金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

41.圧倒的にやり続ける

-広島大学企業化セミナーに出席して-

先日広島大学の東京サテライトオフィスから、広島大学のVBLが主催の「企業化セミナーのご案内」を頂きました。 大学のホープページによるとこのセミナーの本年の概要は次の通りです。

 「革新的な地方企業の活動についてお話し頂きます。地域におけるイノベーションがどのように起こっているのかを身近に知ることができます。 地域の企業家が どのような楽しみや苦労、工夫・戦略で成長してきたのか、 その強みと生き様をご紹介頂きます。企業リーダーの方々に接することで、皆さんの人生にまた新しい一滴を見出す 絶好の機会となるでしょう。 本年度は注目を浴びている旬な40歳回りの方々にシステム・イノベーションの視点でご講演頂きます。 これからますますの活躍を期待できる人たちで溢れています。」

 セミナープログラムは下表にあるように4回シリーズでした。最後の第4回が昨年の金沢大学の農商工連携セミナーに相通ずるモノがあり、何かのヒントが得られそうなので出席してきました。今回は、その報告です。


日付 内容 講師
第1回 /19(月 ガイダンス、全体概要と開講の趣旨
- 歯の銀行 -  これでわしゃ100歳だ!
産学連携センター教授 三枝省三
()スリーブラケッツ」 代表 河田 俊嗣
第2回 /17(月 「たのしみを、広告の中に作り込め」 ネオプロモーション()  社長 藤田 貴子
第3回 /7 (月) 「携帯の画面の向こうに進化のプロセス」 ノイアンドコンピューティング()  社長 藤川 英士
第4回 /28(月) 「二転三転、やっとみつけた私の人生」 はつかいち苺ファーム 代表 山本 貴志

会場の様子

文書管理の仕組み

 セミナー会場は東京の港区芝浦(田町駅近く)にあるキャンバスイノベーションセンター東京の5階にある広島大学東京オフィス近くのオープンスペースで行われました。この施設は 以前金沢大学の東京オフィスが有った建物で、会場は廊下を挟んでちょうどその反対側のスペースでした。なんか、懐かしさを感じながら参加していました。 会場の様子は写真の通りです。大型のスクリーンには、メイン会場の広島の様子が映しだされていました(申し訳ありませんが、暗くすると写真が取れないので、部屋が明るい時に撮影したため画面が見にくなっています)。前方左側の大型デスプレーにはパソコンからに画面が表示されており、東京オフイスの担当者が講演の内容に合わせて、パワーポイントの操作を行っていらっしゃいました。
開催案内のパンフレットによると、このセミナーは、広島大学総合科学部K107(講師のいらっしゃる会場で東広島市)で行われており、テレビ回線(テレビ会議の設備を使ってい ます)を通じて広島大学の霞キャンパス病院外来棟3階中会議室(広島市)でも見れるようになっているそうです。私が参加した広島大 学東京オフィス(東京都港区芝浦)でも、テレビ回線を通じて見ることが出来るようになっていました。そのほかにも大学に申し込み、IDとパスワードを 取得すればネットライブ中継を通じてネットワークが繋がりWindows Media Playerを使って、どこでも見れるようになっているようです。
今や、広島大学は、日本発グローバル地域の拠点という感じです。

日本発グロ-バル地域

どうやって起業したのか

必要情報

 私の参加した第4回のセミナーは 写真にあるように、プログレッソの山本氏の「二転三転、やっとみつけた私の人生」です。この写真の右上の小さいコマに東京オフイスの様子が、テレビ会議 の設備を使って、各会場に送られているのが見えます。

 セ ミナーパンフレットに紹介されている概要は、
「学校を出てからなんどとなく転職した七転八倒の人生。これで飽き足らずさらに転職を覚悟で着手したのがこのイチゴ畑。いままでとはちょっと様子が違います。働いた向こうには地域の方々の喜びの笑 顔があります。それを糧にどんどん地域を巻き込んで行った。これだ、これこそ自分だと気が付いたその日から、また新しい挑戦が始まります。」
でした。

 講演は、講師の紹介に引き続き、山本氏の自己紹介からはじまりました。氏は、高校を卒業後、設備関係の会社に入社、その後通信事業会社、更に人材派遣・M&Aの会社の副社長就任と時流に乗りながらといろいろな職業を経験してきたとの事です。その間に学んだ事は「1.長続きするものは、極めて少ない。2.世の中をよく見て、パワーゲームに走らない。3.キャリア戦略をしっかりと立てる必要がある」であると話されていました。
起業のきっかけは、社会に貢献出来る価値のある仕事を生涯やり続けたいと思い続けている時に、新聞の記事を読み 1次産業には後継者がいない(農家は10年で半分になる)ために衰退していくことを知ったことである。そして、
自分はその農業を残していくことに社会的価値があるのではないかと考えるようになったたとのことでした。そこで、農業の一つとして、地元には有名だった苺があるのを思い出し、調べてみると廿日市市(当時は、佐伯都廿日市町)は、 広島県でー番古いと言われる苺の産地である当時、佐伯区ハ幡にあった明治製菓が苺のジャムを作る為に数件あった苺農家に依頼したのが始まり。最盛期には100件を超える苺農家があった。その中でも有名だったのが平良地区の「平良苺」。現在では、平良地区で4件、全体でも9件に減少してしまっているが、約50年の歴史がある。一番の若手が62歳と高齢化も進んでいるといったこと等が分かった。
山本氏は、「平良苺」には歴史があったのだからそれなりの品質はあったはずだし、スキルも蓄積されているはずだと考え、後継者を育てることが出来れば、今後とも続けていけるはずであると考えるようになった。

 そこで、自分の果たす役割を次のように考えたとのことでし た。
1.平良苺ブランドの約50年の歴史の灯を絶やさないために自分で苺ファームを作る。
2.後50年で1世紀になるのでそのための次世代に向けての後継者を作る。苺等から繋がる食育へと発展させる。

 異業種からの参入であり、最初にあったのは、夢そして根拠のない自信だけではあったが意識改革といった精神主義や、評論家になるのではなく、「行動こそ成功の半 分、圧倒的にやり続けること」と考えてやっ てきた。とのことでした。苺ファームを始めた時は借地を耕地し、廃農した人から中古ハウスを安く譲り受けコツコツと組み立てる所から始めたと、その時の写真を映し出しながら説明されていました。今もまだ、試行錯誤の日々が続き今年は2回も苺が全威しているとのことでした。枯れる時はしばらくの間にすべての株が枯 れていくということですと厳しい現状がうかがわれました。言われてみればあらためて、ハウス栽培は露天栽培とは違い環境の影響を受けやすいのだという当然のことを知った次第です。
 今はまだ、平良苺ブランドの継承し、圧倒的に続ける事こそが重要と考えている。
 社会起業家は、「ボランティアとは異なり、一定の組織、事業規模、収入源を確保し、安定的な事業を運営することで持続的なサービスの提供する人である」 ともおっしゃっていました。定年後、農地を借り、農業をやっているが、それだけでは生活できず、過去の貯金を取り崩しながらや年金も使って生活しているようではだめであると言っていらっしゃるようにも聞こえました。この辺りは、昨年の金沢大学の「農商工連携」での(株)ぶった農産の佛田利弘代表取締役社長のプレゼンテーションでの、「補助金頼りの起業はうまくいかない」での説明や、「やりたいことがないヤツは社会起案家になれ 山本繁(メディアファクトリー)」の社会起業家は儲からなくてはだめとの考え方とも相通ずるところがあるようです。
このような、力強い成功者のお話を聞いていると、最近の日本政府のの補助金政策は、運用を間違えるとかえって、日本の農業の将来を危うくするのかもしれ ません。また、それを期待する起業家などは所詮成功しないのではというな気もしてきます。

起業成功のポイント

 今回の講演から、山本氏の起業化戦略をクリステンセン氏風のイノベーションの参入戦略(参考資料「明日は誰のものか」ランダムハウス講談社クリステンセン)を参考にまとめたところと、次のようになりました。
起業の前提は「既存の日本の既存農家はローエンド破壊的マーケット戦略のシグナルにおびえて、マー ケット引き渡し戦略をとってきている。」という現状にあるということで。
 1.経営資源(人材)を投入するという方法で参入しようとしている。(RPV理論)
 2.意欲については「参入農家の規模に見合ったマーケット規模」「標的にする顧客を選ぶ」「参入農家のビジネスモデルに合ったマーケットに参入」ということであり、技量については「既存の農家が持たない、成功に必要な技量を身につけようとしている」。(意欲と技量)
 3.既存農家に事業拡大の意欲がないのをいいこと(盾)にして、参入農家が満足度不足のセグメントに高価格で参入する。赤字が計上され、生産に魅力を感じなくなった既存農家は、その生産から退避する(耕作放棄)。 既存農家が新しいやり方が儲かると分かるまでに、参入農家は既存農家が持っていない技量(矛)で差別化し、生き残る。(矛と盾理論)

 実際の成功事例が、クリステンセンの言っていることに当てはまるとすれば、第二次産業に比べて小規模な農業エリアの新規参入戦略を 考える時にも彼の理論が使えるのかもしれません。今後の活動の、よりどころの一つとして使ってみようかと考えているところです。

将来への投資

 講演の後の質問の中に、「ところで昨年の売り上げはどれくらいですか」との質問がありました。それに対するお答えは「400万円くらい」ですとのことでした。理由は苺の立ち枯れ全滅が2回あったためですとのことです。それがなければ1000万円を超えていたはずだったとおっしゃっていました。2008年からの起業で、まだ業績を安定させる所まで来ていないのかもしれません。先ほどのクリステンセンの理論が有効であるとすれば、新規参入を成功させ、継続させるための技量獲得が「矛」として不十分なのかもしれません。まだまだ新規参入者にとっては、 ノウハウの確立 (技量の伝承や新しい工夫)には時間がかかる深いものがあるようです。やはり、先達ご技術には「隠された強み」があるようです。

文書管理の仕組み

 こんな中で、氏は次のステップに向けて、取り組んでいるいくつかのプロジェクトにも触れられていました。
1つ目は「はつかいちブランディングチャレンジ研究会」であり、そこには次のようなグループが参加しているそうです。

  • コンサル機関や教育機関等の専門家グループ
  • 研究機関や:球場への販路などを考えた地元球団といった関連企業を含めた協力機関
  • 生産・製造、小売流通、デザイン、生産協力者としての農協行政を含めた異業種連携

 どうもこれらは、規制をさけ、「川上から川下まで一貫した仕組み作り」を狙った仕掛ではないかと考えられます。 また2つ目の中国山東省青島への技術協力などを行っていること。これなどは、将来の海外進出への足がかりをつくろうとしているよう にも見えます。 3つ目の苺以外の生産物への試みは、多核化経営への布石でしょうし、これまで行ってきたのメディア戦略は、マーケット戦略に加え、後継者集めが本音のよう です。

 こうしてみると、講師の次の課題は「規制緩和を狙ったグローバルビジネス推進のマネジメント人材の育成」に進んでいるようにも見えます。

 一方2度の苺全滅の対策として、観光農園としての機能は中止するとのこと。これは観光客を媒体とする病原菌の侵入が疑われ、それに対する、対策とのことです。まだ真疑は分からないにしても、2度も全滅し、出荷量が3分の1に減れば致し方の無いことのようにも思えます。対策として は農薬の使用も考えたが、こちらは商品の売り込みトークに使いたいので、使用量の制限が指定されている農薬はつかはないようにしているとのことです。(言外に許容範囲内の農薬の使用は害がないはずですが、あえて無農薬を売り込みトークとして使いたいための判断ですと言っているようでした)。

 いろいろ、参考になるお話をお聞きしましたが、最後に講師のおっしゃっていらっしゃた「圧倒的にやりつづけること」 は大変印象に残る言葉でした。

2012/12/07
文責 瀬領浩一