金沢大学先端科学・社会共創推進機構

VBL

93.プレゼンテーションをビジュアルに

「How to」を「起承転結」で

はじめに

 子供のころ、物語や小説は「起承転結」で書くものだと教わったのですが、最近は「起承転結」はストーリーづくりの構成としておかし いとか、論理的一貫性がないといった批判も出されています。しかし商品コンセプト の探索ではベンチャーの世界では論理的飛躍こそベンチャーの本質としてあえて「起承転結」を「How to」手法として使いました。今回は論理的飛躍の含まれるビジュアル プレゼンテーションを例として取り上げ「How to」手法としての「起承転結」の説明をさせていただきました。

ビジュアルプレゼンテーションの進め方

 今回に取り上げたビジュアルプレゼンテーションの進め方は以下の4ステップでレイノルズの「プレゼンテーションZen」を参考に作成しました。注1)

ステップ1 起:情報収集

 プレゼンテーションを行うにあたって、最初に行うことはプレゼンテーションを行うに至った情報を収集することです。初心を持って取り組み、目的意識を持って情報を集めます。

図1 起:情報収集
図1 起:情報収集

 

 そのためにはゆとりを持ち十分な準備をして取り組むことが必要です。学生時代によくやったように宿題が出されてから十分時間があったのにスポーツや遊ぶ事さらにはアルバイトに 時間を取られ、提出日が近づいてから慌てて準備を開始するといったいわゆる「学生症候群」に陥らないことです。

 プレゼンで何を言いたいのか、なぜそれを話す必要があるのかをよく考え、プレゼンファイル(Power Point Keynote等のファイル)、プレゼン時のメモ、それからプレゼン後に お渡しする資料を準備すつもりで用意していきましょう。

 アイデアの引き出しや整理を行うときには、パソコン等のデジタル方式に頼るのでなく、紙・白板・ポストイットを使ってアナログ方式でやることをお勧めします。デジタル機器は 進歩してきており、どんどん利用方法が増え便利になってきていますが、それでも思いついたことを書きしるすのには十分な機能や使いやすさを持っていません。せっかくのアイデアが 表現できないために消えてしまうのを防ぐためにアナログ方式を使います。

情報の整理は自分一人でやってもよいが、異なった立場の人と自由に意見を出し合うブレーンストーミングのような方法がよいとのことです。ブレーンストーミングは素晴らしい アイデアが出にくいとの意見もありますが、少なくとも他人の目から見るという広い視野から見たアイデアを集め整理するのには向いています。

 そして核となるメッセージを特定し、それらを含んだストーリーを作成します。そしてそのストーリーを表現するスケッチを作成します。この時にできればビジュアルなスケッチを 使うことです。

ステップ2 承:場の設計

 情報収集とその整理が終わったら、次はプレゼンテーションの場を考えます。すなわち顧客に何を提供するのか、どのような感情を持ってもらうのかを思い浮かべ、アイデアを纏めます (これを場の設計と言うことにします)

図2 承:場の設計
図2 承:場の設計

 

 誰にでも創造性はあるはずです。その創造性を活かし他の人に何かを訴えると、その人に対するインパクトを大きくできることがあります。そのような創造性は、常に成功する わけではないが、ともかくやってみなくては成功することもありません。良い結果を得られなくても、その人の創造性を発揮したことが相手に伝われば、アントレプレナー的な人はそれなりの 評価をしてくれます。イノベーションを起こそうとしている人にはこのような人とお付き合いを広めるのは悪いことではありません。出来るだけ自分の創造性を活かすような形で、 プレゼンテーションを行うようにしましょう。

 ただ自分の置かれた立場、相手の置かれた立場によっては、どうにも変更できない条件があることも確かです。このような変更の難しい条件を制約条件と考えて、最初はそのような 制約条件を変更しようと悩むより、変更可能で効果のある所からアプローチすることも必要です。

 レイノルズが紹介しているPechaKuchaでは20枚のスライドを使いお話をします。 各々のスライドはそれぞれ20秒表示され、参加者はそれに合わせて話をします。(ここでは20×20が制約条件です。)このためお話しの時間は6分40秒となり、その間に言いたいことを きちっと伝える必要があります。ご興味の有る方はPechaKuchaにアクセスしてサンプルを見てください。

 そういえば、ある大会社の役員さんから、役員会の重要決定といえども多くは1件5分くらいで行われているとお聞したこともありますし、そんな正式の場でなくても多くの人は展示会に 行って商品説明が5分以上かかる時にはそっと抜け出すなんてことをやっていらっしゃるのではないかと思います。

プレゼン時間を短くするためにはプレゼンの3原則
1.シンプル
2.明確
3.簡潔
を実現しなくてはいけません。

 こうなると、プレゼンに使う画面も文字がいっぱいで観客に読んでもらうようでは時間に間に合いません。簡潔(明確、直接的、繊細、必要性があり、最小限であることにで一目見て わかるように設計する必要があります。

 説明内容自体は今回のテーマである4ステップの「起承転結」ではなく、例えば次のような3ステップ方式とします。
1.序論 挨拶とプレゼンの趣旨:一番言いたいこと(多くの場合結論)
2.本論 主題と根拠(言いたいことの詳細)
3.結論 全体の纏め(序論の言い換え)
3ステップにする理由は「起承転結」の中にある「転」のような要素入れ、思考の中断もしくは再思考を行うような回り道を省くためです。そして上記3ステップ方式のように、言いたいことは 3回くらいは繰り返す必要があります。

 このような方法で論理的で次のような「心に残るメッセージの6原則」を満たす資料が用意できれば、場の設計は完了です。
1.単純明確
2.意外性
3.具体性
4.信頼性
5.感情
6.物語性

ステップ3 転:実施

 ステップ1とステップ2は自分の都合のよい時に必要な時間だけかけてやることができますが、ステップ3だけは決められた時間に決められた場所で行う必要があります。

図3 転:実施
図3 転:実施

 

 当初予定のPowerPointやKeynoteを使ったプレゼンテーションが使えないとなったら、PDFを使ったプレゼンテーションへ切り替える。急遽会場が変更になったためにディスプレーの コネクターの仕様が違う、画面の解像度が合わないといった理由で準備したパソコンでは表示できないこともあります。通常はプレゼンテーション時間が短いため、プレゼンテーションが 始まってからこのような対策を打っている時間はありません。前もってレゼンテーションの現場に行き、これまでステップ2で設計し準備したことが設計したとおりに動くか事前にチェックし、 必要に応じて対策を打つくらいの時間的余裕を持っておきましょう。

 それでも、やむなくコンピュータが使えなくなった時には配布資料を使った説明に切り替える。会場の参加者が多くプレゼンテーション資料の配布も間に合わない時にはジェスチャー だけでプレゼンテーションを行うことになるかもしれません。想定外といわないでその場に合った代替案を実施しましょう。プレゼンテーションの目的は、用意したプレゼンテーションを 行うことではありません。プレゼンテーションをやることを決めたステップ1以前に決めた目的があるはずです。その思いを伝えそれを納得してもらうことです。

 当初プレゼンテーションの聴衆は社内の部下や関連子会社並びに顧客に対するものでその目的は説得でした。しかしながら情報のオープ ン化や新しい時代となると普段お付き合いのある人以外の人も会場に参加されていることが多くなっていると思います。発表者の立場で説得する気持ちでは聴衆は動かなくなりました。 プレゼンテーションの目的は聴衆に納得してもらうようになりました。納得してもらうためには、まずは聴衆の心をつかみ聴衆と自分の心を通い合わせることが必要です。このためには 左脳に訴える論理と右脳に訴える感情に対応する仕掛(動機づけ)が必要です。

 論理についてはステップ2の場の設計で触れましたのでここではステップ3特有のプレゼンテーションにおける感情について纏めておきます。聴衆にこの発表者は本気だなと思わせるように 情熱をこめて行うことです。聴衆から見ると面白いと思っても集中力が続くのはせいぜい15~20分といわれています。注1)p225

 そこでプレゼン時間を短縮するために次にあるような方法をとります。
1.説明内容の量を控えめにする(中身は濃くする)
2.文字を少なくビジュアルにする(見たら瞬間的にわかる)
3.書見台の後ろに立たないで舞台の真中に立つ(発表者に注目してもらう)
4.照明は付けたままにする(聴衆が見えるようにする)
5.聴衆の反応に呼応して説明内容を微調整する(聴衆の興味に応える)

 ビルゲーツのプレゼンテーションや音楽会の歌手の歌い方を見てみましょう。昔見た藤山一郎のような直立不動のプレゼンテーションはほとんど見受けられません。

 プレゼンテーションの内容や歌の歌唱力だけでなく発表者の活発な動きもまた重要な要素となってきているようです。

 ただビルゲーツでもなく歌手でもない多くの人は、簡潔でビジュアルな画面だけでは話が脱線したり必要なことを話し忘れたりしがちです。目的達成に必要で十分なことだけを 述べるにはステップ1で提案した「発表メモ」を作っておくことです。

 また、プレゼンテーションが終わった時に、聴衆がどう感じたかの意見を聞いておくことも必要です。たとえば
1.聴衆のアンケート(感想と質問)
2.主催者・司会者等の意見や感想
3.その後の反応

ステップ4 結:次のステップへ

 プレゼンテーションが完了するととりあえずアンケート等の聴衆の反応の整理と自分の感想をまとめます。このほか会場からの質問やアンケートの質問さらには聴衆が実際に起こす 活動についてもフォローが発生します。

図4 結:次のステップへ
図4 結:次のステップへ

 

 このフォローを通じてプレゼンの目標達成のための長い本業の仕事が始まるわけです。本業の仕事をスムーズに行うためにレイノルズは、プレゼンターション終了後関係資料を配布 することを薦めています。これによってその後の仕事で必要な資料配布とその資料に記載されている業界ではオープンな基本的な質問は来なくなります。

 これは重要な点です。私もよく行っていることですが、プレゼンテーションファイルのコピーを事前に配っていました。ただプレゼンターションを分かりやすくするために工夫した資料は、 すべて聞いたことだけのビジュアルな資料になり事後には役立ちません。またプレゼン資料を事後に役立つように作成しそれをプレゼンに使うと、詳細でかつ文字が多い資料となり、聴衆が プレゼンを理解するのに時間がかかる細かくて難解なスライドとなります。そのため聴衆は配布資料を読むことに注意が向きプレゼンテーションに集中できなくなります。

 すなわち、プレゼン資料は配布する必要はないと言っているわけです。その代り聴衆が興味を持った時に使えるきちっとした資料をプレゼン後に配れと。そういえば、30分ぐらいの短い セミナーでしたが、資料はプレゼン後会場を出る時にいただいたことがありました。プレゼン時は不満でしたがこんな理由だったようです。

4ステップを1枚に

 これらステップ1からステップ4までを1枚にまとめたのが図5です。

図5 ビジュアルプレゼンテーション
図5 ビジュアルプレゼンテーション

 

 図5では左下から右上にかけてステップ1からステップ4までの4つのステップ「起承転結」が配置されています。この中で転の部分だけがグループ外(社外)の活動でその他は グループ内の活動です。

図6 ビジュアルプレゼンテーションの前提条件
図6 ビジュアルプレゼンテーションの前提条件

 

 図5には左上から右下へかけてタイトルとビジュアルプレゼンテーションが必要になる理由とその備えについて次の3つが追加されております。(図6参照)
1.説得できなかった
 プレゼンテーションはうまくできたのに営業には失敗したその理由は
2.グラフィックデザインの知識
 ビジュアルの意味とその効果 余白の効果 シグナルノイズ比
3.納得に必要なこと
 感情に訴えることにより聴衆に近づく方法

いかがでしょうか。このHP情報を補足修正し「配布資料」や「発表メモ」を作成し、図5の絵を1枚だけ利用してタブレットのズームイン 機能を使えばビジュアルプレゼンテーションの「How to」のプレゼンテーションに使えると思いませんか。

おわりに

 ステップ4で述べたようにプレゼンテーションの内容の展開(論理展開)は3ステップですが、ビジュアルプレゼンテーションの進め方(How to)という意味で、「起承転結」を 使っていることはご理解いただけたと思います。

 また各ステップの図に示されているように「起承転結」というより「気詳展結」(気づき、詳細、展開、結果)かもしれませんが、知名度からして「起承転結」を採用させていただいて います。

 いずれにしても、ベンチャー事業の進め方、新製品開発の手順といったようなイノベーションが含まれる仕事には同じように新しいことを行うところがあるはずですから、 そこでの「How to」の表現には「起承転結」が使えるはずです。図5をフレームワークとして利用し、適宜修正してお使いいただければ幸いです。

 

 

注1) 「プレゼンテーションZen」 カー・レイノルズ PEARSON

2015/1/4
文責 瀬領浩一