100.自業の夢を描く
自分のやりたいことを楽しもう
はじめに
2015年10月24日に川崎市麻生区の区民活動の一つ、「あ・そうかい」の例会で、本シリーズの「70にして立つ」で紹介したようなシニアのための活動についてお話をする機会をいただきました。「あ・そうかい」は定年前後のアクティブ・シニアと言われる人々が集まったグループです。会の目的は、自分たちが暮らすこの地域社会で、住民皆が心豊かに生活が送れるように、『地域社会での仲間づくり活動』を し『活動の場所探し』も行い、同時に『地域活動の実践』などに取り組むことです。どのような活動をしているかご興味のあるかたは「あ・そうかい」を検索して見てください。
今回はこのようなアクティブ・シニアの人たちとお話した内容とVBL支援情報のテーマに何度も出てきた起業活動の進め方を元に、迫り来る少子高齢化社会を自主的・積極的に生きていく活動方法を整理しました。そして次の様な活動を自業と名づけました。
とりあえずその要件を次の通りです(仮の要件です。実行チーム毎に決めれば良いと思っています)。
1.自業は、これまでサラリーマン時代にやりたくてもできなかったことを実現し、人生を豊かにする
活動です。
2.自業活動に必要な経費を賄う努力をしますが、事業と違い利益の最大化を狙うものではありません。
一般的な事業のように時間あたりの収益を生産性として評価するのではなく、費用あたりの活動時間を
増やすことを目指します。
3.自業は家業とは違い、必ずしも家族単位で行うものではありません。同じような自業観(マインド)
を持ったチーム活動(全員平等)を目指します。チーム内にはチーム員の人脈を通した、パートナー
として他のグループの参加も歓迎いたします。
4.自業は企業とは違い、無意味に自業の長寿命を狙いません。環境が変わればどんどん変身し、時には
転進し生まれ変わることとします。
5.自業では企業組織のような、雇用関係はありません。あくまでも任意参加のチームです。
自業の狙い(目指すこと)こそ違えど、その実行方法は起業活動とあまり変わりません。自分のやりたいことを目指して楽しむだけです。「あ・そうかい」の進め方はまさにこれに近いチーム活動です。
「あ・そうかい」でやりたいこと
と言うことで、「あ・そうかい」の例会に参加されている皆さんに、図1左下にある一枚の資料で、本シリーズの「 70にして立つ」で取り上げた大学の同窓会の出席状況をお話し、今後の厳しい少子高齢家社会にたち向かう方法の一つを提案させていただきました。そして「あ・そうかい」に参加されている皆さんこそが楽しい自業を始め、少子高齢家社会を積極的に生きていくための条件を満たし、楽しく生きていける立場にあるのではないでしょうか。と言うことで手始めに「あ・そうかい」でやりたいことと自分の立場を図1の右の用紙に 書き込んでいただきました。
図1左上の自己紹介カードは「あ・そうかい」に参加する時に各自がまとめ全員に配布したものです。当日は全員にこのカード(実際にはA4 一枚の記入用紙に自分の自己紹介情報を記入したものです)を持参していただきました。この自己紹介カードはよくできていて、この情報を転写するだけでも「あ・そうかい」でやりたいことや自分の立場の半分近くの枠が埋まります(図1の自己紹介カードから矢印の出ている8個の枠が埋ります)。
参加者の多くの方は、「あ・そうかい」に参加される前にアクティブセミナーの会に出席されており、そのあとでご自身の自己紹介カードを作成されています。そのため自己のやりたいことへの記入は容易だったようでしたが、「70にして立つ」の例に挙げたような自己の関心事については、手こずっていらっしゃるようでした。こうして、とりあえずは魚眼マンダラ法による大局的な立場から現在の行動を考える思考法を体験していただきました。注1)
自分の立場
こうしてできた「自分の立場」図には、空枠がかなりありました。そこで現状とは過去の積み重なったものとして自分の過去の経験を整理し印象深かった事を現状の枠に記入する。これまでの経験で学んだことや 身に付いたことを自分の枠の技量に記入する。そして自分がどんなことに関心持っているのか、どんな話に心を動かされるのかを整理し感性の枠に記入する。最近買った書籍や書棚に積まれた本のタイトルやホームページのアクセス傾向を思い出しながら環境や理性の枠に記入する。などでなんとか図2のように 思考図(自分の立場)が埋まるはずですと説明しました。この図は自分の立場を記入したものですから、「あ・そうかい」の活動だけでなく、今後その他のやりたいことを検討する場合にも修正しながら使えます。と言うことで、いまは思いつくことだけ記入していただければ十分ですとお願いいたしました。当初から完璧を狙う必要はありません。
図2 自分の立場
こうして、図2のほとんどが埋まります。さらに今やりたいことの枠に今できることも書き込み、それらが全てうまくいった時の夢を描きます。意外といい夢を描けるのではないでしょうか。図2の赤文字 (記入のポイント)については 「 70にして立つ」の図4自分の立ち位置の下に説明ありますので、アイデアが出しにくい時にはそちらも参考にしてください。
余談ながら、今回の図は記入のイメージを表したもので、正しい記入例として挙げたものではありません。参加者に直接役立つのは記入用紙の枠組みだけです。例えば図2の右真ん中の枠組みの3個の円は、自分の スキルを3つに分類して記述していることを表しており、LはLeaderとしてのスキル、PはProfessionalとしての スキル、Wはworkerとしてのスキルを思い浮かべて表記しています。また各枠組みの右肩上の図も左上の枠では 鳥、真ん中の枠では魚、右下の枠では虫が書かれていますが、これは鳥の目、魚の目、虫の目を意識しており、右上から左下に向かって思考空間が小さくなっていることをイメージしています。記入にあたってはとりあえず思い浮かんだことを忘れないように自分がわかる程度に簡単に記入することおすすめしました。絵であろうが、キーワードであろうがそのとき頭に浮かんだイメージを思い出せるように記入して頂ければ良いわけです。そうすれば思いついたことはすぐに書き留めることが出来、記入用紙はA3くらいでも、かなりの量の思いを素早く書き込むことができるはずです。枠組み(Framework by Examplee)に想いを(Image) 記録する(文字でも、絵でも、写真でも残せるもので)と言う極めてアナログ的な記入法です。ご参考までに。
今やりたいこと
こうして自分の夢が複数出てきたら、やりたい夢と、できそうな夢を天秤に賭け、今やること若しくはやりたいことの優先順位を決め、優先順位の高い夢をやりたい自業の最初の候補としてより深く考えていきます。
図3 自分のやりたいこと
最もやりたいことが、「あ・そうかい」でやりたいと思っていたことに絡むことであれば、図1の右上の図を元に追加修正しながら、自分のやりたいことを具体化すればいいわけです。そのときは少なくとも「あ・そうかい」の自己紹介カードに載っていなかった環境や理性については見直す必要があります。今やりたいことが「あ・そうかい」でやりたいと思っていたこととは著しく違っていた場合には、「あ・そうかい」をやめてでも、新しい自業に専念するか「あ・そうかい」を優先度の低い活動として残せば いいわけです。今やりたいことが「あ・そうかい」に関連する場合はそのまま次にすすめばいいわけです。前者の場合でも「あ・そうかい」に参加した経緯を考えれば、何らかの執着はあるはずです。そのような場合は、 図1の右上に書かれていることを修正しながら、新しくやりたいことを構成して行く方法もゼロからスタートするより楽です(転進:失敗は成長の一里塚)。
顧客価値
やりたいことが決まったら、その活動が相手にどのように受け入れられるか考えてみましょう。ここでは自業活動の対象となる人を顧客と呼ぶことにします。たとえばその人がボランティアサービスの対象で、単に商品やサービスを受けるだけでお金を払う人でなくても、その活動を喜んでいただけで自分の満足感が増える場合であれば、顧客と考えその人価値を考えることとします。
これまで日本の製造業やサービス業の多くでは、図4の赤枠に囲まれたような最高の品質若しくは最大の 機能や性能を目指して商品の開発やサービスの改善を目指してきました。
図4 顧客価値
こうした、高機能商品(製品やサービスのこと)は開発費用や事業への参入費用が高いため、自業では手に負えません。ところがこれらの商品の性能や機能がある限度を超えると多くの顧客はその全てを使いきることは出来なくなってしまします(過剰品質)。例えば、図4で言えば彼女とのデートの時自分がお金持ち であると演出するために買うような高価時計も売れるでしょうが、毎日散歩をしている多くの老人や若者は そのような必要性がなく、100円ショップで売っている時計でも十分です。同様なことは日本の他の商品でもしばしば起きているようです(起業の利益を稼ぎ出してはいるが、その顧客からみると出来ることは同じで、違いは値段が高いことだけ)。更には図4の飛行機の場合のように他の産業領域の製品とも競合したり、スマートフォンと旧型電話機のようにはるかに時代を超えた商品の間でも起きる可能性があります。そして高機能製品を製造若しくは販売している企業から見ると、低機能製品や低コスト製品に手を付けるとかなりの顧客がそちらに移行し、高機能製品の売上が急速に減少する可能性が有り、手をつけることはほとんどできません。
このようになる原因の一つに、日本の雇用制度の厳しい制約があります。会社がまだ健全なうちに、急速に売上を減らすことも辞さず事業再編成をしたくても、気軽に社員を整理退職させることができません。企業が危機に瀕した場合のようによほどのことでないと退職させられません。このため、先を見て柔軟な 起業再編成を予期する企業のなかには、事業戦略変更時等の雇用調整を容易に可能にするために、普段から 非正規雇用を増やし人員調整しやすい体制を取るわけです。他にも同じような目的で、関連会社への出向や 転籍、天下りといった方法が取られることもあります。そのようなことを積み重ねた結果、今や労働人口の約4割が非正規雇用という状況をもたらしてしまいました。その影響は高齢者のみならず、年少者や女性、更にはリストラ経験者にまで及んで来ています。そのめたリストラされるのが怖い一般社員から管理者に至る 正規雇用者も、上司の指示に忠実に従うのが最も安全と考えるようになります。同時に管理者は新規事業に 参入し失敗した時の責任を取りたくないため失敗のリスクのある新製品や新サービスの開発や事業展開を避け無難に生き延びようと努力するようになります。もっと悪くなると、目標や基準は達成した振りをすると言うことになりかねません。こうなると正規社員の多い企業は衰退する道を歩まざるを得なくなるわけです。
このような現在の日本の状況は起業家や自業家を目指す人にとってはチャンスです。アクティブシニアで企業や公共企業等で働いている人は自分の周りを見回し、過剰品質若しくは、複数の製品やサービスが絡んで人手がかかり高価になっている商品、素早く対応しなくては顧客満足を得られなくなっているサービス、やたらと間接人件費の高い企業や団体のサービス等に不満を感じている顧客を徹底的に探しそのような顧客に対してアプローチする方法が無いか考えて見てください。そしてあとしばらく企業に勤める間を、起業家や自業家になるための準備期間と割り切り、時間を作って自業家になる準備に励みましょう。アクティブシニアですでに企業で働いていない人は、これまでに経験した顧客の不満を思い起こし、自業家になるための情報として整理し自分のやりたいことを見つける準備を初めれば良いのです。
ただ自業家になるために、こんな手間をかけるのは面倒くさいから嫌だという人やほっておいてくれという人は、嫌々自業家を目指してもうまくいくはずがありません。資金的余裕があれば、無理をせずそろそろ世間と没交渉で悠々自適の生活に入ったほうが良いかもしれません。
スタートアップモデル
と言うことで、自業家を目指す人たちは、前項の最後に上げたように顧客の現状を知る機会を増やし、その中から顧客が満足していないことを知り、その要求を提供できない理由(問題点)を整理し、どのような ことを提案すれば喜ばれるかといった情報を集めておけば良いわけです。これこそ顧客の問題を解決策 策定の要件です。しかしこの段階でまだは解決策の定性的要件でしかありません。次のステップは顧客要件を 満足する定量的な条件を設定して、それに向かって活動することになります。顧客が払う費用、顧客が必要とする時期(納期)、ものであればその大きさや重量といったこと、サービスであればタイミングといった問題を整理していかなくてはいけません。
ここで言うスタートアップモデルは魚眼マンダラのいろいろな図に出てくる人、モノ、金、情報といった 経営資源をどのように組み合わせてスタートアップ活動を行うかを検討・整理・表記したものです。スタートアップモデルの表現には 「 起業のアイデアをまとめる」で解説したようにビジネスモデルマンダラ(BMM)の一部を リーンキャンバスの項目で置き換えた図5のような フレームワークを使用します。リーンキャンバスとは提案者のAsh Mauryaが Why Lean Canvas vs Business Model Canvas?で述べているように組織の立ち上げ時期に何を学んだかに注目しながら、柔軟な起業を目指して企業戦略を構築する方法を、ビジネスモデルキャンバスに修正を加えてキャンバス風に纏めてものです。図6はそれをマンダラ形式に並べなおしたものです。
図5 スタートアップモデル
この図は次の4つの次元で
・資金:コスト構造から収益
・価値:顧客セグメントから顧客の問題点
・仕組み:主要な指標から流通チャネル
・仕掛け:解決策と他社との差別化から 価値提案をいかに行うかを表現しようとしています。
このスタートアップモデルでは図の左下から右上の資金の流れを軸にした自業が継続するための必要資金を 獲得するための方策や戦略をあらわすものです。単なる組織の構造や役割を示すものとは違うことを考慮に入れてスタートアップモデルを作成する必要があります。少なくともコストとしてかかる費用だけは、自業者からの寄付も含めて、何らかの方法で集めなくては活動を続けることができないことを認識しておく 必要があります。スタートアップモデルを書きながら、何らかの収益を上げていかないと、自業の拡大も継続もできないことを肝に銘じておきましょう。
起業家思考図
ここまで 「 商品コンセプトの探索」で提案してきた多次元思考図を使って、次のような順に自業の夢を描いてきました。
1.自分の立場
2.やりたいこと
3.顧客の価値
4.スタートアップモデル
これらの図を作る過程で、内容を整理するためのメモや検討するためのメモを作ることもあるでしょう。そのような整理・検討メモも含めて、以前に描いた図の一部修正が必要となることもあります。このような時には検討が不十分だったと後悔する必要はありません。迷わす修正をしながら進めるのがこの方式の特徴ですから心配はいりませんどんどん修正していきましょう。徐々に実現性が上がってきたと思えばいいわけです。
ここまで描いてきた図を見て、具体的になりなんとなく出来そうと感じたら、図6右上の新事業への道の 第一ステップ「自業準備」を始めましょう。成功確率をあげようと、いつまでも夢のレベルアップを検討していてもなんの成果はでてきません。
自業準備とは、世の中の変化にどう変えるかも考え、それを武器に自分のアイデアが市場に受け入れ られるようにするパートナーを探し、必要な資材を受け入れ顧客届けるまでの経路といった実務的な話を進めていくことです。このステップは多くの失敗が発生するのは普通ですから、判断基準を明確にしてPDCAを 回しながら活動の充実と活動の転進を繰り返して、うまくいけば自業の開始に到達するまでのステップです。こうして自業の実施至るまでの間に使えそうな思考法も含めて図6の自業家思考図に纏めました。
図6 自業家思考図
今回説明しなかったこのあとの自業準備で使う思考図については以下の記事の起業準備の思考図を参考にしていただければ幸いです。
5.新事業の道 商品コンセプトの探索の中の多次元思考図の起承転結 https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/091.html
6.世の中を変える機会 商品コンセプトの探索 https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/091.html
7.判断 ビジネスチャンスはどこに https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/012.html
8.実施 リーン・スタートアップ https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/082.html
その他、今回何回も出てきた魚眼マンダラの考え方については注1)に簡単に説明されていますので 参考にして頂ければ幸いです。
終わりに
今回は、シニア世代の生きがい向上を目的に自業家思考図をまとめました。できた自業家思考図の自業を 起業と置き換え少々の変更をくわえれば、ほとんどそのまま起業家思考図の一部として使えそうです。また自業家の大前提は元気な体(健康)です。一方元気であればシニア以外の若者や、会社を辞めざるを 得なくなった方々、性差別に悩む女性の方々の起業等にも、この考え方を拡張できると思うのですが、いかがでしょう。となれば自業家は利益を上げること目指さない起業家の一つのパターンか、そうでなければ 結果として利益を目指すことになった自業家が起業家だとも言えるのですが(笑い)。
注1)参照HP 魚眼マンダラの作り方 https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/046.html
2015/11/18
文責 瀬領浩一