人と地域のWEBマガジン ISHIKAWA DRAWER

Tatsuya Asano

株式会社箔一 代表取締役社長
浅野 達也

Credo
#04
2017.01.17

Introduction

株式会社箔一は、金沢箔の継承と革新を通じて箔生活文化情報を世界に発信する「生活創造カンパニー」です。広い心でどっしりと構え、金箔文化の未来を牽引する、浅野社長のクレドをお伺いしました。

Q.1

御社のクレド(信条・行動規範)、教えてください。

日本の伝統である金箔の文化を日常生活の中に取り入れ、楽しんでいただきたいということが弊社の基本理念です。伝統産業というのはそもそも日本を代表するものですから、お客様にも社員にも、われわれが行っていることは日本文化の継承であり、日本を代表する仕事であるということを分かってほしい。さらに言えば、日本人であればわれわれの仕事に尊敬を抱いてくれるだろうという自負もあります。弊社はものづくりを通して古くから続く金箔の技法、ひいては日本文化を守り続けていますが、それだけでは文化の継承ということにはなりません。わたしたちは生きていて、時代はどんどん移り変わっていきます。現代に合った文化のあり方を模索し、伝統を守りながら革新していく。そういったものづくりの考え方を持っている会社です。

具体的には、伝統技法の職人技による工芸品を製作することが「継承」、工芸品の耐久性を高める技術を開発することや、食料品や化粧品などより身近な日常生活に根付いた、今の時代に合った商品をつくることが「革新」にあたります。弊社は創業から40数年間、企画のみを実施する部門を持たず、商品開発は全部門、全社員で行っています。基本的に、アイデアは制限されるものではないと思っているからです。仕事をしていてお客様の気持ちになれば、自分たちの生活の中で「あれがほしい、これがほしい」と思うはず。ですから営業であっても、店舗スタッフであってもアイデアがあるならどんどん出してほしい。ものづくりをしている工房があり、つくりたいと思ったらすぐに実現できる環境ですしね。そうやって上がってきたサンプル品はわたしがチェックしますが、こちらがNGを出したとしても「いえ、これは絶対に売れるんです!」と言う熱意がある人にはまずはチャレンジさせてみます。ただ、その売行きが思わしくなかった場合でも、自分がやりたいと言ったのだから、最後まで責任を持ってやり遂げようとする人が好きです。ものづくりには必ず責任が伴うわけですから、企画しただけで「誰かが売ってくれるでしょう」という考え方の人は困りますね。

Q.2

「働く」って、なんですか?

難しい質問ですね(笑)。働くというのは、人生だと思いますね。その人の生き方が働き方そのものになるのだと思います。その人が負けず嫌いなら負けず嫌いな働き方をすると思いますし。

何のために働くのかを考えたとき、パッと最初に思い浮かぶのはお金かもしれない。生活するためにはお金が必要ですから。じゃあ、お金があったら働かなくていいのか?今、あなたに3億円あげたとしよう。高級マンションに住んで、毎日おいしいものを食べて、何の不足もなく生活できる。でも本当にそれでいいのか?人生80年過ぎたときに、自分の中に何が残ったのかを考えると、「3億円使った」ということだけ。それで自分の人生に満足できたのかと聞かれると、3億円使っても10億円使っても満足なんかできないと思いますね。けれど仕事を通して自分の人生観や人とのつながり、もっと言えば人間の存在意義とか、そういったものを考え、実感することができる。ですから働くということは、決してお金を稼ぐためだけのことだけではないんですね。

自分の好きな職業につける人は少ないですよね。だから、そこを目指すことにこだわらなくても、与えられた環境や仕事に対して「邁進する」ということが大切だと思います。うちには優秀なパートさんがたくさんいて、勤続20年以上の方もいます。パートさんの上司は社員ですから、どんなに若くても新人でもパートさんに対して全員がリーダーシップを取れなければいけない。もちろん技術や知識でいえばベテランのパートさんの方が上に決まっています。けれども誰よりも箔について熱い想いを持っているとか、パートさんを気遣った言動ができるとか、そういった人間力を高めることはいくらでもできる。最近は機械で何でもできる時代になってしまいましたから、テクニックだけを求めることはしなくなりました。働くということに人生観みたいなものを宿している人が好きだし、箔一の次のビジョンや夢に向かって一緒に戦ってくれる人が入ってきてくれたらいいなと思っています。

Q.3

いしかわで働く意義って、なんですか?

わたしたちの業種でいうと、石川県の伝統産業である金箔を扱っているという意味で、ホームグラウンド的な位置付けが大きいですね。前田利家公の時代にまで遡りますけれど、この地から400年続く箔の文化が生まれたわけですから。文化という基盤がある石川県に企業の母体を置くことで、そういった歴史的な背景をすべて味方にできる強みがあります。

食、文化、自然。石川県は、それらが全てそろった一番良い場所だと僕は思っています。この場所の持っている独特の美意識は、都会にもない質の高いものです。ここで育った人たちは、みんな郷土自慢をしますよね。自分たちのふるさとの良いところをとにかく喋る。住んでいる場所をここまで自慢できるのは珍しいことだと思うんです。「いしかわを守っていこう」という感覚を持っていらっしゃる方がこの地を守っているんだと思いますし、とにかく地元を愛している人が多い。いしかわで働くということは、この地で生まれ育った自分自身の存在を認めてもらうことなのではないでしょうか。

Q.4

休日の過ごし方、教えてください。

まとまった休みが取れるときは旅行に行きます。ハワイや、アメリカなど海外や、国内も全国に足を延ばしますね。ありがたいことに弊社の商品は全国のさまざまな交通拠点や、ホテル等に置いてあるんです。空港にもありますし。うちの営業はすごく頑張っているなあと思う反面、商品構成やディスプレイで気になることがあると、旅先から会社に電話をかけてしまったりして。休日といっても、経営者ですからそこからは逃れられないんですよ。だから家にいて、料理したり掃除したりするのが一番平和なんです(笑)。

家で過ごす休日の場合は、「今日が休日!」と決めたら、その日は仕事をせずにとことん休むようにしています。家にいて料理をつくったりしているかな。得意料理は、ハンバーグとオムライス。子どもが好きなものをつくることが多いです。大雑把な、男料理ですけどね。掃除もやりますし、家具もつくりますよ。つくりたい家具を設計して図面を引いて、それを業者さんにつくってもらったり。もともとが工学部出身なので、空間をどう見せるかというのはいつも考えていますね。空間というのは、そこで何かをクリエイトするときにすごく大切なものだと思っているので。棚に入るもの以外は全て要らないものだと思っていて、部屋には極力ものを置きたくないんです。例えばクローゼットがあって、そこにスーツが6着入っているとする。新しく1着買ったら、もともとあった6着の中の1着は捨てます。人間は所詮、持っていけるものって限られているでしょう。死ぬ瞬間に何を持っていきたいと思う?思い出とかはあるけど、形あるもので持って行きたいものって、特にないんじゃないですかね。思い出は、子ども達が巣立つときにしっかり残してあげたいと思うので、写真やビデオはそれぞれアルバム等に編集して、保管しています。家の中どこでも見られるように同期していますし、バックアップも万全です(笑)。

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  • 箔一本店「箔巧館」地下の「金箔の間」には黄金の鎧が鎮座し、その輝きは豪華絢爛。
  • 浅野社長を囲んで談笑中の社員のみなさん。社長のお話にメモを取る若手社員の姿も。
  • 少しの息で飛んでしまうほど繊細な金箔を道具で移す「箔移し」が体験できます。
  • 日本で初めて商品化したという、金箔打紙製法によるあぶらとり紙「ふるや紙」。