104.アントレプレナー曼荼羅
実践!アントレプレナー学より
はじめに
2016年10月11日に金沢大学の「実践!アントレプレナー学の講義」の一コマ「実践!アントレプレナー曼荼」で「商品コンセプトの作り方」についてお話をする機会を 頂きました。「実践!アントレプレナー学の講義」(後期集中講義)は次表のような構成になっており、アントレプレナーコンテストでの一連の流れの中で行われています。 学生や一部社会人にも開放した講義として、起業マインドの醸成を図り「地方創生~大学COC+事業」への寄与をすることを目的としています。
対象者は全学生30人(1年生:自由履修科目 2年生以上:総合科目)の予定です。
なぜ曼荼羅なのか
「実践!アントレプレナー曼荼羅」では、「 商品コンセプトの探索-多次元思考図による商品企画-」で述べたアイデアプールにアイデアを溜め込みそれをグルーピングして商品コンセプトにまとめる方法と、その後シニア向けに「自業の夢を描く -自分のやりたいこと楽しもう-」で述べたやりたいことをまとめる方法として作成した自業家思考図の2つを統合し、「商品コンセプトを作り出すための曼荼羅図」を作成する方法についてお話をしました。曼荼羅は単に情報を9つの要素に分類し3×3のマトリックスとして整理する表記方法として使っており、宗教的もしくは哲学的な 意味はありませんので気楽にお読みください。これまでこのシリーズで曼荼羅図が使われてきた例を注1)にあげて置きましたのでご興味のある方は そちらもご参照下さい。
曼荼羅図のポイントはこのマトリックスに横軸、縦軸、斜軸といった方向に一貫性を持たせると多次元(多くは4次元)のパラメータを直感的に考えることが出来るところにあります。また曼荼羅図は、何をするべきか、何を重要とするか、誰とするべきかといった、何を(What)を記述するのには適していますが、いかにするべきか、どのような順序でなすべきかといったやり方(How)を記述するには適しておりませんので、そのつもりでお読みいただければ幸いです。今回のセミナーの第2回以降は具体的な活動を中心としたものですが、幸い第1回目の私の部分は何をするべきかを明確にすることであると考えて、曼荼羅図を利用しています。
こうして作られる商品コンセプトを作成するための記入用紙に4つの軸を追加したものが図1です。
この図にあるように、商品コンセプト図は、次の4つの軸を同時に考える多次元思考図となっています。
1.時間軸 どのようなターゲットに対してどんな気持ちを伝えたいのかを考慮し、ビジネスコンセプトを築き上げる
2.空間軸 時代背景や課題を考慮した対象業種や地域の決定
3.仕組軸 自分の能力をもとにできることを考え、それを実現するための市場や競合関係とを選択していく
4.仕掛軸 自分のやりたいこととそれが顧客にどのように役立つのかを考えやる気が出る商品を考える
図1 商品コンセプト作成用曼荼羅の考え方
こうして今回のテーマは、アントレプレナーとして自分がどんな商品を作りたいのか、すなわち商品コンセプトを明確にすることとしました。すなわち顧客に買っていただき利用者がメリットを得ることのできるモノやサービスを明確にすることです。今後このようなモノやサービスを商品と呼ぶこととします。そのための活動を ビジネスと呼ぶことにします。
起業ビジネスで重要なことは
1.自分のやりたいビジネスであること
2.自分はそのビジネスを行う能力があることと
3.そしてビジネスを続けるためには、儲かること
の3つですが、2、3は第2回以降の講義にお任せすることとし、今回は1のテーマすなわち自分のやりたいビジネスに絞ってあります。
自業家思考図
また「自業の夢を描く-自分のやりたいこと楽しもう-」 でご提案していた自業家思考図を今回は図2のように修正して使いました。「供給方法」を「取引モデル」に「実施方法」を「今の自分」に変え、配置も異なっています。このように変更して使うことも大歓迎です。何しろ「曼荼羅図は用途に応じて、重要な項目を見つけ出し、それを書き出す手段です (「商品コンセプトの探索」で述べたようにアイデアプールに 出たアイデアをグルーピングして必要な軸を見つけて行けば良いわけです)。
図2は自業家思考図全体像を示しており、各図面は簡略化してあります。このうち次の6つについては、必要に応じて次の示すな記事をご参考にして、作成してください。
「世の中を変える機会」は「商品コンセプトの探索」の「イノベーション7つの機会」に
「狙いは(What)」は「自業の夢を描く」の「自分のやりたいこと」に
「取引モデル」は 「立ち位置のビジュアル化」の記事を読んで
「相手の価値」は 「自業の夢を描く」の「顧客価値」に
「新事業モデル」は 「自業の夢を描く」の「新事業モデル」に
「今の自分」は 「自業の夢を描く」の「自分の立場」や「70にして立つ」の「自分の立ち位置」に
似たような図があります。
これらの図を参照しながら、自分用の図面を作成していきます。この時も上記記事に載っているのはあくまでもフレームワークのサンプルと考えて、自分のケースに 合うように修正しながらアイデをまとめてください。(FBS:Framework By Sample の取り扱いです)アイデアを書くのはA3用紙で、筆記用具は鉛筆をお勧め致します。 (1枚Best,A3 Beterです:一つのアイデアはせめてA3 一枚くらいの内容があり、それでいて一目見て理解できる程度に圧縮していただきたいとの考え方です)。 また1度作成した資料も必要に応じて修正を行うことを原則としているため、消して書き換えができる鉛筆を使うことをお勧めしています。ファイル共用システムを使うのでれば、鉛筆にこだわる必要もありません。この時大切なことは、一枚の図に書かれた各項目は、記述されてA3一枚の範囲では、矛盾が無いように心して記入する必要があります。また「新事業の道」、「強みはどこで」、「評価」は今回使わないので作成する必要はありません。
こうして作成した「今の自分」の例を図3に示します。図3にあるように曼荼羅図の一コマを詳細に書くときにも、曼荼羅図を使うのが良いかと思います。こうすれば必要に応じて内容を逐次精細に記述することも可能となります。マインドマップの展開や製造業の部品図作成と同じ考え方です。
商品コンセプトのつくり方
こうして作成した自業家思考図から、必要な項目を抜き出して、商品コンセプト図に転記していきます。たとえば、図4にあるように、図3に取り上げた「今の自分」の 図からは、「感性」の項目と「資源(技量)」の項目をそれぞれ、商品コンセプト図の「情報価値」と「現在の自分」に転記することになります。
同様に、図5にあるように、自業家思考図の「世の中を変える機会」からは「商品コンセプト図」の「ターゲット/インサイト」に、「狙いは」からは 「背景/課題」並びに「対象とする業種・地域」に、「取引きモデル」からは「市場・競合環境」へ、「相手(顧客)の価値」からは「機能価値がどう役立つのか」 そして「新事業モデル」からは「ビジネス・コンセプト」に転記する情報が得られそうです。他にも転記できる情報があれば、「商品コンセプト図」に転記致します。
図5 自業家思考図から商品コンセプト図への展開
こうして、必要な転記が完了すると、図6のように商品コンセプト図の周りの8つのコマはすべて埋まります。
図6 商品コンセプト曼荼羅の8コマ
図6の外回りの8コマそろったところで、ざっと見回しそれらの記入内容に矛盾や曖昧な項目がないかをチェックします。矛盾や曖昧といった不都合な部分があれば、その項目を修正すればよいわけですが、その修正が元となった自業家思考図の他の項目とも矛盾しないかチェックし、必要なら自業家思考図の方も修正してください。
自業家思考図からの転記が完了したあとは、図6の矢印で示されているように、周りに転記された情報を参考にしながら、中心の商品コンセプトの各項目を記入 していくことになります。この時図6を見れば分かるように、かなり情報を圧縮し、分かりやすく書く必要があります。
こうして作成たフレームワークの例が図7です。
この結果と自業家思考図作成の全体的整合性を取れれば商品コンセプト図の第一案(プロトタイプ)が完成となります。以降自業を勧めながら、問題点があったり いいアイデアが出てきたら修正をしていきます。
図7は、自業塾ビジネスを行いたいと考え、商品コンセプトを作成したときの例です。ただこれが自業塾ビジネスの商品コンセプトであると主張しているわけでは有りません。今回の私のセミナーでは、図1のような記入フォームを配布する代わりに、仮想のケースをあてはめた図7のような図をFBEとしてお配りしました。
今回のセミナーの宿題は、各自が自分のやりたいケースについて、図7のような曼荼羅図を作成し、提出いただくことにしました(宿題)。そのために自業家思考図の データを使って、「商品コンセプト図」を作成する方法を整理しまとめた次第です。
おわりに
ここまで来ると、自分のやりたいことはかなり明確になります(新自業の道:起です)。
ただまだそれが実現可能であるかはわかりませんが、自分自身の能力や人脈の範囲でできそうなことを見つけ、まずは自業の範囲で初めて見ることです。学生であれば アルバイトとして、仕事についている人は副業として、退職して時間のある人はボランティアとして始めるのが良さそうです(新自業の道:承です)。
ある程度目処がついたら、小規模な自業として継続可能であるかどうかを実証します(新自業の道:転です)。
これらの活動を通じてえられた実績をベースに起業を考え、必要資金の獲得のための創業計画書を作成し、外部資金の獲得ができるようになった時を起業可能時期と 考えたらいかがでしょうか。たとえば、自業家思考図の評価のところにあるような日本政策金融公庫に提出する創業計画書を作成し融資を受けられるようであれば、金融機関 からも評価を得られているわけですから、外部評価もある程度得られていると考えて起業(創業)に踏み切ることができそうです。(新自業の道:結です)それまでは 自業としてビジネスの改善を進めるのも一つのアイデアです。
日本政策金融公庫の創業計画書のダウンロードサイトはhttps://www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.htmlですのでここから自分に関連のありそうな情報を ダウンロードすることができます。ちなみにソフトウエア産業についての創業計画書の記入例はhttps://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/kaigyourei05_150401g.pdf よりダウンロードできます。
注1: たとえばこれまでにこのシリーズで使われているマンダラ図には次のようなものがあります。
103.悪夢と夢とは表裏一体では日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマを整理するために
102.原宿のイルミネーションでは、立ち位置で見えるものが違うことを説明するために。
101.シリコンバレーに学ぶ人材活用術では講演で内容の説明のために
100.自業の夢を描くでは、自分の立場と自分のやりたい事をまとめるために
96. IBM流働き方をお聞きしてでは、自分自身のデジタル資産を整理するために
92. 70にして立つでは、シニアになり経験も豊富になった人が「自分の立ち位置」を明確にするために
91. 商品コンセプトの探索では、多次元思考図の考え方を使ってイノベーションの機会、商品企画の整理するために
90. 日本企業の飛躍に向けてでは、大前研一氏の公演内容を整理するために、
80. 起業のアイデアをまとめるでは、「ビジネスモデルキャンバスで」提案されているキャンバスをマンダラ風に並べ直して、多次元から起業のビジネスモデルを考えることを可能にするために
68. 経営者のためのPDCAでは、起業経営者となった場合のビジョンを整理するツールとして使うために
60. 産学連携の夢を見ませんかでは、産学連携のテーマを決めるために
48. 訪問企業の情報整理では、企業に何かを提案するときに相手が興味を持っても会ってもらえるような自分の強みを探すために
47. アイデアのモジュール化では、プレゼンテーションを整理するときの補助システムとして、9つに分けて考えることを提案するのために
46. 魚眼マンダラで一枚にでは、なぜそんなことを思いついたのかと基本的な表記の考え方を説明のために
44. ベンチャーならどうするでは、電気自動車について、考え方を整理するためのフレームワークとして使用するために
42. たった一人の発案者では、一人で物事をまとめるときのアイデアを整理するために
といろいろなケースで使ってきました。
2016/10/27
文責 瀬領浩一