。一度書いた文字であっても、乾いてから、軸後部のラバーでこすると色が消えるというものです。
 2005年にヨーロッパで上市(商品を投入)した。ヨーロッパの学校では、レポートをペンで書くのが習慣になっており、書き間違えると、修正液で訂正していた。手を汚したり、一度消したところには書けないなどの問題があったが、「フリクションボールペ ン」はこれらの問題を解消したため、よく売れた。本年から日本においても売り出され、販売目標を上方修正せざるえないベストセラーとなっているそうです。 皆さんも一本いかがでしょうか。

ビジネスチャンスはどこに

 上記、3つの受賞者に共通していることは、シーズを生かすために、グローバルな視点から、マーケットを定義し、経営資源を集め、ビジネスに成功しているこ とにある。現在は、ネットワークが発達し、インターネットが世界の隅々まで瞬時に情報発信を行える状況になっている。したがって、時間を克服することがビ ジネスを成功させるための最重要事項となってきている。特にベンチャー企業のように経営資源が不足がちなところでは、時間を味方に付け、グローバル最適化をはかった、ビジネス展開もまた問題解決の手段の一つである、と感じさせられた受賞式でした。 あらためて、科学技術担当大臣の松田岩夫参議院議員の「イノベーション・ジャパン2007‐大学見本市」でのコメント、「今回の発表は事業範囲が国内にとどまっているようだ、これからは起業の始めから世界を視野に活動していたけるような会社も欲しい。」 との言葉を思い出させられました。

2007/12/05 文責 瀬領浩一