46.魚眼マンダラの作り方
-柴又 帝釈天の例-
先日の土曜日、久しぶりにゆったりとした時間が取れたので柴又の帝釈天に行ってきました。そこでたまたま、図1のような「まんだらで出前寄席」なる張り紙を見つけました。これまでA3一枚に思いをまとめる方法を工夫しており、その中の一つにマンダラ図法があったため、つい眼がいった次第です。ただ、この張り紙を見た時すでに、寄席の開催日は過ぎており、見に行くことは出来ませんでした。見学が終わったあと家に戻り、どうして寄席にこんな名前が付いているのかと思っていたのですが、次のような記事を見つけました「落語家が高座で使う道具は、扇子と手拭の二つだけです。楽屋の符牒で、扇子を「かぜ」、手拭を「まんだら」と呼ぶのだそうです」。このあたりがこの寄席の名前に関係しているのかもしれません。ともかく今回は、この張り紙にかこつけて、脱線気味のレポートを作ってみることにしました。不真面目と思われる方いらっしゃるかもしれませんが、しばらくお付き合いくだ さい。
正木晃氏の著書「マンダラとは何か」には、マンダラについて次のような定義がありました。狭義では「マンダラとは、インドで生まれ 日本やチベットへ広まった密教が瞑想や儀礼のために創造した特殊な図形」と定義され、広義では「マンダラとは、地域と時代を問わず、幾何学的な構成がもたらす強い対象性をもつ、聖なる図形である」ということです。聖なる図形かどうかともかく、広義の定義の方が私のイメージに近いものです。
魚眼マンダラ(曼荼羅)とは
今回の説明に使用する魚眼マンダラは3×3の9つのマスの中心に今何を行うべきかを置き、その周りの8つのマスに「外部」「理性」「未来」「他人」「自己」「現在」「感情」「内部」を配置し、それらとの関連で今何を行うかにつ いての確認とヒントを得ようとするタイプの思考法です。魚眼マンダラそれ自体は単なる形式ですから、これらのマスの内容をかえれれば、他の用途にも転用できます。
図2では左下に過去の集積である現在の状況を、右上にはあって欲しい未来の姿を描くことにより、左下から右上に向けて今行おうとすることが過去から未来に向けて時系列に矛盾なく繋がっているかを検証します。同様に、右下から左上にかけては、内なる立ち位置から外部の状況に適切に対応出来るか、いわば空間を意識した整合性を考えます。同様に中上には、理性や理論と言った自然界のルールを、中下には感情といった生き物としての自然な心の動きを記述しそれらとの整合性を考えます。左中には他人や人脈といった、人間が作った社会の動きを、右中には個人の生きザマと言った一 人の人間や自社と言った個別のビジョンを記入することにより全体との調和の観点を整理しようとするものです。こうして、X字型に「時空」を+字型に「調和」を配置した「行動計画を立てるためのマンダラが」図2の構造で表そうとしているものです。
このタイプの魚眼マンダラは自分の生き方、自部門の行動計画、自社の行動戦略といったような自分の関わる問題に対する行動を考えるときに使えるのではと考えています。マンダラの特徴でもある中心には、今実行すべき「テーマ」や主張したい「テーマ」を書きますが、どうしてもこの部分は書くことが増えてしまいがちです。そこで普通のまんだらのように同じ大きさの繰り返しでなく、中心のテーマに力点を置きそれを少し大きくした表現した結果が図2です。なんとなく魚眼レンズで取った写真のようになったので、勝手に「魚眼マンダラ(魚眼曼荼羅)」と名付けて使っています。このシリーズの「ベンチャーならどうする」で、電気自動車のベンチャー設立の考え方をまとめた図4がこの方式で整理し纏めたものです。
情報の収集と整理
ここからはしばらく、魚眼マンダラを作る方法を漫画風に説明したいと思います。今回は「まんだら出前寄席」の張り紙に惹かれて思いつた企画なので、遊び心を入れて 柴又帝釈天を材料に説明させていただきます。ちょっとおかしなテーマですがお許しくだ さい。 何しろ散歩の途中で、突然思いついたことゆえ、何の用意もしていませんでした。情報集めに使える機器は携帯電話だけ、その時出来たことはパンフレットを集め写真を撮る事だけです。と言うことで今回は主に写真を使って魚眼マンダラを説明させていただきます。まずは、写真に撮ったパンフレットや携帯電話で撮った写真をパソコンに取り込みます。パソコン画面で撮った写真のアイコンを眺めながら、使えそうなものを一つのフォルダーに集めます。もともと柴又に行った目的は「帝釈天にお参りし、夕食をして帰る」でしたから、迷うことはありません。その他に、纏めるテーマを何にしようか、現状に当たるもは何だろう、といろいろなシナリオ頭に描きながら写真を選択していきました。とはいえ、手元にある資料はそんなに多くありません。しばらく考えているうちに取り合えずの選択は完了です。写真の数が少なく、、若干おかしなところがあると感じてもひとまず終わらざるを得ません。
事業計画、研究計画や販売計画を立てる時はどんな資料を集めるかを考えるだけでも大変す。そんな時には練習を兼ねて、情報収集の構想を立てる時にでもこの方法を使ってみるのいいかもしれません。
こうして、テーマを「帝釈天の見えるところでお店を見ながら楽しみ、時間内に到達する方法」として情報を整理してみることにしました。外との繋 がりは広角レンズで撮った写真、立ち位置は写真を撮ったところを地図上で表現、理としては柴又を有名にした寅さんの像をといった具合に選択していきました。テーマに当たるところには、現場写真を使って帝釈天を大きく見せる魚眼表示にしました。他にもまんだら出前寄席の張り紙は写真にとる時斜めから撮ったため歪んでいたので、これを長方形にするために修正することも必要でした。研究開発やビジネスであれば定めし、「情報の収集と整理」に相当する段階です。
こうして、整理した結果が図3です。実際に使うもののより若干多いかもしれませんが、歩留まりも必要ですから、少し多めに用意しておけばいいでしょう。
こうして、集められた写真(図も含む)から、図2の趣旨に合ったものを9つ選んで、魚眼マンダラのフレームワークに張り付ければ完成です。こうして出来上がったのが図4です。
「未」: 未来のありたい姿や夢を示す右上には今回の散策の目的地、柴又帝釈天の写真を配置しました。帝釈天では大きなお御堂の他にもきれいな御庭や彫刻もあり、これらを売りにしています。他にも、お祭りでもないのに境内では大道芸人が出ており、たくさんの人が集まっていました(そういえばその日は土曜日でした)。
「現」: 一方現在をあらわ す左下の写真は、柴又駅から歩いている時に、帝釈天が正面に見え始めたので思わす撮った写真です。今回の散歩の現在を代表させる写真としてここにはめ込むことにしました。普通に帝釈天に向かって歩いていけばこのよう見えるわけです。
「内」: 右下の図は、店にあった柴又マップから抜き出した現地の地図です。図中の赤い矢印は左下の写真を撮った所と、撮った方向を示しています。この時の立ち位置を示すシンボルとしてここに載せました。こののように一般的には立ち位置には、計画者・企画者・報告者がレポートを書くときの自分の立場と見ている方向を示せればいいわけです。
「外」: 左上には幅広く周りの様子を見せようと、同じ場所(現在地と)から広角レンズで撮った写真です。この写真では、現在行こうとしているところはいかにもちっぽけになってしまいます。いくら写真をみていても、おおむね方向が合っていることの確認には使えますが、目的地はよく見えないし、ましてやそこ行きつくためにはどうすればいいかはわかりません。外部の人や評論家の意見と同じように、広い立場から公平に見て判断が正しいかを知るには役立ちますが、問題解決の実務にはほとんど役に立たないことをシンボリックに示す写真になりました。
「理」: 中上には、理を示すところ。ここでは、柴又帝釈天に来る動機を作った寅さんの写真をあげました。寅さんの像は京成柴又駅を降りた広場のまっ正面にあります。いまは亡き、「渥美清氏」扮する、フーテンの寅さんは、テレビや映画で何度も見た姿そのもでした。この写真の左下には、近所のお店で売っていたシールを参考に、寅さん愛用の鞄を載せてみました。このように、客観的事実に加え間違っていないと思う自分の意見も付 加していいのではないかと思っています。 所詮、結果が出てしまえば後付けの理なんていくらでも付けることが出来る屁理屈かもしれません。。
「感」: 一方中下は、心の動きを促す、感情の動きを示す所、ここでは帝釈天に行くことという表向きの目的に加えて、同じ食べるなら「おいしくて、珍しくて、できることなら安いもの」をという本音の一部を表すお菓子屋さん写真を載せました。写真のお店に第1回から第4回にかけて、映画の寅さんの舞台として使われたという看板がおいてありました。ここで和風菓子を買って、道々食べながらお腹と心を癒した次第です。感情の部分は、その行動を起こしている時には、表向き顔を出さないようですが、あとで振り返って見ると、なんとなくそうかもしれないと言えるあやふやなものです。通常は、複数の行動を観察していくと、それらに共通するものとして理解できることが多いように思います。形式的でその時検証可能な理論とは違う、時空や人との関わりを超え生き物のた本音に近い部分を表現しているのかもしれません。
「他」: 左中のまんだら出前寄席の写真は、ここでは時々開かれるイベントのようで、すでに35回目となっているもようです。時間に間に合って参加出きれば、ここに集まる人とのコミュニケーションを取れたかもしれないイベントでしたが、少し遅かったようです。ビジネスにおいて、このように関連するのイベントに参加するのも、次へのきっかけにはなるでしょうが、ネットワークづくりにもタイミングが重要であることを示すことにもなってしまいました。
「自」: それに対して、右中は子供のころに食べたお菓子や、おもちゃを売っていいるお店での写真です。大変懐かしく感じたので一枚撮りました。ビジネスでも、その時そこに至った個人的な意味を、明確にしておくことが大切です。所詮、人間は過去の経験から連想することなしに、新しいことを理解をするのが難しいはずですから。
「今」: こうして、周りとの調和を考えて参道から帝釈天に向かう道での思いをまとめるところが中心にある魚眼写真です。 私の携帯には、広角写真のアタッチメント を取り付けられるのですが、魚眼効果をうまくだせませんでした(アタッチメントに機能が無いのではなく私が使い方を知らないだけかもしれません)。そこで、ここでは左下の参道写真を加工して魚眼効果を演出しました。この図であれば、目的地を十分大きく見せてくれると同時に全体を見渡すこともできます。こうして 図4の中心に、魚眼写真を配置して、なんとなくマンダラ風に、繰り返し同じパターンも表現することができました。
情報の分析
次は、こうして思いつきで集められた写真等に、キ-ワードを付けてつじつまが合っているかどうか検証します。道具にはマンダラ図と相性の良さそうなマインド マップツールを使っみました。この例ではソフトウェアとして、Freemindというフリーウエアのを使っていますが、機能としては図形表示と階層的な情報整理の機能しか使っていないので、みなさん使いなれたツールをお使いいただければ良いかと思います。
目的は写真のつじつまが合っているかを検証することですから、真ん中には今回のテーマである柴又マンダラ、その周りには時間軸、空間軸、心軸、調和軸に配置します。次いで、時間軸を現在と未来という風に順次展開し8つの要素と1つのテーマの9つの枝が出来れば、フレームワークは完成です。各枝に、相当する図4で選んだ図や写真を貼りけます。こうしていったんマンダラ図に載せる写真が全部揃ったところで、思いつくままにキーワーや短文にを加えて行きます。図4を作った時に考えた事(すなわち図4の説明に書いたようなこと)を思いつくままにどんどん記入します。「図」のみから「図+文字と情報」へと 思考の表現方法が変わる論理思考の始まりです。図4ではキーワード 整理を中心に説明するために写真は一枚だけ表示してありますが、実際には使用するもの全部を使います。ある程度キーワードの抽出が出来たら、キーワード相互の整合性、論理性の検討を行いながら、全体の論理を再確認します。ことによっては、用意した写真だけではつじつまが合わないこともあるかもしれません。このような時には、新たな写真を探したり、過去の写真を探したりして現在の写真と入れ替 え全体の構成を整えます。ただあくまでも事実もしくは論理思考の結果のみを書くことに徹してください。実際のビジネスの場合は、写真に代わり図表が配置されていることが多いはずです。ここはビジネスでいえば、「情報の分析」のステップにあたります。
図4では、解説の補助をつけることを前提に写真のみを載せていました。解説を作る時間が無い時や、解説を読むのが面倒であれば、写真を見ながら、自由に発想を展開していただいても結構です。無駄な言葉を読まなくてもいいだけに、作者の思いつかなかった発想が浮かぶかもしれません。もともとマンダラ図はそのような性格のはずです。見る人は、描かれた絵を見ながら自由に発想を展開すればいいわけです。以前このような図や写真を多用し言葉の少ない資料を使ったプレゼンテーションを行ったときに、聞いている人から、プレゼンターの意見が分かりにくいと、言われたことがありました。そうなんです。マンダラ図の問題の一つは、作者の意図が伝わりにくいことなのです。一方、図5は論理性をチェックするために文字を中心に載せてあります。この両者を一枚 の紙に纏めて記入したのが、図6です。こちらは、図や写真だけより、作者の意図を色濃く伝えることが出来ます。文字と写真の両方を一枚の紙に載せて、配布用の説明資料に使うことを目的としています。全体を1枚に纏めてあるので、聴き手は、一目で全体の概要を知ることが出来ます。 話し手としては聴き手に合わせ、聴き手が興味を持ちそうなところから話を始めたり、聴き手の顔色を見ながら、関心のありそうなところには時間をかけたり、良くご存じのように見えたら省略したりと自由に話を組みたてることが出来ます。一方聴き手は、前もって目をつけていた、自分の興味のある部分に来た時には注意深く、そうでないところはそれなりに聞く事が出来ます。話を聞きながら必要なメモは、A3の大きな紙の空いているところを見つけて記入すれば良い訳です。これなら聴き手はメモ取りに時間を取られることも少なくなり、話し手とも気楽に会話を楽しむことができるように思えるのですがどうでしょうか。さだめし、ビジネスで応用する時は「意図の表明(プレゼンテーション)」の補助資料です。
文責 瀬領浩一