163.学生起業のビジネスモデル作成

163.学生起業のビジネスモデル作成

UMLを使ってビジネスモデルを作成

はじめに

 前回は学生起業を行うためのビジネスモデル作成ができるかどうかをチェックするために、その準備状況をまとめました。その結果このシリーズをお読みの方は、おおむね準備ができていることが解りました。お読みになっていらっしゃらない方は前回の記事をお読みになり、現状の確認をしていただければと思います。今回は前回書いたことを参照してビジネスモデル図を作成する方法をまとめました。

 内容は、かなり前回と重複する部分もありますがお許しください。

1.ビジネスモデル作成のステップ

 ビジネスモデル作成のステップは、「図表1 ビジネスモデル作成のステップ」に描いたように前回と同じく次の6ステップです。

vbl02201.jpg図表1 ビジネスモデル作成のステップ

 前回上記6ステップの下に描いたコメントは、そのステップの概要でしたが、今回はそれに追加して参考となるシリーズの名前も追記して います。必要に応じてご参照ください。 
 参照資料に、ホームページアドレスを記載しています。必要に応じてご利用ください。

 今回作製するビジネスモデルは学生起業家を目指す学生さんが起業を目指する時に作成が必要になるビジネスモデルを作るためのものです。まだ企業としての実績はなくても、企業としてありたい姿を描き下ろすものです。ということで大企業ではなく小さな起業もしくは個人事業を対象としております。とはいえ、その企業と利益を共有する利害関係者(ステークホルダー)がいらっしゃいますのでその方達と相互にコミュニケーションをとりながら活動するチームも対象となります。ということで組織を作るためのツールや KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)、KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)、KSF(Key Success Factor:重要成功要因)を共有するチームも対象となります。

 これ等の指標を共有しあえるようになると何となく楽しい起業活動になると思いませんか。図表1の6ステップのうち現状の把握は前回(162.学生ビジネスモデル作成準備-UMLで現状把握-)を参考に自分のケースを作成すれば分かるはずでした。ということで今回はそのような情報を参考にしながら、「図表1 ビジネスモデル作成のステップ」の2番目、構想のステップから説明を開始します。

2.構想

 「平成30年 夢を実現する創業」(中小起業庁)p08には起業の主人公の夢野さくらさんの作成した「夢野さくらの事業計画書 (1)事業構想」が掲載されております。

vbl02202.jpg図表2 夢野さくらの事業構想図

出典「平成30年 夢を実現する創業」(中小起業庁)p09

 構想とは「図表2 夢野さくらの事業構想図」のような起業について思いのことです。出典の「平成30年 夢を実現する創業」(中小起業庁)はここに上げた「夢野さくら」の事例をベースにして、起業に至るまでのステップや、調査項目、公的機関への手続き、起業支援体制などに ついいて解りやすく説明している起業支援の本です。私はこの本をいただきましたが、現在はHPからダウンロードも可能です。巻末の参照資料にはこの資料のホームページアドレスが書かれています。

 この図表2をマンダラ風に図表化したのが「図表3 夢野さくらの事業構想図 マンダラ」図です。

vbl02203.jpg

図表3 夢野さくらの事業構想図 マンダラ

 「図表3 夢野さくらの事業構想図 マンダラ」を見ると

①創業の動機には、ABCパン店で経験した自分の強みを生かせることをやりたい、
③市場としては、ここに書かれている日本人の若い女性や日本人の好みに対応したマーケットを探し出し、
④お客さんのご要求に応える会も作りたいと考えていることが解ります。
⑤にあるようにパンを焼く機械の購入資金等に心配を持っていることもわかります。
といった状況の中で
②に上げたような企業を創業したい。
ということです。

 創業の準備、創業支援について等、起業に関わる重要な項目について、図表を多く取り入れ面白おかしく解かりやすく描いていますので、まだ読まれていない方はぜひ読んでみてください。

 同様に「平成30年 夢を実現する創業」(中小起業庁)のp11を参照して作製したのが「図表4 夢野さくらの事業計画」です。

 この図も「図表2 夢野さくらの事業構想図」に載せたような1ページの図です。こちらは、元図を省略して「 図表4 夢野さくらの事業計画」としてUML図を描きました。

vbl02204.jpg図表4 夢野さくらの事業計画

出典「平成30年 夢を実現する創業」(中小起業庁)p11を参照して作製

 「図表4 夢野さくらの事業計画」は、夢野さくらがやりたいと思っている事業の
① 事業内容
② 事業の特徴
③ 販売計画
④ 仕入計画
⑤ 設備計画
⑥ 要員計画
の5つの項目に関するUML図を1枚の紙に描き表したものです。

 配布用の材料としては図表4の全体図でよいかと思いますが、プレゼンに使う時には説明相手や説明目的に合わせて5つの項目それぞれを1枚に描きだし追加の説明や図形を加えて準備しておくとより具体的な内容を伝え易くできます。

注)事業内容の中に「薬膳カレー」なる言葉がりますが、薬膳とは「肌が荒れているから野菜とろう」とか「眠れないからカモミールティー飲もう」とか、自分の身体を基準に食べ物を選ぶという意味です。お客様に合わせて作るのでなければ「薬膳っぽいカレー」です。本来ならお客様の体調をお聞きしてそれに合わせて調理するのが「薬膳カレー」のはず。スーパーなど では無理なカレーと思っていただければ、起業した後に簡単にスーパーに追随されることはない標品を提供しようとする意気込みが感じられます。

 構想時にはこのような意気込みを感じさせる言葉を盛込むことが重要です。

3.環境分析

 環境にはいろいろな意味があると思いますが、ここでは自分のやろうとしている起業に影響はあるが、直接関係することがないこととします。仕事の環境分析の代表的なものは、「図表5 強みと弱み」で説明しているSWOT分析です。この図は「154.ステークホルダー」の「図表1 強みと弱み」を引用し、赤字で記入されている「お金を持っている人」等をを追加修正したものです。

 ここで注意したいことは赤字で加えた「お金を持っている人とチームでやる」という言葉です。これは夢野さくらさんの経営者としてやっていけるかの問題の一つはお 金の問題と考えて私が勝手に追加した項目です。本当にそう思っていても、多くの場合この文は公になる情報には加えないことが多い言葉です。いわば自分の中に隠されている弱みとして考えておくべきことですが積極的に書く必要はない項目です。補助金を獲得するも同じようにお金を獲得する手段ですが、心の中にそれとなく隠しておく内容というこ とでこちらは黒字表現にしてあります。

vbl02205.jpg図表5 強みと弱み

出典「154.ステークホルダー-必要な人材を集める-」の「図表1 強みと弱み」 

 このシリーズで書かれている多くの図は、記入フォームに記入した事例図となっています。私はこれをFBE(Framework By Example:記入事例)と呼んで、記入フォームを示すために使っています。この記事を読まれた人は、この図に自分のケースを書き込み自分用の資料としてお使いになることをお勧めいたします。

4.戦略立案

 自分のやりたい思い、と自分を取り巻く環境が明らかになりましたので、いよいよ戦略の立案に入ります。

 この時には、会社の機能を分けて価値連鎖を考えることにします。

 一的には企業の機能を示すときはポーターのバリューチェーンを利用して描いています、自分のビジネスモデル作成のを作成するのですから、自分の起業したい業界にあったバリューチェーンがあればそれを参考に使うのが良さそうです。本来、社内の組織名は任意に 決めてよいのですが、その業界の外部の人とのコミュニケーションをとる時には、関係者に知られた名前を使った方が誤解をまねくことが少ないからです。「図表 6 ポーターのバリューチェーン」には一般的バリューチェーンと製造業のバリューチェーンが描かれています。比較してその違いを感じてください。

vbl02206.jpg図表6 ポーターのバリューチェーン

 汎用性を持たせるには一般バリューチェーンに使われている機能名を使うことを考えましたが、今回はFBEとして、製造業のバリューチェーン名を使うことにしまし.た。皆さんは起業を考えている業界の名前のバリューチェーンを調査しお使いください。これから学生起業をされる方は組織構造も人材も決 まっていないのですから、ここでは取り合えず、右側の製造業に上げたような言葉を使って、自社の組織の機能を表現(FBE)することとします。

 ということで「図表7 自社のビジネスモデル図」でも製造業で一般に使われている機能名を使っています。

 上記のバリューチェーンモデルを見ていると、材料を購入し何かを作り販売すれば顧客へのサービスが可能であるという図です。

 この図は物不足の時代に、物を作りそれを売ることによりマージンが得られるとの感覚で並べられています。即ち物から金への変換プロセスです。

vbl02207.jpg図表7 自社のビジネスプロセスモデル

 日本は戦後の物不足時代からの世界にまれなる製造業の成長に成功しました。この結果人間が生き続けるに必要な最小限のものが供給できるようになるとこの順番でものを考えるだけでは、うまく機能しないこともわかってきています。

 現在の日本では、生きるために最小限のものが必要な人達の需要の合計は、全体の需要の中ではそれほど多くないようです。

 ということで、製品の供給者の立場から考えると、需要の大きくなりつつあるものに投資することが必要となりつつあるようです。今回の報告では夢野さくらのケースではなく、製造業においてもサービス業に近い考え方をとりいれたのサプライチェーンと考えることにします。すなわち製造業と言えども需要に需要にどのように対処するべきか考える必要があるということです。

5.実行計画

 起業を行う事業の部門の配置図の作成にあたり「図表6 ポーターのバリューチェーン図」の製造業のバリューチェーンに書かれている9個の機能をクラス図として描き出したのが「図表8 起業の構造図」です。 


 こうして、社外との取引で必要なモノとコトと金の取引の形が決まります。

vbl02208.jpg図表8 起業の構造図 

 会社の部の単位として設定した組織単位を実現させるときに使われるバリューチェーンを実施するための構造です。上記の組織枠を課として実現する時事業部の製造、販売医・マーケットの2つの部門は約10人の課、その他の7部門は約5人の課とすると合計して約55人となり、社長と部長約2人を加えると57人とと なり60人弱の従業員規模となります。

 しかしながら学生起業として立ち上げる時には実績もなく、数人から10人くらいまでの集まった人達(チーム)の学習・経験・発表内容等や討論してきたことを元に、計画をつくるわけですから賛同者も少ないために企業当初は更に少ない20人以下の企業として開業することになります。

 この人数ですと「図表9 中小企業と小規模企業の定義」に描かれているように小売業・サービス業の場合は中小企業と言えなくなり大企業と分類され、卸売業を含めたその他の業種では中小企業と分類されることになります。

vbl02209.jpg図表9 中小企業と小規模企業者の定義

出典:中小起業・小規模企業者の定義(中小企業庁)

 また、その全企業に占める割合は2016年の総務省の調査データをもとに中小企業庁でまとめたものでは、大企業 0.9%、中規模事業者 13.2%、小規模企業 86.5%であり、企業数としては珍しいことではありません。ただその従業員に占める割合は大企業 37.3%、中規模事業者 43.92%、小規模企業 25.85%と逆順となっており、このままでは日本の社会に及ぼす効果は限定的となります。

 「図表10 学生起業の起業時構造図 小規模企業」はこうして作った機能と役割りを決めた組織図です。

vbl02210.jpg図表10 学生起業の起業時構造図 小規模企業

 この起業の発案者のAさんは人事労務、経理財務、情報システム、経理を担当します。モノづくりのアルバイト経験のある参は技術開発と製造、購買物流を担当し、Dさんは製造のスタッフとして商品の組み立てを行います。Cさんは販売担当として販売計画と受注発注を行い、お客様への発送が必要であればそれも担当します。話し上手で人付き合いの良いCさんはEさんはスタッフとして売り場に立ちます。といった起業当初の組織図と考えてください。起業後の活動が勝負です。

 また、製品については「図表11 製品構成と価格モデル」に上げたようなおおまかな機能の構造図を描きます。この図はモノづくり際の商品の部品図や部品表に代わるものではありません。基本的には取扱いの単位、もしくは価格管理の単位を元に構造を決めていきます。

vbl02211.jpg図表11 製品構成と価格モデル

 商品の価格はいくらくらいなるのかを知るためには、その元となる製品の価格を知る必要があります。製造業では商品は多くの部品を組み立てて作られますがここではその部品が代表する材料、もしくは部品名を示すクラス図です。

 製品構成が決まったら、それがどの様な手順で作られ顧客に提供されるのかを整理したのが「図表12 サプライチェーンの機能」です。

vbl02212.jpg図表12 サプライチェーンの機能

 「図表12 サプライチェーンの機能」の上下の破線で囲まれている部分(クラス図)は上部に書かれている、商品、製造、物流、販売が機能の大分類に属しています。図表12にあるように、商品(製造業では主に製品)は「図表7 自社のビジネスプロセスモデル」にあるように販売機能の需要予測や販売部門の販売改革にもとづいた需要を見極めだけでなく、外部の研究施設から頂いた技術開発をも元にした商品開発を行うことから始まります。作られた商品は現状在庫等も調べ、特注が必要な部品は部品メーカーに発注し組み立てメーカーから購入しその他の部品はこれまでの部品メーカーから購入します。こうして通常部品や組み立て部品を仕入れて生産が行われます。作られた製品は、販売部門から指定された営業担当者の元に商品部門から送られます。こうして店舗に並んだ商品がお客様に買っていただけるわけです。
 商品は「図表12 サプライチェーンの機能」にあるように商品企画を担当している部門が、新商品の開発やその生産に関する一連の作業を行い営業部門へ配送する形で供給されますが、商品の売り上げは常に一定であるわけではありません。そのために「図表13 サプライチェーンの流れにあるように」販売部門からの売り上げに応じてその生産量を調整します。

vbl02213.jpg図表13 サプライチェーンの流れ

 「図13 サプライチェーンの流れ」では四角で囲まれているのが各部門のクラス図で、クラス図をつないでいる直線が部門間の関係(つながり)を示しています。 矢印でしめされているのが両者の間をつなぐ情報の流れ(トランズアクション)や物流(distribution)を示しています。その上に書かれているのが意味(メッセージ)で、意味の前に書かれているのが、意味の使われる順序です。《》に挟まれている英字部分がメッセージのスモデル要素(ステレオタイプ)です。

 このような時に備えて、図表13のサプライチェーンの各要素(クラス)担当者は各要素(クラス)の間を流れる情報《transaction》や物《distribution》の流れをその前に書いてある数字の順番に実行します。すなわち

一方営業担当者から見ると
1.営業実績と見込みを販売担当者に、
商品部門の担当者は
2.販売実績と実績を商品担当者へ、
商品部門の担当者は
3.在庫・納入予定をチェックし必要なら
4.追加部部品の発注を 部品メーカーに送り
5.商品組み立ての指示を加工・組立メーカーに送り
6.加工指示を製造部門に送り
7.物流センターに製品の受入を指示します。
部品メーカーは部品を作成した後
8.部品を加工組立メーカーに送り
製造部門は部品や加工部品がそろった時に製造し
10.物流センターにその部品を納入します。
物流センターは
11.製品が納入されたことを商品担当に通知します。
商品部門からは
12.配送通知を物流センターに送ります。
物流センターはその指示に従って営業部門にその製品を送ります。
といった一連の仕事を行っているわけです。

 すなわち「図表13 サプライチェーンの流れ」は全社にわたる情報や物の流れを一括して示しているわけです。

 こうして営業からの売り上げは少なくとも月1回販売部門に報告します。

 それにより定期的な商品の受注から販売までの流れはスムーズに行う事が可能になります。

 しかしながら、世の中は変化するものです。
 コロナ感染症問題、東北地震、原子力発電所の事故、不況といった大問題や、大規模交通事故、気候変動、台風、火災等により世の中は必ずしも安定したものではありません。このような時には、需要急減・急増したり、製造がうまく出来ないことも発生することもあります。

 このような事態に対応するためには営業から供給までの計画を柔軟に対応する必要があります。そのためには需要から供給の間にどれくらいかかるのかを整理しておく必要があります。このために必要なのが受注から供給に至るための時間を表現するサイクルタイムモデルです。

 そのために「図表13 サプライチェーンの流れ」を時間の立場で整理したのが「図表14 サイクルタイムモデリング」です。

vbl02214.jpg図表14 サイクルタイムモデリング

 この図では、売上変動に合わせるために営業(販売店)での在庫の変動に合わせて、部品の発注や生産量の調整を行い、営業部門に必要な量を提供するまでにかか る時間をまとめたものです。この図は「図表13 サプライチェーンの流れ」の各処理をできるだけ早く進めることが出来ればどれくらいの期間があれば変動に 対応して営業部門の在庫に反映できるかを整理したものです。この図で分かることは、各ステップの一番上の活動期間の合計が、変動に対応する帰還であることです。これからの変化する時代のビジネスでは、このサイクルタイムを短縮させる工夫が必要であるかが解ります。

 起業当初は営業部門は1つですが、営業部門や営業方法が増えて来たときには販売部門で全社の売り上げを取りまとめ、商品部門に報告します。

 また、サプライチェーンは企業の中に一つだけあるわけではありません。商品の種類によりそれぞれ異なったものになるはずです。これらすべてに一括して対応すること は難しいので、効果の上がるプロセスを中心に改善が出来ようサプライチェーンをいくつか作っておくことになります。

 すなわち「図表11 製品構成と価格モデル」と「図表14 サイクルタイムモデリング」のうち業務改善に役立つプロセスを選んで作成することになります。

6.ビジネスプロセスモデリング

 ビジネスプロセスモデリングについては、前回の「162.学生起業のビジネスモデルの作成準-UMLで現状把握-」で学生起業としては、「コア・コンピタンス」として、大学との連携に焦点を当てたらどうだろうということで、起業する会社が大学の研究室や知 財管理部門との付き合いを強調することを提案しましたので、そちらをご参照ください。

 学生起業としてスタートさせるための当初の企業モデルではあまりにもさみしい、しかし顧客が増え収入も多くなることが説明できなければ、企業拡大のための人材確保や資金の確保も困難です。ということで、ここでは「図表15 学生起業のサプライチェーンモデル構想」を作成しました。

vbl02215.jpg図表15 学生起業のサプライチェーンモデル構想

 そのポイントは赤枠赤線で描かれている ①大学研究室との関係、②直営部門の強化、③販売代理店、④ネット販売業者 の4点です。

 まずは当初営業部門で働くことにより、商品知識や顧客とのお付き合いし方を学んだ従業員を新しい直営店舗の店長に任命し、新しい直営店舗を開設します。そこでうまくいくようになったら直営店舗を増やし、次のステップはこうして育った店長を模範とした販売代理店をつのります。この時直営店舗で働いていた人だけでなく個人事業して営業して来られた人も販売代理店長して採用し顧客の拡大と売上の増加を測ります。

 こうして、事業の拡大を行っている間に、業務プロセスのIT化を進め、会計や経理の手間の少ない事業仕組みを構築します。IT化の導入が進んできたら、それらの経験をもとに、ネットワーク販売業者を募りさらなるサプライチェーンの強化を測ります。こうした事業の拡大をスムーズに行うために事業プロセ スの標準化と見える化・自動化を行うためのIT化が必要条件となります。

 今回のUML方式はこれ等のプロセスの見える化を行う世界標準をプログラム開発だけでなく、ビジネスプロセス(仕事の手順)の段階から採用しているわけです。

 こうして顧客の要求に柔軟に応えられる企業が実現し「図形16 コア・コンピタンス」が実現できるようになります。

vbl02216.jpg図表16 コア・コンピタンス

出典「162.学生起業のビジネスモデル作成準備-UMLで現状把握-」図表15

 ただこの時には、企業の組織は「図表10 学生起業の起業時構造図-小規模企業-」ではなく「図表8 起業の構造図」に書いたような組織に、ネットワーク 担当部門を追加したような形に変更する必要があり、会社の授業員数は起業時の5人くらいから20人を超えた中小企業に成長しているはずです。 

おわりに

 ようやく、学生起業でビジネスモデルの作成のために使う業務のモデル化が出来ました。

 「図表17 ビジネスモデル作成にUML」では今回作成したビジネスプロセスモデルをつくるまでのUMLの役割を纏めました。

vbl02217.jpg図表17 ビジネスモデル作成にUML

画面をクリクックすると拡大して見られます

 「図表17 ビジネスモデル作成にUML」の縦軸はビジネスモデル、横軸はそのモデルを作成するステップを纏めています。

 この図の赤字で示してある分は、ここでは記載されておりません。

 例えばビジネスモデルステップのビジネスモデルの詳細化は、これから重要な戦略となるIT化を行う時にこれまで行ってきた結果を、ビジネスシステムとしてIT化するための必要項目ですが、学生起業を計画している段階では具体的なITシステムの設計まで行うことはなさそうです。起業モデルの概要が決まり、必要な手続きが進み、IT化も同時に進めるとなった時には 組織図で検討する社員の配置とその社員がさすべき業務のならびにその時採用するソフトウエアの機 能に合わせて必要な項目を決定して詳細部分のモデル化をすすめることになります。

 また環境分析の「強みと弱み(SWOT分析)」はUMLでやり方を検討する前に行うことですので、ここでは省略しています。以前に作成している資料をご利用ください。本シリーズの「154.ステークホルダー」にステークホルダー決定時に考慮すべきこととして、簡単に「強み弱味」について述べています。

 同様に財務モデルは、企業のタイプや管理する公的機関のルールに合わせることになりますから、これも立地条件や起業のタイプ(起業立地の公的機関、企業か個人事業化、業界等)、が決まったときにその タイプに合わせて行うことになりますのでこちらも省略してあります。起業のタイプに合わせてビジネスモデルを修正してください。

 このあとは、「図表15 学生起業のサプライチェーンモデル構想」に述べたようにビジネスモデル図を柔軟に変更しつつさらに詳細なビジネスプロセスモデルを作成していくことになります。

 その時には、これまでほとんど説明しなかった、振る舞い図のユースケース図、アクティビティ図、ステートマシン図、相互作用図が必要となります。その中の相互作用図にはシーケンス図、コミュニケーション図、タイミング図、相互作用概要図(インタラクティブな概要図)が必要となります。

 更に情報システムの構築に進むとなると「ビジネスプロセスモデリング」の後「システム構築」、「実施」、「計画の見直し」が行われることになります。

 解りやすい図形ツールを経営管理に導入する目的は、ステークホルダーの皆さんとの会話をスムーズに進めたいためです。このためにとりあえず必要なことは、ビジネスモデルの作成ができたあとには、「UMLクラス」に登録される情報を、関係者の誰もが容易に共有できる仕組みを作ると同時に、従業員がUMに書かれていることを理解できるだけでなく、改善要求も出せる能力を身に付けるための「人材育成」を行うことです。この時にはUMLのシステムと直接の関係はありませんので、今回の実行計画では、KPIの設定やビジネスプロセスモデルの検討は入れてありません。このためUMLの重要なモデル図である、ユースケース図やアクティビティ図シーケンス図コミュニケーションズ図等の事例説明だけでなく、人材育成型の研修に参加するか、起業活動をやりながら、自分でUML技術の獲得を図る必要があります。

 正に前回の「162.学生起業のビジネスモデル作成準備-UMで現状把握-」の「図表12 学生起業の戦略マップ」の左下の人材資本の充実が必要になるわけです。

 UMLの導入に合わせて、これ等に関する情報を共有することにより、ステークホルダーの皆さんとのおつきあいのやり方も改善していけます。 

 学生起業であれば、メンバーは若くそれなりの意気込みを持った人達の集まりだと思います、さらに人数も少ないグループでしょうから、みんなでオープンに意見 を出し合い情報共有や合意を取るのも難しくありません。学生起業の基本的な強みを強化するツールのひとつとしてUMLを使うことをお勧めします。

 今回分かったことは、起業を始めることは大切ですが、その後の成長可能な活動を行えることが企業の生命を決めるということです。起業できたと安心するのでは無く、「成長の用意はできた。さあやろう」という気持ちが大切だということです。図表10から図表8に向かって進み、図表8の事業を更に増やしていく活動が重要だということです。皆さん希望をもって起業をやりましょう。これからのIT時代、UMLはこのITの有効活動を行うための基礎技術の一つです。作成するプログラムの実行手順の設計だけでなく、プログラムを利用することになる仕事もしくは業務手順の設計にもUMLを使う方法を学びながら、起業を行いましょうといことが今回お伝えしたかったことです。

参考資料
城所 弘明 原稿作成 2018「平成30年 夢を実現する創業」(中小企業 創業・新事業促進課)
https: //www.chusho.meti.go.jp/keiei/sogyo/pamphlet/2016/download/h30Sogyo.pdf(アクセス 2023/05/31)
業種別バリューチェーン分析事例(DareCon)
http://www.darecon.com/value/index.html(アクセス 2023/05/31)
瀬領 浩一 2021「140.未来から現在を考える-ステークホルダーの立場でパーパスを-
https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/140.html(アクセス 2023/06/01)
瀬領 浩一 2021「143.起業の種類と事業形態 -個人か法人か?-
https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/143.html(アクセス 2023/06/01)
瀬領 浩一 2021「144.事業計画の作成 -アイデアを具体的で定量的に-
https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/144.html(アクセス 2023/06/01)
瀬領 浩一 2021「145.起業の場所と設備 -どこで起業するの-
https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/145.html、(アクセス 2023/06/01)
瀬領 浩一 2021「146.起業にかかる費用 -お金はどれくらい必要なのか-
https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/146.html(アクセス 2023/06/01)
瀬領 浩一 2021「151.学生起業の道-自分への備え-
https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/151.html(アクセス 2023/06/01)
瀬領 浩一 2022「152.起業の準備 -狙いを決める-
https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/152.html(アクセス 2023/06/01)
瀬領 浩一 2022「154.ステークホルダー -必要な人材を集める-
https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/154.html(アクセス 2023/06/01)
瀬領 浩一 2022「157.日本が生まれ変わるために(前) 何が起きているのか
https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/157.html(アクセス 2023/06/01)
瀬領 浩一 2022「160.弱者の起業戦略 -小さくてもNo.1を狙う-
https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/160.html(アクセス 2023/06/01)
瀬領 浩一 2023「162.学生起業のビジネスモデル作成準備 UMLで現状把握
https://o-fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/162.html(アクセス 2023/06/01)
中小起業・小規模企業者の定義(中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/teigi.html(アクセス 2023/05/30)

2023/06/05
文責 瀬領 浩一