金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

11.学生発ベンチャー

- 「イノベーションジャパン2007」より -

全体プログラム

 2007年9月12日から14日にかけて、「イノベーション・ジャパン2007‐大学見本市」が 東京有楽町国際フォーラムで開催されました。 主催者の言によれば、大学の研究成果とそれを磨き上げる企業との出会いこそが、イノベーションの実現に向けた第一歩であり、このプロセスを起動させる 「場」の提供が「イノベーション・ジャパン2007‐大学見本市」の最大の目的です。ということで大学の技術シーズと産業界のニーズの出会いを目的とした 国内最大のマッチングイベントとされています(参加者44,160人:加者主催者発表)。そこでは、マッチングだけでなく大学発ベンチャーについてもいく つかのイベントがありましたので、ご参考までに。

 

学生発ベンチャーと松田岩夫が語る ?イノベート・ニッポン?

 「昨年のメンバーに再登場を願いイノベート・ニッポンについて熱く語ってもらう2時間。わが国にイノベーションが不可欠と熱弁を奮う前科学技術担当 大臣の松田岩夫参議院議員。日本中で活躍している学生発ベンチャーが志を同じくする仲間を連れてきた。」との勢いで、パネルディスカッションがおこなわれ ました。これは面白そうだと、参加したのですが、ちょうどこのパネルディスカッションが始まった9月12日午後2時は、安部総理の辞任発表と重なり、松田 議員の立場もありかなり緊張したセッションとなりました。

参加者
参加者出身会社名役職
松田 岩夫     参議院議員
半田 正浩 明治大学 株式会社COCO・WA・DOCO 社長
梅田 幸嗣 三重大学 株式会社機能食品研究所 代表取締役社長
間下 直晃 慶應義塾大学 株式会社ブイキューブ 代表取締役社長
藤井 健太郎 岡山理科大 株式会社データ復旧センター 代表取締役社長
島村 博 三重大学 株式会社イーラボ・エクスペリエンス 代表取締役
登 大遊 筑波大学 ソフトイーサー株式会社 代表取締役会長
宮内 淑子   メディアスティック株式会社 社長

 メディアスティック株式会社の宮内 淑子社長がパネルディスカッションの司会を担当されました。宮内氏は、司会の節々で、自分の社長としての経験交えながら、生々しくディスカッションをリードされておりました。最初のパネリストは前科学技術政策担当大臣である松田参議院議員の挨拶から始まりました。松田議員は、我々人類が抱えている課題は、尋常一様なものではない。それを解決していくには、問題の大きな根っこは知恵しかないし、知恵といっても、科学技術が大きな役割を果たす。日本の国の状況を見るとほかの国以上に科学技術に依存していく以外に方法は無い。そのために、財政事情厳しい中で、ほかの予算を切っても科学技術の予算を切らないで頑張っている。大学の研究成果をもっともっと社会経済というか人類に還元して欲しいとの思いです。研究成果を含めた知的創造の循環を起こさなくてはならない。そしてその根っこが日本人が起こしたものであるとしたいものである。といいながら、「私はそのままここにいていいのだろうか」となぞのような言葉を、残されました。(実はこれが安部総理が辞任の発表していたとわかったのは、それから1時間くらいのあとのことでした)

 半田社長:明治大学の情報システム課でアルバイトの仕事をやっていたので、その知識をもとに自宅で起業した。しかし大手企業に入りたいとの思いもあり、大企業に自ら出向し、技術を磨いていた。SIP対応のIP電話化を推進している会社で、提案型の営業を行っている。必要なサービスのための研究シーズは、大学の教授が行うので、営業をやってくれと言われて設立した。
 梅田社長: 三重大学医学部附属病院で行われる特定保健用食品、機能性食品などの認可取得業務、食品の機能分析・解明、動物実験サポート、ヒト食品試験受託、食品開発などのコンサルテーションを行うための業務を行う会社です。そのためにモニターとなる人を募集・登録している。試験依頼機関から試験の要求があるとそれをアレンジし、主に三重大学医学部附属病の先生方と相談し試験を実施するために必要 な業務を行っている。要素技術を開発する会社(これは大学の役割)ではなく、要素技術をうまく組み合わせて使う会社です。
 間下社長: 慶應義塾大学在学中に設立。ウェブソリューションを中心とし、企業や大学、行政機関などに受託開発によるソリューションを提供している。制作や開発それ以外にも、ウェブテレビ会議システムのようなユーティリティの自社サービスの提供している。大学との関係では、大学の特許をTLOを通して現物出資していただいている。ビジュアルコミュニケーションの用途としてはオンラインセミナー・営業支援・遠隔教室・遠隔診断をカバーしていきたいと思っている。これまでWEBに写真を載せていたような感覚で、動画を使うようになると思えるので、そのためのサービスを行うために、世の中の技術を評価してそれを活用していきたいと考えている。
 藤井社長:ハードディスクのデータの復旧を行う会社で低コストでかつ価格の見えるビジネス(これまでは価格が不明瞭であった?)を行うことを特徴としている。2004年より100MBまでのデータを無料で送れるデータ便サービスを始めた。
 島村取締役: 個人創業から会社組織に発展させた。すばらしい研究シーズをたくさんのお客さまに提供していくための、製造・販売・サービスを行う会社としたい。食・環 境・農業戦略のソリューションをセンサーネットワーク応用事業(BIX構想)を中心に展開する予定。更に地方の産業が中国に流出する中で、地方の産業起こしに役立てばとの気持ちもあって起業されたそうです。
 登会長:VPNサーバーソフトの開発を行っている。たとえば研究室の無い学生向けに、サーバーのサービスを提供できる仕組みでもある。雑然として、利用者が集まって好き勝手に使っている大学の研究室の写真の紹介がありました。
 松田議員:ここで、安部総理辞任のため国会に戻るに当たっての一言。「いい会社ができていいるので、この制度を作った一人として満足しています。私は、いいものは世界に広がるはずだと思っている。ところが、今回の発表は事業範囲が国内にとどまっているようだ、これからは起業の始めから世界を視野に活動していたけるような会社も欲しい。」と注文をつけて国会に。さすがに日本全体を考える議員さんの発言でした。
 宮内社長:神戸地震で、連絡ができないとの事態を経験し、ユビキタス社会を実現できるサービスを提供したいと2000年に設立した。人は動く動物であるから、それを支えるためにはどうしたらいいかなと考えて、携帯をどの様に使うかのサービスを業とすることにした。QRコードを使ったサービスも開始している。

 こうやって、見ていくと今回のパネリストは、ベンチャー企業としてシーズを研究するというよりも、大学のシーズを発展させ社会のニーズにどのように答えていくかに特化した起業が多かった様に見えました。これでこそ、大学の研究者とうまくいくのだと実感させられました。ベンチャーは大学の研究の延長ではない。ということをしみじみ感じさせられました。このあたりが大学発ベンチャーの成功法則のひとつかもしれません。

 ついで、起業してよかった思う方の理由は、以下のようなものでした。
  • サラリーマン時代の、大きな企業のひとつの歯車であった時より、今はやりたいことができる。
  • 自分のやりたいことを自分で計画して、自分でやれる様になり、自分が主役だと感ずること。
  • 自分たちがやっていることが、世の中を変えているとか、影響を与えていると感ずること。
  • 自分たちが未来はこうなると思って、それを商品にして世間に評価されたとき、その醍醐味を感ずる。
  • 大きな会社に入ると、周りのこともあり、いやなことも辛抱しなくていけないが、ベンチャーではそのような心配がない。
  • 作りたいものが作れる。

などと成功者ゆえの自分のやりたいことができるとの、満足感が伝わってきました。皆さんがこんな経験ができるのなら、誰でも起業家になってみたいと、思うに違いありません。一方起業して、よくなっかたと思う方の理由は

  • もともと好きな仕事をやっていたのに、新たに仕事を始めてみて(事業を起こして)それと比べて、いまひとつの感はある。

などと贅沢なものでした。
 また、起業して、困っていること等についても、率直な悩みが交換されました。以下はディスカッションで出た話のメモです。

  • 日本のソフトウエア開発は、業務ソフトの受託開発が中心でWindowsやOracleのような基盤ソフトの開発が少ない。このため大手が業務ソフトの受託を受け、べンチャー企業はその下請けになってしまい、実際にプログラムを作成している人があまりお金をもらえない構造になってしまっている。そのため、大学を卒業するとベンチャーをやるより、大手のソフトウエアハウスに入るほうが楽だと、ベンチャーには人材が集まらない。今後のためには、日本でも基盤ソフトを開発する会社が出てこれるような何らかの支援策があるといいと思う。
  • 大学で、イノベーションの授業やベンチャーコンテストを行っているが、参加している学生は、世の中に無いものをベンチャー企業のアイデアとして出してくる。ところが学生は、世の中にある企業の経費等についてわかっている人がほとんどいない。たとえば八百屋さんすら作れないのが現状である。学生に言っているのは、何でもいいから自分が社長になって自分名義の会社をやってみなさい。ここから始めて見たらどうかと提案している。
  • 大学にいる時は、ビジネスにトライする時間を作る(自分の時間を切り売りする)とリスク無くできる。そして、その時の成功の秘訣は次の4つと思う。
    1.投資を受けない。 2.融資を受けない。もともと融資は受けられない。 3.お金は先に払わない(先行投資はしない)。 4.正社員は雇わない(固定費の最大の要因を無くする)。
    こうして、事業(家業)を始めて、ある程度のお金ができてから、新しいネタを探して起業したほうが一般的にはうまくいくと思う。 なぜなら、思いついたアイデアは10個に1個も当たらないのだから。
  • 今は資本金は4億円になっているが、2500万円までは社内で調達した。受託開発をやっているときは、投資は要らなかった。従って資本金を集める必要も無かった。事業がある程度安定してからASP(Application Service Provider) のような事業を始める事になり、資本金を集めることになった。お金はだぶついているのに、ベンチャーには回ってこない。出資したい人はいるが、出資の対象となる会社が少ない。特に「ホリエモン事件」のあと、IT系には厳しくなっている。
  • お金を集めることができなくて4000万円くらいまでは、自分の給与をすべて、資本金に使ってしまった。そうゆう意味では、資本金集めには苦労した。
  • 一度企業に就職したことがあるほうが、ベンチャーの成功率は高いと思うが、学歴の無い人(たとえば、高校を出ていない人)は大学で勉強したくとも、大学に入れない。(同様に、大学を出ていないと大学院に入れない)。やりたい人や学び、学びたい人が学べるように何とか大学の扉を開いて欲し い。
  • 多くの大学生は、自分が持っていないものを、持っていると誤解して、それを失うのではないかと心配しているのではないか。その結果、 持っていると思っているものを失いたくなくて、あたりはずれの少ない(成功してもビルゲイツのように莫大な報酬を得ることができない)大企業に進んでいるように見える。ベンチャーをやっていても、自分が貢献した以上に取り分を求め無ければ、自分の所に何かしら入ってくるはずである。
  • 会場からの「学生さんが起業しようとすると、母親が反対したり、サラリーマンが起業しようとすると、奥さんが反対することが多いと思うが、それにはどう対処したか?」などというような切実な質問も提起されました。皆さん成功者ゆえに、そつなくお答えになっていらっしゃいました。
  • また会場の学生さんからは、企業について何も知らないのだけれど、起業するためには何が必要なのですかとの質問も出ました。結局、大学では起業のための必要なスキルの教育や訓練を行っていない現実が浮き彫りになってしました。

 このあたりは、これから大学発ベンチャーとして企業とする人には、ご参考になるのではないでしょうか。

 最後に、ベンチャーとしての「成功とは自分にとって何か」との問いに以下のような答えがありました。

パネリスト コメント
登会長 思ってもいないかったことがわかる様になったが、思っただけでそれが実現できるようになること。
島村社長 人間は変化するもので、外から見るのと中から見るのでは異なるが、何か永続性があるもの、継続性のあるものを実現すること。
藤井社長 自分の仲間にインパクトを残していくこと。
間下社長 世の中で必要とされる人となること。
梅田社長 会社のスタッフが、いい人生を送れること。次いでお客が幸せになること。これによって自己満足が得られること。
半田社長 自分のことで言えば、常々ドキドキできること。

 皆様、それぞれに苦労しており、着実に、ステップを踏んで事業展開されていることがわかる、面白いパネルディスカションでした。

IPO実践セミナー

 ベンチャー関係で、主催者が最も力を注いでいたのは、以下に示すIPO実践セミナーのようでした。このセミナーは3日間にわたって行われました。 しかしながら、主催者の資料を見ると、3日を通して、出席していただきたいとなっていたので、都合がつかず、やむを得ずスキップすることになりました。残念なことでした。

プログラム
9月12日(水) 11:30~12:20 「大学発ベンチャー株式上場の留意点」 野村證券法人開発部上場 サポート課 次長 山関 豊氏
12:30~13:30 「ビジネスモデルの構築と事業計画書の書き方」 SOHOCITYみたか推進協議会 会長 前田 隆正氏
9月13日(木) 11:30~12:20 「IPOを視野に入れた起業の留意点」 優成監査法人 統括代表社員 加藤 善孝氏
12:30~13:30 「ビジネスモデルの構築と事業計画書の書き方」 東京農工大学客員教授 紀 信邦氏
9月14日(金) 11:30~12:20 「大学発ベンチャーの資金調達」 ジャフコ 投資第三部長 竹下 明文氏
12:30~13:30 「事業会社の新規事業計画」 タカノ株式会社 相談役 堀井 朝運氏

金沢大学も出展

 イノベーションジャパン2007は、大学の技術シーズと産業界のニーズの出会いを主目的として開かれ、金沢大学は以下の5つのブースで展示を行いました。ご参考までに。

所属研究者展示物
保健学専攻 教授 真田 茂 リアルタイムX線ビデオ撮影による呼吸・循環機能診断支援システム
保健学専攻 教授 越田 吉郎 コーンビームCTのアーチファクト除去方法
電子情報科学専攻 講師 秋田 純一 走行中障害物即時認識システム(Vision Chip)
電子情報科学専攻 教授 西川 清 特徴的な指向性を持つマイクとスピーカ
産学官連携推進室   金沢大学の産学連携・知財活動の紹介

 この写真は金沢大学5つの展示のひとつで、西川先生のブースです。西川先生自らブースに立ってお客様にご説明をされています。展示会場の通路を歩いていると、特定のところで、突然音が大きくなるので、驚いた人がブースの前で足を止められます。原因がわかって興味をもたれた方が先生ブースで話をお聞きするというのが出展者の意図です。足を止められた方の中には、この技術を商品化してみたいという企業さまや、この仕組みの新しい使い道についてアドバイスをしていただける人がいらっしゃいました。イノベーションジャパンの展示会場は、単なる大学の宣伝の場ではなく、大学が会場にこられた皆様から、市場のニーズを学ぶ場でもあるということを証明している場面です。ということは、前もって事業化していただきたいと思っている企業様を想定しご招待状を出すとか、ご意見を頂たい人に連絡を取り、先生自ら現場に立つというのも面白い試みと感じさせられた次第です。どうも、コーディネータが展示場でただ待っているだけでは、なかなか成果が出そうもないイベントのようです。なお西川先生は、本年2007年6月29日に、JST(科学技術振興機構)で開かれた、「金沢大学の新技術説明会 」でもご説明いただきました、産学官連携に熱心な先生です。

2007/09/26 文責 瀬領浩一