133.新型コロナ後の自業

133.新型コロナ後の自業


-「家業」のやり方を今様に-

はじめに


 前回のレポート「132 コロナ後のベンチャー」の補足で紹介した「7つのメガトレンド アフターコロナ」(以下「アフターコロナ」と略します)をようやく読み終えました。この本は、新型コロナオフィスは歴史的にみるとどのような位置にあるのかを述べ、それにどのように対処すべきかを産業面から、専門的見地から述べ、最後に、これからどんな方向に進んでいくかをまとめた本です。新型コロナウイルスにはまだ天然痘のようにワクチンの開発が出来ていないため、感染しないためには感染者との接触を避けることとなり、3密を避けるために出勤や対面接触を減らす方法をとっているわけです。このため会社に出勤することも制限され、在宅勤務(テレワーク)が進められています。この結果「働き改革」の一つであった在宅勤務が日本中で始まり、なかにはその良さを評価する人も出てきました。生産面では下請け方式、販売ではフランチャイズ方式が行われているわけです。それならフランチャイズオフィスもありかなと考え、戦後の日本の高度成長期に行われていた、「家業」や「零細企業」のやり方も参考にして働く人の立場から仕事のやり方を自業として検討する方法をまとめました。

第1章 新型コロナウイルスでなぜ大騒ぎ

 「アフターコロナ」の第2章には2020年1月9日の中国で新型コロナウイルスが検出されてから、危機へ至った128日間の混乱の経緯が説明されています。

 さらにどうして新型コロナウイルスがこんな大騒ぎになるのを知るために、図表1の感染症とテクノロジーの2000年史では、過去の大規模な感染症をリストアップしました。この図では世界の死亡者が1000万人を超えるものをリストしています。また死亡人数は文献によって違ったものもありましたが、「アフターコロナ」の数字に合わせてあります。

vbl-sgtkijg01.jpg図表1感染症とテクノロジーの2000年史

 参照「見えてきた7つのメガトレンド アフターコロナ」日経BP、P24、感染症とテクノロジーの2000年史 を参考に作成
詳細は、図表をクリックしてください。

 このうち死者が5000万人(日本の人口の約4割)を超えた感染症は次のようなものです。

ユスティニアヌスのペスト
 紀元前8世紀に都市国家ローマが誕生し、イタリア半島を統一し地中海世界を支配してきたローマは4世紀末に東ローマと西ローマに分割されました。その東ローマ(ビザンツ帝国)の「ユスティニアヌス帝」の時代に流行したペストでは541年~542年の間に2500万人から最大1億人が死亡したと伝えられています。

黒死病(腺ペスト)
 14世紀末の黒死病(ペスト)では5000万人死亡したと書かれています(別の本では全人口の4分の1にあたる2500万人となっていました)。このため農業人口の減少などさまざまな要因と重なり、それまでの荘園制度を中心とする、封建社会は崩壊し、中央集権国家の成立といった社会制度の変更となったようです。

スペイン風邪
 第一次世界大戦の最中、3波にわたり全世界を襲いました。第1波は1918年3月に米国北西部で出現。米軍とともに欧州に渡り、西部戦線の両軍兵士に多数の死者を出して戦争の終結を早めたといわれています。中立国スペインにおける伝染病の影響は自由に報道され、アルフォンソ13世の重病を初めとする多数の記事はスペインが特に大きな被害を受けたということで「スペインかぜ」という呼称が広まりました。第2波は同年秋、世界的に同時発生してさらに重い症状を伴うものになりました。第3波は1919年春に起こり、同年秋に終息に向かいました。ウイルスのタイプはA型でした。しかし、当時はウイルスが原因とは知られておらず、後の血清疫学調査や凍土中の患者肺からのRNAの解析で判明しました。この間、世界の人口の約50%が感染し、25%が発症したと見積もられています。死亡者は5,000万人以上にのぼり、疫病史上有数の大被害となりました。

 ここでは、世界で死者が5000万人を超えた感染症を取り上げていますが、他にもHIV感染症/AIDS、日本の天然痘、ロシア風邪、アジア風邪、香港風邪等死100万人を超えるケースが発生しています。
 また現在取られている感染症の対策には以下の10個の技術が使われています。 p053

治療
 AIで画像診断
 AI受信相談
 ドローンで医薬品輸送
 服薬支援システム
拡散防止
 濃厚接触者トラッキング
 顔認識で体温検知
 量子コンピューターで拡散予測
予防
 ビックデータで流行予防
 3Dコンピューターで医療器具を製造
 脳波でメンタルケア

 このような状況を踏まえ、今回はまだ予防法も治療法も確立されていないコロナウイルスということで大騒ぎになっているわけです。

 「アフターコロナ」の第3章にはコロナショック、崩れた既存秩序ということで、自動車、機械、電気、IT、通信、医療、建設、住宅・ 不動産、金融・フィンテック業界ではどんなことが発生したかが述べられています。 第4章は私たちのアフターコロナということで、各界の論客30人が述べるニューノーマル(新常態)対応について述べています。

 「アフターコロナ」の第5章がこの本の最大のポイント、「見えてきた7つのトレンド」です。

第2章 7つのメガトレンド

 図表2はこの「7つのメガトレンド」を私なりに、曼荼羅図にまとめたものです。

vbl-sgtkijg02.jpg図表2 7つのメガトレンド

 出典 「見えてきた7つのメガトレンド」日経BP、2020 を参照して作成

 図表2 7つのメガトレンドの「既存秩序への影響」では、左の経済・企業に現れた既存秩序への影響として、外出禁止もしくは自粛による需要減少による景気後退や、そのために発生した勤務時間の減少による失業率の悪化、さらには必要部品の供給遅れによるインフレ懸念増大をあげています。また企業で働く人や、個人事業主は、収入の減少に合わせ、不急品の買い物を減らし、将来に備えて貯蓄を減らさざるを得ない人も出てきました。それでも収入が不足する人たちは、社会的支援を求めることを始めました。

 「新しい秩序の模索」がこれから企業並びに個人が挑戦していく新しい挑戦です。ここには

経済・企業のなすべきことを
 サプライチェーンに冗長性を持たせるための分散化
 コスト減だけでなく安定した調達が出来ること
 製造部門・販売部門・医療部門・教育部門の垣根を超えた非対面打合せ
 業務の効率化だけで得なく、多様な立場から働き方の見直し
 経済だけでなく、国民に対しても安全・安心・安定の提供

個人・社会のなすべきことを
 健康関連製品や、検査・ワクチン・衛生製品について関心を持つ世になった
 今以上に安全/安心に注意をはらうこと
 IT技術を利用した、仕事や遊びをふやす
 バーチャルな世界の中に、リアルが存在するとの考え方
 移動を避けるばかりでなく時には積極的に活用する
 身の回りの人にこもるのではなく、社会的活動に関わるひととのお付き合い

ということをまとめるために、必要なことが、曼荼羅中で青枠で囲まれた以下の「7つのメガトレンド」です。

1.ニューリアリティ
 オンライン会議(バーチャル)がこれまでの1室に集まって行う会議(リアル)と同等とみなされるようになった。というより、VR(バー チャルリアリティ)会議が世の中を動かし、リアリティ(AR)はその一部であるという時代になったということです。製品設計で言えば、ハードソフトの材料や形、更には部品表まで含めたものが製品情報であり、これまでの紙に描かれた設計図はその一部でしかないという感じです。

2.分散型都市
 今回日本で最も感染者が多かったのは東京、アメリカではニューヨークといわれているように、大都市での感染者が多く出ています。人口が多いだけでなく、人付き合いも多いから仕方がないのでしょうが、何とか大都市への人口集中を避けることができればそれに越したことはありません。そこで、これからは都市にあまりにも多く人が集中させない」考え方が出てきます。都市機能を地方に分散できれば、エネルギーや食糧の地産地消も可能となります。このため、エネルギー問題や、大気汚染といった近代化とともに拡大した問題の解決策となります。

3.デジタルレンディング
 お金の貸借にまつわる時間がかかり過ぎ、必要な時までに調達できないときがある。会社情報や個人情報をAIを使って確認し、借入者の信頼度に合わせた、貸し出しを行う緊急貸出システム。今回は新型コロナウイルスのために生じたが、今後の経済危機、気象災害、原子力災害等いろいろな時に使える。

4.フルーガル(倹約的)イノベーション
 技術や性能がかなり進歩した現在、これからは高性能・高機能を狙ったイノベーションだけでなく、現在の技術でも、さらには機能を落としても利用者の満足できる程度の製品やサービスが安価に普及する時代となります。

5.職住融合
 都市が小さくなれば、住んでいるところから、働くところに行くまでの距離が短くなり、テレワークの技術が発達すれば、普段は家で仕事をし、必要な時だけオフィスに行って仕事をするのも容易になります。

6.ヒューマントレーサビリティ
 中国の上海で行われているような、スマートフォンで健康コードを確認できるようになると、入場時に体温測定を行うようなこととをしなくても、監視員はその人のIDカードを参照すれば感染状況は分かり、危険度の高い人の入場を遠慮してもらうことも可能であるし、駅の自動改札のゲートの場合はゲートを自動的に開かないようにできます。

 さらにGPS機能と連動させれば、どこに感染の危険高い人がいるかもわかりますから、健康な人はそのような場所に行くのを避けることが出来ます。これはプライバシーの保護の問題があると思う人には、検査をしない交通機関や、お店や会場を利用する自由を認めておけばいいかもしれません。一方、トレーアビリティに協力的な人には、感染度の高い人がどこにいるか、危険なお店や会場はどこかが分るようにして、そのようなところには、近づかなくてよいサービスを提供します。同様なことは、犯罪、いやがらせ、モラル違反等安全安心を脅かすことにも適用できるようにできます。

7.コンタクトレステック
 新しいイベントや商品は、VRで作られるようになると、それを構成するものは一か所に集まる必要もない。例えば自転車レースは従来一つの会場に集まってやるのが普通であったが、今や別々の場所で自転車と似た構造を持った機器で、ペダルを踏みハンドルを切りながら、バーチャルな画面の中で他の人と競争できるようになった。将来はオリンピックも、必ずしも一つの国に集まらなくてよくなるかもしれない。

 以上7つのトレンドのうちニューリアリティは直接ITがもたらすものです。前回の「132 コロナ後のベンチャー」の図表5 新型コロ ナ時代のIT技術で描いた党に5G(データの高速化)、AI8人工知能)、クラウド(ビックデータ)、ブロックチェーンの技術により、実際に見える物より IT技術を通して見えるものの方が、明確で、必要なものを探す時間が短いことを知りました。こうしてえられるVR((バーチャル リアリティ)はAR(アクチャルリアリティ)を含むであると認識するようになったわけです。

 このニューリアリティをもとにして「経済、企業」は分散型都市を構築し、デジタルレンディングで素早く処理を行い、フルーガル(倹約的)イノベーション度顧客に必要な機能を提供することを学びました。一方「個人や社会」は職住融合、ヒューマントレーサビリティ、コンタクトレステックで距離に関係なく気楽に付き合える環境を得るわけです。

第3章 戦後日本の経営慣行

 1945年の敗戦を受け、日本は廃墟から立ち直るべく、大変な苦労をしていました。こうして条件がそろいだした1955年から1973 にかけて日本は高度経済成長期といわれる時代をすごしました。その後1973年の第一次石油ショック、1979年の第2次石油ショックと世界は経済的に苦しい時代を迎えます。しかし1980年代から1990年代にかけ、日本の経済・日本の企業の目覚ましい成長に、海外では目を見張り、日本企業の経営者が人材を重要視していることを知り、それを導入しようという機運が高まり、図表3左側に挙げるような日本的経営慣行が広がりました。

vbl-sgtkijg03.jpg図表3 日本発経営慣行とその問題点

出典 佐野洋子、「はじめての人的資源マネジメント」、2007、有斐閣p237~241を参照して作成成

 佐野氏は「欧米から会社組織や法制度を輸入したが、日本の企業土壌にマッチした方法が定着したのであろう」(p241)と書いています。しかしこれらの政策は欧米から見ると同図の右に書かれているような問題点もあると言っています。したがって現在のように、その後、欧米化がさらに進んだ 日本では注意して採用するのがよさそうです。

 ということで、図表2の左側経営・企業のトレンドを解決するというより、図表2の右側個人と社会のトレンドの解決の時の参考にすることにしました。

第4章 家業や零細企業の対応

 また多くの経営書は、経済や企業の立場に立ったものが多いので、今回は「個人や社会の立場」書かれた本を探しました。いろいろ探していると、今井美沙子氏のインタビュー記事の載っている「わたしの仕事」シリーズが目に留まりました。このシリーズは1991年から2000年にかけて出版された19冊の本です。最新版のサブタイトルに「心を語る414名の人々」(1回に複数のひと人をインタビューすることもあるのでインタビュー記事の回数ではありません)とあるように大変なボリュームです。一つのインタビューは約10ページにまとめられています。

 この中から第2巻「伝統を守る人」、最新集「未来の視点で働く人」、第13巻「製造にかかわる人」に書かれている以下の5つをまとめました。

4.1 塗り師  需要に合わせる

vbl-sgtkijg04.jpg図表4 塗り師 (伝統を守る人)

出典 今井美沙子、「私の仕事2_伝統を守る人」、理論社、1991、 p137~148 を参照して作成

 図表4の、「立ち位置」にあるように、インタビューされた塗り師は私と同じく、石川県加賀市山代で生まれ、父親は茶道具専門の指物師( 木の板をさし合わせ組み立てて箱やタンスを作る人)です。奥さんはその隣の町山中温泉で、奥さんの父は山中塗(石川県加賀市山中温泉で生産される漆塗りの器)と木性の家庭用品の生産に携わっているという環境に育った人です。当時の山代温泉は、関西からのお客様が多く、そのお客様に対する、宿泊サービスを行う旅館、そのお客様やそこで働く人に対する食糧や焼き物、木製品を売る商業、マッサージ等のサービス業が中心だったのを思い出しました。そのような環境のもとで、「キャリアの軌跡」に書いたような、大学を卒業してから記事の今回のインタビューに至るまで約10年の修行を行い、事業に至ったわけです。「スキル」はこのようにして得られたスキルです。また「立ち位置」あるように奥さんは塗り師の知識は十分な人で、「周りの人」にあるように仕事の評価を行う重要なパートナー役を果たしています。

 こうして、技術を磨き、顧客を確保してきた「塗り師」業ですが、「環境」にあるように、時代とともに、木製の漆器は減り、プラスチック製の漆器が増えてきました。ということで、「漆の5工程」にあるような、木製の塗り物で築かれた5つの工程の内、始めの4工程を省き、例えばグラスファイバーで作られた食器に、需要に合わせた漆塗りを施すようなビジネスを始めています。

 更に将来は「これからの塗り師」にあるように白山工房で新素材の研究と開発を行い、漆器を使った食文化を生み出すようなカルチャセンターをやりたいといっています。これは「職人意識」にある、「ものづくりが好きだが、どんなものでも使われてこそ、そのものが生きてくる」を実現しようという言葉と相 まっているのを感じた次第です。

 なお図表4~図表8、並びにその後の文章は著者の描かれた記事を参考にして私が理解したことをまとめたものです。今後の事例も同じようにして作成しました。

4.2 畳屋  環境は変わる

 私の子供のころ近所に、畳屋さんがありました。その家には私の先輩も住んでいました。当時、畳屋さんはどのような気持ちでお仕事をされていたのだろうかと思い、図表4と同じ本の中の別記事「畳屋」を読んでまとめたのが、図表5 畳屋、伝統を守る人です。

vbl-sgtkijg05.jpg図表5  畳屋  伝統を守るひと

出典 今井美沙子、「私の仕事2_伝統を守る人」、理論社、1991、 p101~112、を参照して作成


 お話をされた人は明治32年(1899年)に叔父の始めた畳屋を継いだ3代目です。「立ち位置」(仕事)は、この店のおやじで、営業と仕入れを担当しており、配達と寸法取りが主な仕事です。一方職人さんは大変です。「職人さんの奉公」にあるように5年間の奉公(最初の3年の床づくりの後1年のお礼奉公を行います。こうして6年の年季が明けた時に、親方が畳職人の道具1式(包丁、待ち針、縁引、手あて、小定規、手かぎ、しめつち、しめカギ、くわえ、わたり、ひじあて等)をくれるのが習わしです。このための職人意識の中にあるように、親方が気にいらなかったら、やめることが容易です。なぜなら、道具一式を持って次の職場に行けるからです。ただ自己意識づけが出来ており、チャンスを自分でつかむ心が必要となります。

 「周りの人」にあるようにこの会社では2人の職人さんが40年働いています。畳屋は終戦後の焼け野原の時代を経て高度成長期(1955年から1973年)に入るとどんどん家が建ったため、需要が沢山ありました。しかしオイルショックに入ると需要は激減し畳替えも減ってきました。さらに生活が和式から様式になると、畳から、カーペットの時代になりました。「畳の良さ」にあるように畳は生きもので5.5センチの床には無数の空気層があり、断熱、保温、吸湿、排湿で部屋の換気に役立っていました。ほかにも幼稚園の先生の話では畳の表面の山と谷は、足の裏を刺激し子供の知能の発達にも役立つと言われていました。

 しかし「今の畳屋」にあるように今後は、標準的な畳ばかりになりそうです。畳をあげて干す大掃除の習慣も無くなりました。あと何年もつか不明という悲観的な状況で、「これからの畳屋」についても10年か20年たったら畳職人はおらんようになり、みな機械になるといっています。確かに私の子供のころのあった近所の畳屋さんは今はありません。ただリゾート等の和風家の高級畳関係は生き残る。今後のためには和風・和室の良さを宣伝する必要がある。

 さすがおやじ(経営者)、畳屋より畳職人のことを心 配しています。

4.3 畳店  技術を生かす

 ということで畳屋について大変悲観的な気持ちを抱きました。

 わたしの仕事_「未来の視点で働く人」の中に、畳店という記事がありま した。伝統を守る人の畳屋さんと違っているところがありそうと思って纏めたのが、図表6 畳店(未来の視点で働く人)です。

vbl-sgtkijg06.jpg図表6 畳店 (未来の視点で働く人)

出典 今井美沙子、「私の仕事_最新集_未来への視点で働く人」、理論社、1999、 p143~154、を参照して作成

 4.2の畳屋はおやじの立場から語られていますが、こちらは一人でやっているので、おやじも職人も兼任する立場から語られています。

 「キャリアの軌跡」にあるように、大学浪人中 病気になり志望を理科系から心理学に変更したが、今度は親が病気になったので後継ぎを申し出しました。この時ひと昔の畳屋は手仕事で大変だったからか、親からの後継ぎの話はなかったとのことです。

 その後、機械化が進み、手仕事は減ってきているとはいえ、職人と、営業を兼任し一人で仕事を行っている。このため「周りの人」にあるように仕事量が多く、一人で手に負えない時には、知り合い連絡し手伝ってもらっている。

 「環境」にあるように、確かに家は洋風化し畳の需要は減少しています。一方新しい畳は軽量化し、プライバール畳(プラスチックの中空積層板とポリスチレンフォームの組み合わせ構造防ダニ仕様の畳)、スタイロ畳などが使われて、全重量が5キログラムのものがあり、これなら片手でもてます。このため1人でも営業できるわけです。これは新しい畳の良さです。さらに阪神大震災の避難所から大量の畳が欲しいとの連絡がありました。これは、「畳の良さ」にあるように保温効果、防音効果、湿気も吸う効果があり、 寝室にも、応接室も居間にもつかえる汎用性が好まれたたためです。

 新しい「職人意識」にあるように、お客様の大切な和室に入るのですから職人とお客さんの間には、信頼関係が大事です。

職人は自分の持っている技術に誇りを持つこと(技術は仕事を通じて学ぶもの)
伝統の技術は自分の体で覚える
機械化のメリットを生かし、手仕事技術も残したい
チャンスは自ら取りに行く
といったことが必要です。

 こうして「これからの畳店」にあるように、「職人のような独自技術」と「人付き合いの技術」と融合させる必要があるといっています。

 ここまで塗師の修行、畳屋の奉公、畳店職人の修行という具合に、伝統や技術は現場にいながら、おやじや親方といった先輩のやり方を身ながら自分で学ぶ方法で伝授されていました。今でいう教育という考え方ではなく、自ら学ぶ、もしくはいい技術を盗むというのが、職人の技術伝承の方だったことが分ります。そのうえでさらに自分で技術磨き上げる時代だったわけです。このような習慣があったために、環境変化についていけたわけです。学ぶことのとの重要さを知らされた3つの例です。

4.4 総合プロデューサー  厳しさが育てる

 「わたしの仕事_最新版_みらいへの視点で働く人」には他にも15のインタビュー記事がありますが私が現役時代にやっていたコンサルタントやアドバイザーに近いお仕事、「総合プロデューサー」が見つかりましたので、図表7にはこの記事についての、曼荼羅メモを描きました。

vbl-sgtkijg07.jpg図表7 総合プロデューサー

出典 今井美沙子、「私の仕事_最新集_未来の視点で働く人」、理論社、1999、 p35~46、を参照して作成


 「キャリアの軌跡」にあるように、18歳で大学商学部に入り、2年後担当の先生に紹介をいただいた先生の「経営学は人間学」という言葉 が気に入り転部し、大学院では経営学経営分析論、都市経営学を専攻しました。親ばなれをし、親からの援助のない学生生活のため、様々のアルバイトをしました。その中で記憶に残っているのが美術出版のアルバイトで芸術家の家を8千軒くらいまわったことです。この時の芸術化と周りの人との触れ合いが仕事に生きていると思います。大学院を出てから、週4日商工会議所でコンサルタントの仕事をして、33歳で独立しました。

 「わたしの肩書」に挙げたように仕事分野にあわせて、クリエーター、総合プロデューサー、都市プランナー、経営コンサルタントといった肩書を使って取材し、写真を撮り、記事を書いています。「スキル」は中小企業の経営相談です。都市計画家としては、地域開発・経営的観点・建築学の世界・イベントの勉強(催し事)などで、 新しい空間、新しい造形物、新しい人間関係を創造的に造ることです。

 このため「周りの人」にあるように人と出会うと、どういう人間関係を作りあげるかを考えます。事務所はわたし以外に秘書が一人いるだけです。素晴らしい能力を持った人は周りに沢山いるので、その人達とネットワーキング社会をつくって対応しています。「環境」は、自分が勉強し始めると広がる。ものと考えています。たとえば都市計画では地域開発、経営的視点、建築学の世界へと広がり総合的な視野を持てるようになりました。

 現在の仕事は「日々これ転職」に挙げたように優れた若い人たちを独立させていくのが楽しみで、様々な種類の仕事をしているので、まさに日々これ転職といった感じです。このため「仕事の進め方」にあるように仕事がうまくいかない人は仕事との関係を見直した方がいい。さらに後ろを振り返るのではなく、プラス思考で考える。周りの人との関係は自分の方からせまるものと考えています。「プロ意識」にあるようにすばらしい能力持を持った人が周りに沢山いるので、その人達とネットワーキング創造型社会を作り、関係創造型ビジネスをやりたいし、人生の可能性は自分自身のなかにあると考えています。

 「これからのすすめ方」にあるように転職というのは、仕事を通じて新しい社会的な関係を作るということと考えて進めたいと思っています 。

4.5 金属加工業  自業の継続

 総合プロヂューサーのような、コンサルティング業務がこのような状況であれば、製造業のような製造設備中心の産業ではどうかと思い、金属加工業についての記事をまとめたのが図表8金属加工業(製造にかかわる人)です。

vbl-sgtkijg08-1.jpg図表8 金属加工業 (製造にかかわる人)

出典 今井美沙子、「私の仕事_13_製造にかかわる人」、理論社、1994、p105~116、を参照して作成


 この図の「キャリアの軌跡」にあるように、図表4の塗り師(伝統を守る人)、図表5畳屋 (伝統を守る人)、図表6 畳店(未来の視点で働く人)と同じく親もしくは親戚の方の仕事を引き継いだケースです。当時はこうした事業の引継ぎもしくはのれん分けといった「家業」という考え方が強かったようです。「職人意識」として頑固だが、仕事に誇りをもってまじめに取り組む、職人特有の性質を持っていました。「立ち位置」にあるように仕事をする立場は下請けの下請けであり、大企業の一部のようなものです。また金属加工業と言いながら「周りの人」にあるように、社員の4人の内3人がコンピューターを使えることに現れているように、職人の能力は機械やコンピューターを使いこなし高度なものづくりを行うこととなってきているようです。注文を受け、部品を発注し、製造を行う 「金属加工業」では、仕事の対価は、大企業の社員のように報酬では無く、売上です。このため生活を派手にするより、トラックや機械に投資する生活です。

 当然金属加工業の運営責任者である経営者もまたこれらの技術にたけ、適切な注文や部品材料の仕入れを行えることが要求されます。

第5章 新しい時代が来る

 ここまでくると、図表9のような「新しい働き方」のつくり方が見えてきます。

vbl-sgtkijg09-1.jpg図表9 新しい働き方を作る

 これからは新しい働き方を中心に、仕事の進め方を検討します。

 図表9はそれを1枚にまとめた図です。

 この図の上層は 環境、新しい流行 技術の変化 といった外部状況
     中層は 自分のやってきたこと、やりたいこと
     下層は 今までの人はどうやってきたのか
を表しています。

 まずは新型コロナウイルスが拡散する前の、これまでの仕事のやり方の曼荼羅図を作成します。曼荼羅図の考え方については「46 魚眼マンダラで一枚に」にその考え方を載せていますので、そちらをご参照ください。 

 同様にして、「自宅勤務でどうなったか」についても曼荼羅図を描きます。こうして今回の新型売り留守の対策のポイントが見えてきます。

 100 自業の夢を描く」でも書いたように、自業活動の要件の第1を「自業は、これまでサラーリーマン時代にやりたくてもできなかったことを実現し、人生を豊かにする活動です」としています。この記事では、他人から「感謝」されることを目指し、自分のやりたいことを纏め、活動を始め、この活動が社会に受け入れられそうだと思った時には、創業活動に入ることを目指しています。この時は市民活動「あ・そうかい」で提出していたやりたいことの情報に合わせて、「自分の立場」や「自分のやりたいこと」「顧客価値」をまとめ「自業モデル」を作る方法を描いています。このうち「顧客価値」は自分が会社で行っていることが、お客様にどのような価値を生み出すか」ですから、図表4、図表5の職人意識につながるものです。ここが明確になっていないと、仕事を行っていても、やる気が高まりません。まだ明確になっていない場合は、これを機会の明確化し、上司とのお話合することをお勧めいたします。 

 便宜上自業として考えるために、会社勤めの方は、話を簡単にするために、自分でやる仕事の依頼は受注、仕事の完了は納入、自分の家は設備、他人に頼むときは発注、上司は資本家、株主、コンサルタント、報酬は売上もしくは感謝くらいの気持ちで単純に考えれば良いかと思います。ほかに必要なものがあったらそれなりに追加して考え、曼荼羅図を作成します。 

 今回の図表4~図表8は、「わたしの仕事」を読んで作成した、新型コロナウイルスの発生以前の「曼荼羅図」の事例です。 
 こうして自分のやってきたことを整理しながら、「昔の人はどうやってきたのか」には、今回の図表4~図表8に挙げたような、「わたしの仕事」で自分の仕事と近い関係があるものを読み、その他の先輩の体験談も調べ、参考となりそうな働き方をまとめます。この時大企業のマネジメントでない人は、できれば中小企業や、個人事業の体験談がよさそうです。

 その結果新たな何かを見つけることが出来たらそれと、図表3の日本発経営慣行を参照して見直し、役立ちそうなことが見つかれば、それもメモっておくことです。うして自分のことと、参考にしたい人との仕事のやり方を参考に、自分の新しい働き方をまとめ、7つのメガトレンドやIT技術さらには日本初経営慣行の下で実施可能な対策をもとにして、「新しい働き方」を決め、実現に向けて努力することになります。

 実際に新しい働き方を行う時使うのは、IT技術を反映した、スマートフォン、家具、端末、機械ですが、時には簡単なソフトウエア機能の修正が必要なこともあります。自分で修正するにしろ、他人に頼むにしろ、適切な指示ができるだけのソフトウエア知識や操作技量が必要になります。このためのIT技術に関するノウハウが無いと、ソフトウエアの開発を行い、それを使用する機械を提供する仕事をできなくなります。今やIT技術は、自動車の免許証のようなものです。事業を行う人は、自動車の作り方知らなくても使い方を知っているように、使い方を身につけておくことが必要になります。自分が運転できないので人に運転してもらい、事故を起こしたので打ち合わせに間に合わなかったと文句を言っても、しょうがないのと同じです。これからは、最低限必要なIT技術の使い方は身に付けておくことが必要です。

 また端末からソフトウエアへの単純入力作業や情報のコピー作業は、自働化の方向にあり人間が入力するとしても図表3のアウトソーシングの対 象となり低賃金国に仕事がいってしまったり、ユーザーが入力したり、グローバルネットワークから得た情報に置き換えられていそうです。たとえ政策的にこのような技術(AI)の利用を禁止しても、ガラパゴス化した日本の携帯電話と同じように、グローバルスタンダードとなったAIとの競争になりとても勝ち目はありません。

 そのためのソフトウエア開発のトレンドが、図表2 7つのメガトレンドで、自分の仕事を考える時に、参考になるのが「わたしの仕事」の記事ではないかと思います。産業の境界が変わっていく現在「わたしの仕事」を読むときに自分と同じ仕事だけでなく、それらに関係しそうな仕事も読んでおくのをお勧めするのはそのためです。

 こうして作った、新しい仕事のやり方(自業)が、企業の中で認められれば昇進、採用されない場合でも、転職、創業など、新しい道が開けてきそうです。

おわりに

 ここまで、新型コロナウイルスが出てきてから、これまでの経緯とそれに対する対応を自業として整理する方法をまとめてきました。

 今回最も言いたいことは、図表9の「自宅勤務でどうなったか」では、新型コロナウイル対策として取られた、3密や、テレワークを反映された今の姿があるのですから、これをベースに自業の曼荼羅図を作ることです。こんなことはめったにありません。

 この結果いままで普通にやってきたことなのに、自宅勤務で変更せざるを得なかったことが明確になるかと思います。これも、実際行っていること、やった方がいいこと、改善した方がいいことがあれば、メモして残してください。この資料こそ、コロナ君(新型コロナウイルス)が、われわれ働く人にプレゼントしてくれたものです。やりたいと思っていたことで、できるようになったこと、やりたいと思っていたができなかったこと、とその理由が明確になります。普通の生活や仕事をしているだけでは気付かなかったことが解ったのです。自業を追求(実行)することで、新しいチャンスが生まれるかもしれません。

 こうして新しい働き方も夢ではなくなります。
 こんな機会を与えてくれて、ありがとう。
 これからも共存していきましょう。新型コロナ君。

 最後に、金沢大学のHPの金沢大学ベンチャー支援情報  https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post.html に今回の話に関係のありそうないくつかの話題をあげてありますので、ご興味がありま したらご参照ください。

参考文献

今井美沙子、「私の仕事_13_製造にかかわる人人」、理論社、1994
今井美沙子、「私の仕事_最新集_未来の視点で働く人」、理論社、1999
今井美沙子、「私の仕事2_伝統を守る人」、理論社、1991
佐野洋子、「はじめての人的資源マネジメント」、2007、有斐閣
「見えてきた7つのメガトレンド アフターコロナ」日経BP
金沢大学ベンチャー支援情報  https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post.html  金沢大学のHPより
番号  タイトル                 キーワード
46. 魚眼マンダラで一枚に 2010        「曼荼羅一般」「マインドマップ」
92. 70にして立つ 2014            「自分の立ち位置」「高齢化」「魚眼マンダラ」)
100. 自業の夢を描く 2015           「自業」「自分の立ち位置」→「[やりたいこと」
104. アントレプレナー曼荼羅 2016       「今の自分」→「商品コンセプト」
105. 主体的に未来を築く 2016          「ワークシフト」
110. 高齢者は、75歳から 2017          「マルチステージライフ」
111. 自業から事業へ 2017           「幸福」「収入」
112. 成功のマンダラ 2017           「個人の立場」→「成功のマンダラ」
113. 自業戦略と計測尺 2017          「BSC」「マンダラ思考・4次元思考」
114. 自業計画書案の書き方 2017        「感謝」「チーム」「取引」
121. タテ社会からの脱皮 2019           「ティール組織」「組織の発達段階」

122. 過去の中に未来を見る 2019        「アクティブ・シニア」「日本型経営」 西国実施編・夢
123. 幼児教育に学ぶ 2019           「子供を伸ばす親」「ワークライフバランス」「生涯学習」
126. 持続する「やる気」をいかに引き出すか 2019 「モチベーションマンダラ」「IX理論」「日本では」
129. CAD/CAMはVR 2020           「管理・改善基盤」「VR」
131. 明日に備えて 2020            「偏差値コンプレックス」「ワークアカデミー」「これからの大学教育」
132. コロナ後のベンチャー 2020         「ITで世界はどう変わるか」「OODA」

2020/07/02
文責 瀬領 浩一