122.過去の中に未来を見る
- アクティブ・シニアにチャンス -
はじめに
「120 アクティブ・シニアの貢献」 では、アクティブ・シニアが幼児期記憶を思い出すことにより、現役社会の人やこれから現役になる若い人に役立てることを述べました。しかし幼児期記憶を思い出すということだけではやり方のイメージが分からないので、今回は過去の雑誌や文献を利用して幼児期記憶を思い出し、その後の活動に役立てる方法を一つまとめました。
幼児期記憶を補強する方法
今回説明する幼児期記憶を補強する方法は次の4ステップです。
1. 自己紹介図を作成
2. そこに思い出せる幼児期の活動記憶を追加
3. 幼児期のことを思い出させてくれそうな書籍やホームページを使って納得できる情報を集め、思い当たることを探す
4. 思いついたことを参考に何か活動を開始し確認
1 .自己紹介図を作成
新しい仕事のやり方を考えるのですから、自分は何をやりたいのかそしてその仕事が自分のやりたいことに役に立つものであることを確認できなくてはなりません。仕事は他の人と一緒にやるのですから、自分のやりたいことを織り込んだ自己紹介図を作成することとします。これなら自分のやりたいことを他人と共有できます。以前「80 起業のアイデアをまとめる」で示した自己紹介図があったので、それを私の場合に当てはめてFBE(Framework By Example)として作成したのが図1の自己紹介図です。
ここには、自分の体験してきたことに加え、過去の資料や混乱の時代の記憶から、将来ありたい時代までを描いています。この図の左下の「混乱の時代」には、もの中心の時代には多くのものを集めようとしてついに破壊と憎しみを招く戦争を起こしたり、必要な材料やエネルギーを調達することに注力し、地球環境を破壊してきた時代を反省し、今後はこの図の右上に「夢」として使えば使うほど増えるものを作りたいと言う思いを表現しています。
2.幼児期の活動を追加する。
この自己紹介図を作成するために使った手順は「66 大学はやめないぞ」で紹介したPrepare for yourselfすなわち図2の「自分への備え」です。
図2で赤い大きい文字で記入してあるのが黒枠でまとめた起承転結の4つのステージをつなぐ8つの手順です。ステップ1で重要なことは経歴を整理するときに、通常の履歴書を書くように学歴や職歴だけでなく、そこでどのような立場でどのような重要イベントをこなしたかも書いていることです。ステップ1とステップ2につ いては、このシリーズの「102 原宿のイルミネーション」の図5「重要イベントは何か」に作成例と説明が載っています。そこに幼児期前後の記憶をもとに出来事を追加し、それも含めてステップ2のイベントの意味を考えます。
このような作業を行っていくと、現在60代から70代のアクティブ・シニアの世代の人たちは、昔は家の周りにいろんなお店があった、それがいつの間になく なっていることを思い出します。例えばお向かいの魚屋さんも隣の菓子屋さんも、畳屋さんも、近所の米屋さんも、お豆腐屋さんも、金物屋さんも、木賃宿も、 今や一軒もない。なぜだろうという疑問もわいてきます。こんな時に自宅のそばにある歴史博物館のようなところを訪れ、ほかにも何が変わったのかを知るとさらに自分の記憶を補強することになります。
この結果を踏まえて必要なら、自己紹介図を更新します。
3.情報収集
こうした情報収集の方法としては、ほかにも現場訪問、インターネット、書籍、セミナー出席、展示会場訪問等いろいろ考えられますが、今回は次の書籍を中心とした例を報告いたします。
「世界が称賛する日本的経営」
今回のテーマはアクティブ・シニアの幼児期記憶を生かすことが活動を考えていましたので、まずは身近なお話で少し前の時代を対象とした本をえらびました。地域社会の本もいろいろありましたが、現在につながる過去を生かす方法について述べている伊勢雅臣氏著の「世界が賞賛する日本的経営」を参考にしました。
この本のまえがきでは、図3にあるように株主資本主義的経営と日本的経営を「三方良し」の考え方に基づき比較しています。「三方良し」は近江商人の心得として伝えられてきた「売り手良し、買い手良し、世間良し」のことです。欧米の言葉で言えば「売り手良し」は「Employee Satisfaction」、「買い手良し」は「Customer Satisfaction 」、「世間良し」は「Corporate Social Responsibility」に相当します。ここで日本的経営として取り上げているのは、江戸時代から昭和の初めに至るまでの日本企業の経営であり、現在の日本で主流となっている経営方法(ここではそれを株主資本主義的経営と呼んでいます)ではありません。
「世界が称賛する日本的経営」、伊勢、2017、p3まえがき を参考に作成
図をクリックすれば詳細図が見られます
株主資本主義的経営と進化型組織
前回の「121 タテ社会からの脱皮」の図3「進化型組織の概要」に描かれていた活動のうち「活動の場」を株主資本主義的経営の「世間良し」で、「学び」を株主資本主義的経営の「買い手良し」で、「自分の力」株主資本主義的経営の「売り手良し」で、「個人の立場」を「IoT時代の生産性」で置き換えたのが図4です。
図4 株主資本主義的経営の活動項目
参照 「121 タテ型社会からの脱皮」 図3を参考にして作成
図面をクリックすれば詳細図が見られます
この図では「進化型組織図」に書かれていた部分は緑色の文字で、「三方良し」から取り込んだ「世間良し」、「買い手良し」、「売り手良し」、「IoT時代の生産性」は黒字で、記入してあります。
緑色の「進化型組織図」のフレームワークと黒文字の「三方良し」のフレームワークのつながりを見ると次のようなことがわかります。
株主資本主義的経営では株主の「短期的投資収益」を最大の目的としており、利益のためにはM&Aの時のように会社も売り買いの対象となっていることでわかるように「売り手」とは株主です。株主の利益中心主義は、「三方良し」の「IoT時代の生産性」での「人間は成長する存在である」という働く人を中心とした考え方とも、相反する状況にあります。
さらに株主資本主義的経営の「世間良し」では社会の法律を守っている限り、自由に活動すればよいとなっている。この結果組織の活動ゆえに事故が発生したり、新しい環境破壊を起こしても、それだけでは重大な問題と考えることなく法律的な問題があるかないかを争います。これではいけないと裁判員裁判の制度で国民が裁判に参加することができるようになり、時には現在の法律が憲法に反していることが議論さ れることもありますが、裁判の案件は最終的には現在の法律に反しているかどうかで討論されています。
同様に株主資本主義的経営の「買い手良し」に書かれているビジネスは経済的取引であり、契約に反しない限り、顧客のためを考える必要はない」という原則は「進化型組織」の組織の持つべき「魂」 尊重とは相反する可能性があります。すなわち現在の日本社会での紛糾は、やっていることが人や社会に害をもたらすかどうかではなく、契約に反しているかいないか を争うこととなっているからです。したがって、発生した問題を他人のせいにすることなく、担当するチーム員自らが自分たちの解決方法を検討する進化型組織の考え方とは整合性が取れません。
いずれにしても、進化型組織を目指すと、株主資本主義的経営は相当方針を修正する必要が出てきます。これが前回の「121タテ社会からの脱却66」で述べたように、達成型組織の既存企業が進化型組織に移行することが難しい原因の一つです。
日本型経営の場合
同様な置き換えを日本型経営について行ったのが、図5です。
日本型経営の「売り手良し」に売り手に従業員と株主の両者が入っているため、従業員の就業機会や生きがいを実現することになり、「三方良し」のIoT時代の生産性での「人間は成長する存在である」という働く人を中心とした考え方と一致しています。
さらに日本型経営の「世間良し」では、社会の必要とする商品やサービスを提供しますが、組織の活動ゆえに事故が発生したり新しい環境破壊をした場合、問題を自分のこととして考え他人のせいにすることなく解決を図るとする進化型組織の考え方とも一致しています。
日本型経営の「買い手良し」に書かれているように、企業は顧客の求める商品やサービスを適正規制な価格で提供し、その信頼を得ようとつとめることは、「進化型組織」の組織の持つべき「魂」と同じ方向です。
ということで、進化型組織と、日本的経営とは、同じ方向であることがわかります。
この日本型経営を計画する時に参考になるのが、「119 自助の精神でニューエリートに」 でも検討した「西国立志編」です。この時は「西国立志編」の目次の中からの行動にまつわる部分を抜き出しマインドマップとして表ましたが、今回、これを図6のようなマンダラ図に描き直しました。この図は個人の立場から見た「働き方」です。そして組織の立場から見た「働かせかた」ともいえる「進化型活動項目」と相性も良く相反も感じられない。この関連で言えば図1の自己紹介図は個人の立場から見た「希望」です。
図6 西国立志編活動関連図
図面をクリックすれば詳細図が見られます
図6の学習の部分を拡大するとそこには、学習の支援となる心構えを身に着けるために行うために必要な次にあげるような20個の項目が載っています。
1-10 偉人の伝記をひもとく
1-20 勤勉に励み続けることで成功を勝ち取る
1-34 自ら助くる人となる
2-2 労働は最善の教育の場である
4-6 反復こそが技術習得の最短距離である
5-20 前例にとらわれない思考が大きな成果を生む
5-26 メモをとることの重要性
6-3 自ら時間を作り出して学習に励む
8-3 つまらない骨折り仕事こそ最善の教育の場である
9-6 自分自身の力で自立する方法を見つけよう
9-10 自らの非は素直に認めよう
11-33 苦難は最善の学校である
11-12 書物は目的を持って読む
12-15 良書から偉人の心を学ぶ
12-16 伝記を読むと人生が変わる
12-17 偉人の功績というバトンを受け取る
11-22 自己修養が自らを幸福にする
11-29 困難は最善の教師である
11-30 知恵は失敗から学ぶ
11-32 逆境は人を天に導く階段である
この各行は西国立志編の目次を書き出したものです。例えば最初の行は「1-10 偉人の伝記をひもとく」ですがその最初の数字「1」は編番号、次の数字「10」は編の中の項目番号、その次の「偉人の伝記をひもとく」が項目のタイトルです。ここを見るだけで、学習時に何を行うべきか、どのように行うべきかがわかります。この行は「第1編の自助の精神の第10項には偉人の伝記をひもとく」 が書かれていることを表しています。そこで、この項目を見るとそこには「偉人の伝記、特に善人や君子と呼ばれる人の伝記は・・・・・・自分の名誉を維持していく力を維持・・・・・可能にする」といった記事にたどり着きます。こうして「上記の20項目には、このような学習に関する項目が挙げられています。最後の行の「11-32 逆境は人を天に導く階段である」などはまさに「進化型組織」が言っていることと同じです。
すなわち「進化型組織」の中で個人の希望を満たすためには、「西国立志編」に書かれていることを学び、実践していくのがよさそうです。この本にはこのような項目は 200個くらい載っています。内容は考え方と事例等いろいろです、中には同じようなテーマを違った角度から見ているものもありますが、大変参考になります。一度はこの本を読み、心構えを作り、その後問題が発生した時には、問題の種類に合わせ図6の西国立志編活動関連図から関連記事をいくつか見つけ読み返すか、慣れてくればこの本の目次を見て関連記事を見つけ、改めて心をひきしめるのが良さそうです。この本は100年以上前に、サミュエル・スマイルズの書いた「自助論(Self Help)」を中村史郎氏が翻訳し、それを金谷俊一路が現代語に翻訳したものです。元本のSelf Helpと比べると相当中村氏の意図が入った、当時の日本の時代環境を反映させ翻訳です。この本は当時ベストセラーとなりました。
「119 自助の精神でニューエリート」 にあるように、福沢諭吉の「学問のすすめ」も同様な本にですからこちらも参考にすることができます。どちらの本も約100年前に日本で出版されたものですから、アクティブ・シニアの祖父や曽祖父の時代の人たちが勉強した時代のものです。従ってその時代に家の書棚にあった可能性は高いのです。しかしまだ字の読めなかった幼児期であった当時のアクティブ・シニアには、両親の働き方を見て学ぶよりほかはなかったはずです。そのころの両親や祖父の行動を思い出し、残されていた古い本を読めばその中で、幼児期の記憶を思い出すことも可能になり、重要なヒントを体験できます。そのような本が無いかたは図書館に行きそれらの元本を読むか、その現代語訳を読んで理解することをお勧めいたします。
4.解ったことを参考に活動を確認する
今思えば、わたくしは「104 アントレプレナー曼荼羅」で検討した自業への「起承転結」の考え方を使って「114 事業計画の書き方で」検討し計画を立てたがうまく実行できなかったので、「113 自業戦略と計測尺度」 で検討したような戦略変更を行いました。しかしチーム員の中の最も重要なメンバーが転居により参加できなくなったこと、チーム員と情報共有のベースとしていた、ソフトウエアも間もなく使えなくなるということが分かり、自業の継続が難しくなりました。アクティブ・シニアの皆さんの多くは他のチームにも参加しており、他のチームでもそれぞれ別の役割を担っています。というわけで、プロジェクトは一時停止の状況になっています。
いまは、改めてチーム員と話し合い、西国立志編や進化型組織の考え方に基づいて計画し直し、改めてチーム員と話し合い、可能なら新たにメンバー を募りなおして自業塾をやり直したいと考えているところです。すなわち、「121 タテ社会からの脱皮」 の図5進化型組織の道の「転」のステップのOODA(Observe Orient Decide Act)ループの決定のプロセスにいます。ソフトウエアの変更、新しいメンバーの追加ができれば再び実行に入り、さもなければEXITとして決着をつけたいと考えています。
あとがき
幼児期記憶を思い出すためにいろいろ工夫して、古い時代の「記憶を探る活動」がいつの間にか、進化型組織というこれからの組織構造に近づくきっかけとなり、それを実施するためには「西国立志編」にあるような100年も前の心構えが参考になるということに気づきました。すなわち
「過去の中に未来を見た」ということです。
これは発生した問題を他人のせいにすることなく、自分たちのチームの問題として、自らが検討していくと自然と進化型組織に近づくという例です。
現在はインターネット、AI、IoTといった新技術が普及し始めています。これらの技術を使えば、これまでのように複雑で時間のかかる、階層組織的情報報告や意思決定や状況判断は瞬時にできるようになります。このような情報社会がきたのですから、日本的経営組織で日常の仕事を推進する体制を構築が可能な時代となったようです。
進化型組織の実施のタイミングは新たな最高権力者が任命されたときに発揮する「リーダーシップ」とチーム員に西国立志編にあるような「天は自ら助くるものを助く」の精神がある時です。すなわちベンチャー企業立ち上げの時、新規事業の開始の時、企業危機時の組織再編成のといった時がそのチャンスの例です。
起業を目指すアクティブ・シニアの皆さん、日本の将来のために頑張りましょう。
参考文献
グジバチ、『2025年の「ニューエリート」像』、「2025大予測」_Associe最終号
S・スマイルズ著・中村正直訳・金谷俊一郎新訳、「現代語訳 西国立志論」PHP新書、2013
伊勢雅臣、「世界が称賛する日本的経営」、育鵬社、2017
福沢諭吉・斎藤孝訳、「現代語訳 学問の勧め」、2019
文責 瀬領 浩一