161.これからの時代を生き抜く起業

161.これからの時代を生き抜く起業

何をどう変えるか

はじめに

 現在の学生の多くは、ひたすら受験勉強に励んで受験に成功した人が多いかと思います。そのため起業経験も少ないかと思います。そんな中で、起業を目指す人たちは両親や兄弟・親戚の人たち等の働きぶり、もしくは生活の様子を見てきて、自分は起業してみたいと考えているわけです。

 そのためか起業についての多くの資料は、なぜ起業が必要なのか、どうやって起業するべきかといった、起業の社会的意味を中心に書かれています。一方このシリーズの「159.自分の思いを明確にー一冊のメモ帳ー」 では、起業家の立場にたって、なぜ自分は起業をやりたいと思っているのかをまとめる方法を整理しました。ということで、なぜ自分は起業をやりたいのかについてあまり明確でない人は、前回の「自分の思いを明確に」にあるようにしばらく1冊のノートに日頃思っていることや活動していることを記録しながら、その思いを確かめていただければと思います。

 今回はそのうえで、どうやって起業すべきかを、起業家になるつもりの学生の立場でまとめました。私は学生時代に機械工学を専攻し、モノづくりについて学んでいました。この時学んだことの一つが、「ものづくりとは作りたい物の設計図に描いてそれを製作すること」でした。ということで、今回は起業においてもこの考え方を転用し、起業とは事業の設計図をつくりそれを実現することと考えて事業のビジネスプランを:設計図の書き方をまとめて見ました。 

 モノづくりの時は、どのような機能を製品のどこに組み込むかで苦労しましたので、最近多くの企業で最大のテーマとなっているIT化やICT化に焦点をあてて設計図(ビジネスプラン)に機能をどのように組み込んでいくかを中心に纏めました。

1.最近IT企業で問題が発生している

 これからはIT時代といわれ、このシリーズでも何回もITに関するお話を進めてきました。「132. コロナ後のベンチャーーITとOODAの有効利用ー」 に書いたように、日本はこれまで営業関係以外の社員は会社に出勤して仕事を行うのが普通でしたが、新型コロナが広がるにつれて、パンデミックを避けるために、在宅勤務を強いられる人も多くなりました。その結果新型コロナが話題となってから1年半くらい過ぎた2020年の5月24日の朝日新聞の記事によると、在宅勤務になったために仕事の効率が落ちたという人が約63.2%と報告されていました。さらに在宅勤務のために「職場に行かないと見れない資料・データのネットワーク上での共有化」、「通信環境の整備」、「部屋、机、椅子などの整備」が課題としていましたが新しい働き方に満足している人は57%ということも書かれていました..。

 すなわち、約60%の人が在宅勤務で仕事の効率は落ちたが、あたらしい勤務方式として満足しているということですから、在宅勤務の効率を上げることが出来れば、仕事の時間を減らしたりより多くの仕事ができるよいになるわけですから在宅勤務の満足感も増えそうです。 

 新型コロナは、日本の国民にいろいろ面倒なことを強いてきましたが、国際的には遅れていた日本のIT化による働き方の改革をすすめる引き金になったということです。

1.1 日本企業の6重苦 

 また、内閣府が2021年9月に公表した「令和3年の経済財政白書」では、2011年の東日本大震災後に日本経済の課題とされていた円高などの問題について、「全体として改善」したとする分析を掲載しているが、デジタル化の遅れが新たな課題となっていると指摘しています。
(https://www.asahi.com/shinsai_fukkou/)

 デジタル化を課題として取り上げたのは、「図表1 日本企業の直面した6重苦の状況」です。

 この白書では苦労の原因を(1)円高、(2)EPA(経済連携協定)の遅れ、(3)法人税高、(4)労働市場の硬直性、(5)環境規制、(6)電力不足・コスト高の6つに分類してとり上げて6重苦としています。内閣府は、6重苦のうち (1)は解消、(2)(3)はおおむね解消されたとする一方で、(4)(6)は未解決、(5)は新たな成長の機会になり、あらたな課題としてデジタル化をとりあげています。

vbl02001.jpg図表1 日本企業の直面した6重苦の状況

出典「令和3年度 年次経済財政報告」(内閣府)
(https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je21/h06_hz020107.html)

 現状をみると、(2)EPAの遅れには2018~2020年に欧州連合(EU) や米国などとの大型のEPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定のこと)が発効し、輸出入に占める割合が2011年末の2割弱から2021年1月末には約5割に上昇。2020年11月に署名した地域的包括的経済連携(RCEP)が今後発効すると、その割合は8割程度に達するとかいています。一方、(4)は女性や高齢者の労働参加が進んだものの、労働移動を通じた産業、業種構造の転換などの前向きな労働移動を阻害する硬直性が残っているとしています。(5)環境規制は「137.心豊かに暮らせる社会ーSDGsの利用ー」でも述べたように、今や問題ではなくて新たな成長の源泉になると言っています。

1.2 IT企業の人員削減 

 図表1の最後に日本の新たな課題はデジタル化の遅れと書かれているのを見ると、つい新しいIT技術とかIoT技術とかAI技術といった技術開発が頭に浮かびますが、ここで言っていることは新技術を開発することだけではありません。現状はいろいろなIT技術がすでに欧米で開発され、全世界に普及し始めています。そのため今更日本の会社がこれらの分野で新技術を開発して割り込むということはほとんどできない状況です。さらに進んだIT技術の開発を目指す企業もあるべきですが、その前に必要なのは、すでに先進国では普及が進んでいるIT技術を日本のビジネスの現場で生かす取り組みを始めることが課題だと書いています。すなわちIT技術開発よりIT技術利用が課題だと言っているわけです。

 コロナ感染症の拡大により、日本社会のIT化の遅れがより鮮明になったのだから、これからは「世界最高水準のIT社会を実現するしましょうと書いているわけです。いわば、日本からアメリカに出かける時には、海を渡る必要があるので、これまでに佐渡島に行った時に使った経験のある船を使うのではなく、世界の先進国の皆さんが使っている飛行機を使う方法にしましょうという話と同じです。これまで過去経験を活かすことにより成長してきた日本はIT 技術に乗り遅れてしまったのだから、まずは外国のサービスを使ってでも遅れを取り戻しましょうという話です。この話をもう一歩進めると、今やアメリカに行かなくてもユーチューブで海外の景色を見、 ZOOMを使って話し合うことが出来ます。そのうち仮想現実の世界でアバターとなって会いたい人と出会うことも可能になりそうです。学生起業を目指す方はこれらの技術を利用して事業を行う状況が思い浮かぶはずです。

 というようなことを、想像している時に2023年1月17日のYahooニュース「IT業界から金融業界に広がる米国の人員削減の波」(https://news.yahoo.co.jp/articles/52a4bd44a7e36f064ac6d28de06fe874274deda8?page=2)では金融大手のゴールドマンが全従業員の約6%に当たる最大3200人の人員削減を報じられた記事を見ました。さらに2023年1月20日の朝日新聞の 「米大手 成長期から転換の時」では、マイクロソフト、アマゾン、メタ、ツイッター、セールスフォース、アルファベットといった会社の従業員の削減についての記事が掲載されています。たとえば米マイクロソフトの従業員は2022年6月末には22万1,000人と、コロナ前の2019年6月末から8万人も増えていたのに、今は従業員1万人の削減するに至ったと書いています。

 また2023年2月4日の朝日新聞にも「米IT大手 減速鮮明」という記事が掲載されています。同日2月4日の朝日新聞の「米IT 立て直し急務」では、IT企業は人員削減が拡大し、投資はAIに集中していると書かれています。ここでもこれまで、コロナの中でも増員を行ってきたこれらの企業が、ついに減員を行う時代になったとのニュースです。これらはIT時代、プラットフォームが世界を制御すると言われて急成長を遂げてきた企業でさえ、人員削減に陥っているというニュースです。

 これ等を纏めると、すでに米国ではやりすぎの害が出るくらいIT化が進んでしまった時代になっているのに日本の企業は欧米のIT企業に追いつくだけの対策もできていないということになります。それとも、米国のIT企業と言えども、過去習慣にとらわれ新時代対応に遅れてしまった部門があるということでしょうか。ただ幸せなことに、米国でもIT企業以外では過去数年間 IT技術を持った要員は不足に直面していたため、IT企業や金融業等の一流企業で働いていた人達は、IT化に遅れている他の企業のIT化のために採用される可能性が高いため、失業という心配はあまりなく、大きな問題になってはいないようですが今後はどうなるかわからないと書かれています。

 働いている人にはいつ削減されるか心配でしょうが、経営者としては必要人員を柔軟に必要なだけ確保できる米国だから出来る従業員削減が行われる時代に入っているわけです。このような社会システムもとでは、これから自社のIT化を強化しようとしている企業から見れば、IT関連の知識を持った人達の採用がやりやすくなるので、IT企業の人員削減は、それ以外の企業にとってはありがたいことになります。

 このようにジョブ型人事の普及しているアメリカでは成長期にどんどん人員を採用でき、需要が減ったら削減出来ます。しかし日本は終身雇用を前提としているので、需要不足だからといって、容易に人員削減はできません。このため需要が増えてきた時であっても急速な増員はさけ、労働時間を増やしたり設備の改善や多業務を行ったりして現在の要員でやろうと努力をしてきたわけです。これは終身雇用制度のもとで、メンバーシップ型雇用慣行の日本でこそ実現されてきた方法です。そしてそのころは日本の製造業の強みともなり1980年代に改善活動として世界に広がっていました。

1.3 FTXの破綻

 Coindesk JapannnoのHP 「仮想通貨取引所FTXの特徴とは? FTTトークンも解説」(https://www.coindeskjapan.com/ftx/ )によれば、IT企業との関連性の高い金融業でも2022年11月11日、FTXはアメリカで連邦破産法11条(チャプター11)を申請したと発表しました。 同社の日本法人で暗号資産交換業を営むFTX Japanは、2022年11月に10日に関東財務局から交換業の1カ月の業務停止と業務改善を命じられ、新規口座開設と現物取引、法定通貨の入金と暗号資産の入庫を停止しています。FTXは現在倒産手続き中の廃業した企業で、日本ではFTXを利用できません。と書かれています。さらに金融大手のゴールドマンが全従業員の約6%に当たる最大3200人の人員削減を報じられたと書かれています。
 IT人材の強化を考えている企業はともかくこうなると企業家のための資金を集めようと思ってFTXに投資したり、FTX Trading Ltd. (FTX) 企業で暗号通貨取引所と暗号ヘッジファンドを利用している企業家にとっては、自社資産の減少となり、望ましいことではありません。

1.4 景気後退がやってきても大丈夫な対策は?

 Yahoo Japanのニュースの Sam Tabahriti(2023/01/05)「景気後退がやってきても大丈夫? 不況に強い仕事、弱い仕事」 Business Insider Japan(https://news.yahoo.co.jp/articles/a6e417ba497e8230404a7a9f45d67089ddfc68cd)によると不況が迫る中、アメリカの雇用者たちは自分の仕事に不安を抱いており以下に上げた業界は不況時にリスクの高い職種です。 
 テクノロジー関連職
 Eコマース・ソーシャルメディア関連職
 建設業関連職

一方以下の業界は不況に強い職種です。
 医療関連職
  「不況下で最も雇用が安定している医療専門職は、医師や看護師だけでなく、薬剤師、理学療法士、高齢者や障害者の介護士も含まれる」
 教育関連職
 公共安全及び社会サービス関連職

 一方日本の場合はこのシリーズの「70.内需不振をチャンスにーITpro EXPO 2012に参加してー」 の「図表1 産業構造の現状企業の競争力を確保するために」では人件費の安い海外企業に部品の製造を移したり、貿易摩擦を避けるために消費国に生産部門を移すこともあり、国内企業の人員削減が必ずしも企業の衰退を意味するのではない例として取り上げていますので、参考にしてください。

2.IT時代を生き抜くためには

 このほかにも最近はIT関連の世界ではセキュリテイの問題等いろいろな問題が発生しています。
 問題点をとり上げてばかりしていても、解決策にならないので、このあたりでその対策を「図表2 IT時代を生き抜く」にまとめました。

vbl02002.jpg図表2 IT時代を生き抜く

 これまでの世界は衣食住といったものを中心とした時代でしたが、今や地球上のかなりの国で生きるために必要な衣食住は何とか確保できる状況になってきました。

 通商白書2015「新 興諸国経済の類型化」(経済産業省)にあるように2013年に決められた世界銀行の定義によると新興諸国の2013年の一人当たり所得水準(GNI)は次の様になっています。

        GNI
低所得国    1,045ドル以下      バングラディッシュ、カンボジア、ミャンマー、ネパール等41国・地域で8億人
下位中所得国  1,006~4,125ドル     インド、インドネシア、ラオス、モンゴル等50国・地域で26億人
上位中所得国  4,126ドル~12,745米ドル 中国、タイ、マレーシア、ブラジルなど、アジア東欧など55国・地域で24億人
高所得国    12,7466ドル以上     G7,ユーロ圏諸国、韓国、台湾、香港など13億人など75か国・地域で13億人

 「図表  IT時代を生き抜く」の左上の環境変化に書かれている「新技術」「少子高齢化」はこのシリーズの「157.日本が生まれ変わるためにー今何が起きているかー」の「日本の現状」ならびに今回の第1章の「1.2 IT企業の人員削減」「1.3 FTXの破綻」で述べた部分です。

 令和3年11月19日 参考資料 経済産業省の 「日本経済の現状」(https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/001_04_00.pdf)に書かれている日本の一人当たりのGNIは1990年は19,699ドルで米国に次いで第2位でしたが、2019年には 43,803ドルと122%の増加となっていますがGNI成長1位の米国は180%増加し66,079ドルとなり、196%増加したドイツの58,110ドルや183%増加した英国の49,077ドルにも追い抜かれてしまいました。これを見ると最近は日本の経済は世界の高所得国のなかでは取り残され 組に入ってしまったことが解ります。

3.新しいビジネスの設計

3.1 ものと機能の関係

 次世代の産業の肝になる物は半導体ですが、日本のシェアは大きく低下しています。

 ただ、半導体の土台となるシリコンウエハーなどの「素材」や、電子回路を組み込んだり洗浄したりする「製造装置」は今も日本が強い分野です。この強みをベースに、他国と"連合"を組むことでさらに伸ばそうという取り組みが始めるのがよさそうです。

vbl02003.jpg図表3 ものと機能の関係

出典 藤本隆宏「現場から見上げる企業戦略諭(角川新書)p195を参照して作製 p27を参照して作製

 たとえば顧客の立場で考えると、日常生活でお手洗いで水漏れが発生したというような「課題」が見つかり自分が今持っている道具や部品では治せないと分かった時には、何か修理に役に立つ道具はないかと新聞と一緒に配達されたチラシを捜すか、ホームセンターに出かけて水漏れの修理部品を探します。この時、面倒なことが単純化され短時間(自分の空き時間)で修理できると判れば購入となります。さもなければ、ホームセンターの販売員に修理業者を紹介してもらうことになります。このためには、商品を設計する方は商品の数機能化し、修理時間を短く出来るように工夫して顧客の要求に応える範囲を広げるよ うな商品開発を進めておくことです。このためには企業は、周りの人との話し合いもやりやすく、合意も得やすいインテグラル型商品を開発し、これまではどんどん高機能化・高性能化を図ってきました。これ等は企業の中でやることですからクローズドアーキテクチャーとなります。その代表的な産業は自動車産業であり、常に市場の奪い合いを行う厳しい環境が待っています。

 しかしこのような改善が重なると、多くの顧客の要求を取り入れた過剰な機能まで組み込んだ商品となってしまいます。その結果高コスト商品となれば、顧客層にはお金に余裕のある人も入ってきます。こうして顧客範囲が広がり、売上高の増加が期待できるように見えます。ところが以前の機能で十分な顧客はこれを機会に低機能低価格の他社商品に切り替える可能性もあります。

 このため、高機能製品を作りだした企業は、高価格化を防ぐためにスキルがそれほど必要とされない部品は、人件費の安い企業や外国の低価格商品の調達が可能な企業に依頼することにより製造原価を下げるか製造プロセスの効率化により原価を下げる工夫を行います。

 その結果共通部品として使える物やソフトは、独立してモジュラー型商品として市場に出回ることにもなります。こうしてできた製品はオー プン・アーキテクチャー製品と呼びます。

 これらオープン・アーキテクチャー製品のうち、ソフトウエア商品は、最初に作る時に人手や費用がかかりますが、利用者が増える段階では、主にデータとその記 憶エリアとネットワークの利用費用の追加が必要となりますが、追加分の原価はすくなくなり、追加の原価費用は物財製品に比べると大きくありません。このため市場をうまくコントロールする会社が盟主となって世界の市場で確保する可能性が出てきます。

 ソフトウエア産業のアップル、グーグル、アマゾン、フェースブックといった会社はこの例で、世界中を自社マーケットとする企業の登場となり、その会社が必要とするハードウエア(もの)もその影響を受けるようになりました。

 こうして、他社製品やサービスを組み込んだ商品構造となると売上金額に占める、仕入れ金額が大きくなり、自社の付加価値の少ない商品となります。その上、部品を製造している企業は同じような物を他社にも売り出すことになり、競争企業にもメリットをもたらすことになりかねません。時には、モジュラー製品を作っている企業は、手に入れた技術を元にもっと素晴らしいモジュラー型部品を作り出していくことになります。こうしたモジュラー型が広がってきたのが、電気製品系です。このようにして、IT産業で主導権をとりそこなった情報系産業やIT機器会社は市場から撤退せざるを得なくなりました。

 ということで、日本の大企業が撤退をした、もしくは撤退を考えている産業はビジネスチャンスと考えてこれIT系の製品で最初から世界市場を狙おうと、学生起業家が対象としようとしても当初費用が莫大にかかるため、難しい状況です。

 むしろ製品の後を継ぐのではなく、顧客が何に利用しているのかを調べ、ニーズ思考の起業を計画してみる方がよさそうです。この時全てを自分でやろうとしてもできない時には、市場から自分の出来ないものを購入し、知り合いに相談して新しい機能を追加して顧客の要求に応えていきます。このように必要機能を発揮するために複雑な構造が必要となる物を(クローズド商品)と呼びます。

3.2 ものを売るのかサービスを売るのか

 「3.1 ものと機能の関係」では商品の構造がオープン型かクローズ型といった商品の構造を解説しました。その結果製造業と言えどもサービ ス機能を取り入れる必要が出てきていることを述べました。これからは、商品の売いり方を設計します。

vbl02004.jpg

図表4 ものとサービスの設計

出典 藤本隆宏、「現場から見上げる企業戦略諭」(角川新書)p195を参照して作製

 この図では、例えば自動車のようにビジネス活動の結果(人工物)を物の中に埋め込んで提供する時(転写)それを物財と呼び、ホテルのように活動内容(人工物)をエネルギー媒体に埋め込んで提供するものをサービスと呼んでいます。すなわち製造業では人工物(もの)とは企業が提供する製品もしくは部品とそれをつくるための生産設備のことです。これら人工物には構造と機能があります。この構造と機能の組み合わせ方を表現したものを設計思想(アーキテクチャー)と呼びます。すなわちアーキテクチャーは機能要素と構造要素(部品)とが組み合わせる構造を表現するものです。

 この必要機能を発揮するために複雑な構造が必要となる物をインテグラル型と呼び、機能要素と構成要素が1対1の単純な構造になる人工物をモジュール型となります。

vbl02005.jpg図表5 ベンチャーならどうする

出典 瀬領浩一、2010「44.ベンチャーならどうする ―マシンツールフェアOTAに参加してー」

 この図は2010年にこのシリーズの「44.ベンチャーならどうするーマシンツールフェアOTAに参加してー」の最後の部分にあった「ダウンロード」からリ ンクしていた図でしたが、今は読みだすことが出来ないので、再掲しました。随分古い図ですが、今でも通用することが多いので、「44.ベンチャーならどうするーマシンツールフェアOTAに参加してー」を読んでいる時にご参照ださい。今の日本の製造業は2010年ごろの日本の製造業がおかれていた時代とあまり変わっていないことがお判りになると思います。

3.3 便利屋思考

 学生起業ではグローバルICT時代で世界の市場で巨大化しつつあるマイクロソフト、アマゾン、メタ、ツイッター、セールスフォース、アルファベットのような米国の巨大プラットフォームを運営する企業空間でのもとで学生起業や中小企業が日本の強みを生かすために次の様な対策を取るのがよさそうです。

 学生起業で現場の強みに役立ちそうなこととしては、次のようなことが考えるられます。

年齢が若いことでは便利屋思考を考慮する
大学では教授の研究成果を生かす
工場では機械に合わせる
営業所では顧客の利益や満足度工場を狙い
部品は標準品を利用する       

 「便利屋」というと20200212「【 間関係の悩み】便利屋さん扱いをやめて欲しい!と思ったときの脱出法」(https://korewatamichi.hatenablog.com/entry/communication2)にあるような否定的な話になります。とくに「苦手なこと」や 「嫌なこと」を解決してくれそうな人を見つけると、「解釈の違い」という隙を突いて、次に示すようなことを要求してくる状況を思い浮かべけぎらいする人もいます。たとえば、残業や雑務を押しつけてきたり、プラスの無料サービスを要求したり、立場の弱そうな人には見えを張って相手よりも 自分の方が優位だと見せつけるような言動や嫌がらせを使ってでも正当化してくるから厄介です、といったおはなしです。

 一方「便利屋思考」というと「便利屋、なんでもやのお仕事とは」(https://nijiiro-alife.jp/blog/post-398/)にあるように、ビジネスとして考えている人もいます。今回使っているのははこちらの考え方です。

4.実行時の考慮点

 実行時の考慮点としては以下のようなことが重要かと思いますが、これまでに述べた部分が多いので省略し、今回は5.1から始まるDX (デジタルトランスフォーメーション)についてまとめます。

ステークホルダー戦略     「154 .未来から現在を考えるーステークホルダーの立場でパーパスをー」2021/02/05 
相手の思い・思考方法を知   「124 .企業文化と国民性ー人はなぜそのような行動するのかー」2019/05/30
人付き合い方法の改善     「120.アクティブ・シニアの貢献ー幼児期記憶を活用しようー」2018/10/08
過去の成功・失敗を記録し参照 「91.商品コンセプトの探索ー多次元思考図による商品企画ー」2014/10/28

4.1 5つのチェックポイント

 2023年1月のDIAMONDハーバードビジネスレビューのp17「マイクロソフトやUCBの事例に学ぶ営業組織のデジタライゼー ションを成功に導く方法」では、「今日の企業には、顧客の多様かつ高度なニーズを満たすことが求められている。そのためにはデータやAI(人工知能)の活用が不可欠だが、顧客データが分散していたり、事業部ごとに異なる形式で管理していたりすれば、営業担当者はデータの収集・統合に時間と労力を費やすこととなり、顧客とのコミュニケーションに支障が生じかねない。営業組織のデジタライゼーションを成功に導き、営業担当者が顧客ごとに個別化された提案を行えるようにするために、企業は何をすべきかについて『図表6 5つのチェックポイント』を提案しています。」と書いています。

vbl02006.jpg図表6 5つのチェックポイント

 出典  2023年1月のDIAMONDハーバードビジネスレビューのp17
「マイクロソフトやUCBの事例に学ぶ営業組織のデジタライゼーションを成功に導く方法」を参照して作成

 これらは、このシリーズで述べてた来たことと重なりますので、重複を避けるためにここでは詳細を省略いたしますが、中小企業の経営者は、ここに書いてあるようチェックポイントで必要な基本スキルについては、十分身につけておいて下さいと書いています。

4.2 デジタルガバナンスコード2.0

 経済産業省は、2020年11月に、企業のDXに関する自主的取組を促すため、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応を「デジタルガバナンス・コード」(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc.html)として取りまとめました。 DX認定制度とは、「情報処理の促進に関する法律」に基づき、「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応する企業を国が認定する制度です。

 この認定を行っているIPA(情報処理推進機構)は、情報処理の促進に関する法律に基づき、IT社会推進のための技術や人材についての振興を行う独立行政法 人(経済産業省所管)です。1970年10月に特別認可法人情報処理振興事業協会として創立され、2004年に現在の形に改組された組織です。主な事業は IT分野の技術開発の支援、IT人材の育成、情報セキュリティ(https://e-words.jp/w/%E6%83%85%E5%A0%B1%E3%82%BB%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3.html)についての調査・研究や情報発信です。人材育成分野では、国家試験(情報処理技術者試験)(https://e-words.jp/w/%E6%83%85%E5%A0%B1%E5%87%A6%E7%90%86%E6%8A%80%E8%A1%93%E8%80%85%E8%A9%A6%E9%A8%93.html)を実施しています。

vbl02007.jpg図表7  DX認定申請

出典「DX認定制度」(情報処理推進機構)

 DX認定制度とは、「情報処理の促進に関する法律」に基づき、「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応する企業を国が認定する制度です。 独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)が、この制度に関わる「DX認定制度事務局」として、各種相談・問合せ対応及び認定審査事務を行っています。

 認定申請書には下記に示す(1)から(6)までの6項目についての情報の公表日・公表方法・公表場所・記載場所ならびにその抜粋等を記入して申請する必要があります。更にこの6項目のサブ項目は、6項目のそれぞれを記入するためにチェックし項目として整理しておくべき内容であるとチェックシートに期されています。

(1) 企業経営の方向性及び情報処理技術の活用の方向性の決定
1-1 デジタル技術が社会や自社の競争環境にどのような影響を及ぼすかについて認識し、その内容について公表しているか。
1-2 1-1を踏まえ、経営ビジョンを策定・公表しているか。
1-3 経営ビジョンを実現するためのビジネスモデルの方向性を示し、公表しているか

(2) 企業経営及び情報処理技術の活用の具体的な方策(戦略)の決定
2-1 申請書の設問(1) で記入した経営ビジョンやビジネスモデルを実現するための戦略を公表しているか。
2-2 上記戦略は、デジタル技術を用いたデータ活用を組み込んだものとなっているか。

(3) 戦略の達成状況に係る指標の決定
3-1 申請書の設問(2) で記入したデジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標を決定し、公表しているか。

(4) 実務執行総括責任者による効果的な戦略の推進等を図るために必要な情報発信
4-1 申請書の設問(2) で記入した戦略の推進状況等に関する情報発信を、経営者自らが行っているか。

(5) 実務執行総括責任者が主導的な役割を果たすことによる、事業者が利用する情報処理システムにおける課題の把握
5-1 経営者のリーダーシップの下で、デジタル技術に係る動向や自社のITシステムの現状を踏まえた課題の把握を行っているか。

(6) サイバーセキュリティに関する対策の的確な策定及び実施
6-1 サイバーセキュリティ経営ガイドライン等に基づき対策を実施し、定期的にセキュリティ監査等(内部監査、外部監査どちらでもよい)を行っている

といったことを入力することが求められます。

 この中には今回の学生起業の「設計に必要な機能」に取り上げていないものも入っていますが、起業家(経営者)がデジタル戦略を設定し、ステークホルダーとともにその戦略を実現するための活動計画を作成するためのチェックシートとして利用できます。起業活動を行っているうちにその計画は修正されるでしょうが、 DX目標が達成されたときには、DX認定を行い、事業の生産性向上だけでなく、事業の信頼度向上に約立てましょう。

おわりに

 個人事業家や少人数の事業として始める学生企業家は、社会人の立場、事業化の立場、個人の立場の3つをすべて担当し、社会環境の変化、人と金とスキルのすべてについても事業運営の責任を持つことになります。ということで、今回まとめた事業の設計を中心にこれまでにシリーズで検討してきたことも含め考慮すべきキーワードの相互関係をまとめたものです。

vbl02008.jpg図表8 学生起業ビジネスの設計

 「図表8 学生起業ビジネスの設計」に上げたように、学生起業を行っていくにあたり、個人事業主もしくは企業の社長として責任をもって構築すべき事業の目的の決定から必要な機能と必要な能力の調達、事業機能決定から始まり顧客の感謝を得るまでの活動は事業主が決定する項目です。さらにその事業が世の中の動向にあっているから重点項目までの社会の環境と整合性を持てるように構築すべきことであり、そのために必要な人材、金、スキルを持っているか、持っていなければステークホルダーとして集める責任もあります。図表8はご自身のビジネスモデル作成時のフレームワーク(FBE: Framework By Example)としてご利用いただき、自分の起業活動の設計図作成プロセスとしてください。

参照資料
yahooニュース、2023「IT業界から金融業界に広がる米国の人員削減の波」
https: //news.yahoo.co.jp/articles/52a4bd44a7e36f064ac6d28de06fe874274deda8?page =2(アクセス 2023/02/07)
apanのニュース、Sam Tabahriti、2023/01/05「景気後退がやってきても大丈夫?...不況に強い仕事、弱い仕事」(Business Insider Japan)
https: //news.yahoo.co.jp/articles/a6e417ba497e8230404a7a9f45d67089ddfc68cd(アクセス 2023/02/04)
Coindesk JapannnoのHP 「仮想通貨取引所FTXの特徴とは? FTTトークンも解説]」
https://www.coindeskjapan.com/ftx/(アクセス 2023/02/12)
「DX認定制度」(情報処理推進機構)
https://www.ipa.go.jp/ikc/info/dxcp.html(アクセス  2023/02/10)
国家試験の「情報処理技術者試験」
https://e-words.jp/w/%E6%83%85%E5%A0%B1%E5%87%A6%E7%90%86%E6%8A% 80%E8%A1%93%E8%80%85%E8%A9%A6%E9%A8%93.html(アクセス 2023702/12)
情報セキュリティ
https://e-words.jp/w/%E6%83%85%E5%A0%B1%E3%82%BB%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3.html(アクセス 2023702/12)
瀬領浩一、2009「36.プロフェショナルの育成ーITpro EXPO 2009よりー
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/036.html(アクセス 2023/02/12)
瀬領浩一、2010「44.ベンチャーならどうする
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/044.html(アクセス 2023/02/12)
瀬領浩一、2012「70.内需不振をチャンスに
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/070.html(アクセス 2023/02/12)
瀬領浩一、2014「91.商品コンセプトの探索ー多次元思考図による商品企画ー
https://o- fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/091.html(アクセス 2023/02/22)
瀬領浩一、2018「120.アクティブ・シニアの貢献ー幼児期記憶を活用しようー
https://o- fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/120.html(アクセス 2023/02/22)
瀬領浩一、2019「124.企業文化と国民性ー人はなぜそのような行動するのかー
https://o- fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/124.html(アクセス 2023/02/22)
瀬領浩一、2020「129.CAD/CAMはVR
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/129.html(アクセス 2023/02/12)
瀬領浩一、2020「130.失敗は成功の元  相談員への道
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/130.html(アクセス 2023/02/12)
瀬領浩一、2020「131.明日に備えてー偏差値コンプレックスという国民病からの解放ー
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/131.html-(アクセス 2023/02/12)
瀬領浩一、2020「132.コロナ後のベンチャーーITとOODAの有効利用ー
https://o- fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/132.html(アクセス 2023/02/12)
瀬領浩一、2020「133.新型コロナ後の自業ー「家業」のやり方を今様にー
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/133.html(アクセス 2023/02/12) 
瀬領浩一、2020「136.IT時代後のコロナ対応
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/136.html(アクセス 2023/02/12) 
瀬領浩一、2020「137.心豊かに暮らせる社会ーSDGsの利用ー
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/137.html(アクセス 2023/02/16) 
瀬領浩一、2020「140.未来から現在を考えるーステークホルダーの立場でパーパスをー
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/140.html(アクセス 2023/02/12)
瀬領浩一、 2021「142.アイデアとコンセプトの整理ー大学発ベンチャーの設立に向けてー
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/142.html(アクセス 2023/02/12)
瀬領浩一、2021「151.学生起業の道ー自分への備えー
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/151.html(アクセス 2023/02/12)
瀬領浩一、2021「154.未来から現在を考えるーステークホルダーの立場でパーパスをー
https://o- fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/154.html、(アクセス 2023/02/22)
瀬領浩一、2021「157.日本が生まれ変わるためにー今何が起きているのかー」 
https://o- fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/157.html(アクセス 2023/02/12)
チェックシート
https://www.ipa.go.jp/files/000086671.xlsx(アクセス 2023/02/05)
https: //www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc2.pdf(アクセス 2023/02/05)
「日本企業の直面した6重苦の状況」
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp- je21/h06_hz020107.html(アクセス 2023/02/05)
【人間関係の悩み】便利屋さん扱いをやめて欲しい!と思ったときの脱出法」
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/070.html(アクセス 2023/02/12)
プラバカント・シシハ 他、2023「マイクロソフトやUCBの事例に学ぶ営業組織のデジタライゼーションを成功に導く方法」( DIAMONDハーバードビジネスレビュー)
「便利屋、なんでもやのお仕事とは」
https://nijiiro-alife.jp/blog/post-398/(アクセス  2023/02/07)
令和3年11月19日 参考資料(経済産業省)
https: //www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/001_05_00.pdf(アクセス 2023/02/12)
「令和3年度 年次経済財政報告」(内閣府)
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp- je21/h06_hz020107.html(アクセス 2023/02/05)

2023/02/27
文責 瀬領 浩一