金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

5.社長から社員へのメッセージ(1)

 私(米川)は、株式会社白山という従業員約100名の小規模の製造会社の社長をしています。
 私の社長としてのもっとも重要な活動は、社員へのメッセージを送り続けることです。会社の理念やビジョンをあらゆる場面で繰り返し語り続けることで、社員一人ひとりの力を会社の目指す方向に向けることが可能になると信じているからです。
 大変恥ずかしいのですが、最近社員に送ったメッセージの一部をご紹介したいと思います。

 

<逃げない覚悟>

 ものごとにはうまくいく場合と、うまくいかない場合があります。
 うまくいかない、ということは、その選択や行為が適切ではなかったということを教えてくれている、ということです。料理の味付けなどはその典型でしょう。私たちの活動でいえば、成形機の型締力、温度、冷却時間、射出圧力であったり、熱電素子の材料の配合比率、熱処理温度、粒度であったり。
 うまくいかない、という事実の中にヒントがあります。うまくいかないことで、私たちは気づき、次にやるときの選択をチューニングし、うまくいく状態に近づけることができます。皆さんが「トライ」と呼ぶプロセスです。
 この、うまくいかない、という「出発点」から、気づき・トライの繰り返しを経て、うまくいく、という「到達点」に向かって近づいていく行為を「仕事」と呼びます。これこそ人生の意義であり、だからこそ人間は偉い、とさえいうことができると思います。

 ところが、私たちは時として、うまくいかない現実を前にして、「なぜうまくいかないんだ」と嘆き、うまくいかない現実に怒りをぶつけることがあります。その原因を他人のせいにしたり、置かれた立場や環境条件のせいにします。
 最初からマリオがピーチ姫を救い出しているようなゲームは誰も買わないはずですが、仕事や自分の環境に対しては同じことを要求しているようなものです。これは環境や条件を変えることは自分のやることではないと逃げて、「人頼み」であるという姿勢にほかなりません。
 ではどうしたら良いか。
 「逃げない覚悟を決めること」に尽きます。
 実はこれは選択の問題です。逃げるか、逃げないかのどちらかしかないのです。どちらが大変かも一概には言えません。逃げることが楽とは限りません。逃げると、正体を見据えていない問題が後ろから追いかけてきます。逃げ切るには多くのエネルギーを消耗します。
 一方逃げない覚悟を決めて、うまくいかない現実と向き合うと、悪条件はたまたま現在の出発点だと冷静に見ることができます。
 そしてこれをどんどん変えて新しい条件に作りかえて到達点をめざすことが面白く、やりがいのある創造的な仕事だと感じるはずです。
 逃げない覚悟を決めさえすれば、後はむずかしくありません。全体をよく見て考えてから、一歩一歩、易しそうなところから手をつけていくだけです。

 歩き続ける行動そのものは、普段当たり前にしていることと変わらないかもしれません。しかし、逃げない覚悟をきめて、共通の目標に向かっているとき、同じ歩くという行為が大きな意義をもつのです。
 『散歩のついでに富士山に登った人はいない』、とはコンサルタントの小宮一慶さんの言葉です。歩くという行為は同じでも、「富士山に登る」と決めた人だけが富士山頂に立つのです。

(2017年12月4日)

<"ガッパ"になろう!>

 石川弁の中で私が大好きな表現に、「ガッパになる」というのがあります。
 その意味は「一所懸命に」とか「必死に」となるのでしょうが、ニュアンスは少し違います。
 「一所懸命」や「必死」のようなスマートさはなく、もっと泥臭く、脇目もふらず無我夢中に一つのことに集中する様を言う場合が多いと思います。「何をガッパになって言うとらいね」とか「そんなにガッパん(に)なって勉強せんでもいいがいね」というように、ムキになって一所懸命やっている人を周囲の人が冷笑する場合に使うこともあります。 

 20世紀を代表する心理学者にミカエル・チクセントミハイという人がいます。80歳を超えた今もエネルギッシュな講演を行っている様子をYou TubeのTEDでのプレゼンテーションなどで見ることができます。このチクセントミハイが、人が幸福になるための手立てとして、「フロー体験」の理論を構築し40年間研究を続けています。作曲家が名曲を生み出すのも、発明家が素晴らしいアイデアを出すのも、スポーツ選手が名プレイをするのも、全て彼らがこの「フロー状態」になる能力を身につけているからだ、というのです。そして私たちも自分を「フロー状態」にすることで、持病の痛みを忘れ、時間をひずませ(時間が経つのを忘れたり、逆に、一瞬を無銀の時間のように味わったり)、自分の存在すら忘れ、成長の喜びとえもいわれぬ高揚感に幸福を感じることができる、と教えています。

 石川弁の「ガッパになる」は、実はこの「フロー体験」のことだと思うのです。

 チクセントミハイによると「フロー体験」をする条件は、以下の通りです。
1.自分の能力にあった難易度の対象に取り組んでいる。
2.対象へのコントロールが可能である。(スキルがあり失敗への不安がない)
3.良くできたかできなかったかの直接のフィードバックがある(例:テニスで快打した時に良い球が出る。)
4.外乱がシャットアウトされていて、邪魔が入らずに集中できる。

 フロー体験がなぜ、幸福感につながるかというと、それは上記の1~4を繰り返すことで常に自分の能力を最大限発揮することができるばかりでなく、もっと心地よいフロー体験を得るためにより難しい対象に取り組む意欲がわき、さらなる自分の成長を実感できるからです。お金をかけて贅を尽くしたり、娯楽を楽しんだりすることも一見幸福のように見えますが、どれだけそれを繰り返しても、さらなる自分の成長を実感することはできません。
 ぜひ皆さん、「ガッパ」になって目の前の仕事、営業、開発、製造、研究、業務サポート、共通分野のより難度の高い仕事に取り組んでください。
 もはや不安は感じません。つまらない自意識や他人の目も消えてしまっています。眠気を感じることもありません。
 必ず自分が思った以上の成果が上がります。
 皆さん自身も成長していくこと請け合いです。

 「ガッパになろう」を白山グループ全体の合言葉あるいは標準語にしませんか?
 朝礼リーダーから毎朝、「では、今日もガッパんなっていきましょう!」と大声をかけてみるのが「ガッパ標準語化作戦」としていいかもしれませんね。

(2017年8月21日)

 

2017/12/20
文責 米川 達也