金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

17.アグリベンチャーの立ち上げ

-アグリビジネス創出フェア2007より-

アグリビジネス創出フェア2007(2007.12.12)

アグリベンチャーの経営戦略

 去る平成19年11月27日(火)、28日(水)の2日間、東京国際フォーラム地下2階展示ホールにてアグリビジネス創出フェア2007が行われました。
 アグリビジネス創出フェアとは食と農林水産分野における新技術や研究成果の実用化・産業化の促進を目的とした技術交流展示会で、本年度が4回目の開催となります。本年度は過去最大となる79企業・39大学・28団体さらにビジネスマッチング支援として18企業・団体等計164組織が出展されておりました。フェアには専門家の方から一般の方々約9,400人が訪れ、講演やシンポジウムなどに参加されました。
 会場の各ブースにて、出展者は自分たちの研究成果を報告されておりました。ほかにも「農林水産知的財産ネットワークシンポジウム」や「地域におけるバイオマスの総合的活用と地域活性化への挑戦」等々のシンポジウムが行われました。このレポートはその中の一つ、「アグリベンチャの経営戦略」のシンポジムに参加して得た情報をもとに、私なりのアグリベンチャーの可能性を追求したものです。

アグリベンチャーの経営戦略

 野村リサーチアンドアドバイザリー株式会社 調査部研究員 佐藤光泰氏より「アグリベンチャの経営戦略」というタイトルで、
1.アグリビジネスの経営環境
2.アグリビジネスの注目テーマ
3.アグリビジネスの経営戦略 について、講演を頂きました。
 その中で、氏は日本の食糧自給率がカロリーベース1960年ころの80%から減少しとうとう40%を割ってしまっている。この数字は、先進国の中でも最低に近く、随分少ない数字のようです。そこへきて、バイオエネルギとして、とうもろこし等が使われるようになり、小麦からとうもろこしへの転作が進んだ結果小麦の在庫が減り、最近は小麦の価格も上昇気味である。さらに途上国の人口増加と、所得増による食料需要の増加、砂漠化の進展による食料耕作面積の減少も重なり、世界的には小麦の需要量にたいしたの小麦の供給量が不足の方向に向かっているとの事。したがって、将来は「日本が必要なだけ食料を輸入し続けることができるかどうか危うくなりそうである」と説明されていました(食料安保の問題であり、動機としてのビジネスチャンスは十分ありそうです)。
 一方、日本の農業総生産はは日本のGDPの約1%に過ぎないとの事、農業人口は約260万人と日本の労働人口約6600万人の4%前後と少なくなってきているとの事、昔日本の農業人口は60%と学んだことを思い出せば、随分変わったものと、感慨深く感じられました。  
 働くものから考えれば、生産性を今の4倍程度に上げる事が出来れば、農業従事者も日本人の平均的な付加価値生産性と同じになり、とりあえずの収入を稼いだ上で、他の産業のように国際競争力も出てくるような感じを受けました。この時のカロリー自給率を今の倍の80%とすれば、農業人口は今の半分くらいで十分 ということになる。
 現在の農業人口の約60%が65歳以上であるとすれば、特別対策を採らなくても近いうちに実質的な農業人口が今の半分程度になることは予測できます。従って食料安保の立場から考えれば、農業生産性を平均で4倍程度に上げることに全力を尽くせばいいことになります。
 アグリベンチャが改革の先頭に立って走るとすれば、一人当たり生産性は平均の倍の約8倍程度を目標すればよいことになります。とりあえず、機械化による規 模の拡大で3倍程度、技術革新で3倍程度のあわせて9倍程度の目標からスタートし、実情を見ながらその割合を微調整していけばよさそうです。

「植物工場」への期待

 氏によると、アグリビジネス改善の方策の一つは、植物工場である。
 植物工場とは、第二次産業の工場生産方式を農業に適用するもので、その特徴は次のようなものであるという。
 上の写真のように、きれいな環境での植物の栽培となる。その結果    
  土は使用しない
  温度コントロールは精度よく行う
  光源は人工光
  化学肥料を使う
  農薬は使わない
と施設栽培、水耕栽培をさらに一歩進めたものなる。
 しかしながら、現在の方法では、初期投資も運用コストも現在の露地栽培の10倍から50倍くらいかかるという。これでは到底一般食品への展開は難しい。現在の用途は、コンパクト農業(たとえば宇宙船の中)、灼熱の砂漠での農業、高付加価値商品、品質保証が必要なバイオ薬品の原料の栽培といった限定された用途にしか使えないと思われる。

 その上人工光を使うとすると、そのエネルギー源からでる炭酸ガスによる環境汚染(自然太陽光であれば、無かった汚染源)の発生等時代の流れに逆らった技術になりかねません。設備コスト、運用コストを下げるだけでなく、いくつもの技術革新が必要な工場です。

アグリビジネスの生きる道

 もう一つの道は、アグリビジネスを植物の栽培の前後のプロセスにまで広げる方法です。バリューネット(チェーン)全体として、収益を上げる方法になります。 苗を農作物にし、それを料理素材として届けるまでに比べれば、その前後のもっと付加価値の高い「種つくり」「苗つくり」や、「料理」「おもてなし」 の仕事を自社に取り込み、ビジネス範囲を広げることにより、企業として生き延びていく方法です。価値曲線が中央より周辺に高い形から、スマイルカーブと呼ばれている曲線です。
 この考え方を、進めていくと、工場を持たない製造業(ファブレス)と同じ思想で、植物の栽培を行わないバイオビジネスのモデルも出来てきます。
 企業のコンピタンスは、新しい種を生み出し(見つけ出し)、時には苗として、農地を持っている農家や植物工場に渡し、農産物が出来たところで、消費者に届 けるサービスや、おいしい食材を使ったレストランを経営するといったものです。(これであれば、種苗メーカー、農家、運送業者、レストラン経営者、アロマセラピスト、文化施設、栄養士、情報提供者といろいろな人に、ビジネス参入のチャンスが出てきます。こうなってくると、もはや農家と呼ぶことは出来ないで しょうが、アグリビジネスベンチャーとは呼べる新しい業態になりそうです。

・・・・これなら、地域に密着した、大学発ベンチャとなりそうな予感がするのだけれど、誰かやってみませんか・・・・

2007/12/12 文責 瀬領浩一