162.学生起業のビジネスモデル作成準備

学生起業のビジネスモデル作成準備

UMLで現状把握

はじめに

 これまでこのシリーズでは、起業に関する課題をとりあげてその対策をまとめてきました。今回はUMLを学生起業のビジネスモデル図の作成に利用する意味をまとめます。UMLはUnified Modeling Languageの略語で日本語では統一モデリング言語と訳されているためFortran、C言語や、 Pythonのような新しいプログラム言語のように感ずるかもしれませんが、そうではありません。図を用いてビジネスモデル図を作り分析し、設計する手法のことです。

 ビジネスモデルとは誰が、誰に(Who)、何を(What)、どうやって(How)、付加価値を提供し収益を得るかが盛り込んだオブジェクト指向のビジネスの仕組みのことです。この時ビジネスモデルを実施する際の技術的工夫があればそれをビジネスモデル特許とすることもできます。

 ここでは学生起業には考慮すべきことが多くあること、また初めて事業化を行う人も多いことから、難しい文書による説明は避け、単純な図形方法式で理解しやすく変更も容易な、開発言語(UML)を利用してビジネスモデル図を準備する方法をまとめます。

1.ビジネスモデルをつくる理由

 なぜビジネスモデルをつくるかを知るために、これまでこのシリーズでまとめてきたマンダラ図を「図表1 作成資料のまとめ」に再掲します。

vbl02101.jpg図表1 作成資料のまとめ

クリックすると拡大図が見られます
出典 瀬領浩一、2022「156.起業継続-仮想現実から現実に起業に-」の図表8

 この図は「156.起業継続-仮想現実から現実に起業に-」の「図表8 作製資料のまとめ」にこれまでのシリーズで起業を検討するために起業に関する各記事から代表的な図表を集めて描いたものです。上から順番に次の様なことが書かれています。

起業の準備シリーズ:「はじめて学ぶ起業の仕方」で取り上げた9つのHPに書かれていることを1枚のマンダラ図にまとめた図

創業計画書:資金を提供する人は何を持って決断するのだろうか知るために代表的な資金提供機関である「日本政策金融公庫」から資金を得るためにはどのような情報が要求されるのかを纏めた図

学生起業の6W2H:自分のやりたい学生起業を説明するために使う仕組みの概略を纏めた図

ステークホルダー曼荼羅:ステークホルダーに知っていただきたいことを纏めた図

学生起業の道:起業に至るまでのステップを起承転結の4ステップに纏めた図

資金収支表:学生起業でどのように資金がつかわれるか纏めた図

起業家思考図:起業を考えている人が考慮すべき項目を纏めた図

ブランド人格曼荼羅:個人事業の屋号もしくは法人名を持つものが持つべき人格のようなものを纏めた図

自分への備え・学生起業:学生起業をやりたいと思っている人がどのような情報をベースに準備すればよいかをまとめた図

となっています。

 このように、これまではどのように対処するかを纏めるために、どのような問題点が発生しそうかを検討し、それらに共通する対策をまとめてきました。

ビジネスモデルは変わる

 しかしながら「158.日本が生まれ変わるために(後編)」に書いたように 世の中はつねに変り続け、「159.自分の思いを明確に」に書いたように対策も変えていく必要があります。このことはビジネスプランの作製時においても同じで、起業計画が進んでいくにつれて、その時の状況に応じて変更する必要があります。この時一部の変更が他に影響を与えることがありますので、変更のたびにすべての変更を行わなくてもいいように作成できればさらに便利になります。そのために使う考え方がモデルの共通化です(UMLのクラスとインスタンスの仕組みです)。

 共通化により、自分の決めたことでなくても他の人が決めたことでも、理解でき柔軟に使えることが望まれます。
 このためには文字だけで表現するのではなく、図形の機能も取り込み一見して内容を想像できるようにしておくのが良さそうです。

 逆に以前に決めたことを考慮に入る場合もあることも知っておく必要があります。
① 関係者(ステークホルダー)の自社の事業に関する理解が深まる
 事業の全体像、特徴、強み、弱味、競合他社との差別化等多角的に見ることが出来るようになる
②関係者と事業内容の共有がしやすくなる
 事業内容についての話題を共有できるようになる
③問題点を発見しやすくなる
 話題を共有化しやすくなり、問題についての意見交換の際の誤解が減る
④事業の原点に戻り、大局から見やすくなる
 問題発生の原点を探りやすくなる

出典Kaonavi jinnji用語集 より(https: //www.kaonavi.jp/dictionary/business-model)

 ビジネスモデルには6W2Hが表現されているのが望ましいが、それを見る人達には そのうちのは少なくとも次の4要素を前提に考えることが出来るように具体的方策もしくは方針が描かれていることが望ましい。
① Who(顧客は誰か) 
 事業
② What(ステークホルダー)にどのような価値を提供するのか
 事業
③ How(どのようにしてその価値を提供するのか)
 を共有化したり、問題についての意見交換の際の誤解が減る
④ Why(なぜそれが利益に結び付くのか)
 問題発生の原点を探りやすくなる 

 その結果ビジネスモデルを利用することにより、つぎのような「着眼大局、着手小局」の視点から具体的なやり方が理解で きるようにまとめることになります(実行プロセスを含めたマンダラ思考)。

1.目標ビュー(プロセスの目標となる企業戦略
2.プロセスビュー(プロセスの詳細とその構造)
3.組織ビュー(プロセスを実施する組織、人材資源、情報資源)
4.ネットワークビュー(人的資本、情報資本、組織資源の配置)

 ビジネスモデルとは

 成功事例や失敗事例を調べそれらの特徴を調べるために事業の進め方の共通点を抽象化して表現したものを参考にして作成するビジネスモデルととらえます。そのために学生起業の場合は学生がこれまでにやりたいと考えてきたことや同業他社が使用している既存のビジネスモデルに加え、新規事業であることが多いので、顧客についてのコスト意識を持つ、参入障壁を乗り越えることを重要ポイントとします。

2.UMLについて

 これまでソフトウエアシステム の設計者はそれぞれ自分で書き方を決めてプログラム仕様書を作成していました。しかしこれでは、プログラム開発者によっては必要情報が不足と感じ、時には誤解したままプログラム開発をしてしまうこともありました。ということで、ジェームズ・ランボー、グラディ・ブーチ、イヴァー・ヤコブソンら3人が中心となっ てオブジェクト指向方式の要素図形を組み合わせて事業のモデルを表現する図の書き方に関する規則(UML)が提案され、いまやそれが業界の標準になりつつあります。 

 UMLでは交換する情報の内容と流れをモデル図すなわち要素の概要とつながり方で表現します。

 こうして、ソフト開発における、仕様書のもととなる業務情報の流れを表現するモデル図の書き方が標準化できると、書かれた内容について 利用者間の解釈の違いは少なくなります。

 サイバーメディアン社のHPによると標準化された14種のUML図を利用頻度の順に並べると次の様になっています

vbl02102.jpg図表2 14種のUML図

出典 サイバーメディアン、14種類のUML図の包 括的なガイド(https: //www.cybermedian.com/ja/a-comprehensive-guide-to-14-types-of-uml-diagram/)(アクセス 2023/04/21)を参考に作成

 この図の1~10までが利用率60%以上で、12~14は4%以下で利用率が低いものです。
 作成する図の種類は図表2にある通りシステムの振る舞い図、システムの相互作用図、システムの構造図を示すものに分類されています。この図からシステム の構造よりシステムの振る舞いや相互作用を示す図が多く使われていることが解ります。

 この14種のUML図のうち、システムの振る舞い図に分類されるものは、仕事の進展をどのように行うかを整理したもので何をどういう順序で行うかを纏めるためのものです。システムの構成図は、そのために必要なシステム要素の構成を示すものです。ソフトウエアの設計にはその両者に加えシステムの相互作用図が中心となりますが、ビジネスモデルの設計にはシステムの構成図の中のクラス図とシステムの振る舞い図が中心的使われ、場合によってはその相互関連図も必要となります。

2.1 UMLの図形部品とその組み合わせ

 UML図を描くための、部品となる要素図を「図表3 UML図の要素部品図」に描きだしました。

VBL02103.jpg図表3 UML図の要素部品図

 さらに「図表3 UML図の要素部品図」を組み合わせて、図表4にあるようなビジネスで行う単位を整理してビジネス活動を表現する図を作ります。

VBL02104.jpg図表4 要素の形と要素図形の関係図

 図表2の14種のUML図は図表3示すような基本図形部品とそれらを組み合わせた「図表4 要素の形と要素図形の関係図」を使って描きます。

 オブジェクト指向では現実社会に存在するモノやコトを「オブジェクト」ととらえ、その雛形を「クラス」として表現します。例えば会社で働く「Aさん」や「Bさん」を「オブジェクト」ととらえ、それらをまとめて「会社員」を「クラス」と表現します。この「クラス」を図として表現するのが図表3の四角形です。さらに処理内容と書かれた「かどの丸い四角図」はアクティビティ図で用いる人間の実施する処理もしくはそのために実行する情報システムの処理を書くときに使います。アクティビティとは詳細レベルのプロセスであり「注文書の発送」・「製図の発行」や「物品の受領」といった一連の仕事の単位のことです。このためアクティビティ図をプログラム作成のためのフローチャートのような詳細なシステムの設計仕様書の代わりに使うのは不向きです。あくまでもビジネスデザイン に使うものだと考えて利用してください。

 ユースケース名と書かれている楕円図は、ビジネスモデルでは仕事の機能の働き、情報システムでは情報処理の働き(情報システム機能)すなわち「ユースケース」を示します。 

3.ビジネスモデル設計図の作成準備

 このような図形要素を使ってプログラム開発に役立てることが出来るのであれば、その前提となるビジネスに関する情報の流れも表現されているわけです。従ってプログラム開発が予定されていない場合であってもUMLの記述方法を転用して情報の流れ図、すなわちビジネスモデル図を作成すれば、ビジネスモデルの作成やビジネスモデルの変更にも柔軟に対応できるわけです。ただビジネスモデルに使われる情報の中には、モノやカネに直接からまない情報の流れも含まれるので、プログラムシステムの開発にかかわらないビジネス活動のみにまつわる情報は追加する必要があります。

 いっぽう今回はあくまでもビジネスモデルの作成を目的としたUMLの利用ですから、システム開発のみに関わる設計情報は考慮に入れません。起業が順調に進み企業の運営に必要なプログラム開発にも取り組むとなる時には、それまでにUMLを使ってビジネスモデルの機能拡張を行うことになりますが、UMLでビジネスモデルと情報システムとの間係を保つことが出来るため、UMLの開発者(ビジネスのプロ)が情報システムの開発にあたりビジネス上の要件をスムーズに伝えることは可能となります。

 ただこれからのIT時代には、当初は情報システムの開発を考えていなかった事業であっても、事業が成長してきて、授業員の仕事が忙しくなりそうな時や仕事の内容が複雑化してきて仕事を進める上での調査等に手間がかかうようになってくると情報システムの採用し生産性を上げる必要が出てくる可能性があります。ほかにも顧客からシステム化が要求される可能性があります。

 ということで、これからは環境変化にお柔軟に対応でき、システム開発にも展開可能なUMLを使って自社のビジネスモデルを作っておくこ と をおすすめいたします。

3.1 ビジネスモデル作成のステップ

 ということで、学生起業においても、図表5に示すように現状 の把握からビジネスモデルモデリングまでの6ステップでビジネスモデルを作成することしました。

vbl02105.jpg図表5 ビジネスモデル作成のステップ

 ビジネスシステムを支援する情報システムの構築に使用する場合には、今回のビジネスプロセスモデリングで省略した情報システムの利用に関するモデルを補足したうえで、その後の「構築」、「実施」、「計画の評価と見直し」の3つのステップに関する情報のとりまとめが必要となります。

3.2 現状の把握

 ビジネスモデル作成にあたり最初にやることは「現状の把握」です。まずはこれまでに学生起業活動で得られた情報を整理します。起業活動に直接関連して得られた情報以外に、それまでの起業をやりたいと思うことになった経験、そのために購入した本・もしく読んだ時の参考用に作成した資料、セミナー等に参加した時に 作成したメモもしくは学習した結果の資料等がその対象となります。

 ということで、まずはビジネスモデルの作成最初に、現在計画している起業に関連する情報を「図表5 ビジネスステップ作成のステップ」にあわせて「図表6 現状資料のリスト」に上げたように纏めます。

vbl02106.jpg図表6 現状資料のリスト

 また、ここで書かれている資料は大学ホームページ(HP)だけですが、これまでのホームページは自身のケースをまとめるために用意したFBE (Framework By Example)ということでご自身のケースについて描いていただくものもあったはずです。そのようなか方はぜひその時作成した図をもこの表に追加してください。

 これで現在どんな情報が手元にあるかを最新情報が容易に探せるようになります。その後見つかった資料や新しく追加した起業に関する変更事項は、その都度整理しリストに加えるようにします。

 現状の資料が整理できたら、それらの資料のうち、UML部品の組み合わせで表現できそうなことは、UMLの記述方式で書いてみましょう。すなわち現状の把 握をUML方式でやるということです。

3.2.1 構想ステップ

 学生起業は「140.未来から現在を考える」で書いたように「人間として成功すること」という生きがいをもって行うために起業するのですから、構 想ステップでは起業組 織もそれを達成する目的又は未来を「パーパス」として決定し、それをどのようにビジネスモデルに反映させるかをまとめます。そのために使えるのは
①「152 .起業の準備-狙いを決める-」の「図表8 学生起業の6W2H」で学生起業を行う時の参考になる基本的な情報
②「140 .未来から現在を考える-ステークホルダーの立場でパーパスを-」の「図表6 ブランドアイデンティテイとビジネスモデル・マンダラ とビジネスモデル・マンダラ」で書いたように事業モデル、パーパス、ビジネスモデルの調整を取り未来のありたい姿に合わせたビジネスモデルをつくる考え方
③「160.弱者の起業戦略-小さくてもNo1を狙う-」の「図表2 弱者の経営大項目マンダラ」の学生起業の最初のときに顧客視点から見た留意点をまとたもの
です。

 構想を考える時には起業家が現在おかれている環境や状況を分析し、その業界での地位や業界の将来性を考えます。起業時の自社のおかれるであろう状況を分析する必要もあります。この時使用するのがSWOT分析です。「3.2.2 の環境分析」で説明するSWOT分析です。

 これ等の記事を読んで、事業のミッション・ビジョンを明確にし、長期計画として作成した資料やメモが残っておれば、検討中の構想図として残しておきましょう。また、経営者や起業家の発想やアイデアや経験をもとにした手法、技術革新による新商品や販売方法に関する書籍や新聞記事ものこっておればそれらも保管しておきましょう。

3.2.2 環境分析 自分のおかれている状況

 環境分析の代表的な分析図は、「図表7 強みと弱み」に使われているSWOT分析です。この図は「154.ステークホルダー」の図表1の「強みと弱み」の引用です。

vbl02107.jpg図表7 強みと弱み

出典 「154.ステークホルダー 必要な人材を集める」 の「図表1 強みと弱み」 

 「図表7 強みと弱み」の自分分析項目にあるように学生起業家の強みは、リスクが少なくて、若くて体力のある学生で、社会人より自由な時間があり、大学の研究にも関連してICTの経験が豊富である。とは言え、起業に時間がかかりすぎると、学業との両立が難しくなる可能性もあるという弱みを持っていることも解るかと思います。しかし外部環境は、元気な高齢者が多くなり実質賃金の伸びはすくなくなりがちのため、ICTによる人的生産性の向上を望む人が増えてくる状況です。ということで、自分の 強 みを生かすには、その経験を生かして起業活動の支援をするといった世界での事業に将来性はあるということになりました、というSWOT図です。

 「145 .起業の場所と設備-どこで起業するの-」で述べたように起業するのであればどこで行うか、またそこでの設備は何かを決めなくてはいけません。その時使うのが「図表8 学生起業の設置場所」です。これはUMLの14種の図の一つ配置図です。
 ということで、「図表8 学生起業の開始場所」に示すような場所で起業することにしました。

vbl02108.jpg図表8 学生起業の開始場所

 しかし起業のためには、図表8に描いたような物理的な設置場所だけでなく、ビジネスにおける自社のおかれたビジネス上の位置もしくは状況も検討する必要があります。これについては「ポーターのファイブフォース分析」が使えます。

 ここに書かれている情報から、自分が感じていることで何とかしておきたいことについては、記録に残しておきましょう。

 その上今回採用して方法にいついては、「図表9 ポーターのファイブフォース分析」を作成しておきましょう。

vbl02109.jpg図表9 ポーターのファイブフォース分析

 自分のやり方が決まったら、是非ポーターのファイブフォースに描かれている様なことを参考に、自分の思っていることに問題がないかを考慮し見直します。

 ということで、この後にあるような戦略を立てることにします。こうして、自分の起業したい事業エリアを決めたら、次のステップはその事業を行うための戦略の立案です。

3.2.3 戦略立案

 次いで戦略立案に使える手持ち資料を整理します。

 「図表7 強みと弱み」にまとめたように、自分の強みを生かした、事業戦略をつくるために、まずは事業の構造を決定します。ここでは「160.弱者の起業戦略-小さくてもNo1を狙う-」図表9で取り上げた学生起業を顧客視点から見た6W2Hを元に話を進めます。この図は事業のモデルを作るために6W2H、即ち When、 Where、Who、What、Whom、Why、 How、 How muchの8つの視点でまとめたものです。

 「143.起業の種類と事業形態-個人か法人か?-」には、起業する事業形態ごとにその特徴や考慮点が書かれています。

vbl02110.jpg図表10  学生起業の顧客視点から見た6W2H

出典 「160.弱者の起業戦略-小さくてもNo1を狙う-」 の図表5より

 こうして、作成した6W2Hはビジネスの成功要因と言われる「図表11 学生起業顧客視点から見た6W2Hとその成功要因」の関係は次の様になっているはずです。これらの関係がなりたたないときは、図表10を修正するか集めた資料にコメントを入れておきましょう。

vbl02111.jpg図表11 学生起業の顧客視点から見た6W2Hとその成功要因

 現在は現状の整理ですが、後程戦略立案を行う時には「図表11 学生機能の顧客視点から見た6W2Hとその成功要因」を見直すことになります。

vbl02112.jpg図表12 学生起業の戦略マップ

出典 「144.事業計画の作成-アイデアを具体的で定量的に-」を参考にUML方式で作成

 「図表12.学生起業の戦略マップ」は「144 .事業計画の作成-アイデアを具体的で定量的に-」の「平成30年 夢を実現する創業」(中小企業庁)に書かれていた記事を参考に私が作製した「図表7 起業戦略とKPIの決定」描かれている図をほぼそのままUML図にしたもので、架空のものです。 このように図書館で本を探し、読んだ記事を元に作成した情報も参考情報として記録しておきましょう。

3.2.4 実行計画

 起業を行うのはどこで誰とやるのかという環境を図表12の学生起業のビジネスモデルは、「145.起業の場所と設備-どこで起業するの?-」の「図表3 共同研究の提案準備 取引モデル」に描かれている図面を参考にUMLで表現したものです。

vbl02113.jpg図表13 学生起業のビジネスモデル

出典 「145.起業の場所と設備-どこで起業するの?-」 を参照して作製

 ただこの時は、起業する会社を「共同研究を行う会社」としてどの様な環境で行うのかについては何も描かれていません。あくまでもどこで起業するかを説明するために社外とどのような関係を持つことになるかを説明するための図でした。

 こうして社外との取引で必要なモノとコトと金の取引の形が決まります。

3.2.5 ビジネスプロセスモデリング

 こうしてモノとコトと金の取引が、社外との取引が決まると、それを扱う社内の機能が決まります。「図表14 学生起業のビジネスプロセスモデリング図」は「図表13 学生起業のビジネスモデル」に社内のビジネスモデルを加えたものです。

vbl02114.jpg図表14 学生起業のビジネスプロセスモデリング

 「図表14 学生起業のビジネスプロセスモデリング」では起業家の立場で、起業環境を設定して会社としてどのような強みを持つべきかを検 討するために、作成しました。

 全体管理、研究開発、製造部門、会計部門、販売部門、購買部門、物流といった作業を行う主体(機能)とその主体がこなすべき取引(振る舞い)に関する「発注」「受注」、「代金」等に関する関連を結びつける必要があるわけです。これらの情報を「機能」間、「振る舞い」間、「機能」と「振る舞い」間の関係を書き込んだものを、「プロセスモデル」の作成が必要になります。

 現在の起業環境の中で、経営者の立場で強みを発揮するための機能を追加したのが図表14です。当初考えていた「図表13 学生起業のビジ ネスモデル」に対して赤文字赤線で書いた部分がその追加部分です。

 今回追加した赤線部分を取り出すと「図表15 コア・コンピタンス」のようになります。

vbl02115.jpg図表15 コア・コンピタンス

 当初考えていた製造業に研究開発の機能を追加しそれらがどのような効果がるかを纏めることになりました。ことによってはこの図の製造業と描かれている部分は組み立て業に近い状況になるかもしれません。起業の活動資金を集めるときや新しい人材を使用する時に自社の強みを説明する時に使います。

 企業家自身の能力については以前にも「図表1 作成資料のまとめの右下」の自分への備えについて描いています。

 現状の整理を行いながら気づいたことは、これまでの資料は何をやるかが中心であり、Howに関する資料はどのようなHowかの説明であり、そのためのプロセスについての考慮が少なかったということです。ビジネスモデルの設計は実行プロセスを考慮するために行うもので、UMLを採用することにより具体化がさらにすすめることができる感じた次第です。このように現状の整理段階であってもUMLをしようすることにより「図表15」にあるような新しい仕事が見つかる場合があります。
 すなわち、これまでのマンダラ図を使って作成した「図表13 学生起業のビジネスモデル」はビジネスプロセスが入っていないため、問題をどのように解決するかの具体的な作業についての図面が書けなかったのです。具体的な活動をどのようにするかは、「図表14 学生起業のビジネスプロセスモデリング」で追加した「研究開発」です。

 研究開発をどのように行うかについてのさらに細かい説明は、「UMLユースケースモデリングのユースケースとは何ですか?」(https: //www.cybermedian.com/ja/what-is-a-use-case-in-uml-use-case-modeling/)に描かれています。ご参照ください。ユースケース図もしくはビジネスワークフロー図及びその詳細図で作成する構造となっています。

 「図表11 学生起業の顧客視点から見た6W2Hの成功要因」に挙げた研究開発の人的資源が重要であることが解りました。従って工学部系の学生さんのビジネスチャンスであることになります。工科系の学生さんがやりたいと思うビジネスタイプです。理学系もしくは工学系の学生さんが自分の能力を発揮するためには販売部門も自分でやるのが最も簡単ですが、販売部門の事業主が研究開発について学ぶことにより販売部門の担当者が顧客と対応している時にお客様がこのような要求を持っていることを認知できる能力を培う必要があることもわかりました。いわば、研究開発部門と販売部分を統合することです。これこそ大学発の小規模ベンチャーの強み(コア・コンピタンスを作り出すポイント)ともなりそうです。

 そのためにどうすればよいか、答えは簡単です。研究開発の担当者と研究開発の担当者がいつでも自由に話し合うためのわかりやすい共通言語すなわちUMLを使って会話できる体制を創ることです。すなわちビジネスモデルの作成時に「ビジネスプロセスモデル」を作ることです。

おわりに

 ようやく、学生起業でビジネスモデルの作成のための現状把握ができました。

 現状把握は、これまでに行ってきた起業準備状況をまとめる(可視化)のが目的で、ビジネスモデルを作成することではありません。しかしこの段階でも起業モデルただけで、「図表15 コア・コンピタンスグ」に気づくことが出来ました。

 このあとは、ビジネスモデル図の作成で今回整理した情報を元にビジネスプロセスモデルを作成します。この時には、これまでほとんど説明しなかった、振る舞い図のユースケース図、アクティビティ図、ステートマシン図、相互作用図が必要となります。その中の相互作用図にはシーケンス図、コミュニケーション図、タイミング図、相互作用概要図(インタラクティブな概要図)を使って仕事の仕方を具体的に決めていきます。この時には多くの図を描くことになるので、それなりの手間もかかります。

 更に情報システムの構築に進むとなると「ビジネスプロセスモデリング」の後「システム構築」、「実施」、「計画の見直し」が行われることになります。忙しくて手間が惜しい時には、有料のUML作成のツールを使うことになるかと思います。たとえば尾崎淳史氏の、「UMLの仕組みと実装がしっかりと分かる教科書」にはUMLの使い方について細かく書いてありますし、その57ページに12個のUMLツールの紹介もが載っています。HPにも紹介記事が沢山載せられていいます。ご自身の環境に適したツールを選び、そのツールに合わせた作成方法で作成してください(今回の記事中のUML図は Powerpointで作りました)。

 解りやすい図形ツールを経営管理に導入する目的は、ステークホルダーの皆さんとの会話をスムーズに進めるためでした。このためにとりあえず必要なことは、ビ ジネスモデルの作成ができたあとには、「UMLクラス」に登録される情報を、関係者の誰もが容易に共有する能力を身に付けるための「人材育成」を行うことです。この時にはUMLのシステムと直接の関係はありませんので、今回の実行計画では、KPIの設定やビジネスプロセスモデルの検討は入れてありません。まずUMLの重要なモデル図である、ユースケース図やアクティビティ図シーケンス図コミュニケーションズ図等について学び、起業活動をやりながらご自身で UML技術のを獲得を図ることになります。

 UMLの導入に合わせて、これ等に関する情報を共有することにより、ステークホルダーの皆さんとのおつきあいのやり方も改善していけそうです。
 学生起業であれば、メンバーは若くそれなりの意気込みを持った人達の集まりだと思います、さらに人数も少ないグループでしょうから、みんなでオープンに意見を出し合い情報共有や合意を取るのも難しくありません。学生起業の基本的な強みを強化するツールのひとつとしてUMLを採用することをお勧めします。


参照資料

サイバーメディアン、2022「UMLユースケースモデリングのユースケースとは何ですか?」
https: //www.cybermedian.com/ja/what-is-a-use-case-in-uml-use-case-modeling/(ア クセス 2023/04/21)
サイバーメディアン、2022「14種類のUML図の包括的なガイド」
https: //www.cybermedian.com/ja/a-comprehensive-guide-to-14-types-of-uml-diagram/(アクセス 2023/04/21)
尾崎淳史、2022「UMLの仕組みと実装がしっかりと分かる教科書」技術評論
瀬領浩一、2012「73.地域発グローバル-日本イノベーター大賞表彰式から-
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/073.html(アクセス 2023/04/21)
瀬領浩一、2021「140.未来から現在を考える-ステークホルダーの立場でパーパスを-
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/140.html(アクセス 2023/04/21)
瀬領浩一、2021「142.アイデアとコンセプトの整理-大学発ベンチャーの設立に向けて-
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/142.html(アクセス 2023/04/21)
瀬領浩一、2021「143.起業の種類と事業形態 -個人か法人か?-
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/143.html(アクセス 2023/04/21)
瀬領浩一、2021「144.事業計画の作成 -アイデアを具体的で定量的に-
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/144.html(アクセス 2023/04/21)
瀬領浩一、2021「145.起業の場所と設備 -どこで起業するの-
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/145.html(アクセス 2023/04/21)
瀬領浩一、2021「146.起業にかかる費用-お金はどれくらい必要なのか-
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/146.html(アクセス 2023/04/21)
瀬領浩一、2021「154.ステークホルダー-必要な人材を集める-
https://o- fsi.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/154.html(アクセス 2023/04/21)
瀬領浩一、2021「151.学生起業の道 -自分への備え-」
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/151.html(アクセス 2023/02/12)
瀬領浩一、2021「157.日本が生まれ変わるために-今何が起きているのか-
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/157.html(アクセス 2023/04/21)
瀬領浩一、2022「160.弱者の起業戦略-小さくてもNo.1を狙う-
https://o-fsi.w3.kanazawa- u.ac.jp/about/vbl2/vbl6/post/160.html(アクセス 2023/04/21)

2023/05/08
文責 瀬領 浩一