金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

29.コーディネータのための文書管理

- 内部統制を支える文書管理 -

看板 講演会

 東京田町の建築会館で、2008年6月10日に「内部統制を支える文書管理」なるセミナーが開かれました。建築会館は私が東京での活動拠点としているCIC(キャンバスイノベーションセンター)から歩いて10分と近いところにあります。常々セミナーでいただいたパンフレットや資料、仕事にからむ各種の紙情報の洪水に悩まされてきたので、文書管理には興味を持っていました。ということで、何か新しい仕事のやり方のヒントを得られるのではないか、気軽な気持ちで参加しました。

セミナーの内容は以下の通り(午前10時から午後18時までと、ほぼ1日のセミナー)でした。

発表内容発表者
2008文書情報マネジメント市場の動向とJIIMAの取り組み 社団法人日本画像情報マネジメント協会 理事長  高橋 通彦
内部統制の検証ポイントを探る
~情報・文書管理体制の確立を目指して~
牧野総合法律事務所 弁護士  牧野 二郎 氏
JIS準拠の内部統制システム構築の為の記録管理ツールのご紹介 株式会社ジムコ 代表取締役 中村 壽孝 氏
内部統制基盤を支えるECM 株式会社PFU ECMソリューションセンター 部長 佃 浩太郎 氏
J-SOX内部統制運用対策 株式会社フラッグインマネジメント 代表  康乗 克之 氏
「ビジネスコンテンツ」管理の本質的課題と高度活用へ向けた取組み 野村総合研究所 基盤ソリューション事業本部
  上級システムコンサルタント 藤本 充男 氏
レコマネ、文書管理、CMS、そしてECM 電子文書に望まれるもの   株式会社ハイパーギア
  代表取締役 本田 克己 氏 
ECMの最新動向 社団法人日本画像情報マネジメント協会
 ECM委員会 委員長 梅原 寿夫
米国の文書情報マネジメント最新動向-ECM、一層の進展- 社団法人日本画像情報マネジメント協会 副理事長  佐藤 伸一

 社団法人日本画像情報マネジメント協会の協会理事長初め多くの人々、文書管理システムを提供している株式会社ジムコ、株式会社PFU、株式会社フラッグインマネジメント、野村総合研究所、株式会社ハイパーギア、内部統制に関係している牧野総合法律事務所とそれぞれの専門分野からの中身の濃い説明をお聞きすることができました。 講演の間には、上記の会社のみならず、そのほかの会社からの実機によるデモを見ることができました。



不祥事の原因は利益追求?

文書管理の仕組み

 近年、物言う株主の台頭により、会社のトップは株価を上げないと株主から辞任を迫られることもある時代になってきました。このため、トップは株価を上げるために、利益を上げ続けなくてはいけないと、社内の各部門に対してそれぞれの今まで以上に部門目標の達成をせまことになりました。それがひいては、
①材料費を削るために、1ランク下の材料を使ったり、コストの高いリサイクル材料を使わない商品をリサイクル商品として高く売ったり、産地をごまかして高額商品と見せる。
②加工費を下げるために手抜き工事を行ったり、後処理をしないでごみを山や海に投棄する。
③売上を上げるために談合をするとか、判断力の乏しい人々を狙って高額商品の販売を強化する。
といったことが新聞をにぎわすこともしばしばです。

 トップ自らがこのようなことを指示している会社ぐるみの場合いは論外ではあるが、そうでなくても、利益アップ・売上アップと言った目標を言い渡された中間管理層以下で、何とか部門目標を達成したいと、違法もしくはモラルに反した行動に走ったり、虚偽のデータを報告することも起り得ます。一時しのぎのためであっても、一度このようなことをやって目標を達成すると、やればできるじゃないと、翌年はさらにハードルが高くなるのが普通です。その結果無理がたたり、もはやごまかせなくなって、内部告発や巨大な損失の突然の発生という形で、不祥事が表ざたになり、ユーザーや取引先から総すかんを食うはめに陥りかねません。そしてその結果、株価が大幅に下がったり、営業停止の処罰を受けたりして、株主や従業員、取引先等の利益を損なうことにもなりかねません。そうなるとうすうすそのことを知っていたトップも部下をかばいきれません。多くの場合は、特定の社員の例外的な行動として処理されてしまいがちです。会社にとっても、従業員にとってもうれしくない、このようなことを避けるために常々企業行動を記録し、それを監視することで、トラブルを防ぐためのよりどころや歯止めにしようというのが、内部統制の考え方のようです。当初は金融機関を中心にSOX法やJ-SOX法の実施としてきたが、本年(2008年4月)の会計年度からは大手企業もまた内部統制の仕組みが構築されているかどうかを監査される時代となってきたとのこと(ただそのためには、金も人も知識も必要なため、現状はそれほどうまく導入されていないとのこと)。他にも、しばしば新聞を賑わかせているように、個人の利益ののために会社のお金をごまかして、虚偽のデータを報告していたことが表沙汰になることもあるが、これらについても、内部統制の体制が整備されていくにつれ、少なくできるのではとのことでした。

 こうして、トップ自らが会社のすべての人の行動を監視し続けることができないので、基準やルールを決めて、それに反しないようにと迫る道具として内部統制が普及していくでしょう。さらにこれをすすめて、自分の「ありたい姿にもっていくための行動のルール」 を作り、それを実施に移すための手段として、内部統制を利用する方法も模索されているケースもあるとのお話もありました。このような目的なら、利益に繋がることゆえ、内部統制の実施にかかる費用もにそれなりの投資を正当化でき、その副産物として不祥事の発生も防ぐこともできるかも知れないと感じた次第です。



ありたい姿を表現する情報
必要情報

 今回のセミナーで最も共感を感じたのは、この部分です。すなわち「ありたい姿に持っていくための行動のルール」の実現状況を監視するために内部統制の考え方や、そこで確立された方法論を使うということです。

 ここでは事例として産学連携に係わるコーディネーションを取り上げて見ました。  コーディネーションに係わるエンティティ(実体)はおおむね左の図のようになります。厳密には異なるかもしれませんし、プロジェクトが大きくなればもっと詳しく(細かく)分類する必要があるかも知れませんが、普通はごくわずかな人で行われる産学連携プロジェクトでは、これでも十分と思えます。要は、シーズの活用で検討した、コーディネータの活動範囲に係わるエンティティが含まれていればいいわけです。

 こうした、ビジネスにかかわるエンティティを分析する方法はエンティティモデリングとしてこれまでも、情報システム構築のための構想段階や設計段階でよく使われてきました。大きな違いは、これまでの情報システムで取り扱って来たのは、主に構造化データといわれる繰り返しの多い活動に関するデータでしたが、内部統制で対象としているのは非構造化データの代表である紙情報が主体となります。セミナーではオフィスで取り扱う情報のうち構造化データが20%であるのに対して、非構造化データは80%とそのボリュームの多さを強調されていました。取り扱い情報の範囲をここまで広げると、プロセスの記述は楽になります。手間と例外を書ききる手間を厭わなければ、たいていのことはやっていることをそのまま記述してもほぼ処理対象とすることができるからです。(ただし、やってみると、例外ばかりで正確なエンティティモデルを記述するのがほとんど不可能であり、出来たとしてもそれをそのまま実施できるかどうかは保証出来ないものになりそうです)

文書管理の仕組み作り

文書管理の仕組み

 仕事を棚卸し、 必要なエンティティーが決まれば、その情報を集め、ひたすら蓄積する方法とその検索の仕組みを設計すればよいわけです。

 データの検索や再加工のし易さを考えると、プロジェクト関係のデータはできるだけ最初からデジタルデータとして入力され、蓄積されることが望ましい(このタイプの情報をborn digital と呼ぶそうです)わけです。しかし、日常生活では、手帳や配布資料のような紙情報のほうから、大量の情報が得られるはずです。したがって、ここで「スキャナ」やスキャンした文字データのデジタル化のための「OCRソフト」とこうして集められた「情報の蓄積・検索・配布」の仕組みが重要な役割を果たすことになります。

 今回のセミナーの講師もこのようなシステムのメーカーに所属する方であり、展示もそれらの可能性を示唆するものでした。ただ種類が多すぎてどれがいいのかわからない状況になりました。株式会社ハイパーギアの本田氏のご講演の中には、はそのような方への道しるべとして、検索システム、ファイルサーバ、文書管理システム、ECM(Enterprise Contents Management)、レコードマネジメント(マイクロフィシュ)、CMS(Contennts Mnagement System)の概要説明とその選択基準についてお話がありました。話をお聞きする限りでは産学連携のコーディネータ業務を支援するシステムとしては、ファイルサーバーか文書管理システムで十分との印象でした。



コーデネータによる文書管理システムの活用

 文書管理システムの選択ができれば、システムを構築はシステム導入のプロにお願いすることになります。コーディネータは、ユーザーとしてシステムのボリュームテストや修正の検収者としての役割を果たします。コーディネータがテストに参加する目的は、出来上がったシステムが本当に使い易いものであるかを確かめ、不具合があればそれを適切に指摘し、改善につながるよう報告するためです。テストが不完全であったために、システムの使い勝手が悪いとか、システムの不具合のために本業のコーデネーション作業が阻害されては大変です。こうしてコーディネータの要望が取りれられたシステムが構築できれば、以下に示したような手順でシステムを利用することになります。

  • 「仕事の目的を明確」にし、「目標を定量化」
  • 業務をプロセスに分け、進行状況を「見える化」する
  • プロセスは「カプセル化」し「インターフェース」を決める
  • 「内部統制」が可能なレベルの「文書化を義務」づける
  • 内部統制に「必要な情報」はすぐ取り出せるように、文書管理する。
  • 他部門特にユーザ部門との「約束」は明確にしておく
  • 各人が最低限やることは、「手帳とスマートフォンレベル」でできるように基準化・定義しておく
  • 目標に達したら「次ぎの目標」を決める

 1番の目的・目標の設定は、通常組織の上の方から与えられるので、それほどコーディネータの独創性を発揮することはありません。むしろ私はこう理解しましたとの確認の文書を交わしておくことで十分と思われます。2のプロセスの設計は一緒に仕事をやる仲間とのやり取りを中心に行えば十分です。仲間との仕事のやり取りの間隔が1ヶ月とか2ヶ月とか長い場合にはプロセスを分割し、軽いチェックポイントを取るようにするのがよさそうです。もっとも気をつけたいのは3番のプロセスの「カプセル化」です。コーディネータの自主性や自立性を高め、自分の都合でスケジュールできるようにするためには、仕事の途中での横槍は困るわけです。その他の2から7までのステップは、このカプセル化を実現できるよう柔軟に変えていく気持ちが大切と思います。こうした一連の作業をスムーズに進めるためには、最初から全部を一度にやるなどとは考えないで、コーディネータが自分の仕事の生産性が上がると思うところから順次利用していくことです。そのためには、システムにはユーティリティのような性格を持たせ、使ったほうが仕事が楽とか仕事の中身が充実するといった機能を中心に構築し、決して強制しないことです。ワープロの普及やインターネットの普及の状況を見ると、強制によって浸透したのではありません。きれいな文書ができる、いつでも使える、早く仕事が終わるといった、利便性が普及を後押ししていたはずです。このような使いやすさは、単にシステムの改善で達成できるものではありません、使うほうもそれなりにシステムの特性を知り、上手に使う方法を習得しておく必要があります。ただシステムとしては、最低集めるべき情報レベルを下げ(時にはなくしユーティリティとして提供する)、利用のための閾値を下げておくことと、関係者全員が参加するリテラシー教育を十分行うことを忘れてはなりません。一連の作業の総合パフォーマンスはそれらを構成するもっとも能率の悪い要素以上にはならないのですから。そして、内部統制の精神に基づいて、システムが十分活用されコーディネーション作業が効率的に行われているかについても検証し続けることです。そして、不都合があれば、内部統制の精神にそむかない範囲でシステムをどんどん変えていくことです。


文責 瀬領浩一