金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

55.同窓会も変わった?

-金沢大学同窓会東京支部総会より-

9月17日、東京千代田区の霞が関ビル35階で金沢大学の同窓会が開かれました。この日は北の都会(法・文・経済学同窓会の東京支部)、関 東理学部同窓会、薬学部関東同窓会、金沢工業会東京支部が集まりました。第1部では各同窓会の東京支部がそれぞれ分かれて行い、第2部以降は合同で講演 会、懇親会が行われました。第2部の講演会は、東日本大震災の後と言うことでしょうか地震の話でした。第3部の懇親会では、気楽に懇談という趣旨です が、参加者を元気づけるイベント もありましたので、そのあたりも報告させていただきます。大学の改革とともに同窓会も変わってき ていることを感じていただければと思います。

金沢工業会東京支部総会

山崎光悦金沢工業会会長挨拶
図1 山崎 金沢工業会会長の挨拶

金沢工業会東京支部の総会は、14時15分から始まり、落合正博支部長の挨拶に続き、金沢工業会会長の山崎光悦氏の挨拶をいただきました。山崎先 生のお話は、 東日本大震災のお悔やみからはじまりました。そして、金沢大学は医療チームの派遣、除染、低レベルの放射線対策に対する活動、さらにボランティア派遣を 行いましたと報告されました。そのあと、ついに金沢大学の工学部の 学生は100人くらいになってしましたと笑っておっしゃいました。実際は工学部が縮小されたのではなく、大学の組織が学部制から学域制へと変わり、新 入生は 理工学域に引き継が れ、工学部が存在 したころの学生はほとんど卒業され、今も卒業せずに残っていらっしゃるのは100人くらいということです。そして、新しい理工学域の最近のトピッ クスは理工 研究域バイオAFM先端研究センターhttp: //www.se.kanazawa-u.ac.jp/bioafm_center/index.htm)と理工研究域サステナブ ルエネルギー研究センター(http://rset.w3.kanazawa-u.ac.jp/)の2つの研究センターの設立ですと紹介されました。そのうち高 橋光信教授がセンター長をされているサステナブルエネルギー研究センター(通称RSET)については、パンフレットまで用意されていて次の5部門からなる と説明されました。そして一部の教員は公募されたとのこと。ご関心の ある方は是非ホームページをご参照ください。

  • 有機薄膜太陽電池部門
  • 自然エネルギー活用部門
  • 炭素循環技術部門
  • エネルギー・環境材料部門
  • バイオマス利用部門

これらの部門名をながめればお分かりの通り、環境問題を解決するために必要なことをテーマにしています。その上、大震災を 契機に原子力発電所の停止が増えて来ているわけですから、世の中の注目を集めることは間違いありません。同窓生にとってもうれしいニュースでした。

山崎光悦金沢工業会会長挨拶
図2霞が関ビル35階富士の間から見るビル群

図2の写真は金沢工業会の総会会場であった霞が関ビル35階富士の間から見えた東京の景色です。 右側中程に見えるのは国会議事堂、真中下に見える緑に囲まれた建物は首相官邸だそうです。 普段なら雲の上に見えるはずの権力のシンボルともいえる建物が、はるか眼下に見えます。 左側の真中付近には、石川県とも縁が深いコマツの本社も見えます。最近の、日本の政治・経済の低 迷を思い出し、思わず頑張れと叫びたくなったのは、私だけでしょうか? 時には、このような高い位置(視高で)に立って、日本の将来を考えるのも面白いことです。 主催者の粋な取り計らいを感じさせられた景色です。

合同特別講演会

お話に聴きいる聴講生
図3 特別講演 那須丈夫氏

特別講演は金沢大学理学部地質学科を昭和38年に卒業され、現在は株式会社イズミインターナショナル社長の那須丈夫による "地震列島に住む私たちの心構え"でした。(図3の写真参照)講演では、地震に関する世界的傾向や火山活動と地震との関係、地震に対して私たちがどの ように対応すればいいかについての 最近の研究成果を踏まえたお話を頂きました。私には難しい研究成果の方はよく分かりませんでしたが、結論は次のようなことではないかと理解しました。

日本は地震大国であり、たとえば関東地方では今後200から300年の間に関東大震災 (マグニチュード8)のような地震が発生する可能性は少ないがマグニチュード7位 の直下型地震が数回発生するだろう。しかし、今回の同窓会の皆さんに役立つ関東地方については、避難活動に役立つような、何時、何処で、 どの程度の地震が発生するかは予測する方法はないのが現状である。また日本には地震予知を専門にしている教授は一人もいらっしゃらないとのこと。本当かいなと 「地震予知」をキーワードに、金沢大学の教員総覧を検索した限りでは該当者無しでした。私には反論の根拠はありません。地震予 知に関する基礎的な研究がなされていないのであれば、地震がいつ発生するかを知ることはいつまでたっても出来るようにならないかもしれません。現在行われているような地 震が発生し てから少し遅れて、地震速報が送られてくる体制ではとても逃げる暇などありません。同じような災害対策の台風の進路予測とはずいぶん違うようです。その 上、日本のどこでも地震は起こる可能性はあるが、何時どこで起こるかは分からない、といことは分かっているようです。 それらの前提にたって、那須社長のお勧めの私たちの心構えは他人に頼らず、家族の安全が第 一との立場から、次のような自分の出来ることはやっておいてくださいとのことでした。

  • 家がつぶれないか基礎地盤の確認を行う、
  • 家具は倒れないように止めておく、
  • 災害が起きた時に備えて蓄えをしておく、
  • 家族のコンテニュープランを作る(問えば連絡網)

    なお「東海地震に関連する情報が新しくなりました」というリーフレットの東海地震にどう対処すべきかにより詳しい情報がありますので参考にしてください。

    それはそれとして、私が最も気になったことは、日本の8段階(0~7)の震度の基準は国際的な12段階のメルカリ震度階級基準とは 整合性が取れていないといったように、グローバルな研究成果を生かす体制が 出来上がっていないとのお話です。世界一の地震大国での研究実績を持っている との自負と自信、さらには日本のこれまでの生活習慣と違ったものを入れると混乱が起きるといった理由からか、グローバルな対応をしないで、自分の得意 技・生活習慣を優先させてきた結果のようです。古くは空軍に主力が移りつつある時代に世界最大の戦艦大和の製造 に邁進してしまった海軍、最近では高機能化・多機能化競争に あけくれ、世界市場からおいてきぼりになってしまった携帯電話の開発を思い出しました。ところが那須氏の お話を聞いている と、地震予知の研究でも同じように科学者のタコ壺化のような状況が起きているのでは ないかと感じた次第です。 島国根性で代表される、心の閉鎖性がもたらす資源(人・モノ・金)の非効率な使われ方が ここでも発生しかねないかと心配になりました。さらに、講演のはしはしで出てきたのは地震学者島村英紀氏の話でした。 著書の"「地震予知」はウソだらけ"(講談社文庫)は是非読んでみてくださ いとのお言葉が妙に心にかかり、さっそく本屋さんに行きましたが見つけることができなくて、 とりあえず注文して帰りました。そして、家で島村氏のホームページで次のような一文を見つけました。「科学者としての責任は第一義的には科学を進める ことです。 しかし、それだけでは十分ではないと私は考えます。つまり、そのほかに、 それぞれの科学がなにを目指していて、なにをやっていて、どこまで進んでいるか、 どこがまだわかっていないのか、を一般の方々や私たちの科学以外の科学者 たちにわかっていただくことにも科学者としての責任があると、私は考えます。」という 実に重い言葉です。島村氏の著書には何が書かれているのかと、 本が届くのを楽しみに待っている次第です。

    地震の予知は出来ない。しかし那須氏のおっしゃったような家族のコンテニュープラン作成のニーズはある。島村氏のような考え方の人がいる。会 場には、社会的経験も同窓会に出るくらいの余裕もあり、多様な専門知識を持つ人がいる。さらにすでに同じ大学という共通の体験を持つ人の懇談会が続く。 今回の同窓会は、あたかも災害対策のイノベーションを起こしたい人にとっての探索の場を呈していました。

    合同懇親会

    歌う 北の都会
    図4 ご挨拶される 中村信一金沢大学長

    そのあとの合同懇親会は、霞が関ビル35階 阿蘇の間で16時から行われました。 開会のあいさつのあと、金沢大学校歌斉唱、各同窓会の代表の挨拶があり、金沢大学長の 来賓代表挨拶があリました(写真図4)。 挨拶の中で昨年は大学の予算も減額されることはなかったが、来年度は厳しいことになりそうである。 その節は、皆様のご協力をお願いしますとおっしゃっていました。大手銀行様にはボランティアとしていろいろなご援助をいただきあるがとうございますと のお言葉に続いて、「東京にはいろんな審議会が開かれています。支部の皆さんは、審議会 に出席していただいて、貴重な情報を大学に送っていただければありがたい。」 というようなことをおっしゃったのが妙に記憶に残りました。折角、高等教育を受けたのだから、 政府や官庁の動きにもっと関心を持って下さいと言うことでしょうか? 今の情勢では、大学に情報を送るかどうかとは別に、行政が何をやろうとしているのか といったことに注意を払い、視野を広げ、時期に応じた動きをしなければならにことだ けは確かなようです。

    歌う 北の都会
    図5 歌う 北の都会

    その後、工業会会長の山崎氏の音頭で乾杯が行われ、その合図を待っていたように あちこちで久しぶりにお会いした人、初めての人々との話し合いの輪ができ、賑やかな懇談が始まりました。 この輪を解け、再び壇上に注目が集まったのは、校歌・学生歌・寮歌斉唱の時です。 図5の写真のように壇上の「北の都会」の人々を取り囲み、ほとんど忘れてしまって いた歌を思い出しながら声を張り上げていました。懇談会出席者の多くは、社会に出てから相当の年月がたっています。皆さん、大幅に若返り青春時代に戻っ たつもりで、同窓会に参加できた幸せに浸っていたようです。

    それにしても、今回の同窓会では

    • 大学は新しい時代に向けて研究センター等を強化中との報告
    • 総会会場があったような、国会議事堂を見下ろす高いところから見ると景色が違うことを感ずる
    • 地震のような大危機のときには、人に頼るのではなくまずは自分で対処しなければならない
    • 研究者はグローバルな視野を持ち、世の中に役に立つことを考えなくてはいけない
    • 卒業生は、お国の施策にも目を向ける必要がある

    といったような、いろんなメッセージが飛んできました。 大学の同窓会も変わりました。 お友達と会って、おいしいお酒を楽しんでと思っていた私も、これまでより少し広い範囲で活動しな ければいけないと感じた次第です。東日本大震災の被害を受けた人には大変つらいことだとは思いますが、世界には戦争や金融危機のように、つらいことは他 にも数多く発生しています。それらを悲しむだけではなく、 少しでも希望を見つけ出す努力をしなければいけません。 日本の高度成長期のような時代はもうこないかもしれません。改革派の人(イノベーティブな人)はこうした 危機をチャンスと見るかもしれませんが、そうでない人々もそれぞれ自分で対処せざるを得ない時代になったようです。  

    最後に少しでも元気が出るようにと、みんなで歌った歌の中から「南下軍の歌」(MP3フォーマットです)を アップしておきました。ここ をクリックするか図5をクリックすると聞くことができます(ダウンロードできます)。 YouTubeには「南下軍の歌」を含め、「北の都」等大学関連の歌が多数アップされています。 これらの歌を聴き、歌い、若かったころを思い出し、もう一度頑張る力を得るのはいか がでしょうか。

    2011/09/23
    文責 瀬領浩一