137.心豊かに暮らせる社会
-SDGsの利用-
はじめに
2020年10月24日ODSGの定例会で サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊 純一 氏から、Sustainable Development Development Goals (以下 SDGsと略す) についての詳しいお話をお聞きしました。
これまで環境問題や持続可能と言えば、日本の国内でガソリン、石油や石炭を使うことによる大気汚染や、気温上昇を防ぎ高山にある氷の溶融を減らすことであり、そのために電気自動車、風力発電等の研究開発やその普及活動のようなものと考えていました。さらに私たちが食物やその材料も海外から運ばれてくるものが増え、終戦直後には88%であった食料自給率は2000年代にはおよそ40%前後にまで下がってしまい、そのため日本での食事だけでなく、その原料の輸入元や食事に絡む廃棄物まで世界の環境に影響を与える状況になっているとしても、それは相手国で許容できる範囲であればよい良いのではと考えていました。
ただ製造業についても、より性能の高い商品や機能の多い製品が好まれるようになり商品の価格も高いものが売れるように なりましたが、原料の購入から、生産、輸送、販売、修理、回収のプロダクトライフサイクルどこかに不都合なことが発生すると、そのメーカーの評判が落ち売り上げが減るということもあるということも知ってはいました。
このように考えているときに池邉氏のお話をお聞きしたのです。
それによると、これらは日本の経済が発展し、多くの人たちが「裕福に暮らしたい」を達成し、今や次の「心豊かに暮らしたい」を願って生きるようになったために起きたことですというお話しでした。このため今や製造業といえども工場の製造過程だけの効率や製品の性能の評判だけでなく、商品のライフサイクル全体を考えて 問題を解決し、効率性を追求し経済的価値を考えて経営を行うことが必要になったということでした。
企業は自社の商品のライフサイクルを考えるとこれまでの産業とか業種のイメージを越えて考えることになります。こうして組織やそこで働く従業員は、「企業」そのものだけではなく、「人」「社会」「自然環境」を加えた4つの視点から「持続可能な社会の発展」と「持続可能な企業の成長」への取り組みを結びつけ、積み重ねていくことによって、これまでの経済的価値の追求に加えて、未来に残していける社会的価値、「すなわちこれからもひとりひとりが心豊かに暮らせる社会を築くこと」が必要な時代になったようです。
以下このセミナーで学んだことをもとに「心豊かに暮らせる社会の構築」についてまとめました。
1章 SDGs持続可能な開発目標とは(サステイナブルの定義)
お話はサステイナブルの定義から始まりました。
国際連合広報センターの公式情報として「持続可能な開発」とはブルントラント報告、1987によると「将来の世代がそのニーズを満たせる能力を損なうことなしに、現在のニーズを満たす開発(Sustainable development, which implies meeting the needs of the present without compromising the ability of future generations to meet their own need)」と定義されていました。その後国際科学会議 "ICSU" で "Sustainable development" の再定義が行われ「現在および将来の世代の人類の繁栄が依存している地球の生命維持システムを保護しつつ、現在の世代の欲求を満足させるような開発」になったとのことです。時代とともに徐々に定義も変わってきているようです。
また、池邉氏は国連が主導する取り組みである "Sustainable Development Goals" は「持続可能な開発目標」と訳されていますが、国や地域、企業、個人の自発的な取り組みとして「持続可能な発展目標」と捉えるべきという意見でした。
ということで今回は「主体的にSDGsに取り組む」という視点で議論を進めるとのことでした。
まずはSDGsの歴史的経緯を紐解き、とらえ方の本質を示し、そのうえで、身近な社会問題と関連付けて考えてみるように勧められました。
そのために、多くの文献やホームページを紹介して頂き、そこで述べられている内容について相互の時間関係を含めて整理された資料を基に歴史的経緯を解説していただきました。
1.1 SDGsの開発目標について
SDGsの開発目標について、総務省の資料(総務省、2019)では下記のように書いています。
持続可能な開発目標(SDGs)とは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの図表1のような「SDGsの17の目標」です。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の誰一人として取り残さない(No one will be left behind)ことを誓っています。SDGsは発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいます。上記国連サミットの成果文書において、SDGsの進捗を測定するための指標は国連統計委員会で検討することとされました。そして、国連 統計委員会や関連会合(「SDG指標に関する機関間専門家グループ(IAEG-SDGs)会合」等)での議論を経て、2017年7月の国連総会において全244(重複を除くと232)のグローバル指標からなる指標枠組みが承認されました。
「SDGsの開発目標」総務省の資料(総務省、2019)を参考にして作成
図表1.SDGsの17の目標では、貧困から・飢餓・健康・人材育成・雇用問題・移行等の環境問題・社会との関係といった生活するため に必要なことが目標として取り上げられています。
他にも国際連合広報センター SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは?(国際連合広報センター、2019) では、17の目標とその各々について簡単な説明とそれを特徴づける事実と数字を使って説明しています。
2019年8月に更新された「SDGs、ターゲットと指標」(総務省、2019)から開発目標の概要の仮訳と17個の目標各々のターゲット並びにそのターゲットの達成を図る指標を見ることができます。これは国連統計本部のHPに掲載されている指標を総務省で仮訳したもので、仮訳ということで原文(英文)も掲載されています。
各々の要素の数はプロジェクトごとに異なりますがそこで使われる目標は図表1にある17個の中からいくつかを選び、ターゲットは169の中から、指標は232の中から選ぶことを原則としています。ただ指標については244のグローバル指標(重複を除くと232)以外にも、ローカル指標(日本125指標 2019.9)、民間ベース指標(例えばドイツテルスマン財団の指標)といった具合にいろいろあるようです。
このようにSDGsについて目標、ターゲット、事実と数字、等いろんなことがいろんな組織からが出されています。これではわかりにくいと思われる方は、まずはこれらを一つにまとめてわかりやすく説明したイマココラボのホームページ「SDGsとは?」(イマココラボ)がありますので、そちらをお読みください。
ここまでをまとめるとSDGsのプロジェクトの構造は図表2のようになります。
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図表2は、プロジェクト・目標・ターゲット・指標を標準部品や組み立て部品の名前が決まっているものづくりと似た構造で示したものです。人の好みや習慣、経済原則、地球環境等の変化とともに、これらのプロジェクトの構成要素名が決まってきます。「SDGs、ターゲットと指標」(総務省、2019)にはすべての目標、ターゲット、指標が掲載されていますので、必要な時に参考にしていただければ幸いです。
「持続可能な開発目標、2016年1月1日に発効 (概観 (国際連合広報センター、2016)によれば、持続可能な開発目標の基本的要素(SDGsとターゲット)は今後15年間にわたり、
人間:貧困に終止符。すべての人々が尊厳と平等、そして健全な環境の中で、潜在能力の発揮できるようにすること。
地球:地球の劣化を防ぐことにより現在と将来の世代のニーズを支えられるようにすること。
豊かさ:自然と調和し、すべての人々が豊かで充実した生活を送れるようにすること。
平和:恐怖や暴力のない、平和で公正かつ包摂的な社会を育てること。
パートナーシップ:グローバル連帯の強化により、すべてのステークホルダー、人々が参加できること。
という大きな重要性を備えた領域(5P)に関する行動を促すこととしています。
その外にも、「SDGs」についてのいろいろな本や多数のホームページの紹介しとSDGsの概要の説明をいただきました。
そのうえで、最近の動向(メディア情報より)日経新聞に取り上げられたパンデミック記事、ESG記事、SDGs記事数の推移を見せて頂きました。パンデミック記事は2020年から始まっていますが、ESGの記事とSDGsの記事は2017年ごろから始まり2018年から上昇し始めていることが解りました。SDGsの累積記事数は2018年の9月の150件くらいから2020年9月の750件くらいまでに600件位の記事数が増えています。1週間に6個弱の記事が掲載されていることになります。パンデミック記事の毎週80件近くに到底及びませんが、今後の大問題の一つであることは間違いありません。
その後、「社会発展の過去を振り返り未来像を描いて、主体的に、システマティックに取り組む」といった話をいただきました。
1.2 SDGsに主体的に取り組むためになすべきこと
SDGsのこれからにとって必要なこと、それは各自が2030年の世界のかたちを考えながら、行動をとっていくことです。企業にはそれぞれ独自の目標があり、SDGsの目標はそれに取ってかわるものではありません。あくまでも人間らしく生きられるよりよい世界を願う我々が声を上げる目標にすぎません。図表3 プロダクトライフサイクルと社会的負荷にあるように、これまでは製造プロセスと言えば、同図の上半分の雇用創出と地域社会の発展が話題として取り上げられてきました。
ODSG定例会で配布された池邉氏の資料(All Rights Reserved Copyright© Sustainable Innovation Co., Ltd. 2020 )
の一部を引用し変更・加筆した
しかしながら、いまや図表3の下半分にあるように、働く人や使う人のことを考えて、プロダクトライフサイクルを考えなくてはいけないようになってきています。さらに現場はプロセスごとにそれぞれ独立した組織構造を持っています。そのため労働負荷や環境負荷情報を集める方法も統一するのは難しそうです。このような時には現場・現場で独自に考え対策をとるのがよさそうです。このため、集める情報も現場に合わせて選び対策を考えることになります。とはいえ、前後のプロセスとの情報交換もきちんと行われる必要があります。このためにもターゲットごとに評価データが決められておりお互いに知り合っていることは、重要な要件です。SDGsのターゲットごとの情報が標準化されているのはそのための調整がいらないため、大変やりやすくなる仕組みです。さらに互いに情報をやり取りするのですから、何らかの情報共有の仕組みも作りにも役立ちます。
2章 取組事例
2.1 大学の例
2.1.1 岡山大学の例~戦略目的
あまりにも多くの資料があり整理するのも大変という状況でしたので。何かいい例がないかと探していたら「SDGsの達成に向けた岡山大学の取組事例集 第6版(2019年2月12日発行(岡山大学、2019)がありました。この本の中で岡山大学学長で岡山 大学推進本部長の槇野博史氏は、岡山大学は、『「人 類社会の持続的進化の新たなパラダイム構築を」大学の目的としています、事例集は「この目的の達成に向け、岡山大学が日常的に取り組んでいる様々な教育研 究活動等を、SDGsのゴール達成に向けたプロセスモデルとして位置づけ、活動の可視化を行えるようまとめたものです。』と述べているように一つの組織体 の活動状況を知るのにいい本です。
以下この本に書かれていることを簡単にまとめました。
岡山大学では、SDGsの取り組みを以下の7つのカテゴリーに分けて、各カテゴリーをその下に書いてある27個のサブカテゴリーに分 けて整理しています。各サブカテゴリー毎にいくつかのプロジェクトが紹介されており、合計224個のプロジェクトが登録されています。
ⅰ.地球規模の環境変化への対応
植物多様性、気候変動、海洋と水資源、その他
ⅱ.SDGsを実践する人材の育成
ESD、地域課題への取り組み、堰合課題への取り組み、その他
ⅲ.医療と健康
先進医療、健康づくりと疾病の克服、医療人材育成、その他
ⅳ.まちづくりへの支援
都市づくり、学生参加のまちづくり、防災
ⅴ.エネルギー確保のための科学とソリューションの提供
バイオマス、太陽電池、水素(低酸素社会)、その他
ⅵ.共生社会の実現
ダイバーシティを支援する環境づくり、性的少数者への支援、貧困をなくしよう、
平和と公正を守る法、経済活動と法、その他
ⅶ.イノベーションの創出
革新的技術、革新的材料開発、産学官連携
この分類にしたがって目標の設定状況を示したのが図表4.岡山大学のSDGsの取り組みです。
SDGsの達成に向けた岡山大学の取組事例集_第6版 _2019年発行(岡山大学、2019)を参照して作成
図表4はこの本で取り上げられたSDGs活動を7つの研究カテゴリーごとにあげ、そこで取り上げられているSDGsの目標を表にしたものです。各々の活動には第1番には大きなSDGsロゴマークと、小さなロゴマークがいくつか付けられています。縦軸には活動毎に第1番目に挙げられた目標のある所には丸印を、一個も取り上げられていないところにはバツ印を記してあります。横軸には活動件数を、縦軸の最後には目標に登録された件数を記してあります。
この図表からわかることは、研究カテゴリーの中では、医療と健康の目標件数(目標にあげられた件数)がもっとも大きく、次いで大学らしくSDGsを実践する人材育成が第2位となっていす。ただ医療と健康の中には医療人材の育成も入っているのでこれも人材育成と考えると、1位と2位とはほぼ同数となりこの2つで全体の約に半分になっています。
またSDGsの目標の面からみると、1位は「目標3.すべての人に健康と福祉を」が、2位は「目標4.質の高い教育をみんなに」となっています。
これも健康と教育ということになっています。また活動の少ないのは「目標6.安全な水とトイレを世界中に」が2件、「目標1.貧困をなくそう」と「目標8.働きがいも経済成長も」 「目標15. 陸の豊かさを守ろう」が3件でした。さらに4つのカテゴリーで設定されなかった目標は「目標2.飢餓をゼロに」「目標16.平和と攻勢をすべての人に」で3つのカテゴ リーで目標が設定されなかったのは「目標1.貧困をなくそう」と「目標5.ジェンダー平等を実現しよう」でした。
国立大学という恵まれた環境にいるせいか、貧困にはあまり関心が集まらないのかもしれないと感じた次第です。
2.1.2 北陸の大学の例~市場調査
岡山大学がこのような状況なら、他の大学でもSDGsの取り組みを行っているだろうと、北陸の3大学についてGoogleで検索してみました。
福井大学では2017年5月276日から28日まで福井大学のサークル「ピース・クリエーターズ・クラブ」の学生により、福井大学のキャンバスで、SDGsのパネル展がおこなわれました(福井大学、2017)。
金沢大学の「金沢大学SDGsのひろば」(金沢大学)は金沢大学先端科学・社会共創推進機構の人材育成グループにあり、SDGsに関心がある金沢大学の学生や教職員が気軽に取り組みや情報や思いをシェアし、SDGsに関する「学生の主体的活動を支援する」「学生の学びにつながる」活動を支援するために設立したものですと書かれています。
KIT SDGs推進センター(金沢工業大学)は全学体制でSDGsアクションを推進する際の学部学科の横串を通す役 割を有すると共に、地域の様々なステークホルダーを結びつけるハブ機能を有する組織です。主に教育、地域経営、ビジネスの3つの領域で活動をしていますが、その中でも最重要領域は教育です。SDGsの先を見据えたBeyond SDGs時代を担う次世代リーダーが主役となり社会変革を実現していくことを、企業や自治体などの様々なパートナーと連携し促進していますと述べています。
富山大学では「持続可能な目標(SDGs)」に対する富山大学の取り組み(富山大学)で、 2015年9月の国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています。すべての大学構成員とともに、様々な活動に取り組んでいますという記事がありました。
このようにどの大学のホームぺージにもSDGsに関する活動についての説明がありました。今やSDGsは大学では一般常識となっていることがわかりました。
2.2 岡山市の例~ゴールとターゲットと指標
大学がこのように、積極的に取り組んでいるのであれば、地方自治体も同様に取り組んでいるだろうとインターネッで、岡山市の SDGsについての情報を検索すると以下のような情報がえられました。岡山市SDGs未来都市計画~誰もが健康で学び合い生涯活躍するまちおかやまの推進~(岡山市)に2030年のあるべき姿として次のようなことが挙げられています。
「これまで「ホール・シティ・アプローチ」で取り組んできたがESD(Education for Sustainable Development)プロジェクトを通して育った地域人材が、あらゆる地域課題の解決のために自ら考え、行動を起こす、市民主体のまちづくりが行われている。そうした中で、子どもから高齢者までのすべての市民が、自らの健康状態を把握し、必要に応じて適切なサポートを受けることにより、心身ともに健康となり、社会の中で自らの役割を持っていつまでも活躍できている。また、市民や企業が健康課題を自ら解決すべきこととして習慣的に取り組み、医療費が抑制され、経済的な負担が軽減している。さらに、健康な市民が増えることにより、地域産業や生活環境についても相乗効果が生み出され、住みやすく活力あふれるまちづくりが実現している。これらの実現のため、以下が達成されていることが重要であるとしています。
1.個人の健康づくりから「地域の健康づくり」
2.推奨する健康増進から「実行する健康増進」へ
3. 健康が最終目標から「健康、そして活躍」へ
4.岡山市の強みを活かした住みやすく活力あるまち
そのためにSGDs2030年のあるべき姿の実現に向けての優先的なゴールとして図表3のような取り組みが行われています。
岡山市SDGs未来計画~誰もが健康で学び合い生涯活躍す るまちおかやまの推進~(岡山市)を参照して作成
図表4. 岡山市自治体SDGsの推進に資する取り組の表の第2行の経済の欄に書かれているゴール・ターゲット番号 8.3の第1番目の数字8はゴール8(目標8.包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する)を示しており、2番目の数字3はその中のターゲット3(生産活動や適切な雇用創出、起業、創造性、およびイノベーションを支援する開発重視型の政策を促進するとともに、金融サービスへのアクセス改善などを通じて中小零細企業の設立や成長を奨励する)が市内就業者数となっているように、このプロジェクトと目標やターゲットも、その仕事に対してわかりやすいように具体的に書かれているはずです。ただこのように番号を使って一般化した表 現にしておくと、他の人の成功事例と比較したり、同じ数字になってグループ毎に事例の交換ができ、情報交換を行いやすくなります。
このように図表5は非常に単純な表ですが、中身は相当いろいろなことを言っていることがお分かりだと思います。しかし「SDGs、ターゲットと指標」(総務省、2019)に書かれた情報を身近に置いておかないと、これらすべてを頭に入れておくのは難しいかと思います。
2.3 日本国レベルの例~企画
日本の外務省のSDGsプロジェクトの概要を挙げておきます。これらは皆さんがSDGsプロジェクトの企画を行う時の参考事例として利用できますので、インターネット情報も参考にしながら読んでください。
外務省のSDGs推進本部の「SDGs実施指針改定版」(2019年12月20日版)(外務省、2016)に、以下のようなことが掲載されています。2015年のSDGs採択から4年たち、この間に取り組の変革により経済や社会の変革が加速したため、これに対応すべく実施方針を1部改訂したとのことです。まず はこれまでの取り組みと現状の評価を行い、日本として特に注力すべきものを示すべく日本の文脈に即して8つの優先課題として再構成したものです。
SDGsにおけるすべてのゴールとターゲットが不可分であり統合された形で取り組むことが求められているのと同様、これらの8つの優先課題も密接に関わる不可分の課題であり、どれ一つが欠けてもビジョンは達成されないという認識の下、その全てに統合的な形で取り組むとしています。
8つの優先課題は以下の通りです。
(People 人間)
① あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
② 健康・長寿の達成
(Prosperity 繁栄)
③ 成長市場の創出,地域活性化,科学技術イノベーション
④ 持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備
(Planet 地球)
⑤ 省・再生可能エネルギー,防災・気候変動対策,循環型社会
⑥ 生物多様性,森林,海洋等の環境の保全
(Peace 平和)
⑦ 平和と安全・安心社会の実践
(Partnership パートナーシップ)
⑧ SDGs実施推進の体制と手段
その詳細は、SDGsアクションプラン2020~2030年の目標達成に向けた「行動の10年」の始まり(SDGs推進本部、2018)に掲載されています。
他にも実施のための主要原則として、普遍性(国内実施も海外協力も)、包摂性(人権)、参画性(主体的に参加)、統合性(ゴールとターゲットは統合、経済・社会・環境)、透明性(公表し説明責任を果たす)があげられています。
今後の推進体制については
① SDGsの主流化
② 政府の体制確立
③ 主なステークホルダーの役割と連携強化
ということで新しいステークホルダーとしてビジネス、ファイナンス、市民社会、消費者、新しい公共(従来の行性機関だけでなく、地域 住民やNPO等も)、労働組合、次世代(若者)、教育機関、研究機関、地方自治体、議会、広報・啓発に絡んだ人たちが挙げられています。
仕事の進め方としてはフォローアップレビューも確立させることです。
「外務省のJAPAN SDGs Action Platform」(外務省)によれば国の政策は国内実施・国際協力の両面において、次の3本柱を中核とする 「日本のSDGsモデル」の展開を加速化していく、となっています。
Ⅰ .ビジネスとイノベーション_SDGsと連動する「Society 5.0」の推進
ビジネス
科学技術イノベーション
Ⅱ.SDGsを原動力とした地方創生,強靱かつ環境に優しい魅力的なまちづくり策の実施。
地方創生の推進
強靱なまちづくり
循環共生社会の構築
Ⅲ.SDGsの担い手としての次世代・女性のエンパワーメント
次世代・女性のエンパワーメント
「人づくり」の中核としての保健,教育
2.4 企業の例~経済効果
ここまでは個人、大学、行政といった社会的な組織のSDGsでしたが、企業においても次のような取組みがなされています。
例えばANA HOLDINGNEWS 2020年9月29日の「SDGsの達成に向け、2030年までの「行動の10年」で取り組みを加速します」の中に「SDGsを広く知っていただくため、ANAグループ運航便の客室乗務員などが SDGsバッジを着用します(ANA、2020)」 とか、機内エンターテイメントプログラムで外務省などが作成した映像作品をSDGsチャンネルでご視聴いただけますなどと紹介されています。
「東京大学と日本IBM、SDGsの達成と経済成長の両立に向け「コグニティブ・デザイン・エクセレンス」設立(ロボスタ、 2019) によれば、東京大学とIBMの両者は今後は、先端技術と人文科学の融合をテーマとした革新的な社会モデルを日本企業とともにデザインする「コグニティブ・デザイ ン・エクセレンス」を設立した。この施設は教育機能として、AI研究やデータサイエンティスト育成をはじめ、先端デジタル技術の革新的な社会応用を学ぶ機会の提供を検討していく。また、社会・産業プラットフォームを創出することを目的に、アイディア出しを支援し、ワークショップを開催し、最先端テクノロジーの情報を提供する予定だ。さらに、人材交流、人材育成を目的とした学生、スタートアップ企業、インターンの共有の場とし て、東京大学本郷地区に新しく産学協創スペースを設けて研究・討議を行うとしている)。
ダノン社の例
2020年8月9日の日本経済新聞には、フランスは2019年に新法を制定し利益以外の目標を達成する責任を負う「使命を果たす会社」 を新たな会社形態に取り入れ、上場企業で第1号となったフランス食品大手ダノンの記事がありますと、その概要の説明をいただきました。
ダノンは会社の定款にESG(環境・社会・企業統治)に関連する(1)製品を介した健康の改善(2)地球資源の保護(3)将来を社員と京成すること(4)包摂的な成長の4つの目標を取り込みました。ビジネスは現金で始まり現金で終わるとみる今のビジネスモデルは間違っている。ビジネスは自然と切り離せず、自然の一部と考え ている。特に食品や水を取り扱うダノンのビジネスは自然に由来するとの話です。
なるほど食品関係の会社はそうかと納得した次第でした。
おわりに~個人の立場
ここまで、1章ではSDGs(持続可能な開発目標)とは何か、ということで開発目標とは何か、主体的に取り組みことは、と言った基本的なお話をまとめ、2章では事例を取り上げて、岡山大学の戦略目的、北陸の大学での市場調査、岡山市でのSDGsのゴール・ターゲット・評価事例、日本国レベルの企 画事例、企業での経済効果等についてまとめてみました。
こうして池邉氏の講演を機会にSDGsについて、調べていくと、今やSDGsは大学レベルでも、地域社会(市)レベルでも、国(日本)レベルでも、企業レベルでも何ら新しいことではなく、いたるところで取り組みが始まっていることが解りました。こうなると大切なことは、SDGsとは 何かではなく、いかに取り組むかの時代となっていることがわかりました。
これまでも、2007年11月に「13.ベンチャーで基礎研究の実用化-CIC大学連合フォーラム「環境問題と大学の役割」」(瀬領浩 一、2007)で金沢大学の早川和一先生が「「環日本海域の環境計測と長期・短期変動予測」を発表され 日本・中国・韓国を巻きこんで、日本海を中心とする環境汚染の現状を図やデータを持って説明されたことを報告しています。
2020年11月15日の朝日新聞に『2030SDGs「使い続ける発想」いまこそ』にテラサイクルCEOのトム・ザッキーさんの「容器のリサイクル」の記事がありました。その中で朝日新聞のSDGsプロジェクトのエクゼクティブティブディレクター国谷裕子さんの「循環型社会は、3Rと呼ばれる削減、再利用、リサイクルとどこが違うのでしょうか」という質問があり、地球環境戦略研究機関主任研究員の粟生木千佳氏が「廃棄段階でなく、製品の設計段階から循環を想定して環境と経済を統合させる点です」と答えていらっしゃるのを読み、これだと思いました。
ただそのためには、製品の利用者からの生産者へのメッセージが出されていることが必要です。
このサンプルが「107.廃棄物減量指導員はミニ起業家に-廃棄物減量指導員施設見学会に参加して」(瀬領浩一、2016)で報告した、川崎市の自治会の廃棄物減量指導向けに行われた、紙のリサイクル施設の見学し古紙の処理状況を見ながら、教わった3Rのうちのリデュースに重点を置いた次ようなの対策です。
1. お気にいりを大切に長く使う。
2. 必要なものを必要なだけ買う。
3. 最後まで無駄なく使う。
4. ゴミを出す前に他の使い道を考える。
5. 繰り返し使えるものを選ぶ。
6. すぐゴミになるものは受け取らない。
消費者のこのような態度が生産者を動かし、SDGsのような対策をとるのではないかと思い出しました。簡単に言えば、家に代替え品のあるものは買わない、リサイクルの設備のないお店の商品やリデュースが考慮のされていない商品は買わない、ということでしょうか。消費者がこのような行動をとりだせば、提供側は何らかの手を打つか、その分野から撤退するはずです。
別の見学会ではいくつかの場所を訪問したので、昼食は高速道路の駐車場のお店で食べました、車を降りて身近に見つかったお店でプラスチックパックに入っているランチを頼んでいたら、見学会のガイドさんは、「あら、これではプラスチックのリデュースにならないね」と言って別の食堂に行ってしまったのを思いだしました。その時さすが廃棄物減量指導員さんだ、セミナーだけではなく日常生活にもすでに浸透していると驚いたのを覚えています。
リデュース、これならだれでも今日からできます。もはや「大量生産時代の終わり」では済まないようです。とりあえずは消費者の立場からSDGsの応援をやってみませんか。
ということで図表6の4次元曼荼羅枠に今回学んだことを赤文字で記入しました。この図では組織の基本機能を点線の楕円で仕組みと仕掛を表し、実線楕 円で時間と空間を表しています。すなわち図表2のプロジェクト・目標・ターゲット・指標等の中からキーワードを抜き出した図です。すなわち1章のSDGs持続可能な開発目標とは(サステイナブルの定義)を反映させた曼荼羅図です。
この図の赤枠の中に自分の情報を取り入れ、前回「136.IT時代のコロナ対応」(瀬領浩一、2020) で述べた6次元思考の楕円を書き加えれば、下記のようなSDGs 曼荼羅図ができます。
図表7はSDGsを実行する時の基本的な考え方をまとめたもので、グループSDGsは、これから活動しようとしているグループもしくは参加しようとしているグループを対象とします。すなわち、実際に活動を行っているグループです。時にはグループはもっと大きなグループの一部となっているかもしれませんが、自分の意見が直接もしくはストレートに伝えられ、活動に反映するグループとします。大きなグループのサブリーダーとして活動するときは個人のSDGsの部分にはグループリーダーとしての個人の役割も追加してを書き込むことになります。このような場合はやたらと階層化しないでフラット化した組織と気持ちで記述とするのがよさそうです。すなわち自分から上には1層しかないとして、簡略化して整理してあります。こちらは図表3.プロダ クトライフサイクルと社会との関係図に従って、事業の各プロセスごとに実行する方法を曼荼羅図に示したものになります。すなわち2章の実例を反映さ せて考えるための曼荼羅図になります。
このようにすれば、SDGsの各グループの実行計画をもとにした各人の6次元曼荼羅図が出来上がります。ただ曼荼羅図は各人の立場から全体を見つめるための、キーワード集になり、具体的な活動内容は、作業のステップごとに作られ、蓄積し、新しい方針が決まったり、新しいグループができたり削除されたりしますので、それらを共有する仕組みを使って、必要に応じて新しいSDGs曼荼羅図に変える必要も出てきます。何しろ、SDGsの基本はグローバルなものですから、時には大変更に対する準備をしておかなくてはなりません
この時は、利用者と言えどもクラウドシステムと繋がった情報システムの操作に慣れておく必要が出て来ます。このための準備もかなり手間がかかりますがここまで来るとようやく「心豊かに暮らせる社会」の準備ができたことになります。
参考資料
はじめに
サステナブル・イノベーションズ株式会社、2015、「サステナブル・イノベーションを目指して」http: //www.clem.co.jp/items/sustainable_innovation.pdf、(アクセス 2020/11/13)
池邊 純一、 「池邊 純一ご挨拶」 http://www.clem.co.jp/about-us/greeting、(アクセス 2020/11/13)
1.持続可能な開発とは
イマココラボ 「SDGsとは?」(https://imacocollabo.or.jp/about-sdgs/、(アクセス、 2020/11/18)
外務省、2015、「持続可能な開発」、https: //www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/sogo/kaihatsu.html5(アクセス 2020/11/23)
外務省、2016、「SDGs実施指針改定版」 https: //www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/advocacy.pdf(アクセス2020/11/12)
国際連合広報センター、2019、「SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは?」 https: //www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/31737/ (アクセス 2020/11/16)
国際連合広報センター、2016、「持続可能な開発目標、2016年1月1日に発効 (概観)」 https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/17430/、(アクセス 2020/11/13)
総務省、2019、「持続可能な開発目標(「SDGs)」 https: //www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/kokusai/02toukatsu01_04000212.html(アクセス2020/11/12)
総務省、2019、「SDGs、ターゲットと指標」(https: //www.soumu.go.jp/main_content/000562264.pdf (アクセス2020/11/12)
2.事例
ANA、2020、「SDGsの達成に向け、2030年までの「行動の10年」で取り組みを加速します」『ANAHOLDINGSNEWS 2020 年9月29日』https://www.anahd.co.jp/group/pr/202009/20200929.html (アクセス2020/11/19)
SDGs推進本部、2018、「SDGsアクションプラン2020~2030年の目標達成に向けた「行動の10年」の始まり」、 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/actionplan2020.pdf(アクセス 2020/11/16))
ロボスタ、2019、「東京大学と日本IBM、SDGsの達成と経済成長の両立に向け「コグニティブ・デザイン・エクセレンス」設立、 https://robotstart.info/2019/08/22/cde-2019.html(アクセス 202011/22)
岡山大学、2019、『SDGsの達成に向けた岡山大学の取組事例集_第6版』
岡山市、「岡山市SDGs未来都市計画~誰もが健康で学び合い生涯活躍するまちおかやまの推進~」 https: //www.city.okayama.jp/kurashi/cmsfiles/contents/0000005/5526/1.pdf(アクセス 2022/11/13)
岡山市、「SDGs未来都市用提案書(提案様式)」https: //www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kankyo/teian/2020sdgs_pdf/02_youshiki1ryuui.pdf/(アクセス 2022/11/13)
岡山大学、2019、「SDGsの達成に向けた岡山大学の取組事例集 第6版」、2019年2月12日発行
岡山大学、2019、「SDGsの達成に向けた岡山大学の取組事例集 第5版」 https://www.okayama- u.ac.jp/up_load_files/sdgs/sdg_book_ja_5th.pdfhttps://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/sdgs/sdg_book_ja_5th.pdf (アクセス 2020/11/13)
岡山大学、「岡山大学 すべての事例」 https://sdgs.okayama-u.ac.jp/efforts/(アクセス 20201/11/23)
外務省、「SDGs Action Platform」 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/index.html(アクセス 2020/11/16)
金沢工業大学、KIT SDGs推進センター、https://www.kanazawa-it.ac.jp/sdgs/(アクセス 2022/11/13)
金沢大学、「金沢大学SDGsのひろば」 https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/crc/campus- activities/sdgs 金沢大学(アクセス 2022/11/13)
総務省、2019、「持続可能な開発目標」 https: //www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/kokusai/02toukatsu01_04000212.html (アクセス2020/11/13)
富山大学、「持続可能な目標(SDGs)」に対する富山大学の取り組み https://www.u- toyama.ac.jp/outline/sdgs/index.htm (アクセス 2022/11/13)
福井大学、2017、「世界的問題への対策「SDGs」福井大生 パネルで解説」 https://www.u- fukui.ac.jp/press/40241 (2020/11/12 アクセス)
おわりに
瀬領浩一、2007、「13.ベンチャーで基礎研究の実用化-CIC大学連合フォーラム「環境問題と大学の役割」」 http: //o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/013.html(アクセス 2020/11/13)
瀬領浩一、2016、 「107.廃棄物減量指導員はミニ起業家に -廃棄物減量指導員施設見学会に参加して」 https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/107.html (アクセス2020/11/13)
瀬領浩一、2020、 「136.IT時代のコロナ対応」 https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/136.html(アクセス 2020/11/19)
2020/12/04
文責 瀬領 浩一