「157.日本が変わるためにー今何が起きているのかー」で最近起きている危機となりそうな環境変化について述べ「158.日本が変わるためにーどのように対応するかー」では、それらの危機に対して企業としての対応する方法を、技術的もしくは経営的観点からまとめました。
これ等は、主に企業の立場で書かれています。
今回は学生起業家の立場で変化に対応する方法です。以前に、このシリーズの「30.メモの活用ー手帳と携帯の有効活用ー」でコーディネーターの立場から移動中や研究者や顧客との打ち合わせメモの作成には手帳と携帯の有効利用を行いましょうと述べました。基本的には、情報収集は1冊もしくは1つのデータベースで行うのがよいと考えていますが、起業当初はデータベースまで手間をかける前に1 冊の手帳さもなければ1セットの用具で行う方法をまとめました。
まずは、現状はどのような時代か、ついで時代に応じたどのような問題が起きており、その対策のためには戦術面だけではなく、戦略面から過去のやり方を変えていくための対策が重要とまとめました。幸い学生起業では過去の経営経験を持っている上司もいないし、革新的な戦略を取っても反対する人は少ないとおもわれますので、その強みを生かせるような対策を中心にまとめました。
また、学生起業の準備や起業活動を活かすために、集めた情報をどのように使えばいいかについても簡単にまとめています。ここで使われている方法は、大きな組織で使われている方法論を個人事業の構築の場合にも手軽にやるのだと考えていただければ幸いです。
高等教育機関に参加している学生さんの立場で、学生起業を取り巻く状況をいいところと悪いところを各々4つ取り上げたのが図表1です。
図表1 高等教育機関の学生さんから見た、現状の良いこと と 悪いこと
〇豊かな生活
このシリーズの「155.生き残る ー必要な資金を確保ー」の「第2章 必要資金」の「2.1 学生生活の収入と支出」に書いたことですが、日本学生支援機構の「令和2年学生生活調査」によれば、昼間大学に行っている学生さんの家庭の平均収入は835万円で、厚生労働省の平成30年度国民生活調査の全世帯の平均所得の551.6万円とくらべても 300万円弱高くなっています。従ってそこから仕送りを受けさらに奨学金やアルバイトを行って豊かな学生生活を送っている人が多いと考えられます。少なくとも貧困で困っている家庭に仕送りを行っている方は少なそうです。
〇情報技術の発達と普及による便利な時代
現在の多くの大学生が属する1997年から2012年生まれのZ世代といわれる学生さんは次の様な特徴を持っていると言われています。
・デジタルネイティブ
・スマホネイティブ
使う端末はPC/スマホである
・SNSネイティブ
こどものころからスマホを使っているためプライバシー保護やセキュリティ対策に力を入れる人が多い
出典「Z世代とは?年齢や特徴、X・Y世代との違いを解説」2022/11/21(識学総研)
https: //souken.shikigaku.jp/15750/(アクセス 2022/11/29)
仕事の生産性(コスパ)に対する意識はその前のゆとり世代の習慣を引き継いでおり、さらに時間の有効利用(タイムパ)を選ぶことも多い。
• 多様性やインクルージョンの意識が強い
排除しない
• 社会問題に対して関心が強い
環境問題や人種差別に関心を持つ
• 現実主義
社会を揺るがすさまざまのことが発生しており現実的です。夢より現実を重視している。
〇生涯学習環境の普及
小学校、中学校の義務教育に加えて幼児者教育、高校、大学、大学院、高齢者セミナー等一生の間の教育もしくは学習の機会が増え、何歳になっても何かをやり続けるための学習環境が増加し、変わり続ける時代への対策が強化されてきた。
〇新型コロウイルスによる在宅学習の普及
活動は制限されたが、オンライン教育が増えてきて、学習における場所の制限がすくなくなり、人生を通じての学習機会が可能になった。
〇地球の生活環境の悪化
最近は地球温暖化のせいか天候が乱れ、大雨が続き各地で洪水が発生したり、秋の終わりごろになって暑い日が続き、体調不調になったりして日頃の生活環境が乱れています。
〇現在の日本は衰退途上国
円安、実質平均賃金は増加していないなかで物価の上昇が進んでいる。このためか1人当たりの平均賃金も下がり気味であり、国民の生活は悪化の方向に向かっている。ただ一部の高所得者の収入はどんどん増えている。しかしこれまで中流階級と言われていた人たちの賃金は上がらず、貧しい人の数が増えている。特に非正規社員が4割くらいとなり、低賃金低収入の労働者が増えている。
〇プライバシーの危機
いつの間にかメールに、あなたの使っている資金は危ない、調べてくださいなどと言って、パスワードを盗みだす人からのメッセージが送られてくる。これは大変とうっかり答えると、金銭トラブルが発生するようなことが発生したり、自分の困っていることに対する親切なアドバイスと思って、会いに行ったりすると危険な目に合うといった事件が発生しています。
非正規社員の数が増えるということは、全体を見れば年功序列や定期昇給、定年制度が崩壊の方向に向かっているといってもよさそうです。
2022年11月12日の朝日新聞によれば、米Twitter社はアカウントが利用者本人であることをユーザーに知らせる「認証済バッジ」の有料提供を中止したと報道しています。「認証バッチ」を取得するためには、アカウントはほんものであり、著名であり、アクティブである必要があるとしていました。ところがトランプ前大統領らの著名人になりすました「認証バッジ」付きのアカウントが増加したため、この「本人認証」は中止されているとの記事でした。せっかくのネット上のセキュリティ向上の試みもうまくいっていない例です。ということは現状はネットのセキュリティ確保は難しいという前提で「個人情報」に絡む可能性がある用途には利用しない、もしくは情報は洩れるという前提で情報通信技術を有効利用する必要があります。
〇核戦争の危機
核兵器をチラチラさせながらのロシアのウクライナ侵攻により、命の重要さを感ずるようにもなり、世界の核危機がテーマとなってきました。
ここでは学生起業の立場で考えるということにして、政治や戦争への利用はどうするかについては、あまり深くは踏み込まないようにします。
前章に挙げたように、現状にはいいことと悪いことがありますので、これから課題として取り上げるには、体験したいことが自分に発生するのであればいかにうまく利用するか、悪いことが自分に発生する場合にはどうやって避けるか、もしくはそれが自分の競合相手に発生するのであれば、自分はこのチャンスをいかに利用するかについて纏め、今後の課題を何にするかを決めるのが良さそうです。
ちょうど現状にどのように対処するかを考えている時に、私が参加している「あさお希望のシナリオプロジェクト」は、「まちのひろば祭 り I❤あさお(I LOVE ASAO)」を9月23日(金・祝)に開催しました。概要については参考資料のURLから報道発表資料(PDF形式, 855KB)(アクセス2022/11/11)をご参照ください。
まちの広場祭りには約3,500人の方が参加され、そのうち約100人が「麻生区の未来のありたい姿に向けて」のセミナーに参加されました。セミナーの第1部では2人のパネリストによる助け合いのまちづくりについての講演が行われ、続いて第2部ではお集まりいただいた学生さんに加えてボランタリーの皆さんもご参加いただき約6~7人の10テーブル計66人でブレインストーミングが行われました。傍聴席には熱心にその様子を見ていた人も約30人いて、会場はほぼ満員の状態でした。これを見ても多くの人がブレインストーミングに関心を持っていらっしゃることが解ります。
会場に置かれたメンバーのテーブル座席には、ネームプレート用紙、配布資料が置かれ、テープルごとに黒マーカーペン、鉛筆、カラーシール、テーブルの中央には黒マーカーペン、鉛筆、ホッチキスが置かれていました。着席後、ネームプレート用紙に記入し胸のあたりにポリエチレンテープ で張り付け、ブレインストーミングの4つのルールについて説明のあと、次の順序でブレインストーミングが開始されました。
1.ブレインストーミングのルール説明 5分
2.メモカードにアイデアを書く 10~15分
3.1人ずつ書いたメモカードを読んでテーブルの上に置く 10分
4.カテゴリーの名前を見直す 10分~
5.投票 5分
6.話し合い 15分
7.グループ名・発表者を決める 10分
時間合計 65~70分
その後、希望シナリオ ブレインストーミング発表がおこなわれました。
どのグループからも多くのテーマが出されましたが各チームの最も関心の高いテーマは次のとおりでした。
・「自然・農業」(自然とのふれ合いが多い街)
・高齢者のための交通を良くしてコミュニケーションを図る
・挨拶が多い街
・それぞれがいろんなところで助け合える町(交流・助け合い)
・ワクワクする街
・多世代の交流の機会
・環境「多世代が居ごこち良いまち」
・世代を超えて集まれる場所
・明るい街づくり(挨拶が気軽に普通にできる)
・「地域内コミュニティー」多世代交流ができる居場所づくり
といったように参加者はわずか1時間10分くらいの間に様々な意見が出せることを体験しました。
私の参加している川崎市の他のサークルでも、意見をまとめる時に、グループ毎に分かれ、ブレインストーミング方式でアイデアを出しあっています。ただブレインストーミングに参加している人たちは、以前から何度も定例会等に集って話を聞いたり、意見を言ったりしてお互いに意見の交換をやってきた人たちでかなり情報共有が行われてきたチームの人たちです。しかし今回は参加している高校生から高齢者の方々といった立場や経験の異なる人が一緒にグループを作っていました。それでもいろんなアイデアが容易に集まり共有・共感できました。そのポイントはその前に行った、2人のパネリストによる助け合いのまちづくりについての講演により関心毎が共通化かされたこと、ブレインストーミングの4つのルール( ①アイデアに対して批判・否定をしない ②変わったアイデアを歓迎する ③質より量を重要視する ④アイデアをまとめる)にあるように発言したことが大切に取り扱われたためではないかと思いました。
〇一人ブレインストーミング
一方、大学生が起業を始めはばかりのときに現状を分析する時には、まだ他の人に相談するほどには課題(テーマ)がまとまっていません。このため最初に大学生の起業アイデアを出す時のアイデア出しは学生が一人でやることが多くなります(中にはチームで行う人達もいますが)。すなわち多くは一人ブレインストーミングとなります。
ということで私も一人ブレーンストーミング行って、作製したのが次図です。
図表2 一人ブレインストーミングによる整理
この時は、複数の人が発言する代わりに、自分の立場を
・学生起業者等の立場、顧客の立場、仕入先の立場のようにいろいろと変える、
・起業を始めたばかりか、少し時間がたってからと考える、
・日本人の立場やアメリカ人の立場といったように地域を変える
等を思いつくままに設定(時空を超えて自分の立ち位置を設定)して考え、その立場・その時代にいるとの気持ちで、思いついたことをポストイットに書き出しました。そのあとに関係ありそうなものが集まるように並べなおしながらA2サイズの厚紙に張り出したものです。そのため整然と統一したものにはなりませんでしたが、それなりに並べることはできました。このように立場を変えてアイデアを出せば、ブレーンストーミングらしきものを一人で行えるという例です。
こうして多くの課題を書き出す時に、普段読んでいる新聞の記事から次に挙げるような興味を引いたこともありましたので、これもノート に書き出しました。
〇1ドル150円
例えば2022年10月21日から朝日新聞で始まった「1ドル150円 超円安時代」円安一時150円台政府の牽制聞かず」で始まっ た5回の「1ドル 150円 超円安時代」シリーズです。その5回のタイトルは以下の通りです。
10月21日 弱い円 際立つ下落
10月22日 「製造業にプラス」言わぬ経営者
10月25日 訪日客「割安」 消費増の期待
10月26日 通貨高競争 取り残された日本
10月27日 為替介入 砂漠に水まくようなもの 国力高める政策 企業は利益還元を
というように今回5つのテーマについて書かれた記事は、それぞれことなった立場書かれている例です。これらの記事を読みながら、このまま進んだらどうなるのだろう、学生起業家にどのような影響があるのだろうかを考えていました。
この時何となく変だなと思ったのが円安という言葉の意味とその図です。この記事での円安の図には、横軸には西暦の年、縦軸には1ドルの円価格が書かれていました(例えば140円/1ドル)。日本人の立場で考えると円安の話なら6.7ドル/1,000円の方が、納得しやすかったたではと感じたのです。
ということで、日本人の立場で円安のグラフを画く図表は次の様にしてみました。
「図表3 円の価値」を見ると、日本円1000円は1990年代には約4ドルであったものが、約20年たった2012年には12ドルに 上昇し(円高)その後最近の10年で7ドル弱と半分位になっている(円安)ことがわかります。Z世代の学生さんが生まれた2000年代の1,000円の価値は12ドルで皆さんの家庭は裕福で、豊かな生活を送られていました。それが今や半額近くの7ドル弱に下がっていることがわかり、随分円が安くなったことを経験してきたことが解ります。これでは悲観的感覚しか生まれないのは仕方がありません。物事を考える時には、体験だけを意識するのではなく過去の情報も集める必要がある例です。
1ドルの円価値に数値化することは重要であるが、言いたいことを解りやすくするには「図表3 円の価値」のように表現したらどうかと思った次第です。過去20年のグラフと過去60年のグラフでは全く訴えることが違ってきます。この図では1円のドル価値を図表化した方がもっといいかもしれませんが1ドル0.0067円ではあまりのかわいそうなのでこの図では1,000円札1枚を単位としました。
このようにこれからは、経営状態を説明する時には数値情報は重要ですが、それを一見してわかるようにする画像データもまた重要であるとの例です。このために個人情報にノートに書き出す時は図面記事の切張りで十分ですが、デジタル化の場合には図形データが取り扱える環境を整備しておく必要があります。
学生起業家は商品やサービスについて都合が悪い時に社員や関係するステークホルダーのせいにすることなく、経営上の責任は社長もしくは個人事業主となる自 分がすべて負うことになると考える必要があります。
〇社長はすべての責任を負う
起業当初は会社もしくは個人事業は少ない社員で行うため、仕事を進めるうえでの役割分担は大企業のように多くはなく、結果に対する責任はほとんど社長か個人事業主が取ることになります。このため経営に必要なことは、専門家やコンサルタントに相談したとしても、決めたこと(対策)は自分の責任として進めます。
このシリーズの「152.起業の準備」の「図表8 学生起業の6W2H」に書いたように戦略や戦術の決定はすべて起業家が行ってきたわけです。そのため当然のそ実施結果についても責任を持つ必要があるわけです。
図表4 学生起業の6W2H
出典 瀬領浩一「152.起業の準備―狙いを定める」
また「図表4 学生起業の6W2H」に楕円で示されている時間、空間、仕組、仕掛けを決めることは戦略であり、それを実行する段階で仕掛は戦術となります。
規模が大きくなり、これ等に関する業務を一人ではできなくなってきたときは、役割を決めステークホルダーとして登録します。
他にもこのシリーズの「142.アイデアとコンセプトの整理 大学発ベンチャーの設立に向けて」でとり上げたように中小企業庁の「平成 30年度 夢を実現する創業」(中小企業庁)のp4~p5までに挙げられている20個のチェク項目に対してYES NOのチェックを行うことのように、もれがないかどうかをチェック行う方法もあります。
図表5 創業計画マンダラ
出典 瀬領浩一「147.起業資金の調達方法ーお金は必要条件 ー」の「図表7 創業計画マンダラ」
また「図表5 創業計画マンダラ」に書いたことは、お金を貸す方から見た企業について、知りたい最低限の情報ですから、これ等の情報が正しく書かれているか十分注意してください。このような申請書類を書き上げた時には、その書類を起業のマスターファイルに入れて保存してください。
日本政策金融公庫の国民生活事業に関する借入申込書の記入例に創業計画書のフォームならびにいくつかの業界における記入事例が描かれていますので、これ等を参考にして自分の起業のための創業計画書を描いてください。すっきりと記入出来ればお金を借りる時に書く創業計画はほぼ完了となります。
このようなことが課題となっているのは、普段やるべきことがきちんとやられていないかやり方が間違いがちになるからです。ということで、まずは普段やっていることをメモに取り整理し、それを見直すことで問題点を探し、その対策案を考えます。
まずはこれから何をやろうとしているかを整理するために、これからやろうとしていることを図表5のようなカレンダーに書き出します。
図表6 カレンダー
このようなカレンダーは100円ショップに行けばいろいろな種類のモノが売っていますので、自分の気に入ったA5のルーズリーフ版が見つかればそれで十分です。ルーズリーフ用が見つらない時にはA5版のカレンダーとA4判のゲージパンチを買って自分で穴をあけて対応します。「図表6カレンダー」は翌年の1月のイベントの一部を書いた例です。カレンダーは当月版になると細かくいろいろなイベントが入ってきますがその先となるとまだ空いているところがおおくあることがお分かりだと思います。しかし学生さんの場合は授業のスケジュールやアルバイトのスケジュールが入りますからさらに複雑なものになります。これらについては週間スケジュールとして後ほど説明いたします。
この月間カレンダー用紙は小さくで、あまり細かいことは書けません。必要に応じてポストイットやブランクのノートに書きルーズリーフに追加してください。このほかにも今までの人生で行ってきたイベントやプロジェクトについても履歴書に書けそうな情報が見つかればそれらについてもノートに書き加えます。
図表7 メモ・ノートの例
「図表7 ノートの記入例」はルーズリーフに4つのメモを書き込んだ例です。メモの長さにより、1ページに数個入ったり、1個の記事が数ページにわたることもあります。各メモの最初の行に書くのが索引(インデックス)に使われる部分で日付、メモの分類、メモのタイトル、メモ番号です。
索引(インデックス)といってもたいしたものではありません。これまで書いてきた記事のタイトルを使って目次を作るようなものです。あまり形式を気にすることなく自由に書いておきます。そのあとは自由で、手書きメモ、手書き図、新聞記事やパンフレットからの切抜き、写真、参考文献の情報、会議で学んだこと、自分で思ったことなど記録に残したいことをなんでも記入します。日報や報告諸等を書いた時には、出来上がった資料は別途保管し、その時の工夫や、コメントなどがあればそれらはメモとして残して起きましょう。このため報告書の作製、会議のメモや、読書から学んだことなどを書く場合は1つのメモが数ページにわたることもありますが、気にすることなく記入します。
〇企業では上位の役職者の成功体験が幅を利かせがちで ある
多くの企業は、年功序列制になっており、どうしてもトップは過去に成果を上げた高齢者になりがちです。
上司の計画に反対すると昇進が遅れたり配置転換が行われる可能性が高くなるので、昇進したい部下はあまり反対することなく、上司の言っていることに従う (忖度する)ことが多くなります。
その結果、方針を決める打ち合わせでは、上司の方針を認めることが多くなりがちです。
また、上司に立つ人は部下を自分が任命部をした責任があるため、部下の失敗を認めたくない。
このため、少々の失敗には注意を与えるが、処罰をしないといったことも発生します。
従って多数決で、みんなの同意を取ったことになってはいても、実質は上司の案に沿ったものになり、方向が違う部下の案は採用されにくくなります。この方法は、大き な変化があまりない時代には、暖かい人間味を感じさせ、部下も何とか問題を解決しようと頑張る動機づけになっていました。
こうして、企業の行動や方針はトップに伝わった情報だけを元に徐々に改善されていくことになります。
このような傾向は世界で自動車や船のエンジンが開発されている時に馬車や騎馬隊を強化していた徳川幕府や、第2次世界大戦の日本が飛行機(戦闘機、爆撃機)が最も重要になっている時代に、世界1の戦艦大和を造って海軍の戦力を強化していたことにも見られます。
同じように現在は製造業中心のピラミッド型の体制を強化してき大企業家や政府要員のように、イノベーションに乗り遅れがちの人たちが日本の方針を作ってい ることになります。これらは戦略面で失敗する大きな原因です。
〇戦術面の問題
一方戦術面については起業に必要なノウハウとしてはベンチャー・ビジネス・ラボラトリーの「起業の準備」の第1シリーズ「初めて学ぶ起業の仕方」では次に示すような記事が載っていますので、発生している問題に合わせて、こちらの記事をお読みください。
・アイデアとコンセプトの整理
・起業の種類と事業形態
・事業計画書の作成
・起業にかかる費用
・起業資金の調達方法
・場所と設備
・人材の確保
・起業の手続き(登記申請書、開業届の提出)
・起業後の財務手続き
他にも入りいろいろあるでしょうが、学生起業について考えているのでここでは省略します。
しかしながら、技術や社会の変化の激しい時にはこれでは、ついていけないことは確かです。
幸せなことにほとんどの学生起業家は起業活動に関する限り過去の企業成功経験は少なくなくこれまでは経験不足として弱みと考えてきましたが、今やこのような旧時代の経験にコントロールされている状況はイノベーションを阻害する弱みになるとすれば、過去の経験がないことを学生起業家の強みとして生かすことができそうです。ということで学生起業家は過去に会社等の上司の経験が無いことを最大の強みと考えて活動しましょう。
ただこれまでは仕事をやったことがないために仕事をどのように進めるかについての知識も少ないことはいなめません。この状況を克服するために今一度過去の 成功事例や失敗についての事例を学ぶことです。このためには過去事例を記述した本や新聞やホームページを読んだり、これ等に関する講習会や起業訪問に参加する必要があり、まずはそのための時間を確保することから始めることになります。
このようにこれからは、過去にとらわれないで将来を考えるための活動時間をつくることが必要になります。まず、学生起業家を目指すもの としてこれまで毎日やってきたことをスケジュール管理表に書いて、起業家活動を行うための時間を捜します。
図表8に挙げたスケジュール管理表はよく知られたもので、横軸に日曜日から土曜日までの1週間、縦軸には午前零時から24時までのスケジュールが書き込めるようになっています。このコピーを取っておき必要に応じて年と日を書き込めば1週間分の活動が記録できます。
今回は個人活動であろうが起業活動であろうがそれ以外であろうが思い出せることを書き出してください。
このために、いろいろな行動している時に時間を見つけ、それまでに行った日時と行動とをスケジュール管理表に書き込みます。色々なことを行っているわけですから、細かく正確に書こうとすると時間もかかり、実行できませんので要点を絞って書くようにします。
ということで、時間に余裕がある時を見つけるために、それまでに何をやっていたかということについて、起業活動であろうが、個人の活動であろうが行っているすべてのことを記入します。
毎週行われる学習については、予定を書き込んでおき、予定が変更されたときに修正し、それ以外はその時その時に次の様な分類で書き込みます。これ以外にも分類できことがあれば次に挙げたように分類して追加します。
・仕事(アルバイト、起業活動)
・学習(授業、宿題、調査、読書)
・その他の日常生活(起床・睡眠、食事、入浴、清掃、運動、移動、娯楽、休憩、買い物、待ち時間、休憩、ぼんやり、その他無目的)
それらの各々の合計をとれば、時間が何に使われているかが解ります。
仕事や学習は待ち時間やぼんやりとしている時間を除いて正味の活動時間を書きます。
食事中や商談中のようにこの用紙に直接書き込むことが難しい時には 活動項目に種類を印刷しておき、具体的な活動、日付、時間を書きもめるメモ用紙を用意しておき簡単に書き込み、後程スケジュール用紙に書き込みます。
このうち休憩、待ち時間、ぼんやり、その他無目的の時間は空時間と考えることができ、将来のための活動に使います。
この空時間は情報集めに使える可能性があります。ほかにも仕事や学習と分類されてはいるがそれほど重要でないことに使った時間は情報集めや新しいことを考 えるために使えるかもしれない時間です。
空き時間の中から、本や新聞等ホームページ等を読みながら情報をノートに書き込むことができるける場所は、次の様なところです。
・大学の教室、図書館、
・学外 顧客、見込み客、本屋さん、公共の図書館、喫茶店、食堂、電車の中、散歩中
・自宅、自宅の風呂、布団に入っている時
これらの時間を、1日1時間ぐらいは確保して毎日の活動の情報収集に使います。
不思議なことに、日常生活として、気軽にしている時にもいいアイデアがふっと生まれることがあります。このため、このメモ書きには仕事の時間(学生起業の 場合は起業活動のことです)と仕事以外の時間も一緒に書き込んでいるわけです。
こうして、イノベーションのネタを探す時間のめどがついたらいよいよその起業活動に使えるネタの記録を開始します。
現在起業活動を行っている学生さんは、このシリーズの「30.メモの活用ー手帳と携帯の有効利用ー」でも述べたような方法を使うのがよさそうです。
この時には手帳に書いた記事はスキャナーで読み索引をつけてサーバーに取り込み、必要に応じてスマホでも読み出せるような仕組みを作る。
① 研究者や顧客との打ち合わせの場合はスマホで必要な情報を取り出しながら会議を行い、手帳にメモをとる
② 電車や移動手段、その他の休んでいる時間に思いついたアイデアはスマホで書く
③ 仕事に必要な参考資料や書籍を読んだらメモを取る
④ その後索引を使って情報を集め報告書を作成する方法をお勧めしています。
2008年にこの記事を書いた時には、持ち運びが便利なA6手帳とA6のノートを使うことにしていました。その後、一緒にセミナーに出ている人達はA5ノート使って私のノートに書いている以上に細かい記録を取っている様子を見てきました。A6では書くところが少なくてどうしても簡略化して、キー ワードだけを書きがちで、あとで見てもなんだか分からないこともありましたので、この記事を書くことになったのを機会にノートのサイズをA5に変更し現在は1冊のA5ルーズリーフを使ってカレンダーもスケジュール帳も一緒に綴じています。冊数は2冊から1冊に減っていますが、ノートのサイズは大きくなっているので全体のボリュームは少なくなったわけではありません。
〇ルーズリーフ
こうして今回始めた、1冊のノートは「図表9ルーズリーフ形式のノート」に描いたように各種の情報を書き出すために使用しているため に、記述内容に合わせ て自由にノートの記入形式を選べるようにルーズリーフ形式のノートを使っています。
私は「図表9 ルーズリーフ形式のノート」にあるように、メモ用紙には上図左上にある、A5版(20穴)B罫(6mmの罫線30行)のブランクメモ用紙を使っています。メモ・ノートを書くところは最初の行に日付、区分、タイトル、番号を書きその後は自由に書き続けています。メモ・ノートのページには数行の要点を書く場合や、気に入った内容を簡単にまとめた文章、さらには読んでまとめたアイデアを図にした手書きに絵を加えることもあります。また書くのに手間がかかると思ったときには「切抜・貼付」の右下のように新聞記事を張り付けたりして時間を節約するようにしています。大切なことは、参考にして書かれていることと同時にその出典がわかることと、それらと区別して自分の意見(解釈して書いたこと)がわかるように書くことです。また後程見た時に思い出しやすいようにキーワードを忘れないことです。
1冊のノートに書くことは、情報の1元管理としては素晴らしいが、ルーズリーフバインダーを無くした時のことを考えると、恐ろしくなります。先日ある会議に出席するために会場に行った時に、開始まで少し時間があったので、同じビルの中にある図書館に行って、何か参考になる書類はないかと探していました。重い荷物を持っていたので、空いた座席にリュックを置いて本を探していて戻ってくると、置いたと思った場所にリュックは見つかりません。置いた場所はそこではなかったのだと思い今一度図書館の中を探し回りましたが見つかりませんでした。仕方なく受け付に行って、リュックの忘れ物は届け思いられていませんかとお尋ねしたけれども届出はないとのことでした。ノートパソコンもスケジュール帳も一緒に入っており行方不明なると大変と今一度あちこち探しましたが見つ かりませんでした。仕方なく図書館の受付に届け出があったら連絡下さいしメモを渡して会場の戻っている途中に、私のリュックと似た荷物が置かれている机があるのを見つけて、そこに行ってみると私のリュックでした。おまけにそのリュックの上に「荷物は机の上に放置しないでください、無くなるかもしれません」といったようなコメントが印刷された紙が置いてありました。書かれている通り自分の不注意であることは確かですし、いい経験になりました。こんな印刷物があるということは、図書館の机の上に置き忘れる人が多いのだなということも知りました。今回は見つかりましたが、まさかの時のために時々メモ帳のスキャンし保存し、被害が最小限になるように考えておく必要があることを学びました。
さもなければiPadのような端末を利用しサーバーにバックアップが自動的にとれるシステムを利用する方が良さそうです。Z世代の学生さんにとってはそれほど難しいことではなさそうです。ただこの時はサーバーに保管されている情報が、外部に漏れないような管理の行き届いたシステムを使う必要になります。さらに今回取り扱ってい るような情報を記録するためには、それなりの豊富な機能(テキスト・図形・写真、図形の書き込み機能、音声・動画の記録等)を持った携帯端末を選ぶ必要があります。
こうしてルーズリーフバインダーに仕事や私生活にまつわるイベントに関する情報が毎日何個か書かれるようになると、薄いバインダーでは一カ月位でバインダーにおさまらないくらいの情報が集まります。かといって厚いバインダーにしたところで長くても二カ月くらいでいっぱいになります。ということで、最近の情報は残しておいて、古い情報は保管用のバインダーもしくはクリップバンドでひとまとめにしたメモ・ノートとして保管することにします。こうなってくると、ルーズリーフの索引に載っていても、バインダーには入っていない情報も出てきます。さらに1年くらいたつと、索引情報も徐々に忘れしまい索引を捜すのも大変になってきます。このために索引を整理して、パソコン等での図表10にあるような情報の検索システムを作りに登録することになります。
索引システムといっても、難しいものではありません。各々のメモの1行目に書いた日付、分類、タイトル、メモ番号といくつかのキーワードを書いたレコー ドを入力して検索の準備をすればよいわけです。これならデータ入力の手間がかかりますがEXELでもつくれます。
このファイルを検索すれば分類別に関係あるレコードを取り出すことができますので、それを参考にすれば、互いに関連した情報を纏めて読めますし、もう少し 詳細に見たければメモ・ノートのバインダーを調べればよいわけです。この結果新しい組み合わせが出見つかって時には、新しい商品やサービスを開発するネタとしてノートにメモを追加します。
こうして、これからいろいろな情報が入手できる時代になると自分の活動分野を検討するためのネタとして活用できます。
ベンチャー・ビジネス・ラボラトリーの「起業の準備」シリーズをお読みになったかたは、その検討結果を曼荼羅図を利用して検討結果の整合性を取ってこられたと思います。学生起業の検討に使われた曼陀羅の中から9つの曼荼羅を選び、1枚に纏めたのが「図表11 メモ・タイトル候補」です。
今一度、この図を見て、検討項目に足りないことが無いか確認し、必要なタイトルがあればそのタイトルの検討を行い再チェックを行ってください。ここに書かれているマンダラ図の内、「学生起業の6W2H」と「創業計画マンダラ」の2つは、今回、図表4及び図表5に書かれています。その他のマンダラでチェックしたいことがあればベンチャー・ビジネス・ラボラトリーの「起業の準備」シリーズをお読みください。
こうして再チェックを行えるようにしておけばブレインストーミングを個人の立場で行うためのツールのひとつとして利用できます。
今回の報告にあげたようにして、普段から読んだ本や、経験についてのメモを残していくと、これまでは体験していながら忘れていた情報を取り出すことができるようになります。このメモは、個人が体験した日記帳と日報を合わせたものとも言えます。ただこれらの記録はあくまでも個人の情報であり、会社の情報ではありません。こうして継続してデータを蓄積した後は、「136.IT時代のコロナ後対応秘伝の図ー6次元曼荼羅思考ー」でも述べた、6次元思考で社長の個人的立場から見た曼荼羅図の信頼性を高めるためにも使えます。
また、メモやノートの媒体はルーズリーフとして一冊の紙媒体として話を進めてきましたが、今やZ世代のICTを使うことに慣れた学生起 業家の場合は、ス マーフォン・ポータブルPC・タブレットといった機器をお使いの方も多いと思われます。少なくともこれらの機器では動画や音声を取り込むことができます。 今回ルーズリーフを使って行った、テキストや手書きの図面の作製、写真や文献の記事の取り込みができるその機器で使えるアプリを選んで(探し出して)情報 の記録と保存を進めてください。自分が今持っている機器ではうまく出来ない作業があれば、面倒なことを調べる時間ももったいないですから、まずはルーズ リーフ方式で初めて、適切なアプリが使いえるようになった時に、移行すればよいかと思います。自分の立場や情報の有効利用が重要なわけですから、使用機器 やアプリの機能に振り回されることが無いように、使い慣れたツールを利用し、記録された情報から新しいアイデアを生み出すことに注力していくことです。
参照資料
「Z世代とは?年齢や特徴、X・Y世代との違いを解説」2022/11/21(識学総研)
https: //souken.shikigaku.jp/15750/(アクセス 2022/11/29)
あさお希望のシナリオプロジェクト
https://www.city.kawasaki.jp/asao/category/112-10-18-0- 0-0-0-0-0-0.html(アクセス 2022/11/12)
上野光夫著「事業計画書は1枚にまとめなさい」2016年4月21日(ダイヤモンド社)
https: //www.jfc.go.jp/n/service/pdf/sougyoutebiki_food_1405.pdf(アクセス 2021/08/01)
国民生活事業に関する借入申込書の記入例(日本政策金融公庫)
https: //www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.html(アクセス 2022/11/24)
金沢大学「起業に必要なノウハウ」
https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post -1.html(アクセス 2022/11/29)
瀬領浩一「30.メモの活用 ー手帳と携帯の有効活用ー」
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/030.html(アクセス 2022/11/20)
瀬領浩一「136.IT 時代のコロナ後対応ー6次元曼荼羅思考ー」
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/135.html(アクセス 2022/11/20)
瀬領浩一「142.アイデアとコンセプトの整理ー大学発ベンチャーの設立に向けてー」
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/142.html(アクセス 2022/11/20)
瀬領浩一「152.起業の準備―狙いを定める」
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/152.html(アクセス 2022/11/20)
瀬領浩一「155.生き残るー必要な資金を確保ー」
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/155.html(アクセス 2022/11/20)
瀬領浩一「157.日本が変わるためにー今何が起きているのかー」
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/157.html(アクセス 2022/11/20)
瀬領浩一「158.日本が変わるためにーどのように対応するかー」
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/158html(アクセス 2022/11/20)
「ブレインストーミングとは?4つのルール、やり方、流れを解説」2022/06/21(東大IPC)
https://www.utokyo- ipc.co.jp/column/brainstorming/(アクセス 2022/11/04)
「まちの広場祭り I ♡ あさお を開催します!」
https: //www.city.kawasaki.jp/templates/press/cmsfiles/contents/0000143/143352/machi -matsuri-hodo.pdf(アクセス 2022/11/11)
注:Z世代とは、1990年代後半から2012年頃に生まれた世代のこと。 2022年現在から見ると、14歳から27歳ぐらいの世代です。
20221007_【わかりやすく】Z世代(ゼットせだい)とは何歳?年齢や特徴、X・Y世代との違いを解説_識学総研
2022/12/02
文責 瀬領浩一