金沢大学先端科学・社会共創推進機構

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北海道埋蔵文化財センター出張報告

北海道埋蔵文化財センター出張報告

先端科学・イノベーション推進機構
ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー
博士研究員 宮田佳樹

 2017年11月29日から12月3日まで、北海道江別市にある北海道埋蔵文化財センターで対雁2遺跡出土土器試料調査(図1)および,豊平川サケ科学館,千歳水族館にて、石狩川遡上サケ試料に関する研究打合せを行った。

 今回の研究テーマは,縄文土器表面に付着する炭化物(コゲ),その炭化物自身や土器胎土に吸着する脂質,これら2種類の残存有機物の(放射性炭素年代を含む)同位体比をバルク(全試料),分子レベルで分析し,バイオマーカーとなる残存有機物組成を検出し,土器に残された有機物から,サケマス類を同定する手法を確立すること(図2)。そして,縄文時代以降の食料獲得戦略の中でサケマス類の果たした役割を評価することである。石狩川(北海道)流域にある対雁2遺跡から出土した縄文時代晩期後葉(大洞A式)の内面土器付着炭化物(コゲ)の炭素年代測定,安定同位体,C/N比分析の結果(坂本ら,2005)を,横軸にδ13C,縦軸にδ15N,C/N比をそれぞれ取り,プロットした所,(陸獣を含む)C3植物と海獣類という二つの端成分の間にサケマス類と推定される端成分を見いだすことができた(図3)。しかも,分析した大洞A式という土器の年代観から300~400炭素年古い海洋リザーバー年代を示した。ちょうどこのリザーバー年代は,成魚になったサケマス類が母川回帰する前に,日本沿岸で餌を摂取した結果と考えると整合的である。このサケマス類など遡上魚の影響を強く受けたと推定されるコゲが付着した大洞A式土器の胎土から抽出したパルミチン酸とステアリン酸の分子レベル炭素同位体組成を分析し,現生日本産生態試料と比較したところ,サケマス類や海産物の領域にプロットされた。これから,対雁2遺跡とサハリン島を含む北海道島の遺跡出土土器の脂肪酸の分子レベル炭素同位体組成や脂質組成を比較して,特に,東日本で,冬期の保存食として活用されたであろうサケマス類の影響を検討したい。これらの研究結果に関しては,2018年7月6日~8日に第35回日本文化財科学会で"縄文人はサケを食べていたのか!?-土器残存脂質分析から見た北海道内陸部のフードスケイプ-"として,発表する予定である。

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図1.対雁2遺跡出土大洞A式土器

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