金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

5.時代の変化は起業のチャンス

- がんの補完代替医療のシンポジュームより -

 去る7月04日に東京ヤクルトホールで、がんの補完代替医療のシンポジュームが開かれました。このシンポジュームに出席して感じたことは、これまで、研究者の間で暖められてきたアイデアがいよいよ、この世に姿を現してくるのではないかとの、予感でした。新しい、アイデアは危険を伴います。既存の大企業が参入するには、各種の障害がありそうです。ベンチャービジネスのような危険を承知のビジネスマインドを持ったグループの活躍の場のように感じられました。以下そのへんの様子をちらり。

がんの補完代替医療シンポジューム

 シンポジュームのプログラムは、下記のとおりでした。

基調講演  
「サプリメントの科学的検証と安全性の評価」  
住吉 義光 四国がんセンター 第一病棟部長  
座長:太田 富久  金沢大学大学院自然科学研究科 生理活性物質科学講座 教授

特別講演  
「Rapid Programによるがん予防剤研究開発について」  
Izet M.Kapetanovic, Ph.D. 米国国立がん研究所(NCI)がん予防部ラピッドプログラムディレクター  
座長:笠貫 宏 東京女子医科大学 循環器内科主任教授14:40~15:40

パネルディスカッション 
「がんの補完代替医療」  
座長:高崎 健 東京女子医科大学 名誉教授

パネリスト  
Izet M.Kapetanovic, Ph.D. 米国国立がん研究所(NCI)がん予防部ラピッドプログラムディレクター  
住吉 義光 四国がんセンター 第一病棟部長  
鈴木 信孝 日本補完代替医療学会 理事長  
大野 智 金沢大学臨床研究開発補完代替医療学 准教授

 上記プログラムにあるように金沢大学からも 太田 富久 教授、鈴木 信孝 日本補完代替医療学会 理事長、大野智 准教授が座長やパネリストとして、出席されていました。次の写真は左が太田先生、真ん中が Izet M.Kapetanovicディレクターです。

 シンポジュームの参加者は約400名、企業の方、研究者、個人といろいろな立場の方が参加されていたようです(参加者の服装と、行動から推測です)。

がん患者の3割位はサプリメントを利用している

 住吉義光病棟部長のお話にもあったが、がん患者のうち、30%から40%のかたがサプリメントを利用しているとのことでした。 氏の説明を聞くまでもなく、がん患者はサプリメントを食品ではなく抗がん剤ひとつとして利用していることは容易に推察できるところです。そのあと、Katepetanovic氏から NCIのRapid Programに基づいた、がん科学予防剤の開発の事例との過程とそこで発見されたデータについての説明がありました。特に緑茶抽出物については、身近なものとして大変興味をそそられました。

 「がんの補完代替医療」のパネルディスカッションで、私の注意を引いたのは薬用植物についての議論でした。部外者の私には理解を超えるものではあり、詳細はわかりかねましたが、これまでのシード化合物発見とは異なった方式で、天然食品の中から治療効果があるものを見つけ出していこうということのようでした。

 このシンポジュームを通して、感じられたのは、サプリメントは薬ではなく、また主成分が自然原料であるものも多く、それゆえにその他成分のなかに、食品としての安全性が保障されない成分が含まれる可能性にどう対処していくかというろでした。このような安全性の検証のひとつとして、米国FDAはダイエタリーサプリメントについて、2007年6月22日に、汚染物質や不純物混入の防止、 正確な表示の確保を目的とした、current Good Manufacturing Practices (cGMP) の最終規則を発表しています(URLhttp://www.fda.gov/bbs/topics/NEWS/2007/NEW01657.html 参照)。最終のcGMPは2007年8月24日に発効される予定で、この規則により製造業者は有害物質の混入がなく、またラベルに表示されている通りの製品の提供が義務付けられるようになるようです。cGMPは、事業者の規模によって異なる猶予期間となっていますがまもなく実施されることだけは確かです。こうして、少なくともダイエタリーサプリメントについては、安全性の確保についての試みが始まってきてるようです。

何か変化が始まろうとしている

 下の写真は、シンポジュームの後、廊下で参加者同士が話しあっている様子を撮ったものです。参加者のほとんどは、シンポジュームの終了と同時に帰られましたが、中には居残って、写真のようにお互いに話あっている人もたくさんいらっしゃいました。このシンポジュームは仲間つくりのチャンスになっているようでした。さらに医療組織とは関係のなさそうな奥様方も、集まって何かを話あっていました。シンポジュームを契機に、何かが始まろうとしているようです。 不治の病とも言われる、ガンを克服しようと、集まってきている人たち(製薬企業の人だけではない)の静かな動きのようなものを感じさせられました。

 また、ダイエタリーサプリメントにおけるcGMPのような動きも加速されてくるような状況です。いよいよ、これらの動きをビジネスチャンスとみなすグループの出番が来たようです。スキルあるプロフェッショナルと企業化のプロデューサーが組んで、新しい会社が出てくる楽しみなビジネス領域と感じさせられました。

2007/07/20 文責 瀬領浩一