人と地域のWEBマガジン ISHIKAWA DRAWER

Takeshi Nagura

株式会社グランゼーラ 代表取締役CEO
名倉 剛

Credo
#06
2017.02.06

Introduction

株式会社グランゼーラは、「絶体絶命都市」シリーズ、「マンガ・カ・ケール」など、プレイステーション4やスマートフォン用のゲームを制作しています。少年のように目を輝かせながら、ゲーム制作にかける熱い思いを語る、名倉社長のクレドをお伺いしました。

Q.1

御社のクレド(信条・行動規範)、教えてください。

20年近く前の話になりますが、それまでぼくはストーリー性のあるタイプのゲームを作ったことがなくて、初めてそのようなゲーム制作に取り組むことになりました。震災で壊れた街の中で青年が生き延びるゲームです。青年は新聞記者で、赴任先である街にやってきた時、巨大地震に遭遇します。そこで橋が壊れたり、コンビニの中で食糧を探したり、逃げ遅れた人と出会ったり、自転車で逃げたり、赴任予定だった新聞社に立ち寄り編集長を助けたり…という出来事をゲームの制作開始段階でシナリオとして書き留めました。その時点では、こんなの本当にできるんだろうか?という不安といつも隣り合わせでした。しかしそのゲームが完成した時に、「ゲームって、作っている人がこういうものを作りたい!こういうものにしたい!という想いさえあれば実現できるんだ」と強く感じたんです。それ以来、前例のないものを作ることを常に目指し、ゲーム制作に取り組んできました。今の自分が実現できそうな範囲でゲームを作ろうとしても、新しいもの、プレイする人が新鮮味を感じてくれるものは作れないんですよね。ぼくが考える「おもしろいものを生み出せる人」というのは、「どんなものを作ればいいか、どんなものを作りたいか?」と「それが実現できるか?」を分けて考えられる人。まずは実際にできるかどうかは気にせずに、「こんなゲームが出せたらいいな。こんなものが世に出せたらきっと寝ずに遊んでくれる人がいるだろう」という「想い」が先にあって、実現可能性を考えるのは、作りたいものを十分に膨らませてからでいい。このようなことを徹底して、新鮮味のあるものが実現できた時っていうのは、ユーザーさんも反応してくれる、びっくりしてくれる。その時は組織を運営する者としてもクリエイターとしても喜びが大きいです。ぼくは、そこにこそ会社としての存在価値を感じています。だからアイデア段階で「こんなのできないと思うんですけど」って言ってくるスタッフがいたら、「あなたが思っているより世の中は進んでいて、できないと思ったことでも大概のことは今この時点でできると思う。だから、最初から諦めるな」とよく言っています。今できないと思っていても1年後、いや半年経てばできるかもしれないし、もうどこかで始まっているかもしれないですしね。

Q.2

「働く」って、なんですか?

ぼく自身は、あまり働いているという感覚がないんです。社会人になってから20年以上ゲーム制作の仕事をしていて、たくさん残業をしたこともありますけど、あんまりしんどいって思ったことがない。今は特に、自分の作りたいものを作るために会社も立ち上げたわけですし、ぼくにとって「働く」というのは自分の作品を作る行為そのもの。生きがいとイコールなんです。じゃあスタッフのみんなにもそれを要求するかというと、そんなことはなくて、自分と同じような「何もかも投げうってでもゲームを作る」という働き方をさせたくないという気持ちが強いです。以前は、正直言って自分と同じように持ち得るエネルギーを全てゲーム制作に注ぎ込むことをスタッフに強く求めていた時期がありました。しかし、それではうまくいかないことがよくわかったんです。だから今は、スタッフにはメリハリのある働き方をしてもらって、オフをきちんととってゲームのネタを仕入れてきてほしい。ゲーム制作だけでなく、映画や釣り、デートに行ったりした方がいいよっていうのはよく言っています。ただ、制作の締め切り日が迫っている時に「今回は、どうしてもここまでやりたいんだ」とぼくが言って、スタッフが「やりましょう!」って盛り上がる時はとことんやりますけどね。

メリハリをつけつつも、本人たちが「これは自分が作ったゲームだ」と胸を張れるような仕事にしたい。ゲームを作って、完成した時の達成感ってすごいんです。もう、何にも変えられない。何万人もの人が自分たちの作ったゲームを買ってくれたとか、自分が考えたキャラクターの名前をファンの人がネット上で呼んでくれているのを見ると、「自分がこれを生み出したんだ」って実感がすごく湧いてくるんですね。それを何回か味わっているのでこの仕事を続けられているのだろうと思います。ゲームの制作は地道な作業の積み重ねで、制作中はストレスも溜まります。ユーザーに面白いと思ってもらえるゲームを作るには徹底した工夫が必要ですし、スタッフ一人ひとりが、担当しているゲームを目標とする品質に到達させるためにチーム内で擦り合わせを繰り返したりと、毎日が試行錯誤の連続。ですが、苦労が大きければ大きいほど、達成感も大きい。完成した直後は、もう当分ゲームは作りたくないなって思うんですけれど(笑)、ぼくには他に同じような達成感が味わえるものもないし、結局はまたゲーム作りたいなってなるんですよね。

Q.3

いしかわで働く意義って、なんですか?

ぼくは大阪生まれ大阪育ちで、初めは大阪で働いていました。たまたま縁があって石川県に来ることになったのですが、最初はとんでもないところだと思いましたよ(笑)。当時は車を持っていなかったので交通機関がないことに途方に暮れて。住み始めてから2年間くらいは不満が多かったですね。でも途中で沁みてきたというか、むしろここにこそ全部あるなと感じたんです。自然があって生活の中に情緒があって。街自体が、車で移動することを想定した設計になっているんだってことにも気づいて。不便だったのは、ここに住むことに合っていない暮らし方をしてただけなんだって思い始めたら、全部が良く見えてきました。

ゲーム制作ということで言えば、別にどこででもできるんですよね。よく取材で「どうして金沢に会社を作ったんですか」と聞かれるのですが、逆に「東京じゃないといけない理由って何ですか」と聞き返すんです。スタジオのある野々市から世界37か国にオンラインのデジタルコンテンツを配信したこともありますし、都会でなければいけないことって全然ない。実際、アメリカのゲーム会社もシアトルの郊外にあったりしますしね。満員電車にも揺られないで済むし、スキー場も海水浴場もあって、仕事帰りに温泉に寄っていける。ゲーム制作ってこういうところでやるものじゃないかなって思います。もっと言えば、賃料が安いおかげで、スタジオ内にモーションキャプチャの部屋までつくることができました。モーションを撮って、隣の部屋で加工して、できたらすぐにプログラムに組み込む。朝会社に来て、「今日はこういう動きを撮ろう」って言ったら、夕方にはもうゲームに組み込めているんだからすごいですよ。都会でないからこそ出せるスピード感がある。まさに、石川県だからできることです。

Q.4

休日の過ごし方、教えてください。

喫茶店に行くのが好きで、一度お店に入ると8時間くらい本を読んだりします。趣味で読んでいるつもりなのに、結果として仕事のネタ探しになっているんですよね。ギャンブル小説なんか読んでいると、「これいいよな、こういう世界観のゲームが作れたらいいよな」って。気分転換で映画を見ていても、「うまいことCGを溶け込ませているな」とか、「こんな角度から撮影しているのはおもしろいな」とか。最後のスタッフクレジットを見ていて「今作っているゲームのクレジットのスクロール速度はちょっと早すぎるかな」などと気になってしまう。それで思い立ったら結局会社に行っちゃって、資料を作ったり、ゲームのチューニングをしています。
ですから、ずっとゲームのことを考えているという意味では平日と休日の差がないんです。平日はスタッフから相談を受けたり、打ち合わせで制作するものを説明することに時間を費やすけれど、休日は一人でゲームを考えることに集中できる。みんなと一緒にゲームを作れるのが平日の価値だとしたら、一人で自分の作りたいものに没頭できるのが休日の価値ですね。

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  • ゲームの試遊中、「どうしたらもっと良くなるかを考えているとキリがない!」
  • モーションキャプチャ専用カメラが人の動きをスーツのマーカーで捉えます。
  • 制作室はまるで図書館のように静か。みなさん集中しています。
  • 「絶対絶命都市」は、201X年7月、地震発生直後の街が舞台。
  • 「いしかわ大学連携インキュベータ」内に制作スタジオを構えるグランゼーラ。