人と地域のWEBマガジン ISHIKAWA DRAWER

Sachiko Hineno

加賀種食品工業株式会社 代表取締役社長
日根野 幸子

Credo
#08
2017.04.03

Introduction

加賀種食品工業株式会社は、明治10年の創業から約100年に渡り、最中の皮をはじめとした菓子種を製造してきました。 明るくポジティブなエネルギーに満ち溢れる、日根野社長のクレドをお伺いしました。

Q.1

御社のクレド(信条・行動規範)、教えてください。

私たちは製造業なので、お客様に対しては当然「品質重視」です。しかし、社員はそれをただお金に換えていけばいいということではないんですね。製造業はルーティンの仕事です。人によっては、毎日同じ仕事をすることは退屈だと思う人もいるかもしれませんが、それを繰り返しながら自分の技術と人間性の両方を研鑽していく。どんな仕事でも、ルーティンなくして成長はありえません。同じところを回っているように思えても、ちゃんと螺旋階段のように上がってきているはずなんです。ふと気がついたときに、10年前、5年前の自分と比べたら「こんなに高みにきたのか」と実感できるような仕事の仕方をしたいですよね。会社としても、そういった仕事の与え方ができるようにと常々考えています。

働いてくださる社員さんの資質としては、根気も必要なのですが、私が重視しているのは「人間としての素直さ」。何かを自分の技術として積んでいこうとするときには、新しいものを積極的に取り込んでみようという人が伸びていく。機械ではなく手作業の仕事ですので、手が遅いとか速いとか、個人の能力のばらつきはもちろんあります。けれど私にはそれよりも、素直さや謙虚さ、前向きであるとか人間としての基本的な部分を持っていることの方が大事に思えるんです。素直な人は、多少仕事ができなくても周りがサポートしてくれる。ほかの人より仕事ができるからといって奢ってしまう人は、どんなに仕事ができても、結果的には集団からはじき出されてしまうんですね。うちの社員は、みんな個性はバラバラですが、共通して素直な人が多いんじゃないかなと思います。

Q.2

「働く」って、なんですか?

今の時代、働くというのは「どなたかのお役に立つこと」でしょうね。これだけ分業化が進んでしまったら、世界中のどこを探しても自分だけで生きていける人って誰もいない。誰でも、山の中で食糧やエネルギーから作り出して暮らせるわけじゃないでしょう。いろんな人たちの「働く」という結果を享受して、自分の生活が成り立っているわけです。そうすると「働く」というのは、自分の一隅を照らしていく(※)ことなのかなと思います。世の中の本当に小さいところではあるけれども、私であれば最中をつくる会社を経営していくということに自分の人生を賭けていく。そのことを通して、私はほかの方の働いた結果を享受させていただける。どんな方でもそうだと思うんです。みんながそれぞれを照らしながら、そうやって社会に関わっていくしかないんです。
※「一隅を照らす」…どのような環境でも与えられた場所で努力を惜しまず、十二分に力を発揮すること

そして私は、社員には仕事を楽しんでやってほしいと思っています。ただ、「楽しい」というのは遊園地に行って「楽しい」のとは違う。一生懸命何かをやろうと思ったら、その過程の一瞬一瞬が楽しいなんてことはないはずなんです。でも、苦しみを超えて行った先にある楽しみや喜びってあるでしょう。そういうものの方がずっとずっと楽しいですよね。寝っ転がってテレビを見ているだけでも楽しいけど、後に何も残らないじゃないですか。自分がエネルギーをかけていったことに対しての喜びの方が何倍も大きい。私は映画が大好きで、高校生のころは毎週映画を観に行っていたんです。もちろんビデオなんかないし、映画館に行かないと映画が観れない時代だったけれど、年間100本の映画を観ていました。ひと月のお小遣いが2000円で、500円あればバス代と映画のチケットが払えましたから、それで4週の1か月分をきっちり(笑)。そうやってほかのことには一切お金を使わず、映画だけを観るような生活を何年間か続けていたおかげで、良い映画と悪い映画だけは分かるんです。一番好きな映画は「シェルブールの雨傘」。1964年公開の映画で、当時私はまだ10歳でした。そのときは主人公がカトリーヌ・ドヌーブだとは知らずに観ていたのですが、「なんと素敵な人なのだろう!」と感動して。でもその人が誰なのか調べる術もなく、どこを探せばいいか分からない宝探しをしている気分でした。そして高校生になり自分のお金で映画を観るようになって、また彼女が出ている映画に出逢ったんです。私が高校生のころって、彼女が人気絶頂のときでしたからね。そのとき初めて、昔観た映画の憧れのあの人は、カトリーヌ・ドヌーブだったんだ!と気付いた。自分が映画にエネルギーをかけ続けていたから、お宝を見つけることができたんです。

Q.3

いしかわで働く意義って、なんですか?

「石川県はここが良いです!」と言い切れる話ではないと思いますね。若い人が都会へ出て一旗揚げる、あの激烈な競争の中に入って自分の力を試すというのは一つの価値ですよ。でもそうじゃない人たちもたくさんいる。行きたい人は行けばいいと思いますけれど、行きたくない人まで行かなきゃいけない環境はよろしくない。田舎で働くことの良さももちろんありますしね。静かにゆっくりと自分の人生を噛み締めるには都会より金沢の方が良いでしょうし。そういう人がいてくださることが金沢の活性化にもつながります。そして金沢は、それを受け入れていくだけの土壌がある街だと思うんですね。うちは全県にお客さんがいますが、人口40万人ほどの地方都市で金沢ほどの文化レベルを持っている街って、ほかにはない。金沢の魅力は外へ出て行かれてから気付くものでしょうし、戻ってきたいと思うかもしれない。何割かの割合で、地方で仕事をしたいという思いを持ってくれる人がいると地方も輝いてくるし、日本全体が安定するのではないでしょうか。

Q.4

休日の過ごし方、教えてください。

先ほどもお話しした通り映画が大好きなので、まずは映画館に行って上映作品を確認する。映画待ちの時間はビーンズで本を見て、ついでにユニクロ行って(笑)。そして上映時間に合わせて映画館に入るというのが休日の過ごし方ですね。
今年で64になるんですけれど、60を過ぎてから好きなことが一つ増えたんです。それがクラシック音楽。何年か前から音楽堂の協賛をしているのですが、いくらか寄付をするお返しにチケットを送っていただいて。何回か足を運ぶうちに、その魅力に絡め取られてしまったんです。今ではオペラを観に大阪に行ったりもするぐらい。最初は分からないことがあっても、自分からエネルギーをかけて近づけば、必ず喜びに出会えるんですね。クラシックはまだ始めたばかりなので、きっとまだ私の知らない世界があるはずなんです。でも先生がいないしどうしよう、困ったなと思っていたの。クラシック聴いてるなんて人にあまり言いたくないでしょう。気取ってると思われるし(笑)。だから誰にも言わずに、自分で調べたりCDを手当たり次第買ったりしていたんです。そんなあるとき、銀行の重役の方がいらっしゃって、ふとクラシックの話になったんです。そうしたらその方、バイオリンを弾くっておっしゃるの。もう話がすごく盛り上がって!それまで自分の頭の中にクエスチョンマークが浮かんでいたことを全部話して、教えていただいて。彼がリストアップしてくれた、おすすめの指揮者とオーケストラのCDを買ったり。自分から近づいていくと、不思議なご縁があるものですよね。私は本当にラッキーなんです。

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  • 色とりどり、形もさまざまな最中種は眺めているだけでも楽しい気分。
  • 完成した最中種をひとつひとつ検品。この繊細な作業が品質につながるのです。
  • 焼き上がった最中種を型から外します。部屋は香ばしい匂いでいっぱい。
  • 北陸でわずかしかとれないという、こだわりの品種「新大正もち」のもち米を使用。
  • やわらかなお餅を手早く整形するさまは、まさに職人技。