金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

21.大学をどこで売り込むか

- CIC東京研究発表会より -


 企業のなかには大学や公的機関の研究成果を取り込み、自社の明日の発展に役立たせたいと考えている研究者も多いかと思えます。そのような企業研究者を対象に、2008年1月25日にJSTの産学共同シーズイノベーション化事業として、CIC東京研究発表会が開催されました。
 CICは以前このコラムでもご紹介した東京三田にあるキャンパス・イノベーションセンター(通称CIC)東京のことです。
 今回の研究発表会は機械、医療、アグリ・食品、電気・電子、材料の分野を対象に、 イノベーション創出の可能性を秘めたシーズ候補を、産業界の視点で探索頂く産と学との出合いの「場」を提供することを目的としていました。

発表会の概要
項目内容
日時 平成20年1月25日(金) 10:00~16:30
会場 キャンパス・イノベーションセンター東京5F(東京・田町)
東京都港区芝浦3-3-6
主催 秋田大学、山形大学、千葉大学、東京農工大学、新潟大学、北陸先端科学技術大学院大学、静岡大学、同志社大学、奈良先端科学技術大学院大学、鳥取大学、岡山理科大学、広島大学、山口大学、愛媛大学、九州工業大学、熊本大学、科学技術振興機構
参加費 無料

 前回の、CICのイベントCIC大学連合フォーラム「環境問題と大学の役割」 では金沢大学薬学部の早川先生が、21世紀COEプログラムの成果を踏まえて、「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」を発表されました(以前のコラムでもご紹介)が、今回金沢大学は参加できませんでした。
 今回の参加大学は、CICにオフィスを構える29大学中上記主催の17大学でした。

発表のテーマ


 発表会はCICの5階の会場で行われました。
 普段5階のフロアーは、CICを訪れられたお客様との面談の場所や、CIC関連の方々の打ち合わせの場所として使われる場所です。この場所の使用料は無料 だそうです。ここにも、費用をできるだけ安く仕上げようとする主催大学の皆様の工夫が見て取れました。参加者の参加料無料はもとより、出展大学の出展料無 料の仕組みはこのようにして実現できているようです。
 写真は、会場の1つでおよそ10人くらい入れるように設営されていました。結構すいているようにも見えますが、カメラの後ろは立見席が出るくらい盛況のセミナーもありました。(皆さん遠慮がちに、会場は後から埋まっていきました。)

 セミナーの発表内容は以下の通りでした。

No タイトル 担当者・発表者
  主催者挨拶  
  JST事業紹介  
A1 シリコンウェーハ形状測定時の支持方法の検討
-薄板の自重による変形が測定に及ぼす影響と解決策-
東京農工大学 大学院共生科学技術研究院
准教授 夏 恒
A2 水溶性錯体を用いた不燃性潤滑剤の開発
-高層建築・海底トンネル等でも安心な回転機器用潤滑剤-
岡山理科大学 工学部 教授 滝 晨彦
A3 人の動作の認識技術
-構造化固有空間を用いた高速な人動作認識法-
九州工業大学 工学部機械知能工学科
教授 石川 聖二
A4 連続応力緩和挿入による塑性・クリープ分離技術
-はんだ材の弾・塑性・クリープ特性の迅速評価-
秋田大学 工学資源学部 材料工学科
准教授 大口 健一
A5 産業用X線CTスキャナーによる非破壊検査の技術の応用
-人工材料や自然材料などの内部構造評価と分析-
熊本大学 大学院自然科学研究科環境共生工学専攻
教授 尾原 祐三
A6 超音波による関節疾患の新しい診断技術の開発
-超音波の定量的データに基づく関節軟骨損傷の診断技術-
山口大学 大学院医学系研究科 応用医工学系専攻
准教授 森 浩二
A7 特異的モノクローナル抗体による迅速なAGE測定技術
-生活習慣病の予防薬及びその臨床マーカーの開発-
熊本大学 大学院医学薬学研究部 病態生化学分野
助教 永井 竜児
A8 ASPによるSBC型電子カルテに関する課題と展望
-Thin Clientの光と影~データー元管理と外部保存-
鳥取大学 医学部附属病院 医療情報部
講師 桑田 成規
A9 皮膚の抗菌活性物質の探索技術
-脂線細胞の分泌膜小胞由来抗菌活性物質の探索・評価-
愛媛大学 大学院医学系研究科 医学専攻
准教授 澄田 道博
A10 細胞の中の目覚まし時計
-タイマー組込み新機能タンパク質&lsquoTIME&rsquoの発見-
鳥取大学大学院 連合農学研究科 生物資源科学専攻
教授 甲斐 英則
A11 植物病原菌サプレッサー・宿主選択毒素の作用機構
-ESR・レーザー蛍光相関法による受容体との相互作用-
フルブライト上級研究員
新潟大学 大学院自然科学研究科 生命・食糧専攻
准教授 古市 尚高
A12 全く新しいアルファ化穀物粉の新製造法
-製粉するだけで食べられる穀物粉製造技術の開発-
山形大学地域共同研究センター
准教授 西岡 昭博
B1 高出力高繰り返しピコ秒モードロックレーザーの開発
->1&muJ、>10MHzの光パルス発生技術の提案-
静岡大学 工学部 物質工学科
准教授 杉田 篤史
B2 超高分解能・高確度な分光光度計/周波数計
-安価・軽量で可搬、光スペクトルと光周波数を計測可能-
東京農工大学 大学院工学府 電子情報工学専攻
助教 塩田 達俊
B3 ナノ電子光デバイス・バイオエレクトロニクス
-ナノ領 域の光特性を用いた高感度NO2・バイオセンサ-
新潟大学 超域研究機構 准教授 馬場 暁
B4 放電発生装置による排ガス・排水処理技術
-低電圧で放電可能な技術による排ガス・液体処理技術-
愛媛大学 大学院理工学研究科 電子情報工学専攻
准教授 門脇 一則
B5 新FMスクリーニング技術 
-銀塩写真なみの印刷物をオフセット印刷で提供する技術-
広島大学 大学院工学研究科 情報工学専攻
教授 中野 浩嗣
B6 NAMマイクロホンによる無音声入力システム
-誰も気付かなかった「声を出さない」音声入力-
奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科
客員研究員 中島 淑貴
B7 骨から高性能センサをつくる!
-生体骨の複雑な複合構造を応用した高性能圧電素子の開発-
山形大学 大学院理工学研究科 
助教 村澤 剛
B8 液晶を用いた物質輸送
-微小物質の電場応答型瞬間トラップを目指して-
北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科 機能科学専攻
准教授 金子 達雄
B9 改質天然繊維を強化材とする新しい複合材料の開発
-GFRPに迫る先進グリーンコンポジット-
山口大学 大学院理工学研究科 システム設計工学専攻
教授 合田 公一
B10 天然繊維と大豆由来熱硬化性樹脂を用いた複合材料の開発
-バイオマス利用によるカーボンニュートラルな構造材料を目指して-
静岡大学 工学部 機械工学科
准教授 島村 佳伸
B11 新規な分子設計に基づく有機トランジスタ材料
-有機ケイ素化合物の新展開-
広島大学 大学院工学研究科 物質化学システム専攻
教授 大下 浄治
B12 マイクロ光造形法を用いたマイクロ複合材料の開発
-紫外線硬化技術を用いたマイクロ構造物の製作方法-
同志社大学 大学院 工学研究科 機械工学専攻 教授 大窪 和也
B13 メタル含有ナノ細孔体の特異表面現象
-吸着・触媒機能の新たな可能性-
千葉大学 大学院理学研究科 化学コース
准教授 加納 博文

 発表テーマの中にはB5の「印刷物をオフセット印刷」のように前職との絡みで興味をそそられるものや、B9・B10の「天然繊維を利用し た強化材料の研究」のように北陸地区の繊維産業の振興に応用できないか、といったテーマも入っていました。特に後者は、金沢大学で対処できない場合等にお 役に立ちそうな研究テーマに見受けられました。

ポスターセッション


 ポスターセッションは、発表内容を1枚にまとめたポスターを並べ、5階の発表会場に隣接した場所で行われました。
 発表に参加できなかったCIC入居大学で、ポスターセッションだけでも参加している例はないかと見て回りましたが、全部発表者のポスターのようでした。今後のために、忙しい先生方の時間を煩わせることなく参加できないかと、ポスターセッションだけの参加という超省エネ参加(これで効果はあるかどうかは分かりませんが)を考えたのですが、これは無理のようでした。
 研究発表の時間帯にはほとんど見学者が見られないのですが、発表者が会場にて説明を行うポスターセッションタイム(発表セッションがいくつか終わるごとに設けられていた)には写真のように大勢の人でにぎわっていました。ポスターセッションで研究者と話し合った後、さらに詳しく内容を知りたい企業の方々には、各大学のCICオフィスで詳細説明を受けることができるようになっていました。従って、各発表者は自分の発表の後はしばらく待機ということになります。各大学のオフィスの前には、セッション番号と発表テーマが張り出されており、何人かのコーディネータが待機されていました。窓越しから、いくつかのオフィスで相談されている姿が見受けられましたが、列を作るというほどではなく、このようなイベントの難しさ(自分の大学の発表者に興味を持つであろう企業の担当者を集客することができるか)を感じさせられました。
 さらに、展示大学は、大学の共同研究やVBLのパンフレットの配布に加え、これから開かれるテクニカルショウ横浜2008への出展予告や大田区のおおた工業フェア等への出展予告のパンフレットも用意し、抜け目無く次のイベントへの集客を行っていました。 地方大学の産学連携アプローチは東京一極集中型から、工場のある関東圏の主要都市への面アプローチと変化してきているようです。 イベントの名前に加え、個々の研究成果の活用方法・分野を検討しそれに合った会社や工場のある地域 への産学連携アプローチを企画する時代になってきたようです。

2008/02/14
文責 瀬領浩一