金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

ボランティア活動の危機


-水辺のある里山に参加して-

はじめに

 2020年11月1日に川崎市の「希望のシナリオ」活動の「ひろば」の候補地になってもらえるかを調べるために、川崎市麻生区はるひ野にある「黒川よこみね緑地」を見学しました。
 大変きれいに整備された緑地でしたので、さぞかし訪問者も多く、メンテナンスするのは大変だろうと思いながらも、ゆっくり楽しませていただきました。 さらにこれはSDGsを利用して社会活動を考えるいい事例ではと考え、検討したことをまとめました。 

1. 黒川よこみね緑地の里山

 川崎市は工業地帯というイメージが強いかと思いますが、その中の麻生区は海から離れた山肌に近いところにあります。工業地帯から縁の遠い地域で、工場は少なく主に住宅地と山と畑からなっています。そのなかでも「黒川よこみね緑地」は川崎市麻生区の最北端に位置し、よこやまの道に隣接した 斜面約7.2haの特別緑地保全地区です(特別緑地保全地区とは都市緑地法により、都市の良好な自然環境を形成する緑地を保全するために定めた地区で、建築物の建築や木竹伐採等の行為は原則として許可を受けることが必要です)。その中で今回訪問したのは東と西と北が山に囲まれた約2haの緑の地帯でした。

 このあたりは1974年に小田急多摩線が開設されてからもほとんど緑地エリアでしたが、2014年12月に「はるひの駅」が開業してから、東京近辺の新興住宅地となったところです。麻生区は今も緑の多い地域ですので、今回の「希望のシナリオ」プロジェクトでも、 ほかにも里山が絡んだところをくつか訪問しています。

vbl-mzbnrs01.jpg図表1 黒川よこみね緑地 外観

グーグルマップから取り込み(アクセス  2020/12/05)

 図表1はグーグルマップから取り出した黒川よこみね緑地の、今回訪問した近辺の写真です。 
 今回訪れたところから最も近い駅小田急多摩線「はるひの野駅」から歩いて15分くらいのところにある、きれいな緑地です。
 写真の右側(東側)には家が見えますが、このような1戸建ての家がここから「はるひの駅」に向かってずっと並んでいます。したがって「はるひの駅」から見ると住宅地の奥にある緑地ということになります。図表2はこの住宅地から「黒川よこみね緑地」を見た図です。

vbl-mzbnrs02.jpg図表2 よこみね緑地

 すっきりした緑地であることがおわかりいただけたると思います。この写真の右側が北の山の斜面につながり、左側が南の斜面につながります。正面が西の斜面です。このように住宅地の側を除くと、周り全部が山の斜面となっています。

vbl-mzbnrs03.jpg図表3 黒川よこみね緑地入り口

 黒川よこみね緑地は特別緑地保全地区に指定されているため、この地域の入り口には写真にあるような案内看板が立てられております。道路に面したところには金網の柵が張られており、入り口にはドアが付いています。今回「はるひの駅」から案内をしていただいた人が扉を開けたので入るには許可 がいるのかと思ったのですが、扉には鍵はなく誰でも自由に入れます。ただ、真ん中の立て札に特別緑地保全地区であるということと利用上の注意書きが、書かれていました。

vbl-mzbnrs04.JPG図表4 草地の広場 

 入り口から入ったすぐのところにある「草地の広場」です。この広場の右側にあるのが「水辺のある里山を守る会」の再生した緑地があります。

vbl-mzbnrs05.jpg図表5 湧き水

 山から流れてきた水が「水辺の広場」に流れ込んで入りところです。写真の上の方が山から流れ込む小さな谷川で、真ん中に見える小さな池に一旦貯められたのちに左の川に流れて、大きな池に貯められます。このような湧き水が他にも、9個所あるそうです。ただ全部にこのような池があるわけではなく、そこでは湧き水のところからそのまま溝のような小さな川に流れています。

vbl-mzbnrs06.jpg図表6 捕獲網

 草地の広場の横にあり、川に流れる水の量を調整するための池の写真です。この池の中に浮かぶ網状のものは、池の中の「アメリカザリガニ」を捕獲するための網袋です。この中を時々チェックして、中に入っている「アメリカザリガニ」を捕獲して、この池から駆除します。このような網袋は、「よこみね緑地」の他の池にも設置され、在来種を守るために外来種を捕獲するために使っています。「よこみね緑地」を管理している「水辺のある里山を守る会」のメンバーが駆除を行っています。2020年9月に外来種の「アメリカザリガニ」の駆除は累計8万匹きを超えたとのお話しでした。

vbl-mzbnrs07.jpg図表7 シイタケ栽培

 広場の周りの斜面棟には写真のような材木を寄せ集め、シイタケの栽培を行っているところもありました。山林の伐採で出た材木の有効利用の例です。私が山の中にあった中学校に通っていた時、他の学校の裏庭でほかのグループが行っていたシイタケづくりを思い出しました。

 この公園で訪問チームは緑地内を歩きながら、上記のようないろいろな場所を見ながら緑地を守っている「水辺のある里山を守る会」の代表者 織野 章氏から、よこみね緑地はどんなところで、どんな場所なのかと、「水辺のある里山を守る会」は何をしているのかお話をお聞きしました。

 さらに、いただいた資料には、子供自然教室の概要も説明されており、小学1~6年生の27名が参加し、いきもの種類や特徴と自然とのつながりについて講座と観察、保護を体験する教室を行っているとのことでした。活動場所は、川崎市はるひ野小中学校内にある「はるひ野黒川交流センター」で 説明を受け、よこみね緑地で観察・調査・作業を行ったとのことです。

 他にも黒川よこみね緑地についての情報がはるひ野町内会から報告されていますのでご興味のある方は、そちらもご参照ください(はるひ野町内会)。

 こうした見学で見たこと聞いたことを整理し、「水辺のある里山を守る会」の活動を1枚の曼荼羅図にまとめたのが図表8.水辺のある里山を守る会の活動です。

vbl-mzbnrs08.jpg図表8 水辺のある里山を守る会の活動

 水辺のある里山を守る会の活動を整理できたので、図表8を参考にしながら、私の理解した水辺のある里山を守る会の取り組みとSDGsのゴール・ターゲットSDGsをまとめたのが図表9です。

vbl-mzbnrs09.jpg図表9  水辺のある里山を守る会の取り組みとSDGs のゴール・ターゲット

 この図のSDGsゴール・ターゲット番号はSDGsで検討を進めるために、私が訪問して得た情報をもとに独断で決めたもので「水辺のある里山を守る会」の承認を受けたものではありません。

2.川崎市総合計画との関係

 川崎市はSDGsについて「「川崎市持続可能な開発目標(SDGs)推進方針 ~成長と成熟の調和による持続可能な最幸のまち かわさき」、2019年2月(川崎市、2019)を発表しています。この中で川崎市は図表13のような「川崎市の総合計画の5つの基本政策と23の政策」を発表しています。

vbl-mzbnrs10.jpg図表10 川崎市の総合計画の5つの基本政策と23の政策

川崎市持続可能な開発目標(SDGs)推進方針 _201902 p26 より 引用

 この資料の11ページから38ページにかけて各々の政策に対するSDGsのゴールとターゲットを表示しています。たとえば、そこには図表11のような各々の政策についての説明が書かれています。

vbl-mzbnrs11.jpg図表11 3-3-3多摩丘陵の保全

川崎市持続可能な開発目標(SDGs)推進方針 _201902 p26 より

 この施策は、図表9「多くの種類の生き物が育ち、増える豊かな自然を守る」目的とSDGsのゴールとターゲットの15.4を共有してい ることがわかります。
 このようにして、図表9の「水辺のある里山を守る会」の目的に対するSDGsのゴール・ターゲットをここで示されているSDGsのゴールとターゲットを照合することにより、「水辺のある里山」の目的と川崎市の総合計画と突合せが可能になります。

 こうして図表9の「水辺のある里山を守る会」とSDGsのゴール・ターゲットとSDGsを共有する川崎市の総合計画とから取り出し作成したのが図表12 「水辺のある里山を守る会」の目的と絡む「川崎市のSDGs」です。

vbl-mzbnrs12.jpg図表12 「水辺のある里山を守る会」の目的と絡む「川崎市のSDGs」

川崎市持続可能な開発目標(SDGs)推進方針、2019 年2月pp11~38を参考に作成

 いわば川崎市総合計画から見た水辺にある里山を守る会の位置づけです。ただ図表12に表示したものの中に基本政策4.活力と権力が あふれる力強い都市づくりと基本政策5.誰でも生きがいを持てる市民自治の環境づくりの中に「ゴール・ターゲット」4.7のものが含まれるものがありましたが、「水辺のある里山を守る会」とは直接関係がなさそうですから、検討から外し、その後基本政策1や基本政策5.1.1のように活動を実施するために必要 と感じたものを追加しています。

 この中身を知るには、「川崎市総合計画 第2期実施計計画」(川崎市、2018)を参考にするのがよさそうです。この本の内容は平成 30(2018)年度から令和3(2021)年度までの4年間を計画期間とする、第2期実施計画です。この本の239ページから240ページにかけて多摩丘陵の保全についての第1期の取り組み情報や課題瀬策の方向性が報告されています。
 そこには次のようなことが書かれています。

 多摩丘陵の保全事業は緑地保全事業と里山再生事業からなっております。
 このうち里山再生事業は「緑の基本計画」において「緑と農の3⼤拠点」として位置付けられている黒川、 岡上、早野地区の樹林地 保全、再生をすることで、良好な里山環境を次世代に継承していきます。そのうち「黒川川地区緑地保全活用基本計画」に基づく取り組みの推進として地元住民と連携した樹林地の植生管理、保全管理改革の作成、体験学習、里山の利活用する事業と位置付けられています。まさに今回訪問した「水辺のある里山」と、この地元住民と連携した活動と言えそうです。

 このようにして自分のやりたい活動を図表8のような形に整理し、やりたいことの目的を明確にし、SDGsのゴールとターゲットを整理し、川崎市の持続可能な開発目標(SDGs)推進方針と突合せ図表12のような対応表を作れば、図表11のような政策と突き合わせることにより、自分のやりたいこと関連する事業を見つけだすことができることが解りました。これらの情報を見ながら、時には、その事業を行っている人との情報交換を行うことにより、プロジェクトを行いながらその改善・改革の参考にできれば幸いと感じました。

 こうして、対応すべき目標を明確にし、どんな仕組みを作っていけばよいかについての情報を入手する目途はつきます。

3.残された問題

 しかし見学会の最後に織野氏から「水辺のある里山を守る会」の課題として実作業する会員は6~7名で新たに加入する会員もすくなく、高齢化が進んでおり、保全活動が維持できるか懸念されると話がありましたが、基本政策2と基本政策3だけでは、これに対する対策にはなりません。

 今後、平均寿命が伸び、高齢の退職者が増え、現役で働く人の割合が減ってくるため、保険料の負担増大、医療割引率の減少など、老人の貧困はますま強くなってきます。この問題は「水辺のある里山を守る会」特有の問題ではなく、ボランティア活動一般で通常発生することになりそうです。
 せめて元気な老人にはシニア人材派遣のような有償ボランティア精神で参加いただけるような取り組みを取り入れ参加を促すのもよいかと思えました。
 個人の対応を考えるために136.IT時代のコロナ後対応(瀬領浩一、2020)の図表4を参照して作成したのが図表13.水辺のある里山の6次元曼荼羅です。

vbl-mzbnrs13.jpg図表13 水辺のある里山の6次元曼荼羅

画面をクリックすると詳細図が見られます。

 この図を見ると一応すべてのマスが埋ってはいますが、内容が十分入っているのは、「水辺のある里山」と「活動」の楕円です。「個人」に関する赤い楕円にあたるところは、記述があまりなく参考になることは見つかりませんでした。

 今後の日本では今までの現役老人が退職したときの少数の裕福な人を除けば、多くの人たちがいままでのような老後生活を送ることは難しくなりそうで す。日本がまだ貧困であった古い時代の丁稚奉公的な、参加と独立の心を持ってもらうことが重要になってくるのを感じています。

 ボランティアグループで必要なものは個人が持っているもの(力)ですが、個人は個人が欲しいもの(例えばこれからの活動で使えるもの)を提供してくれるボ ランティアグループに集まりそうです。

このようなものとしては

感情の枠内では
 活動内容が生活に根差したもの
 これから用途が増えそうなニーズに対応できるもの
 もっと明るく楽しく感ずるもの
 やりがいを感ずるもの
 緩い連携(参加者に負担を感じさせない)で働く方法
 つながりを感じさせること
 新規参加者への気遣い
 
資源の枠内では
 健康で、体力が増えること
 活動に必要な常識
 対象業務に対する専門的知識
 何が期待されているのか(金、モノの提出が必要か)
 活動の見返りがあるか(たとえば有償ボランティア)
 活動に必要な技術
 参加者はどんな能力が身につくか 

立ち位置の枠内では
 地域貢献事項(地域社会の変化に対応できているか)
 企業を巻き込む方法(見返りも含めて)
 知らせる時期、場所
 人の後押し、地域の人と助け合いながら一緒にやろうよと言える仲間づくり
 効果的なお知らせ方法(体験、見学、情報(インスタグラム、チラシ SNS) 

が考えられます。

 これらの中で、サークルにとって重要なことをいくつか選びサークルに適切な言葉で書き出し、不足と感ずるものがあればそれを書き足すことによって図表13の個人の赤枠に書き出せばよいわけです。要は、個人に対して何が期待されており、参加し活動することで期待に応える能力がさらに強化されることを明確にしておくことです。特に無料のボランティアの場合、成果を出さなくても費用の無駄遣いにならないので、時間と人材の無駄遣いとなります。これでは、参加する個人のみならず、活動するグループにとっても損失です。これに対する対策の一つがキーパーソンの有料化とその評価システムです。

 このような仕組みを運用するためには、参加してほしい人に対する適切な情報提供ができるかどうかであり、それは日ごろの活動の中での人脈づくりの問題になりそうです。さらにリーダーには先を読み取り柔軟に方向転換を図りながら結果に責任を持つことや、リーダーやサブリーダーにはメンバーの意見を取りまとめる能力が重要であり、チー ムに参加することによりその能力が一段と上がることを明示しておくのがよさそうです。

 このような参加者に得るものがない場合は、ボランティアの使い捨てという評判が立ち、ますます人材を集めることが難しくなりそうです。このような外部との対応を促 す総合計画の政策は、基本政策1の政策.4、基本政策5の施策5-1-1に含まれているので、図表12「水辺のある里山を守る会」の目的と絡む「川崎市のSDGs」にはこれらが追加されております。

おわりに

 川崎市「あそう希望のシナリオ」の事前調査のために「黒川よこみね緑地」を訪問し、その整然とした綺麗さと、ここまで来るための苦労をお聞きし、自然や生き物を守ることの大切さを学ばせていただきました。中学生のころまで、山際の小学校や中学校に通っていたころを思い出さされるお話しでした。当時は町中を5分、その後15分くらい桜並木の山道を歩いて中学校へいっていました。授業の中には穀物を植えたり、野菜を育てたあり、肥料をやっ たり、水をやったりして、できた植物を町中へ売りに行くものがありました。先日故郷に帰ったときに、中学校の建っていたところ探しましたが、どこにあった のか分かりませんでした。いまや運動場を残して建屋や広場のあったところは、完全に山郷となり、どこに建屋があったのかさえ分からない状況でした。時代が変わればそれなりに、地域が変わるいい例です。

 また今回は私の住んでいる川崎市のおはなしでしたが、似たような総合計画とSDGsに関する情報は、「 SDGs未来都市計画世界の交流拠点都市金沢の実現」(金沢市、2020)」や「加賀市_SDGs未来都市計画」(第1版_2020年08月)のように、多くの地方都市で情報が掲載されていることがわかりました。

 これらを参照しながら、今やっている活動もしくはこれからやろうとしている活動について、図表8や図表13のような曼荼羅図を作り、図表12にあるような 今後の活動に関係する資料を作り、大局的立場から考えてみるのも面白そうです。

 

参考資料

はるひ野町内会「黒川よこみね緑地」http://www.town-haruhino.join- us.jp/presentation_park10.html (アクセス 2020/12/02)
加賀市、2020「石川県加賀市_SDGs未来都市計画(第1版_2020年08月)」https: //www.city.kaga.ishikawa.jp/material/files/group/52/KAGA_City_SDGs_miraitoshikeikaku.pdf
金沢市、2020「 SDGs未来都市計画 世界の交流拠点都市金沢の実現 ~市民と来街者が「しあわせ」を共創するまち~ 」
https://www4.city.kanazawa.lg.jp/data/open/cnt/3/26813/1/202009_kanazawa-miraicity-plan.pdf?20200914134943
川崎市、2015「川崎市総合計画について」https: //www.city.kawasaki.jp/170/page/0000075895.html(アクセス 2020/12/04)
川崎市、2019「川崎市緑の基本計画」2019年10月1日 https: //www.city.kawasaki.jp/530/page/0000023138.html(アクセス 2020/12/04)
川崎市、2019「川崎市持続可能な開発目標(SDGs)推進方針~成長と成熟の調和による持続可能な最幸のまち かわさき」2019年2月https://www.city.kawasaki.jp/170/cmsfiles/contents/0000101/101171/kawasaki -sdgs.pdf(アクセス 2020/12/04)
川崎市、2020「川崎市総合計画 第2期実施計計画」(2020年4月1日)https://www.city.kawasaki.jp/170/page/0000096459.html(アクセス 2020/12/05)
川崎市、2018「川崎市総合計画 第2期実施計計画」川崎市(2018年3月)
瀬領浩一、2020「
136.IT時代のコロナ後対応」2020/11/03 https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl/vbl6/post/136.html(アクセス 2020/12/08)
水辺のある里山を守る会 https://genki365.net/gnkk09/mypage/mypage_group_info.php? gid=G0001213(アクセス 2020/12/02)

2020/12/13
文責 瀬領 浩一